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四十話
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「指定の金鉱石、確かに受け取りました。それでは、ギルド昇級試験を終了します。お疲れ様でした」
「あの……彼女のこと、宜しくお願いします」
「はい、メリッサさんは当ギルドの一員です。責任もって彼女は我々が、送り届けます。昇級認定として、後日新しいプレートを発行を致しますので、ギルドの方まで受け取りにきて下さい」
昇級試験が終わり、静かな夜を迎えた。
酔いが抜けないメリッサを背負いながら、ギデオンは何とかジャングルの出口まで戻った。
待機していた試験官に、救護班を手配するように頼み事態はことなきを得た。
弁慶は、さすがに置き去りすることはできないと近くにいたキラータイガーに運ばせた。
こちらの方が重症だ。
救護班に移送されてゆく。
もっとも彼が次に目覚めた時にいるのは、この島ではなくバルトバレー収容所だ。
弁慶がメリッサへ暴行をくわえた事をギルド側は、すでに把握していた。
どうして知っているのか種明かしを訊くと、試験管はもう一人いて試験中、ずっとギデオンたちを監視していたという。
抜け目のないギルドにはどうにも敵わない。
メリッサを乗せた馬車を見送ると、ギデオンは再度ジャングルへ戻った。
メリッサがマッパーで見つけ出した結界の節目。
ここに来て、ようやくエルフの集落へ向かうことができる。
ギデオンはジャケットコートの襟を正すと猟銃を手に取り空間の歪に一発撃ち込んだ。
あれほどまで強固だった結界がほんのわずかな時間、解除される。
そこにはジャングルとは、まったく異なる景色が顔を覗かせていた。
彼は速攻で結界の中へ飛び込んだ。
先には、高く険しい岩山が連なる。
ジャングルとは対象的に緑がすくなく岩肌がむきでている。
本当にエルフたちが暮らしているのか疑念を抱くほどの殺風景。
一応、岩と岩の合間から水がしみだしているので、水源は確保できるようだ。
山道は探すこともなく、すぐに見つかった。
そのまま道なりに進んでいくと彼がやってくるのを心待ちにしていた少女がやってきた。
「ホント―に来たんだ」
「ああ、どうしても此処にくる必要があった。未だ、人攫いのボスの行方がわからないし、聖域もどうなっているのか心配だ」
「ギデ……こっちに来て」
ローゼリアにせがまれて、近くに寄る。
バサッと大きな音をたてた布地がギデオンにかぶさる。
「これは?」
「かもふらーじゅ。ここより先の集落は基本、人間の男禁止だから気をつけて……」
「気をつけるも、何もコイツを身体に巻きつけるだけで隠し通せるとは思えないが……」
「大丈夫、人間だとバレなければ、きんりんの集落のヤツだと皆、考える」
「近隣って、ローゼリアの所以外にもいくつか村があるんだよな?」
「私たちは十六の部族からなっていて、文化の微妙なズレから現在、このククルカン山で四つの集落に別れ暮らしている……そのうちの一つ、アマゾネスエルフの集落は、若い女エルフたちのみで取り仕切られている」
「しかし、人口がそれなりに居たとしても此処で暮らすのは大変じゃないのか? 娯楽も少ないだろうし、物流も不安定だ。人里とはいかなくとも、街の方に下りたがる者もいるんじゃないか?」
「そんなことはない。皆、ここでの暮らしを満喫している……せっかくだ、神殿へ案内するついでに村の様子も見ていってほしいー」
会話を弾ませながら、山道をのぼりきると高台に立つ村が見えてきた。
ここがアマゾネスエルフの集落。
村の入り口には、二人のエルフが門番として警備にあたっている。
彼女たちにローゼリアが手を振ると、同行するギデオンも何らチェックされることもなく素通りできてしまった。
何ら問題なく村の中へと入れたが、心臓には悪い。
渡された織物を頭からかぶり顔を隠してはいるが、いつ、誰に気づかれてしまうのか分かったモノじゃない。
「そういえば、フォルティエラはいないのか? 今日は見かけないが」
「フォルティエラは、族長会議で別の集落に行っている」
「そうか、彼女も忙しいんだな」
「ギデ……ここが市場通り」
ローゼリアに村の案内をしてもらうギデオン。
市場通りと呼ばれるその場所は、両脇を民家に挟まれた状態で長々と続く大通りだった。
説明によると、ここでは毎朝、夕に市が開かれる。
道脇に並ぶは、その日に獲れた獣の肉や魚。
ククルカン山の恵みである山菜やキノコ、野菜などの食材は勿論。
カゴや食器や織物などの日用工芸品、はては弓矢やナイフなど狩りで使用する武器までも売買されているそうだ。
「ここを中心に、あっちが酒場。こっちが役場、向こうが鍛冶屋……宿屋はない」
「思っていたよりも、色々な施設が充実しているんだな。エルフ独自の文化が発展していて、これは面白そうだ!」
「でしょっ? しいて言うならお菓子がショボいのが不満……」
「そういえば、菓子屋はなさそうだ。とりあえず、今日は別の菓子を持ってきたぞ」
「むふっ……期待している」
お菓子に話ですっかり上機嫌になったローゼリアはその後も張り切って、案内を務めた。
