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四十一話

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アマゾネスエルフの集落の奥には、神殿と呼ばれる場所がある。
岸壁の一部をくり貫いて造られた、その場所をエルフたちは精霊王の恩恵にあずかる神域として、こう呼んだ。
精霊のねぐら、ヌデゥ=ガーポーと。

聖域のことは知らないと言い張るローゼリアに対して、ギデオンは質問をあらためて訊いてみた。
「それらしき場所を知らないか」と。
ローゼリアは少しの間、難しい表情をしていたが、すぐ様とパッと面を上げて「神殿ならある」と答えた。
それが三日前、果樹園でフォルティエラと共に密談した日のことになる。

朝日を背負う神殿を目にギデオンは何も考えられなくなっていた。
感無量というのだろうか?
大聖堂とはまったく異なる構造。
この集落の神殿は、大地と渾然一体となっていて精霊王の住いとして崇められている。
入口である洞穴ほらあなの真上には、岩壁を掘って象られた神の御身が座している。
これほどの巨大な石像は生まれてこの方、見たこともない。

「実に感慨深いな。信ずるモノは違えど、在り方は変わらない。崇拝とは、心に安息をもたらす事と教会で教わったが、なるほどな。ここには、清浄な空気が満ちている」

「皆、精霊王を崇めている。精霊は私たちエルフの祖ともいわれている。むずかしいことは分からないけど、神殿は村にとって特別な場所……」

「ここが聖域である可能性は高いな。僕が知っている聖域、コルムカラルウン山脈も似たような空気を漂わせていた。ローゼリア、中に入れるか?」

「ついて来て……」

ローゼリアと共に、神殿の敷地に入る。
まだ、早朝だということもあり境内には人気が少なく、虫の囁く声だけがはっきりと聞こえてくる。
朝の木漏れ日をその身に浴び、ギデオンたちは神殿の中に入った――――

神殿内は薄暗い大空洞になっていた。
そこは霊峰コルムカラルウンと変わり映えしないなと、彼は苦笑を浮かべつつ進む。
大空洞には天然の岩石を削って作成した柱が左右に6本ずつ。
計12本の柱が縦列に並んで奥へと続いている。
スロープ状からなる中央通路の、その先には簡素な祭壇が見える。
近くでみると祭壇の上には木製の破魔矢が奉納されていた。

「さて、どうしたものか?」

ここに来て、ギデオンは悩み始めた。
歩帝斗に聖域の調査を命じられたものの、何をどうやって調べれれば良いのか分からない。
依頼した本人に聞いても「行けば分かるさ、迷わず行けよ」ぐらいしか答えないものだから、此処に来ればどうにかなると、当てにしきっていた。
楽観しすぎたのか? それとも、ここは聖域でない、ただの神殿なのか? いずれにしても完全に行き詰まりだ。
ミルティナスの所在の手掛かりをつかむまでは、捜査は継続したままだ。
ギデオンとしては、そうなる事態は避けておきたい。

「じぃっ――――」

急に背後から気配……というよりも声が聞こえた。
ギデオンが振り向くと柱の陰から桜色の長髪をチラつかせながら、少女がコチラの様子を凝視している。

「ローゼリア、凄く見られている気がするんだが……」

「大丈夫、知っている。クロッサ!」

ローゼリアに名を呼ばれると、身体をビクビクさせながら彼女は近寄ってきた。
織物をかぶる不審な人物を警戒しているのだろう。
その歩みは非常にゆっくりだ。
少女もフォルティエラと似たような、薄着をしているが彼女ほどではない。
へそ周りはしっかりと隠れている。

「ロゼ、その人は誰ですか?」

「ギデ……私のトモダチ」

「友達ですか……んー、どうして顔を隠しているのですか?」

「ギデは恥ずかしがり屋さん。クロッサと同じ」

「そう、分かります。疑ってゴメンなさい、ギデさん」

早速、問題が生じたと思ったのも束の間。
今の会話のやり取りだけで、どういう訳かクロッサという少女は納得してしまった。
ローゼリアとの間に暗黙のルールでもあるのか、と疑いたくなるほどの素直さ。
性分なのかもしれないが、そうだとしたらとても危うい。

とは言え、まだ問題自体が解決したわけではない。
素性を明かせない以上は返答もままならない。
早速、クロッサが不思議そうに見ている。

「ギデは喉を悪くして声がでない」

状況を察したローゼリアが、慌ててギデオンのフォローに回った。
すでに嘘に嘘を重ねてしまっているが、ポーカーフェイスの彼女からは何の心の乱れも感じない。
大した演技力だとギデオンは感心するも、どこをどう見ても素のローゼリアだ。

「初めまして、クロッサと申します。ロゼとは幼馴染で親友です。どうぞ、ロゼ共々、よろしくお願いします」

少女の挨拶に大きく頷くギデオン。
幼馴染の親友という響きに、彼はシルクエッタとの面影を重ねていた。

「クロッサ……訊きたいことがある」

「何です?」

「聖域という言葉に心当たりはある? ギデは聖域について調べにきた。私では役に立てない……何か、知っていたら教えて欲しい」

「勿論です。この神殿の防人さきもりとして、知識はそれなりにあるつもりですよ。聖域自体は何処にあるのか分かりかねませんが……聖域に関連する魔道具の所在なら知っています!」

求める答えは時として意外な所から出る。
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