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四十二話
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神殿の防人、クロッサが祭壇脇の床下に手をかけた。
ガチャリ! と音を立て戸が開く。
そこに見えるのは、地下へと続く階段。
いわゆる隠し通路という奴だ。
ギデオンは目を疑った。
いかにも重要機密そうな事を、こうも簡単にさらすクロッサの行動原理が理解できないからだ。
最初、あれだけ懐疑的だったはずなのに、幼馴染のローゼリアの友人というだけで信頼を勝ち取ってしまった。
本当にこれでいいのだろうか?
そう心配になるも、クロッサは率先して階段を下りっていっている。
感覚の違いなのだろう……彼の知るエルフたちは、どうも些末なことには無頓着で大雑把だ。
人間よりも長い時間を過ごしている彼らには、状況の変化など気にもならなくなっているのかもしれない。
神殿の地下は宝物殿となっていた。
宝物殿といっても必ずしも整然としているわけではない。
此処のようにただの物置と化しているモノもある。
そこに眠っているのは間違いなく重要文化財といえる、お宝の数々。
書物や祭具、掛け軸、彫刻、絵画などが煩雑に置かれている。
盗人からすれば仰天するほどの品々だ。
けれど、盗まれる確率はほぼ、ゼロに近い。
それらは、あまりも古く希少すぎて、鑑定しても二束三文の値しかつけられないのだ。
売り払っても金にならないとなれば、誰が欲しようか……。
「ありました。きっと、これが聖域に関する物です」
宝の山の中から、クロッサが木箱を取り出してきた。
ずいぶんと年季が入って黒く変色している。
手のひらサイズのソレから蓋を外すと、中には半透明の宝珠が入っていた。
「触っても良いかな?」
「構いませんが、丁重にお願いします。何分、いにしえの神々より授かった有り難い品といわれてますので」
クロッサから許可を得て、宝珠に手を伸ばす。
ギデオンの指先が珠の表面に触れた、途端―――異変が起きた。
「こ、これは……一体どうなってしまったんだ!」
彼の意思は関係なく突発的に宝珠のステータス画面が開示される。
そこに次から次へと文字が書き記されてゆく。
内容を目にする。
従来のような能力値や概要が表されているのではない。
時間と座標情報が列記されている。
「これは、履歴だ! この神殿のゲートを使用した日時と移動先が、この宝珠にはすべて保存されているということなのか!」
「んあなあ……何が? 起きているのです!」
「クロッサ、おちつけ」
「僕のステータス画面に転写しているだと……。これが斜華が言っていたミルティナスの所在をつかむ手掛かり」
宝珠のデータを移し終える。
これで、この聖域での仕事は完了した。
後は歩帝斗に報告するだけだ。
ギデオンはようやく肩の荷が下りた気がした。
使命を無事に果たせたことも大きいが、それ以上に収穫があったことに安堵した。
ここまで来て、手土産一つも得られなかったら、また振り出しに戻る。
それが一番、恐ろしかった――――
「ここにいたのか! クロッサ」
階段の方から足音が鳴る。
下りてきたのはイケメンのエルフだ。
どうしたことか、彼は尋常ではないぐらいに焦っていた。
此処は、アマゾネスエルフの集落。
そもそも男性のエルフがここにいる事自体が只事ではない。
それが意味するのは……外で何か起きたという事だ。
「兄さん、どうして此処にいるのです?」
「我々の集落が人間たちに襲撃されている。お前もエルフの戦士として戦いに加勢してくれ!」
ギデオンの予想通り、ついにゴロツキどものボスが動き出した。
どうやって、結界をかいくぐってきたのかは定かではないが、突破された以上は撃退するしかない。
「はい、すぐに支度します。ロゼとギデさんは村からでないようにお願いします」
兄と共に、外へと向かうクロッサ。
残されたギデオンは彼女に尋ねる。
「彼らは何処に向かったんだ? 様子から察するに、近隣の村を人攫いどもが蹂躙しているようだ、ローゼリア、馬を貸してくれないか?」
「ギデ、私も一緒に行くよ。魔法なら得意」
「いや、連中の手の内が分からない以上、安易に前線に出るのは危険だ。襲撃されている村には僕だけで向かう、ここで他のエルフたちに正体がバレたら連中の仲間だと疑われるのは確実だしな。ローゼリアは此処を頼む」
「でも……私、みんなと戦いたい。一人だけ安全な場所な場所にいるのはチガウ」
「このまま僕に同伴していたら、君にまで被害が及ぶ。心配しないでくれ! 奴らを止める手立ては準備してある。だから、僕を信じて待っていてくれないか?」
「ウン……分かった。ギデがそう言うならそうする」
自分の気持ちを押し殺すようにローゼリアが返事をした。
彼女が足手まといという訳ではない。
ただ、情報が錯そうしている最中で彼女に万が一のことがあればギデオンにとっても一大事だ。
実質、彼女だけがエルフの中で彼の味方になりえる唯一の存在だ。
新人類とエルフとの架け橋をここで失うわけにはいかない。
ギデオンは馬にまたがり、アブミを蹴った。
襲撃されている集落は、ここからそう遠くない。
急いでいけば、まだ間に合うはずだ。
馬を飛ばしながら彼は戦地へと赴いた。
ガチャリ! と音を立て戸が開く。
そこに見えるのは、地下へと続く階段。
いわゆる隠し通路という奴だ。
ギデオンは目を疑った。
いかにも重要機密そうな事を、こうも簡単にさらすクロッサの行動原理が理解できないからだ。
最初、あれだけ懐疑的だったはずなのに、幼馴染のローゼリアの友人というだけで信頼を勝ち取ってしまった。
本当にこれでいいのだろうか?
