異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

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五十二話

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問答無用に銃口を突きつけられたゼインが、ゆっくりと両手を上げる。
抵抗する気はないと動作で示すも相手が悪すぎた。

アマゾネスエルフの集落に急遽、戻ってきたギデオンには彼が略奪者の一人としか見えていない。
銃を構えながら、目の色を変えている。
そもそも、この集落に人間がいること自体が異常なのだ。
疑わないわけがない。

「村の連中に何をした?」ギデオンが問い詰める。

答えに詰まっているのか? ゼインからの返答はない。
さすがに嘘が得意な男もこの状況では何の申し開きもできないようだ。
だんまりを決め込んでいる――――

傍から見れば、ゼインに逃げ場などないように見える。
しかし、そうではない。
男は途轍もない、したたかさ秘めていた。
自分に銃を向けている少年が、ギデだと知るや彼は猫撫で声を上げた。

「旦那~、あっしでさ! ほら、覚えていません? 旦那に命じられ穴を掘っていたゴロツキの一人でさぁ」

訴えにギデオンの眉がピクリと動く。
この糸目の男、確かに覚えがあるとゼインの顔をマジマジと見る。
彼はギデオンが穴に埋めなかった五人のゴロツキの一人だった。

「あの~、やっぱ怪しいですよね。あっしが、どうして此処にいるのか? それにはわけがあるんです!? 聡明な旦那なら、あっしの話を信じてくれますよね?」

「……訳があるなら聞こう」

畳みかけるように、訴えながら必死さをアピールする。
そうすれば、この男は耳を貸す。
ゼインにはギデという人物がどういう性格をしているのか、手に取るように解かる。

彼が持つ、もう一つのBAベースアビリティは対話した相手の心の内を的確に読み取ることができる。
相手が何をもとめ、どんな言葉を欲しているのか。
それらを知ることは彼にとっては朝飯前の事。
一度、同じ土俵の上に立てば、どんな相手でも説き伏せてみせる。
ゼインは自信に満ちた表情で話を続ける。

「実は、あっし……ボスの命でこの集落の偵察にきたんです。旦那に言われた通り、他の仲間を奴隷用の檻に収容していたんですよ。したら運悪く見つかっちまって……」

「つまり、再度悪事に加担したという事か?」

「うっ……それは、仕方ねぇーでしょ!? アイツに歯向かえば、あっしらも無事じゃ済まされない。けど、信じてくだせぇ、ここのエルフには危害は加えてません。その証拠にホラ! この耳! 結局、アイツに逆らってやられちまったんですよ。そんで命からがら此処まで逃げてきた所に旦那と出くわしたわけでさー」

「ソイツは何処にいる? 一緒にきた仲間は何人いる? 他の四人はどうした? どうやって結界を通り抜けた? お前ら目的は? どうしてエルフたちは眠っているんだ!?」

「えええっ!? ちょっと旦那、落ち着いて下さい。あっしも、そんなに一辺に答えられませんよ」

「どうした? 答えられないのは下っ端だからか?」

ギデオンの質問に汗ばむゼイン。
どうやら精神的に消耗しているようだ。
その理由は嘘に嘘を重ねた事にある。
一つの嘘だけでも上手く真実と混ぜわせなければ、どこかしらでほころびが生まれる。
それだけでも、かなり神経をすり減らす。
一つだけでも大変なのに、そこからいくつも嘘を重ね合わせていかなければいけない。

通常なら、適当にあしらえばいい話。
だが、今彼の前にいるギデオンに対して同様のことができるか、そう問われれば不可としか言えない。
答えなければならなかった。
自信の偽りの潔白を証明する為に……。

「旦那、そんな事言っている場合じゃね……ぇ。もうじき、このジャングルに火の手が上がる! あっしは、どうしても、他の誰かにこの事を伝えたかったんさぁ。でないと手遅れになる!!」

「どうやって火を放つつもりだ? 知っていることを全部話せ」

「分かりやした。 取り敢えず、ジャングルに向かいやしょう……ボスもそこにいるはずです。詳しい話は移動がてらで!」

論点のすげ替え――それはゼインにとって苦肉策であった。
怪しまれること恐れるあまり、自分たちの計画の一部を漏らしてしまったのだ。

ギデオンは依然、彼の言葉を半信半疑で聞いていた。
罠かが仕掛けられている懸念もある。
しかし、ジャングルに危機が迫っていると聞いたら放ってはおけない。
だからこそ、彼に訊かなければならない、
その真偽を確かめる為に――――

「その前に確認したい。ここに薄墨色の髪をした少女がいたはずだ。彼女がどこにいるか? しらないか?」

「さあ? あっしは見てませんが」

ズダァン! ゼインの足下で火が噴いた。

ギデオンが自分に発砲するなど夢にも思わなかったようだ。
表情を凍りつかせたまま、瞬き一つせず視線を向けている。

「茶番は終いだ。貴様、嘘をついているな。貴様からローゼリアの匂いがかすかにする。彼女は何処だ!? 答えろ!」

「ちょっ……旦那ぁ! 誤解ですって、あっしは見ていないって言っただけでしょう。気づかないうちに会っていたかもしれませんよ」

「悪いな。僕には超嗅覚という能力がある。だから、しっかりと記憶している。貴様から匂う酒の香りをな」 
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