35 / 362
三十五話
しおりを挟む
「走れ走れ走れ――!! 労働は喜びだ。したたる汗は努力の勲章だぁあ!」
ジャングルに奇妙なかけ声がひびく。
いつも通うこの道も三人だとこうも違和感があるものなのか?
ギデオンはひたいの汗をぬぐう。
この汗はかきたくてかいているわけではない。
すべてはカナタ・弁慶。
この男のせいだ。
新人に対して先輩風をふかし後方からあおってくる。
悪路になれているギデオンは平気だが、メリッサには相当キツイ。
肩をはげしく上下させながら、青ざめた顔をしている。
試験の目的は、金鉱石の発掘。
しかし、ただ見つけ出せばいいわけではない。
日没までの制限時間内で、高純度のモノをとってこなければならない。
ジャングルの魔物が出てこない。
その事に気づいたのはやはり、弁慶。
豚のように鼻をフガフガ鳴らしている。
嗅いで、さぐっているつもりかもしれないがフリでしかない。
超嗅覚を持つギデオンは、辺りに魔物がいない事をすでに把握済みだ。
連日、あれだけ虫相手に発砲しまくったんだ、魔物のほうも彼の気配を覚えてしまったのだろう。
ぜったいに近寄ってこない。
ともあれ、魔物という障害が除去された今、残る課題は罠と結界だ。
「もう…も……無理ぃ~。そろそろ、休憩しませんか?」
早くもメリッサがダウン寸前になっている。
慌てて、ギデオンが肩をかすと彼女はニコッと明るく微笑む。
「ありがとう、ギデさん。すみません、走るの苦手で~!」
「構わないさ。君に無理させて、肝心な時に動けなくなったら僕も困る。マッパーとしての活躍期待しているよ」
「うん、任せてね。マッピングは得意だから! でも、ギデさんのベースアビリティも便利だよね。他の人のスキルがわかる能力とかスゴイですよ!」
「おい! 貴様ら。何をイチャイチャコラコラしておるんか! 小生は先に進めと言ったはずですぞ。話を聞いとるのかぁ――!」
二人の距離の近さに、弁慶が歯ぎしりする。
特に何もしていないギデオンたちにとっては、そんなに早く試験を終わらせたいのか?
という疑問しか出てこない。
「メリッサ、大丈夫か?」
「うん、ダイジョウブ。平気だよ」
「もうじき、アルラウネの大木につく。彼は、そこで寝ていてもらおう」
ほどなくして、アルラウネの大木が見えてきた。
体力だけは、ありあまっているのか弁慶につかれている様子はなさそうだ。
アルラウネと遭遇するなり、臨戦態勢をとる。
「むむっ! 何奴――さては貴様、妖怪変化だな~小生こそ、わっ――――」
「まったく、うるさい男ですの~。レディを妖怪、呼ばわりするなんて失礼にもほどがありますわ。まあ、ギデ様! わざわざ、会いにきてくださるなんて、妾カンゲキぃ~ですのよ」
「この前のゴロツキは、すまなかったな。今日は、若い奴をつれてきたけど、どうだ?」
「どうだと……言われましてもねぇ~。ブヒヒモントは魔物じゃありませぬか。妾は、人外とは種付けいたしませんの!」
「いや、君が地中に沈めようとしているのは人だ……一応。彼は、ギルドの人間だから見逃してやって欲しい」
ギデオンの頼みにアルラウネは弱かった。
ヒヒの魔物と間違えるほどの見るにたえない醜悪な男。
自分にや刃をむけるかもしれない冒険者を生かしておくのは、彼女のポリシーに反する。
それでも、ギデオンにご執心な彼女はついついしたがってしまう。
一つだけ気になることを除いては……。
「ギデ様? 一つよろしいでしょうか?」
「どうしたんだ?」
「さきほどから、貴方様の背中にいる女は何者なのですか!?」
「は、初めましてスリィツゥギルドの受付けをしていますメリッサと申します」