そう心配になるも、クロッサは率先して階段を下りっていっている。
感覚の違いなのだろう……彼の知るエルフたちは、どうも些末なことには無頓着で大雑把だ。
人間よりも長い時間を過ごしている彼らには、状況の変化など気にもならなくなっているのかもしれない。
神殿の地下は宝物殿となっていた。
宝物殿といっても必ずしも整然としているわけではない。
此処のようにただの物置と化しているモノもある。
そこに眠っているのは間違いなく重要文化財といえる、お宝の数々。
書物や祭具、掛け軸、彫刻、絵画などが煩雑に置かれている。
盗人からすれば仰天するほどの品々だ。
けれど、盗まれる確率はほぼ、ゼロに近い。
それらは、あまりも古く希少すぎて、鑑定しても二束三文の値しかつけられないのだ。
売り払っても金にならないとなれば、誰が欲しようか……。
「ありました。きっと、これが聖域に関する物です」
宝の山の中から、クロッサが木箱を取り出してきた。
ずいぶんと年季が入って黒く変色している。
手のひらサイズのソレから蓋を外すと、中には半透明の宝珠が入っていた。
「触っても良いかな?」
「構いませんが、丁重にお願いします。何分、いにしえの神々より授かった有り難い品といわれてますので」
クロッサから許可を得て、宝珠に手を伸ばす。
ギデオンの指先が珠の表面に触れた、途端―――異変が起きた。
「こ、これは……一体どうなってしまったんだ!」
彼の意思は関係なく突発的に宝珠のステータス画面が開示される。
そこに次から次へと文字が書き記されてゆく。
内容を目にする。
従来のような能力値や概要が表されているのではない。
時間と座標情報が列記されている。
「これは、履歴だ! この神殿のゲートを使用した日時と移動先が、この宝珠にはすべて保存されているということなのか!」
「んあなあ……何が? 起きているのです!」
「クロッサ、おちつけ」
「僕のステータス画面に転写しているだと……。これが斜華が言っていたミルティナスの所在をつかむ手掛かり」
宝珠のデータを移し終える。
これで、この聖域での仕事は完了した。
後は歩帝斗に報告するだけだ。
ギデオンはようやく肩の荷が下りた気がした。
使命を無事に果たせたことも大きいが、それ以上に収穫があったことに安堵した。
ここまで来て、手土産一つも得られなかったら、また振り出しに戻る。
それが一番、恐ろしかった――――
「ここにいたのか! クロッサ」
階段の方から足音が鳴る。
下りてきたのはイケメンのエルフだ。
どうしたことか、彼は尋常ではないぐらいに焦っていた。
此処は、アマゾネスエルフの集落。
そもそも男性のエルフがここにいる事自体が只事ではない。
それが意味するのは……外で何か起きたという事だ。
「兄さん、どうして此処にいるのです?」
「我々の集落が人間たちに襲撃されている。お前もエルフの戦士として戦いに加勢してくれ!」
ギデオンの予想通り、ついにゴロツキどものボスが動き出した。
どうやって、結界をかいくぐってきたのかは定かではないが、突破された以上は撃退するしかない。
「はい、すぐに支度します。ロゼとギデさんは村からでないようにお願いします」
兄と共に、外へと向かうクロッサ。
残されたギデオンは彼女に尋ねる。
「彼らは何処に向かったんだ? 様子から察するに、近隣の村を人攫いどもが蹂躙しているようだ、ローゼリア、馬を貸してくれないか?」
「ギデ、私も一緒に行くよ。魔法なら得意」
「いや、連中の手の内が分からない以上、安易に前線に出るのは危険だ。襲撃されている村には僕だけで向かう、ここで他のエルフたちに正体がバレたら連中の仲間だと疑われるのは確実だしな。ローゼリアは此処を頼む」
「でも……私、みんなと戦いたい。一人だけ安全な場所な場所にいるのはチガウ」
「このまま僕に同伴していたら、君にまで被害が及ぶ。心配しないでくれ! 奴らを止める手立ては準備してある。だから、僕を信じて待っていてくれないか?」
「ウン……分かった。ギデがそう言うならそうする」
自分の気持ちを押し殺すようにローゼリアが返事をした。
彼女が足手まといという訳ではない。
ただ、情報が錯そうしている最中で彼女に万が一のことがあればギデオンにとっても一大事だ。
実質、彼女だけがエルフの中で彼の味方になりえる唯一の存在だ。
新人類とエルフとの架け橋をここで失うわけにはいかない。
ギデオンは馬にまたがり、アブミを蹴った。
襲撃されている集落は、ここからそう遠くない。
急いでいけば、まだ間に合うはずだ。
馬を飛ばしながら彼は戦地へと赴いた。
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