「そこが墓場……あれが修羅場、そこは池!」
「いや、そこまでは案内しなくてもいいぞ」
「あの……彼女のこと、宜しくお願いします」
「はい、メリッサさんは当ギルドの一員です。責任もって彼女は我々が、送り届けます。昇級認定として、後日新しいプレートを発行を致しますので、ギルドの方まで受け取りにきて下さい」
昇級試験が終わり、静かな夜を迎えた。
酔いが抜けないメリッサを背負いながら、ギデオンは何とかジャングルの出口まで戻った。
待機していた試験官に、救護班を手配するように頼み事態はことなきを得た。
弁慶は、さすがに置き去りすることはできないと近くにいたキラータイガーに運ばせた。
こちらの方が重症だ。
救護班に移送されてゆく。
もっとも彼が次に目覚めた時にいるのは、この島ではなくバルトバレー収容所だ。
弁慶がメリッサへ暴行をくわえた事をギルド側は、すでに把握していた。
どうして知っているのか種明かしを訊くと、試験管はもう一人いて試験中、ずっとギデオンたちを監視していたという。
抜け目のないギルドにはどうにも敵わない。
メリッサを乗せた馬車を見送ると、ギデオンは再度ジャングルへ戻った。
メリッサがマッパーで見つけ出した結界の節目。
ここに来て、ようやくエルフの集落へ向かうことができる。
ギデオンはジャケットコートの襟を正すと猟銃を手に取り空間の歪に一発撃ち込んだ。
あれほどまで強固だった結界がほんのわずかな時間、解除される。
そこにはジャングルとは、まったく異なる景色が顔を覗かせていた。
彼は速攻で結界の中へ飛び込んだ。
先には、高く険しい岩山が連なる。
ジャングルとは対象的に緑がすくなく岩肌がむきでている。
本当にエルフたちが暮らしているのか疑念を抱くほどの殺風景。
一応、岩と岩の合間から水がしみだしているので、水源は確保できるようだ。
山道は探すこともなく、すぐに見つかった。
そのまま道なりに進んでいくと彼がやってくるのを心待ちにしていた少女がやってきた。
「ホント―に来たんだ」
「ああ、どうしても此処にくる必要があった。未だ、人攫いのボスの行方がわからないし、聖域もどうなっているのか心配だ」
「ギデ……こっちに来て」
ローゼリアにせがまれて、近くに寄る。
バサッと大きな音をたてた布地がギデオンにかぶさる。
「これは?」
「かもふらーじゅ。ここより先の集落は基本、人間の男禁止だから気をつけて……」
「気をつけるも、何もコイツを身体に巻きつけるだけで隠し通せるとは思えないが……」
「大丈夫、人間だとバレなければ、きんりんの集落のヤツだと皆、考える」
「近隣って、ローゼリアの所以外にもいくつか村があるんだよな?」
「私たちは十六の部族からなっていて、文化の微妙なズレから現在、このククルカン山で四つの集落に別れ暮らしている……そのうちの一つ、アマゾネスエルフの集落は、若い女エルフたちのみで取り仕切られている」
「しかし、人口がそれなりに居たとしても此処で暮らすのは大変じゃないのか? 娯楽も少ないだろうし、物流も不安定だ。人里とはいかなくとも、街の方に下りたがる者もいるんじゃないか?」
「そんなことはない。皆、ここでの暮らしを満喫している……せっかくだ、神殿へ案内するついでに村の様子も見ていってほしいー」
会話を弾ませながら、山道をのぼりきると高台に立つ村が見えてきた。
ここがアマゾネスエルフの集落。
村の入り口には、二人のエルフが門番として警備にあたっている。
彼女たちにローゼリアが手を振ると、同行するギデオンも何らチェックされることもなく素通りできてしまった。
何ら問題なく村の中へと入れたが、心臓には悪い。
渡された織物を頭からかぶり顔を隠してはいるが、いつ、誰に気づかれてしまうのか分かったモノじゃない。
「そういえば、フォルティエラはいないのか? 今日は見かけないが」
「フォルティエラは、族長会議で別の集落に行っている」
「そうか、彼女も忙しいんだな」
「ギデ……ここが市場通り」
ローゼリアに村の案内をしてもらうギデオン。
市場通りと呼ばれるその場所は、両脇を民家に挟まれた状態で長々と続く大通りだった。
説明によると、ここでは毎朝、夕に市が開かれる。
道脇に並ぶは、その日に獲れた獣の肉や魚。
ククルカン山の恵みである山菜やキノコ、野菜などの食材は勿論。
カゴや食器や織物などの日用工芸品、はては弓矢やナイフなど狩りで使用する武器までも売買されているそうだ。
「ここを中心に、あっちが酒場。こっちが役場、向こうが鍛冶屋……宿屋はない」
「思っていたよりも、色々な施設が充実しているんだな。エルフ独自の文化が発展していて、これは面白そうだ!」
「でしょっ? しいて言うならお菓子がショボいのが不満……」
「そういえば、菓子屋はなさそうだ。とりあえず、今日は別の菓子を持ってきたぞ」
「むふっ……期待している」
お菓子に話ですっかり上機嫌になったローゼリアはその後も張り切って、案内を務めた。
「そこが墓場……あれが修羅場、そこは池!」
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