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三十六話
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「ち、ちわきっぃいい――!!!」
別れた恋人を追いかけるように弁慶は密林の奥へと消えてゆく。
彼の奇行に残された一同は揃って、ため息をつく。
「ど、どうします?」
「正直、追いかけるのもな……。取り敢えず、僕らだけで目的地へ向かおう。アルラウネ、さっきの男に気をつけろよ」
「もう、行かれるのですか~え。茶でも、一服どうですぅ?」
「アルラウネさん。そのお茶、体液とかじゃないですよね~」
「ホホホ! 何のことやら」
再度、女同士の探り合いがはじまった。
メリッサの勘は正解だった。
アルラウネの体液には、色々とヤバイ成分が混じっている。
彼女は、そのヤバイ成分の配合率を変え毒薬から治癒薬までさまざまなものを精製できるスキルを持っている。
今回、ギデオンに出そうとしたのはいうもでもなく媚薬アルラウネゴーゴーである。
「悪いな。試験中だから急いでいるんだ」
「分かりましたの~、御武運をですわ~ん」
ギデオンとメリッサはアルラウネの大木から果樹園がある方へと移動した。
果樹園があるといっても、結界の中。
メリッサは勿論のことギデオンでさえも存在は確認できない。
「ギデさーん。ここいらをマッピンングすればいいんですか?」
「そうだな。いつも、ここで方角が分からなくなるんだ。広範囲なると思うから歩きながらでもいいか?」
「ええ、マッパーは歩いてなんぼのスキルですから。安心して下さい、自慢じゃないですけど、私の製図は評判がいいんですよ! これで、悩みも解決ですね」
「助かるよ、本当に」
メリッサのスキル、マッパーは自身が歩いた場所、空間をトレースする能力だ。
方向、距離、位置、高低を歩行した感覚で読み取り、頭の中で地図にまとめ上げることができる。
地形情報を読み取りながら、彼女がカバンから取り出したのはスクロール。
魔法を発動させるためのアイテムは、魔法をスクロールに移し替えないと仕様することすらままならない。
何もなければ、メリッサが今持っている物と同様、無地のままだ。
彼女が広げたスクロールの上で手をかざすと、そこから一気にこれまでの経路図が浮かんでくる。
「凄いな。ここまで緻密なモノなのか?」
「まだまだですよ。空白が全部、埋まれば地図として完成します」
マッピンングをしながら、二人は辺りを散策する。
七ヶ所のエリアにわけて、そのすべてを網羅すると大自然の迷宮、その一部が丸裸にされる。
「あら? なんでしょう。景色は違うのに同じ位置を歩いています」
「どこだ? 場所は分かるか?」
「丁度、向かいの木と木の合間です。そこだけ安定していないというか、不自然なんです」
「確認しましょうか?」と尋ねる彼女の肩を掴む。
これ以上は知られると厄介なことになる。
ギデオンは小さく首を振って「止めよう」と告げた。
さらに進むこと一時間。
二人は深部に向かって順調に進んできた。
それもそのはず、ギデオンは狩人の罠がないルートをエルフたちから事前に教えてもらっている。
魔物も、小物ばかりで取るに足らないイージーモードである。
タイムリミットは日没まで。
ここまでで二時間とわずかしか時間は経過していない。
このままなら、余裕で金の採掘場にたどりつける。
……そのはずだった。
「怪我はないか? メリッサ」
「はい、地面が斜めに崩落したのが幸いでした。ごめんなさい、私のミスです……」
「仕方ない。冒険にキケンはつきものだ。万全の備えがあったとしても、思わぬトラブルに直面することもあるだろう」
「ふふっ、なんだかベテラン冒険者みたいな事を言いますね」
「ヘン? だったかな」
「いいえ、ギデさんのおかげで少し気が楽になりました」
わずかな、気の緩みがトラブルを呼ぶ。
彼女の場合は、木々の合間を飛び交う色鮮やかな小鳥に気を取られた。
足下の注意を怠った瞬間、突如として地中が陥没した。
「キャッ!」悲鳴をあげる彼女に手を差し出すが間に合わない。
ギデオンはメリッサを庇うように抱きとめると、そのまま一緒に地中へと飲み込まれた。
運が良かったのか? 土の下には地下通路が通っていた。
彼はランタンに火を灯しながら周囲を確認する。
奥の方からかすかに風の匂いがする。
空気は通っているようだ。
カビ臭さが気になるが、通路もそれなりに幅がある。
「ここから地上に戻るよりも、地下を進んだ方がよさそうだな」
「ですね。この通路が何の為に造られたのか気になりますし」
「トラップがあるかもしれない。なるべく、固まって動こう。メリッサは、僕の後ろに……」
ギデオンであっても、臭いのないトラップは感知できない。
頼りになるのは、マタギとしての危険察知能力だ。
慎重にゆっくりと一歩、また一歩と前へ出る。
「どれほど、進んだ?」
「五百メートルぐらいですかね……あっ! 見て下さい、あそこ」
メリッサが指で示した先は開けた空間になっていた。
その中央には、祭壇があり二基の棺桶が並んでいる。
「メリッサ?」
「どうやら、蓋が開けられた形跡はないですね。おそらく、地下墓所ですね」
