異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

文字の大きさ
上 下
55 / 366

五十五話

しおりを挟む
チチチッ……チチチィ……。

小鳥のさえずりで目を覚ます。
窓から射し込む朝日が優しく頬を撫でる。
同時に両腕を愛撫する、柔らかな感触と確かな感触がギデオンに襲ってくる。

「あいいたたっ……つぅ。飲み過ぎたか」

身体を起こして頭を抱える、彼は二日酔いだった。
今日のは特に重そうだ。
頭部をガンガン叩いている。

集落を襲撃した略奪者を見事に撃退。
降りかかってきた天災からも身を呈して、この地を守護した。
その功績は誰の眼にも明らかであり、彼はエルフたちから英雄として称えられることとなった。
昨晩は、その謝意を含めエルフの民たちによる盛大な宴が取り行われた。

主役は勿論、冒険者ギデ。

村の調理人が腕によりをかけた沢山の馳走がふるまわれた。
見目麗しいエルフの乙女たちから美味い酒をお酌された。
雅楽の音色に酔いしれ、伝統的な舞踊に魅せられてゆく。

最初は、あまり気乗りしない彼だった。
が、次第に彼らのペースに乗せられ気づけば、声をかけてくるエルフたち全員から酒を受け取っていた。


宴の中で、この山岳集落をおさめる四人の村長たちと、初めて顔を合わせる事となった。
いずれも、年配の女性。
年配といっても老いてヨボヨボになっているわけではない。
背筋がピンとしていてむしろ、まだ若々しく見える。
四人は揃うのと同時に、彼に頭を垂れた。
このように礼節を重んじる彼女たちの行為とともに、民たちから大喝采があがる。

「此度は主の世話になったな」その内の一人が感謝の意を述べた。

「顔をあげて下さい」と慌てながら、ギデオンも受け答える。


「ギデ殿が宜しければ村の若い娘を何人か、嫁に貰ってくれませぬか?」

どうして、そんな話になったのか覚えていないが、確かそのような事を言われた気がする。

「お望みとあらば、ワシらでもかまいませんぞ」

返答に迷っていたら、物凄い真顔で脅迫された気がする。

とにかく、昨晩は酒を浴びるように飲んだ。
おかげで、そこから先のことは記憶にない。


そう――――これは夢なのだ。

きっと、まだ酒が残っているせいで幻を見せられているのだ。


そう自分に言いかせても、状況は一向に変わらない。
彼は、エルフたちとともに一糸まとわぬ姿で眠っていた。
むしろのようなモノを布団代わりに、両脇にはフォルティエラとクロッサが肌をさらして熟睡している。

状況が状況なだけに、目が点になる。
何か取り返しのつかないことをしてしまったのかと、辺りを見回す。
彼女たちだけではない……別の部屋ではギデオンたちと同じように男女関係なく、脱着したエルフたちが眠りこけている。
クロッサの兄などは男同士で抱き合っていた。

「ひょっとして、これはエルフにとっては当たり前の事なのか? そういえば、修道会でも清め儀式で丸裸にされ皆して池に入ったっけ。ああ――、そうだ。これは儀式なんだ」

「はよ――、どうしたんだ? ふぁー、朝からやけに元気だな」

「あぁあ! いや、これはだな。記憶、そうだ! 記憶が飛んでいるんだ」

長いまつ毛を薄っすらと開き、フォルティエラが寝惚けて腕に抱きついてくる。
酷く困惑した彼は、めずらしく声を上ずらせて、彼女の方をなるべく見ないように努めた。

「不意打ちもいいところだ。どうしたらいいんだ? 僕は」

「何か、悩み事ですか? クスッ」

「おはよ! 大丈夫だ。ちょっと、酔いが残っているだけさ」

逆を向くとクロッサが上目づかいにこちらを見ていた。
さすがのギデオンも、このダブルパンチにはたじろいだ。
平静を装ってはいるが、彼も思春期の男子だ。
このまま理性を保ち続けていられるのか、怪しいところだ。

「クロッサ、確認として訊くけどエルフは服を着ないまま、皆して寝るのか?」

「う~ん。基本は着ませんね。でも同じ寝床に入るのは相手に対しての親愛の証で、誰でも良いというわけではありません」

「そ、そうか……すこし、文化の違いに驚いてな……そうなんだ」

「ふふっ。もう、ギデさんったら! 繁殖期でもない限り、問題はおきませんよ」

「いや……それが問題なん……いや、忘れてくれ」

自分は人間だ。
ギデオンは、そう伝えようとし思いとどまった。
ここで種族の違いを大っぴらにしても、無粋な話にしかならない。
隣で一緒に寝ていてくれたのは、彼女たちの純粋な好意だ。
想いに目をつぶって、独りで狼狽するのは何よりも恥かしいことだ。
そう気づくと彼は、決意した。
これからは、なるべくエルフの習慣を勉強しようと。



「なぁ、ローゼリアの姿をまだ今日は見ていないんだが……?」

脱ぎ捨てたままの衣服に袖を通しながら、ギデオンはローゼリアの居場所を訊いた。
てっきり一緒だと考え問うも、フォルティエラもクロッサもどうも歯切れが悪い。
これ以上、深入りするは少し違う気がしたようだ。
彼は、そのまま部屋を退出し自身でローゼリアを見つけることにした。

「村の中での目撃情報がないな。なら、あの場所かもしれない」

訊き込みで成果は何も得られなかった。
ならば、彼女の居場所は決まっているも同然だ。
ギデオンは急ぎ果樹園に向かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

アンジェリーヌは一人じゃない

れもんぴーる
恋愛
義母からひどい扱いされても我慢をしているアンジェリーヌ。 メイドにも冷遇され、昔は仲が良かった婚約者にも冷たい態度をとられ居場所も逃げ場所もなくしていた。 そんな時、アルコール入りのチョコレートを口にしたアンジェリーヌの性格が激変した。 まるで別人になったように、言いたいことを言い、これまで自分に冷たかった家族や婚約者をこぎみよく切り捨てていく。 実は、アンジェリーヌの中にずっといた魂と入れ替わったのだ。 それはアンジェリーヌと一緒に生まれたが、この世に誕生できなかったアンジェリーヌの双子の魂だった。 新生アンジェリーヌはアンジェリーヌのため自由を求め、家を出る。 アンジェリーヌは満ち足りた生活を送り、愛する人にも出会うが、この身体は自分の物ではない。出来る事なら消えてしまった可哀そうな自分の半身に幸せになってもらいたい。でもそれは自分が消え、愛する人との別れの時。 果たしてアンジェリーヌの魂は戻ってくるのか。そしてその時もう一人の魂は・・・。 *タグに「平成の歌もあります」を追加しました。思っていたより歌に注目していただいたので(*´▽`*) (なろうさま、カクヨムさまにも投稿予定です)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

処理中です...