異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

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五十五話

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チチチッ……チチチィ……。

小鳥のさえずりで目を覚ます。
窓から射し込む朝日が優しく頬を撫でる。
同時に両腕を愛撫する、柔らかな感触と確かな感触がギデオンに襲ってくる。

「あいいたたっ……つぅ。飲み過ぎたか」

身体を起こして頭を抱える、彼は二日酔いだった。
今日のは特に重そうだ。
頭部をガンガン叩いている。

集落を襲撃した略奪者を見事に撃退。
降りかかってきた天災からも身を呈して、この地を守護した。
その功績は誰の眼にも明らかであり、彼はエルフたちから英雄として称えられることとなった。
昨晩は、その謝意を含めエルフの民たちによる盛大な宴が取り行われた。

主役は勿論、冒険者ギデ。

村の調理人が腕によりをかけた沢山の馳走がふるまわれた。
見目麗しいエルフの乙女たちから美味い酒をお酌された。
雅楽の音色に酔いしれ、伝統的な舞踊に魅せられてゆく。

最初は、あまり気乗りしない彼だった。
が、次第に彼らのペースに乗せられ気づけば、声をかけてくるエルフたち全員から酒を受け取っていた。


宴の中で、この山岳集落をおさめる四人の村長たちと、初めて顔を合わせる事となった。
いずれも、年配の女性。
年配といっても老いてヨボヨボになっているわけではない。
背筋がピンとしていてむしろ、まだ若々しく見える。
四人は揃うのと同時に、彼に頭を垂れた。
このように礼節を重んじる彼女たちの行為とともに、民たちから大喝采があがる。

「此度は主の世話になったな」その内の一人が感謝の意を述べた。

「顔をあげて下さい」と慌てながら、ギデオンも受け答える。


「ギデ殿が宜しければ村の若い娘を何人か、嫁に貰ってくれませぬか?」

どうして、そんな話になったのか覚えていないが、確かそのような事を言われた気がする。

「お望みとあらば、ワシらでもかまいませんぞ」

返答に迷っていたら、物凄い真顔で脅迫された気がする。

とにかく、昨晩は酒を浴びるように飲んだ。
おかげで、そこから先のことは記憶にない。


そう――――これは夢なのだ。

きっと、まだ酒が残っているせいで幻を見せられているのだ。


そう自分に言いかせても、状況は一向に変わらない。
彼は、エルフたちとともに一糸まとわぬ姿で眠っていた。
むしろのようなモノを布団代わりに、両脇にはフォルティエラとクロッサが肌をさらして熟睡している。

状況が状況なだけに、目が点になる。
何か取り返しのつかないことをしてしまったのかと、辺りを見回す。
彼女たちだけではない……別の部屋ではギデオンたちと同じように男女関係なく、脱着したエルフたちが眠りこけている。
クロッサの兄などは男同士で抱き合っていた。

「ひょっとして、これはエルフにとっては当たり前の事なのか? そういえば、修道会でも清め儀式で丸裸にされ皆して池に入ったっけ。ああ――、そうだ。これは儀式なんだ」

「はよ――、どうしたんだ? ふぁー、朝からやけに元気だな」

「あぁあ! いや、これはだな。記憶、そうだ! 記憶が飛んでいるんだ」

長いまつ毛を薄っすらと開き、フォルティエラが寝惚けて腕に抱きついてくる。
酷く困惑した彼は、めずらしく声を上ずらせて、彼女の方をなるべく見ないように努めた。

「不意打ちもいいところだ。どうしたらいいんだ? 僕は」

「何か、悩み事ですか? クスッ」

「おはよ! 大丈夫だ。ちょっと、酔いが残っているだけさ」

逆を向くとクロッサが上目づかいにこちらを見ていた。
さすがのギデオンも、このダブルパンチにはたじろいだ。
平静を装ってはいるが、彼も思春期の男子だ。
このまま理性を保ち続けていられるのか、怪しいところだ。

「クロッサ、確認として訊くけどエルフは服を着ないまま、皆して寝るのか?」

「う~ん。基本は着ませんね。でも同じ寝床に入るのは相手に対しての親愛の証で、誰でも良いというわけではありません」

「そ、そうか……すこし、文化の違いに驚いてな……そうなんだ」

「ふふっ。もう、ギデさんったら! 繁殖期でもない限り、問題はおきませんよ」

「いや……それが問題なん……いや、忘れてくれ」

自分は人間だ。
ギデオンは、そう伝えようとし思いとどまった。
ここで種族の違いを大っぴらにしても、無粋な話にしかならない。
隣で一緒に寝ていてくれたのは、彼女たちの純粋な好意だ。
想いに目をつぶって、独りで狼狽するのは何よりも恥かしいことだ。
そう気づくと彼は、決意した。
これからは、なるべくエルフの習慣を勉強しようと。



「なぁ、ローゼリアの姿をまだ今日は見ていないんだが……?」

脱ぎ捨てたままの衣服に袖を通しながら、ギデオンはローゼリアの居場所を訊いた。
てっきり一緒だと考え問うも、フォルティエラもクロッサもどうも歯切れが悪い。
これ以上、深入りするは少し違う気がしたようだ。
彼は、そのまま部屋を退出し自身でローゼリアを見つけることにした。

「村の中での目撃情報がないな。なら、あの場所かもしれない」

訊き込みで成果は何も得られなかった。
ならば、彼女の居場所は決まっているも同然だ。
ギデオンは急ぎ果樹園に向かった。
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