異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

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三十九話

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スコルの匂いを辿りながら、川沿いを移動する。
やがて、落葉低木が密集した場所に入ると前方からスコルが戻ってきた。

「弁慶は見つかったか?」

主の問いかけにスコルはしょんぼりと首を下げた。
どうやら、取り逃がしたらしい。
「クゥゥン」と鳴く彼の頭をギデオンは優しく撫でてやる。

弁慶の所在、それはギデオンの超嗅覚をもってしてつかめない。
それこそ、弁慶が気配を消すスキルを所持していなければ成せない。
原因の特定もだが、今は相手の居場所を見つけだす方が先決だ。
ギデオンは、手にした棒切れを頭上にかかげた。
メリッサから手渡された、それは弁慶の薙刀、ナギ子の成れの果てだった。

ゴソッ――――

位置は掴めない。
けれど、近場で物音がした。
気配もニオイもしないが着実に忍び寄ってくる。
弁慶は彼のすぐそばにいる。

「ちょわわああっわ!!」

周囲を見渡すギデオンに狙いをつけ、垂直に舞下りてきた大柄。
手元には鋭利な刃が握られている。
神出鬼没な襲撃でも、攻撃時には無防備なる。
そう、この時を待っていた。
ギルドの仲間であったはずの男が、私怨にかりたてられ軽率に動いてくるのを。
彼女、メリッサ・ハウゼンが拳を構えながら待ちわびていた。

「ちょっ! あばばばあばあああ――!!!」

顔面に打ち込まれた右フックが弁慶の顔をいびつに変える。
そのままの勢いで顎骨を粉砕する。
弁慶は、自分でもどうにもできないほど回転加速した後、樹木の幹に背を預ける恰好で停止した。

「ぐ……ぎ…………げざっま――!! 無能、産廃のぶんざぎで――ぜんぱぃに、歯向かおどずるの……かああああああああああああああ」

鼻から吹きだす血を手でおさえながら、弁慶は依然、立ち向かおうとしている。
周囲の景色に溶け込むように彼の身体が消えてゆく。
スキル、
自らの姿を周囲の物と同化させる弁慶が持つこのスキルは、使用者の気配や臭い、魔力までも擬態化させてしまう隠密特化型のスキルである。
それゆえ、一度発動してしまえば探知型のスキルや魔法を使っても探す事は難しい。

それは過去の栄光に追いすがった者の空虚な末路。

弁慶は語る。
自分が三ッ星冒険者だった頃、ギルド内の対人戦では負け知らずと言われていた猛者だと。
今でも、自分に勝てる奴はいないと。
強すぎたせいで、いつしか天狗になってしまっていた。
その代償は高くつき、自分を妬んだ悪者に騙され落ちるところまで蹴落とされたと明かす。

しかし、それらはすべて彼の妄言虚言である。

だからこそ、もう負けられない。
今度こそ自身の絶対を証明してやる!
いかにも大そうな事を豪語するが、実際の彼は惨めなものだった。
三ッ星冒険者に昇級できたのも、彼とパーティーを組んだ仲間のおかげだ。
弁慶自身が仲間の為に自ら進んで貢献こうけんしたことは今まで一度たりともない。
ゆえに、力不足とギルドに判断され降格させられた。
ブラフだらけの男が、かえり咲くには他者の昇級試験の手伝い、ポイント稼ぐしかない。
過去に失った光を取りもどそうと男は躍起になっていた。
なのに――――

「なんななんだぁああ!? お前っはあああ」

ギデオンならまだしも、非力だと思っていたメリッサに一撃でのされてしまった。
無様なほど力任せに脇差を振り回すが、メリッサには当たらない。
右へ、左へ、ふらふらと流れてゆく。
まるで、舞い散る木の葉を追いかけているように彼は、翻弄ほんろうされている。
超絶戯態が機能していない。
不完全な状態で止まったままだ。

身体の限界に気づいた弁慶は、その場で膝を折りへたりこんだ。
降参の意思を示そうとした彼が手を上げようとする。

「へぶっら――!」

それで終わるはずがなかった。
メリッサの鉄拳が弁慶のみぞおちに深く突き刺さる。
どうやら、腹一発みまうのはお約束のようだ。

「ご……ゴメンなさい。も……もう……殴ったりしまぜん~。ゆるぢれええええ!! 反省していまず~、この通り、反省していまずので! ギデ様、メリッサ様。小生未熟者ゆえ何卒、平にご容赦を――――」

大の大人が、泣きわめき赦しをこう。
彼女の拳がよほど効いたらしい。
もう、危害を加える気力もないようだ。

ギデオンは弁慶の上半身を植物の縄で縛り上げ、そこら辺の木の枝に吊るすことにした。
試験は未だ、終了していない。
それまでの間、彼が大人しくしているとは断言できない。
その上、負傷した人間を庇いながらジャングルを移動するのは、極めて難しい。


陽射しがだいぶ西に傾いてきた――――

「そろそろ、金鉱石を見つけに行かねば」と腰を上げる彼よりも先に、メリッサが目を覚ました。

「ううっ……気分が……ギデさん。私、ちょっと顔を洗ってきますね……」

メリッサが近くの川場を指差した。
暖かみがあるオレンジ色の水面に吸い込まれるように、おぼつかない足取りの彼女が向かってゆく。

「ぎ、ギデさ――――ん!! 早く、こっちに来てください」

数分も経たないうちに、川の方からメリッサの呼び声が聞こえる。
急かすような声色に、彼は何か起きたのかと銃を手に取る。

「見てください。コレ、何か分かりますか?」

川から水をすくい上げた、その手には砂利ついていた。

「よーく見てください」

言われたとおりにしてみると、小石と小石の合間に極小の金の粒が見える。

「まさか!」

ギデオンは飛び込むように川へと入り、腕を沈めた。
浅い川底から、引っ張り出したものは、木の実サイズの金塊だった。

「これだ!! ようやく、見つけたぞ。君のおかげだ、メリッサ!」

「えへへ、お役に立てて良かったです」

空に向かって採取した金鉱石をかかげるギデオン。
この時の彼は間違いなく冒険者、ギデになっていた。
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