異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

文字の大きさ
上 下
53 / 362

五十三話

しおりを挟む
ゼインの嘘は暴かれた。
とうとう言い逃れできなくなくなった男に、ギデオンは再度照準を合わせる。
相手から観念したという気配は感じられない。
覚悟を決めたという方がしっくりくる。
一呼吸だけ深く酸素を吸い込むと彼はゼインに最後通告した。

「これ以上は抵抗しても無意味だ。もう、決着はついている」

「決着?」

「命がおしかったら、大人しく投降しろ。アンタには色々と訊きたいことがある」

「はっ!」

ギデオンの説得を拒否するようにゼインは小さく息を吐き出す。
ここまで不利な立場に追い込まれたと言うのにずいぶんと横柄な態度だ。
あれだけ必死に虚言を吐き続けていたのに、思いのままにいかなくなった途端に開きなおる。
それこそ、与えられた玩具に飽きた子供ように、自分にとって不都合な事を捨て去ろうとしている。

「なあ、旦那。天変地異ってどうすれば起せるか知っているか?」

「おかしなことを言って話をそらそうとしても無駄だ」

「そうじゃないよ、あっし……僕は、知っているんだ。こうすれば、始まるって!!」

バンザイする、ゼインの手から魔力の塊が発射された。
上空まで撃ち上げられると、遠方まで光が届きそうになるほど眩い輝きを放っていた。
それが何かの合図だというのはすぐに理解できた。
理解できたからこそ、襟元を掴んでギデオンは彼に洗いざらい白状させようとした。

「だから……言ったでしょうが、これは天変地異! 追い込まれたの僕じゃない! 旦那、アンタの方だ! いいんですか? 僕に構っていても、そんな余裕はもう何処にもないはずでしょ?」

「何だ? 一体、あれは……貴様ぁ! 何をしたんだ!?」

「天からの贈り物だよ」

空をすべて覆う、どんよりとした黒い雲。
地上まで響き渡る空の雷鳴。
ジャングルの方から数多くの鳥が飛び去っている。
鳥だけではなく獣たちも密林の外へと出ようと一斉に駆けていく。
ありとあらゆる自然界の現象が、あきらかに世界の異常を告げている。
ゴゴゴゴゴゴゴ――――と何かが大気を裂いて突き進んでいる音がした。

気のせいなんかじゃない。
それは、もうそこまでやってきている。
分厚い、雲の向こうからやってきたのは悪魔だった。
魔物という生物の事ではなく、世界を滅ぼす最悪の方の悪魔。
燃え盛る炎をまといながら、天から降って来た隕石はジャングルの中に吸い込まれるように落ちると、次の瞬間には手当たり次第に、ジャングルを吹き飛ばし大炎を吐き出した。

「ふ、ざけんなぁああ――!! ざけんなぁあああ、ざけんなああああ――――!!!」

ギデオンの拳がゼインの顔面を殴り飛ばす。
何度も、何度も、何度も……。
顔のカタチが変わっても、意識を失っても、その手が止まることはない。

「アルラウネ!! 不味い、彼女を助けにいかないと!」

ジャングルが火の海に飲まれていた。
アルラウネのことで正気に戻ったギデオンは急いで下山しようとした。

「ギデ……私も……連れて」

「ローゼリア? 無事だったのか! でも、そんな状態で大丈夫なのか?」

その身を引きずるように、歩いてきたのは彼がその身を案じた少女だった。
立っているのもやっとな、その華奢な身体を抱き上げると彼女は告げた。

「お願い、果樹園が心配……だから、私も一緒に」

「分かった、ここからは馬を走らせるのは困難だ。このまま状態で走ることになるが、構わないか?」

ローゼリアは彼の顔を見つめながら、コクリと頷く。
振り落ちないように両手を彼の首元にまわし、身体を密着させる。
いわゆるお姫様抱っこの状態だが、今は非常時だ。
二人とも、そんな事に気を回せるわけもなかった。

ギデオンは山道を駆けた。
どんな悪路だろうが、何度、窪地に足を取られそうなろうとも。
驚異的なバランスで態勢を保ち結界を越えてゆく。

「ぐっ、何て熱気だ……これでは、先に進めない。どうにかして炎を消さないと」

密林の中は既に燃え盛る炎に包まれていた。
木々はパチパチと火の粉をまき散らし、いたるところから黒煙が上がっている。
もはや、人の手に負える状況ではなかった。
いくら消火を試みようが、炎の方が速く拡がってゆく。

ローゼリアはただ呆然とその景色を見ていた。
火炎に焼き尽くされ跡形もなく消え去ってゆく果樹園の最後を。
眼に涙を溜めながら静かに見守っていた。
果樹園はすでに手遅れだった。

「スコル頼むぞ! ジャングルの炎だけを消滅させるんだ」

魔銃を片手に、引き金を引く。
放たれたダークフレイムが周囲の火の手を丸飲みし瞬く間に炎を消し去る。
残っていたのは、焼け焦げて無惨な姿になったジャングルの木々たちだった。
それは、アルラウネの大木も同様、隕石落下の衝撃により木っ端みじんとなっていた。

「アルラウネ……すまない」

彼女生存は絶望的だった。
何を探していいのかさえも分からなくなるほど、何も残っていない。
彼女が此処にいたという証拠、彼女ともにあった思い出。
すべてはもう記憶の中にしか残されていない。
ギデオンは、悲痛な表情を浮かべ、すす塗れの土を掴み取った。
さらさらと指の間から流れおちてゆく様を見て声を殺して涙した。
震える彼の手にローゼリアは、そっと自身の手を重ね合わせた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です

しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

【完結】拾ったおじさんが何やら普通ではありませんでした…

三園 七詩
ファンタジー
カノンは祖母と食堂を切り盛りする普通の女の子…そんなカノンがいつものように店を閉めようとすると…物音が…そこには倒れている人が…拾った人はおじさんだった…それもかなりのイケおじだった! 次の話(グレイ視点)にて完結になります。 お読みいただきありがとうございました。

契約結婚のはずが、気づけば王族すら跪いていました

言諮 アイ
ファンタジー
――名ばかりの妻のはずだった。 貧乏貴族の娘であるリリアは、家の借金を返すため、冷酷と名高い辺境伯アレクシスと契約結婚を結ぶことに。 「ただの形式だけの結婚だ。お互い干渉せず、適当にやってくれ」 それが彼の第一声だった。愛の欠片もない契約。そう、リリアはただの「飾り」のはずだった。 だが、彼女には誰もが知らぬ “ある力” があった。 それは、神代より伝わる失われた魔法【王威の審判】。 それは“本来、王にのみ宿る力”であり、王族すら彼女の前に跪く絶対的な力――。 気づけばリリアは貴族社会を塗り替え、辺境伯すら翻弄し、王すら頭を垂れる存在へ。 「これは……一体どういうことだ?」 「さあ? ただの契約結婚のはずでしたけど?」 いつしか契約は意味を失い、冷酷な辺境伯は彼女を「真の妻」として求め始める。 ――これは、一人の少女が世界を変え、気づけばすべてを手に入れていた物語。

処理中です...