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二十八話
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「まずは、君たち事を教えてくれ。君たちは狩人と呼ばれている者たちなのか?」
「ティーブレイクだっけ?」
「ギブアンドテイクだ。君のお願いを一つ叶える度に僕の質問に一つ答える。答えられない質問の場合は、別の質問を答えるんだ。それでいいか? まずは焚き火の分――」
「ふぁーい」
ジャングル通い二日目。
その日は、密林に入ってすぐに豪雨が降り出してきた。
雨具を持っていなかったギデオン。
アルラウネに雨宿りできる場所がないかと聞こうと急ぐ最中、偶然にもエルフの少女を発見した。
彼女に、雨宿りできる洞窟があると教えてもらい彼も同行した。
道はいつもよりぬかっていて、気を抜くと足を取られてしまいそうだった。
雨音だけが聞こえる世界の中では、鳥も獣も虫さえも無音になっていた。
時折、聞こえるのは雨に打たれた植物の演奏。
その身を天に委ね、恵の雨に信奉の音を放つ。
洞窟に着くなり、ずぶ濡れになった少女がギデオンに構う事なく衣服を脱ぎ捨てた。
動物の毛皮でできたビスチェのワンピース。
大分、雨を吸ったようだ。
ドサッと音を立てて地面に落ちた。
少女は、まったく下着を身に着けていなかった。
にも関わらず、恥じらいを感じている様子はなかった。
おそらく、全裸が恥ずかしいと感じるのは人独自の認識であり、エルフに通じない。
むしろ、肌を見せる姿がエルフの正装なのかもしれないとギデオンは的外れな事を考え出した。
「このままでは、風邪を引いてしまうぞ」と火を起こすまでの間、スコルに彼女の身を包み隠すように命じた。
スコルの毛並みがよほど気にいったのか、焚き火ができても少女は魔獣から離れようとしなかった。
彼女の行動を見て、ギデオンは真っ先に閃いた。
何かを与えるのを条件に、何かを貰う。
そうすれば、彼女から欲しい情報が得られるかもしれないと。
少なくとも、昨日の少女の反応は何かに満たされている時の方が俄然良い。
「狩人チガウ。私たちは山に住む、アマゾネスエルフ! あっ……」
彼の読みは見事的中した。
満足している時の彼女は、完全に警戒心のスイッチがオフになっている。
聞いていない事まで口走ってしまっている。
「山があるのか……次はスコルの分だ。その山に聖域と呼ばれる場所があると思うが、どうやっていけばいい?」
「聖域は知らない。けれど、村の誰かが知っているかも……村に行くには私たちが仕掛けた罠と結界をカイジョしなければならないよ。まぁ……エルフの魔法を人間ごときがどうかできると思わないケドね」
「果樹園が出たり消えたりしていたのは、やはり結界魔法の効果か! 今日はこれで最後だ、今現在もエルフたちを攫う人間がジャングルを徘徊してしているよな? そいつらは何者だ?」
「質問が多いよ。けど、そんな質問するとは思わなかった……どうして奴らの事を知りたがるの?」
「なあーに、悪党に用があるだけだ」
ギデオンの表情を見つめながら、少女は沈黙していた。
その言葉の裏に何が隠れているのかを、それが本心なのかと見極めようとしているかのようだ。
彼の眼は、どこを見ているのか分からない。
けれど、よく知っている。
人間を語る時の同胞の眼と同じだ。
その事に気づくと少女はハッと口を開いた。
「都から来た奴隷商人だと思う。詳しくハアクしてないけど、すごく強い力を持つている奴。今でも、時々やってくる。だから私たち罠で戦っている。君が退治してくれるの? だったら、礼はする」
「僕が求めているのは情報だ。それ以外は、はっきり言ってどうでもいい。そうだな……これは君たちだけじゃない僕自身の戦いでもある。だから、朗報を期待しててくれ」
ギデオンは焚き火で乾かした服を彼女に手渡す。
少女が服の袖に腕を通そうとすると、中からカスティーラが入った包みが飛び出してきた。
そっと包みを拾いあげ彼女は胸元に抱く。
視線の先にはスコルを引き連れ洞窟を出るギデオンの背中があった――――
「昨晩、追跡しておいて正解だったな」
ジャングルを出たギデオンは迷うことなく西へ進む。
雨で相手の臭いは消されてしまっているが、昨日の段階で場所だけは特定済みだった。
敵のねぐらはジャングルからそう離れていない、距離にして2キロメートル。
ジャングルを往来するのだ、近場でなければ困るのだろう。
勝手に掘っ立て小屋まで建てている。
敵地に向かう、彼だったが未だ一つだけ引っかかる点があった。
エルフの少女が言っていた「相手が強い力を持っている」という話だ。
商人が自ら先頭に立って奴隷の捕獲にあたるのは、まずあり得ない。
密林にいたのは、大方、商人に雇われたゴロツキたちだろう。
そうなると技量のほどは、たかが知れている。
ただ、その中に一人でも強者が混じっていれば色々と話が変わる。
アマゾネスエルフの罠をかいくぐり、ギデオンの追跡から逃れたその存在。
明らかにゴロツキレベルではないその者は、どうして、ゴロツキたちと共に自身を危険にさらす仕事をしているのか?