柩をみるなり、近づいて状態を観察するメリッサ。
彼女の突発的な行動にギデオンは驚かされた。
別れた恋人を追いかけるように弁慶は密林の奥へと消えてゆく。
彼の奇行に残された一同は揃って、ため息をつく。
「ど、どうします?」
「正直、追いかけるのもな……。取り敢えず、僕らだけで目的地へ向かおう。アルラウネ、さっきの男に気をつけろよ」
「もう、行かれるのですか~え。茶でも、一服どうですぅ?」
「アルラウネさん。そのお茶、体液とかじゃないですよね~」
「ホホホ! 何のことやら」
再度、女同士の探り合いがはじまった。
メリッサの勘は正解だった。
アルラウネの体液には、色々とヤバイ成分が混じっている。
彼女は、そのヤバイ成分の配合率を変え毒薬から治癒薬までさまざまなものを精製できるスキルを持っている。
今回、ギデオンに出そうとしたのはいうもでもなく媚薬アルラウネゴーゴーである。
「悪いな。試験中だから急いでいるんだ」
「分かりましたの~、御武運をですわ~ん」
ギデオンとメリッサはアルラウネの大木から果樹園がある方へと移動した。
果樹園があるといっても、結界の中。
メリッサは勿論のことギデオンでさえも存在は確認できない。
「ギデさーん。ここいらをマッピンングすればいいんですか?」
「そうだな。いつも、ここで方角が分からなくなるんだ。広範囲なると思うから歩きながらでもいいか?」
「ええ、マッパーは歩いてなんぼのスキルですから。安心して下さい、自慢じゃないですけど、私の製図は評判がいいんですよ! これで、悩みも解決ですね」
「助かるよ、本当に」
メリッサのスキル、マッパーは自身が歩いた場所、空間をトレースする能力だ。
方向、距離、位置、高低を歩行した感覚で読み取り、頭の中で地図にまとめ上げることができる。
地形情報を読み取りながら、彼女がカバンから取り出したのはスクロール。
魔法を発動させるためのアイテムは、魔法をスクロールに移し替えないと仕様することすらままならない。
何もなければ、メリッサが今持っている物と同様、無地のままだ。
彼女が広げたスクロールの上で手をかざすと、そこから一気にこれまでの経路図が浮かんでくる。
「凄いな。ここまで緻密なモノなのか?」
「まだまだですよ。空白が全部、埋まれば地図として完成します」
マッピンングをしながら、二人は辺りを散策する。
七ヶ所のエリアにわけて、そのすべてを網羅すると大自然の迷宮、その一部が丸裸にされる。
「あら? なんでしょう。景色は違うのに同じ位置を歩いています」
「どこだ? 場所は分かるか?」
「丁度、向かいの木と木の合間です。そこだけ安定していないというか、不自然なんです」
「確認しましょうか?」と尋ねる彼女の肩を掴む。
これ以上は知られると厄介なことになる。
ギデオンは小さく首を振って「止めよう」と告げた。
さらに進むこと一時間。
二人は深部に向かって順調に進んできた。
それもそのはず、ギデオンは狩人の罠がないルートをエルフたちから事前に教えてもらっている。
魔物も、小物ばかりで取るに足らないイージーモードである。
タイムリミットは日没まで。
ここまでで二時間とわずかしか時間は経過していない。
このままなら、余裕で金の採掘場にたどりつける。
……そのはずだった。
「怪我はないか? メリッサ」
「はい、地面が斜めに崩落したのが幸いでした。ごめんなさい、私のミスです……」
「仕方ない。冒険にキケンはつきものだ。万全の備えがあったとしても、思わぬトラブルに直面することもあるだろう」
「ふふっ、なんだかベテラン冒険者みたいな事を言いますね」
「ヘン? だったかな」
「いいえ、ギデさんのおかげで少し気が楽になりました」
わずかな、気の緩みがトラブルを呼ぶ。
彼女の場合は、木々の合間を飛び交う色鮮やかな小鳥に気を取られた。
足下の注意を怠った瞬間、突如として地中が陥没した。
「キャッ!」悲鳴をあげる彼女に手を差し出すが間に合わない。
ギデオンはメリッサを庇うように抱きとめると、そのまま一緒に地中へと飲み込まれた。
運が良かったのか? 土の下には地下通路が通っていた。
彼はランタンに火を灯しながら周囲を確認する。
奥の方からかすかに風の匂いがする。
空気は通っているようだ。
カビ臭さが気になるが、通路もそれなりに幅がある。
「ここから地上に戻るよりも、地下を進んだ方がよさそうだな」
「ですね。この通路が何の為に造られたのか気になりますし」
「トラップがあるかもしれない。なるべく、固まって動こう。メリッサは、僕の後ろに……」
ギデオンであっても、臭いのないトラップは感知できない。
頼りになるのは、マタギとしての危険察知能力だ。
慎重にゆっくりと一歩、また一歩と前へ出る。
「どれほど、進んだ?」
「五百メートルぐらいですかね……あっ! 見て下さい、あそこ」
メリッサが指で示した先は開けた空間になっていた。
その中央には、祭壇があり二基の棺桶が並んでいる。
「メリッサ?」
「どうやら、蓋が開けられた形跡はないですね。おそらく、地下墓所ですね」
柩をみるなり、近づいて状態を観察するメリッサ。
彼女の突発的な行動にギデオンは驚かされた。
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