「彼女には、今回の冒険者試験に同行してもらっているんだ。そこの彼と共にね」
「そうでしたの~。妾は、てっきりそのメスがギデ様に種づけをせがんでいるのかと――」
「なっななな! 何を言っているんですかぁあああ!? 貴女、本当に魔物なんですか? こんな下品なのは見た事ないわ」
顔を赤面されるメリッサにアルラウネが疑惑の眼差しをむける。
一人の男をかけて女たちの合間に熱い火花が飛びかっている。
むろん、ギデオンがそれをしるわけもない。
「ほわっ!」
飛び起きた弁慶が、薙刀でアルラウネを一刀両断しようとした。
振り下ろされる刃に合わせ、ギデオンが近距離から瞬時に発砲する。
刃と柄の合間を直撃した魔力の弾丸が、薙刀を真っ二つに破壊した。
「ねわあああ!! ナギ子ぉおぉおおおお!!」
吹き飛ばされた自分の獲物を見て、弁慶が号泣する。
一瞬の出来事に、ギデオン以外の二人は呆然していた。
「な、何をすんだぁああ。小生のナギ子をよくもよくもよくもぉぉおお」
よほど、愛着がわいていたのか? 弁慶は薙刀に女性の名前をつけていた。
「そこまで泣くのならなぜ、武器として使ったんだ?」
「黙れ! 貴様こそ、魔物にかたいれするなど言語道断。冒険者、失格だぁああ!」
「ナギ子のカタキだ! 行けぇー千脇!!」
弁慶は腰に差していた脇差を抜き、ギデオンに斬りかかった。
直情的なのか?
頭に血がのぼりすぎた弁慶は実に隙だらけだ。
「あいたぁあああ!」弁慶がたまらず表情を歪める。
振り上げられた魔銃のグリップ部分が弁慶の利き手を突き上げる。
パァンと弾かれ、宙を舞う脇差がどこか寂しげに映ってみえる。
千脇はジャングルの彼方へと旅立っていった。
ジャングルに奇妙なかけ声がひびく。
いつも通うこの道も三人だとこうも違和感があるものなのか?
ギデオンはひたいの汗をぬぐう。
この汗はかきたくてかいているわけではない。
すべてはカナタ・弁慶。
この男のせいだ。
新人に対して先輩風をふかし後方からあおってくる。
悪路になれているギデオンは平気だが、メリッサには相当キツイ。
肩をはげしく上下させながら、青ざめた顔をしている。
試験の目的は、金鉱石の発掘。
しかし、ただ見つけ出せばいいわけではない。
日没までの制限時間内で、高純度のモノをとってこなければならない。
ジャングルの魔物が出てこない。
その事に気づいたのはやはり、弁慶。
豚のように鼻をフガフガ鳴らしている。
嗅いで、さぐっているつもりかもしれないがフリでしかない。
超嗅覚を持つギデオンは、辺りに魔物がいない事をすでに把握済みだ。
連日、あれだけ虫相手に発砲しまくったんだ、魔物のほうも彼の気配を覚えてしまったのだろう。
ぜったいに近寄ってこない。
ともあれ、魔物という障害が除去された今、残る課題は罠と結界だ。
「もう…も……無理ぃ~。そろそろ、休憩しませんか?」
早くもメリッサがダウン寸前になっている。
慌てて、ギデオンが肩をかすと彼女はニコッと明るく微笑む。
「ありがとう、ギデさん。すみません、走るの苦手で~!」
「構わないさ。君に無理させて、肝心な時に動けなくなったら僕も困る。マッパーとしての活躍期待しているよ」
「うん、任せてね。マッピングは得意だから! でも、ギデさんのベースアビリティも便利だよね。他の人のスキルがわかる能力とかスゴイですよ!」
「おい! 貴様ら。何をイチャイチャコラコラしておるんか! 小生は先に進めと言ったはずですぞ。話を聞いとるのかぁ――!」
二人の距離の近さに、弁慶が歯ぎしりする。
特に何もしていないギデオンたちにとっては、そんなに早く試験を終わらせたいのか?