ギデオンにとっては腑に落ちない事だ。
「どうやら、確かめる必要があるようだ。奴の目的を」
「ティーブレイクだっけ?」
「ギブアンドテイクだ。君のお願いを一つ叶える度に僕の質問に一つ答える。答えられない質問の場合は、別の質問を答えるんだ。それでいいか? まずは焚き火の分――」
「ふぁーい」
ジャングル通い二日目。
その日は、密林に入ってすぐに豪雨が降り出してきた。
雨具を持っていなかったギデオン。
アルラウネに雨宿りできる場所がないかと聞こうと急ぐ最中、偶然にもエルフの少女を発見した。
彼女に、雨宿りできる洞窟があると教えてもらい彼も同行した。
道はいつもよりぬかっていて、気を抜くと足を取られてしまいそうだった。
雨音だけが聞こえる世界の中では、鳥も獣も虫さえも無音になっていた。
時折、聞こえるのは雨に打たれた植物の演奏。
その身を天に委ね、恵の雨に信奉の音を放つ。
洞窟に着くなり、ずぶ濡れになった少女がギデオンに構う事なく衣服を脱ぎ捨てた。
動物の毛皮でできたビスチェのワンピース。
大分、雨を吸ったようだ。
ドサッと音を立てて地面に落ちた。
少女は、まったく下着を身に着けていなかった。
にも関わらず、恥じらいを感じている様子はなかった。
おそらく、全裸が恥ずかしいと感じるのは人独自の認識であり、エルフに通じない。
むしろ、肌を見せる姿がエルフの正装なのかもしれないとギデオンは的外れな事を考え出した。
「このままでは、風邪を引いてしまうぞ」と火を起こすまでの間、スコルに彼女の身を包み隠すように命じた。
スコルの毛並みがよほど気にいったのか、焚き火ができても少女は魔獣から離れようとしなかった。
彼女の行動を見て、ギデオンは真っ先に閃いた。
何かを与えるのを条件に、何かを貰う。
そうすれば、彼女から欲しい情報が得られるかもしれないと。
少なくとも、昨日の少女の反応は何かに満たされている時の方が俄然良い。
「狩人チガウ。私たちは山に住む、アマゾネスエルフ! あっ……」
彼の読みは見事的中した。
満足している時の彼女は、完全に警戒心のスイッチがオフになっている。
聞いていない事まで口走ってしまっている。
「山があるのか……次はスコルの分だ。その山に聖域と呼ばれる場所があると思うが、どうやっていけばいい?」
「聖域は知らない。けれど、村の誰かが知っているかも……村に行くには私たちが仕掛けた罠と結界をカイジョしなければならないよ。まぁ……エルフの魔法を人間ごときがどうかできると思わないケドね」
「果樹園が出たり消えたりしていたのは、やはり結界魔法の効果か! 今日はこれで最後だ、今現在もエルフたちを攫う人間がジャングルを徘徊してしているよな? そいつらは何者だ?」
「質問が多いよ。けど、そんな質問するとは思わなかった……どうして奴らの事を知りたがるの?」
「なあーに、悪党に用があるだけだ」
ギデオンの表情を見つめながら、少女は沈黙していた。
その言葉の裏に何が隠れているのかを、それが本心なのかと見極めようとしているかのようだ。
彼の眼は、どこを見ているのか分からない。
けれど、よく知っている。
人間を語る時の同胞の眼と同じだ。
その事に気づくと少女はハッと口を開いた。
「都から来た奴隷商人だと思う。詳しくハアクしてないけど、すごく強い力を持つている奴。今でも、時々やってくる。だから私たち罠で戦っている。君が退治してくれるの? だったら、礼はする」
「僕が求めているのは情報だ。それ以外は、はっきり言ってどうでもいい。そうだな……これは君たちだけじゃない僕自身の戦いでもある。だから、朗報を期待しててくれ」
ギデオンは焚き火で乾かした服を彼女に手渡す。
少女が服の袖に腕を通そうとすると、中からカスティーラが入った包みが飛び出してきた。
そっと包みを拾いあげ彼女は胸元に抱く。
視線の先にはスコルを引き連れ洞窟を出るギデオンの背中があった――――
「昨晩、追跡しておいて正解だったな」
ジャングルを出たギデオンは迷うことなく西へ進む。
雨で相手の臭いは消されてしまっているが、昨日の段階で場所だけは特定済みだった。
敵のねぐらはジャングルからそう離れていない、距離にして2キロメートル。
ジャングルを往来するのだ、近場でなければ困るのだろう。
勝手に掘っ立て小屋まで建てている。
敵地に向かう、彼だったが未だ一つだけ引っかかる点があった。
エルフの少女が言っていた「相手が強い力を持っている」という話だ。
商人が自ら先頭に立って奴隷の捕獲にあたるのは、まずあり得ない。
密林にいたのは、大方、商人に雇われたゴロツキたちだろう。
そうなると技量のほどは、たかが知れている。
ただ、その中に一人でも強者が混じっていれば色々と話が変わる。
アマゾネスエルフの罠をかいくぐり、ギデオンの追跡から逃れたその存在。
明らかにゴロツキレベルではないその者は、どうして、ゴロツキたちと共に自身を危険にさらす仕事をしているのか?
ギデオンにとっては腑に落ちない事だ。
「どうやら、確かめる必要があるようだ。奴の目的を」
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