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四十三話

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急勾配きゅうこうばいとなった、つづら折りの道が眼下に広がる。
そのまま進めば、遠回りになってしまう。
ギデオンは即決した。
例え、危険が伴おうとも、マタギとしての直感を信じて一線に下っていくべきだと。
荒れた道のりでも、幼少からたしなんでいた自身の乗馬力と山岳地で鍛えられた馬の脚力ならば、この難所を乗り越えられる。
そう確信して迷わず馬を走らせた。

ほどなくして、次の集落が見えた。
まだ、火の手は上がっていないが剣戟けんげきと怒声の混じった喧騒けんそうが耳を突く。
弓なりに曲がる大地の突起を蹴り上げ、天高く跳躍する馬体。
ギデオンを乗せた馬は、なおも加速しながら一気に集落へと突入する。

ダァーン! 
魔銃の咆哮ほうこう牽制けんせいとなる。
ギデオンが下り立った場所は、ちょうど乱戦のど真ん中だった。
不可侵領域を穢した余所者ストレンジャーと故郷を死守すべく立ち上がった密林の狩人エルフ
双方の間で一進一退の攻防が繰り広げられている。

水と油のように反発し合い、乾いた血の臭いを巻き上げる団塊。
それを鎮めるべくして天から現れた男に、その場にいた者すべてが戦いの手を止め、彼を直視している。
唐突なる乱入者は何者なのだろうか?
天の御使いか? それとも天敵なのか?
彼らが動向を探る中で下馬したギデオンが叫ぶ。

「よく聞け、ならず者ども! ここはエルフたちが開拓した、彼らの里だ。人として、これ以上の狼藉ろうぜきを見過ごすわけにはいかない。お前たちのボスは何処にいる!? 話がある、出て来い!!」

「ボスだ? 狩場の獲物と会話する間抜けはここにはいねぇよ。なぁ? お前ら」

答えたのは若い男だった。
十人ほどの仲間を従え、威張り散らす彼がどうやらこのグループのリーダー格だ。
ギデオンの提案を一切聞き入れず、他の連中もろとも刃物を振りかざす。
その腕には痛々しい包帯が巻かれていた。

「お前、あの時のヤツか!?」

「おっ? 気づいたか、このキチ野郎!! オメーはよう、いきなり人に向けて発砲するなんてイカレてんのかぁぁ?」

「あれだけ、殺気を向けていれば当然だ。そもそも、人攫いふぜいに言われる覚えがないな。次は反対の腕を吹っ飛ばしてやろうか?」

「コイツ……口だけは減らないようだな。オメーら! ここにいる奴ら全員、血祭りにあげろ。女、子供、老人なんて関係ねぇー! 俺たちに歯向かうとどうなるか辱めてやるっ!!」


「ここは僕に任せて、アンタたちは他の仲間の救援に当たってくれ」

「うおおおぃ!! シカトしてんじゃねぇ。 オメー、俺たち相手に一人で戦おうと思ってんのか……? フザケンナよ……どれだけ、人を小馬鹿にするつもりだ」

「知っているか? 悪党にも人権がある……アレは嘘だ。悪党に堕ちきった時点で貴様らは人ではない」


悪漢たちを相手にはせず、エルフの方を気にかけるギデオン。
その、傍らには彼の言葉に相づちを打ち従うエルフの姿があった。
男とその仲間たちは、ギデオンの行為にはらわたを煮えくり返していた。
「自分たちの商品を奪おうとする奴は敵だ」とボスから言い聞かせれていた彼らは、ただただ動く。
そこに正しさなんてモノは不要だ。
ボスに従っていれば、何の苦労もしない。
ギデオンの言ったとおり、人である事をやめた彼ら。
知らず知らずのうちに自身も家畜になっていることにすら気づいていない。

「オメーらぁ! ぶちのめせぇ――」

男の号令とともに全員でギデオンを狙う。
それが連中の作戦だった。

「ぐはっ!」
「ぐへ!」
「げはぁ……」

しかし、帰ってきた返事は小気味の良い奇声だった。
恐る恐る、男が振り向く。
その身に矢を受けた仲間たちが、苦痛を訴えながら絶命してゆく。
視線の先には彼に向けて弓をひくアマゾネスエルフが立っていた。

「けはぁ――、あぶねぇええ――!!」

飛来してきた矢を、紙一重で回避する。
この男、ダーヅには天性スキル、が授けられていた。
ジャングルで、ギデオンのヘッドショットを回避し、上手く逃げ押せたのもコレらスキルのおかげである。
それでも、魔銃ガルムの一撃は避けきれなかった。
ダーヅにとって、それは脅威のほかならなかった。

そして今、彼は再び窮地に追い込まれていた。

魔銃を構える少年、ギデオンと弓士のアマゾネスエルフ、フォルティエラ。
二人に挟撃されたら太刀打ちできない。
そのことは彼自身が一番、理解していた。

「オイオイオイ……仲間が勢いをなくしているな――と思ったら二対一とはまた……姑息な手を。あ――――嫌だ嫌だ、森の蛮族どもの殺し合い方には美学がない」

「ヴォールゾックの兄貴!! 助けて下し、コイツら全員やられちまったあぁ!!」

「そう、キャンキャン喚くなよ。これだから、お前たち下っ端は金魚のフン呼ばわりされんだよ」

音もなくふらりと現れた、ボサボサ頭の男がギデオンたちの合間に割って入ってきた。
悪漢たちの中で一際、強い存在感を放つ彼に、ダーヅが縋りつく。
途端、ギデオンの背筋に悪寒が走り、男から目が離せなくなった。
まるで、死んだ魚のように瞳を濁している。
生気のない真っ青な瞳孔が冷淡に彼の舎弟を映していた。
ヴォールゾックという男は、他人の事などに興味を示していない様子だった。
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