という疑問しか出てこない。
「メリッサ、大丈夫か?」
「うん、ダイジョウブ。平気だよ」
「もうじき、アルラウネの大木につく。彼は、そこで寝ていてもらおう」
ほどなくして、アルラウネの大木が見えてきた。
体力だけは、ありあまっているのか弁慶につかれている様子はなさそうだ。
アルラウネと遭遇するなり、臨戦態勢をとる。
「むむっ! 何奴――さては貴様、妖怪変化だな~小生こそ、わっ――――」
「まったく、うるさい男ですの~。レディを妖怪、呼ばわりするなんて失礼にもほどがありますわ。まあ、ギデ様! わざわざ、会いにきてくださるなんて、妾カンゲキぃ~ですのよ」
「この前のゴロツキは、すまなかったな。今日は、若い奴をつれてきたけど、どうだ?」
「どうだと……言われましてもねぇ~。ブヒヒモントは魔物じゃありませぬか。妾は、人外とは種付けいたしませんの!」
「いや、君が地中に沈めようとしているのは人だ……一応。彼は、ギルドの人間だから見逃してやって欲しい」
ギデオンの頼みにアルラウネは弱かった。
ヒヒの魔物と間違えるほどの見るにたえない醜悪な男。
自分にや刃をむけるかもしれない冒険者を生かしておくのは、彼女のポリシーに反する。
それでも、ギデオンにご執心な彼女はついついしたがってしまう。
一つだけ気になることを除いては……。
「ギデ様? 一つよろしいでしょうか?」
「どうしたんだ?」
「さきほどから、貴方様の背中にいる女は何者なのですか!?」
「は、初めましてスリィツゥギルドの受付けをしていますメリッサと申します」
「彼女には、今回の冒険者試験に同行してもらっているんだ。そこの彼と共にね」
「そうでしたの~。妾は、てっきりそのメスがギデ様に種づけをせがんでいるのかと――」
「なっななな! 何を言っているんですかぁあああ!? 貴女、本当に魔物なんですか? こんな下品なのは見た事ないわ」
顔を赤面されるメリッサにアルラウネが疑惑の眼差しをむける。
一人の男をかけて女たちの合間に熱い火花が飛びかっている。
むろん、ギデオンがそれをしるわけもない。
「ほわっ!」
飛び起きた弁慶が、薙刀でアルラウネを一刀両断しようとした。
振り下ろされる刃に合わせ、ギデオンが近距離から瞬時に発砲する。
刃と柄の合間を直撃した魔力の弾丸が、薙刀を真っ二つに破壊した。
「ねわあああ!! ナギ子ぉおぉおおおお!!」
吹き飛ばされた自分の獲物を見て、弁慶が号泣する。
一瞬の出来事に、ギデオン以外の二人は呆然していた。
「な、何をすんだぁああ。小生のナギ子をよくもよくもよくもぉぉおお」
よほど、愛着がわいていたのか? 弁慶は薙刀に女性の名前をつけていた。
「そこまで泣くのならなぜ、武器として使ったんだ?」
「黙れ! 貴様こそ、魔物にかたいれするなど言語道断。冒険者、失格だぁああ!」
「ナギ子のカタキだ! 行けぇー千脇!!」
弁慶は腰に差していた脇差を抜き、ギデオンに斬りかかった。
直情的なのか?
頭に血がのぼりすぎた弁慶は実に隙だらけだ。
「あいたぁあああ!」弁慶がたまらず表情を歪める。
振り上げられた魔銃のグリップ部分が弁慶の利き手を突き上げる。
パァンと弾かれ、宙を舞う脇差がどこか寂しげに映ってみえる。
千脇はジャングルの彼方へと旅立っていった。
10
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です
しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。

あなたがそう望んだから
まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」
思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。
確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。
喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。
○○○○○○○○○○
誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。
閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*)
何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。
もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

【 完 結 】言祝ぎの聖女
しずもり
ファンタジー
聖女ミーシェは断罪された。
『言祝ぎの聖女』の座を聖女ラヴィーナから不当に奪ったとして、聖女の資格を剥奪され国外追放の罰を受けたのだ。
だが、隣国との国境へ向かう馬車は、同乗していた聖騎士ウィルと共に崖から落ちた。
誤字脱字があると思います。見つけ次第、修正を入れています。
恋愛要素は完結までほぼありませんが、ハッピーエンド予定です。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる