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二十五話

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「お待たせしました。今日はどのようなご用件で……」

「受付け嬢のメリッサに頼みがある」

ギデオンが再び、メリッサの前に姿を現したのは五日後の昼過ぎだった。
それまでの間、彼がどこで何をしていたのか誰一人として知らない。
街での目撃情報も一切なく「彼は、すでにこの港街から出て行った」と早くも良からぬ噂が立ち始めていた。
そんな折、彼は何食わぬ顔でひょっこりとギルドにやってきた。
今まで何をしていたのかも話さず、久方ぶりの一言がこの無茶ぶりだ。
当然ながら、彼の素気ない態度をメリッサは快くは思っていない。
一瞬、口をつぐんでしまう。

ギデオンは冒険者プレートをちらつかせながら窓口に立っていた。
無視を決め込んで、もう一人の受付け嬢に彼の対応を任せることもできたがそうもいかない。
前回の出来事でメリッサは彼に大きな貸しを作ってしまった。
ギデオンもその事をよく理解している。
自分の頼みならば、彼女は無碍むげにできないと知っていて相談を持ち掛けてきた。

「個人的な用件でしたら夕方にでもお伺いいたします、今日は早上がりなので」

「そうか、なら夕刻にでも落ち合おう。市場通りの噴水前で待っている」

メリッサの返答を聞くこともせず、一方的に約束だけを取り付ける。
退室していくギデオンの背中を彼女は無意識に追おうとしていた。

「あららまぁ~、メリッサさん。最近、妙に落ち込んでいるかと思ったら、えーそうなんだ!?」

「ん? いやいやいや! な、何のコトカナ――」

隣の席に座る、同僚が妙にニヤついていた。
知らぬ存ぜぬを押し通そうするメリッサだが、露骨なまでに挙動不審になっている。

女史たちのやり取りを知ってか知らでか、ギデオンは懐から聖水瓶を取り出しじっと眺めていた。
ここ五日でようやく一瓶分が溜まった。
歩帝斗にの能力を弱体化させられて以降、彼が一日に醸造できる蜜酒ミードは一杯どころか、せいぜい一口程度が限界だった。
リミッターを取りつけた本人曰く、能力を使用し続けていけば少しずつ醸造できる量が増えていくという話だ。

「まだまだ、先は長そうだな」

納得いかぬ成果に、ギデオンはため息をついた。
彼が次のステップに進む為には、色々な課題をクリアしなければならない。
彼個人が現時点で最終目標としているのは、聖王国に巣くう邪心という名の病魔を浄化する事にあった。
その為にはどうしても司教を殺害した犯人を特定しなければならない。
これは理屈ではない、彼の直感が「そうしろ」と警告しているのだ。
ギデオン自身、この不穏な気配をと呼んでいた。
思い返してみれば彼の身近な人々、アラドやカーラも何かを感じ取っていたフシがある。
彼らがそう感じ取ったのは女神の庇護による影響なのか、それとも単なる偶然だったのかは分からない。
ただ、自分と聖王国には何かしらの因縁がある。
ギデオンは、そう信じて疑わない。

思っていた以上に時間を費やしてしまったが下準備はすべて整った。
次なる目標はジャングルを踏破し聖域を発見することだ。
その為の鍵としてメリッサの協力が必要不可欠となる。

「ギデさーん! 遅くなってすみません」

仕事を終えたメリッサが彼の元へと走ってきた。
遅れたと頭を下げるが、一、二分程度の遅れでしかない。

「ここじゃなんだ、場所を移そう」

ギデオンが彼女をエスコートしやって来たのは、漁港にある地下倉庫を改良しできたレストランだった。
新設されたばかりの店の噂はメリッサの耳にも届いていたらしい。
着くなり、嬉々として席についた。
早速、ギデオンがテーブルに置いてある呼び鈴を鳴らした。

「オーダーお願いします。コレとコレとソレを、あと本日のオススメもお願いします」

「はい、茸と香草入り白身魚のキッシュとオリーブ増し増しカルパッチョ、海鮮サラダにスリィツゥ特製ピッツァですね」

一通りの注文をすませ、メリッサの方へリストを回す。
店内の落ち着いた雰囲気にのまれてしまっているのか? 彼女の目が点になっている。

「君は? 苦手な物はあるかい? 頼みたい物があったら遠慮なく言ってくれ。ここの代金は僕が持つから気にしないでくれ」

「それじゃ……ミックスジュースを」

「今日はエールじゃないのか?」

「いえいえいえ! 滅相もない。また同じ失敗をするほど私もおバカではありませんよ~。にしても……少し驚きましたよ。ギデさんって、こういう素敵な店も知っているんですね」

「人を何だと思っているんだ……まあ、いい。料理を済ませたら本題に入ろうじゃないか」

「えっ? 食べながらじゃ駄目なんですか?」

「ん? ああ、それもそうだな」

貴族だったころの習慣。
食事中の私語は厳禁が当たり前だったギデオンにとって、パーティー以外でも会話しながら食べるという発想はなかった。
もっと一般的な常識を学ばなければ、自分の素性がバレてしまう。
ギデオンは改めて自身の気を引き締めた――――

しばらくして、テーブルに熱々の皿が並べられた。
量など気にせず頼んだ為、テーブルはあっという間に海の幸料理で埋め尽くされてしまった。

そこも含めて、学習しなければなと彼は苦笑を浮かべた。
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