上 下
23 / 298

二十三話

しおりを挟む
スリィツゥの街に戻ったギデオンは、ギルドに直行した。
その日のうちに戻ってきたものの、すでに日は傾き、路地わきの街灯が辺りを照らしていた。
幸いな事にギルドには、まだ明かり残っている。
窓口に向かうと、昼間の受付け嬢が手を振っていた。

三ツ星アングラ―の依頼を達成したんだが、受理して貰えるか? それと、魔物素材をいくつか入手してきた鑑定をお願いしたい」

「うえぇえっ!! これ、全部ですか!?」

彼が所持していた品を見て、受付け嬢は目を丸くしていた。
彼女の反応に、ギルド内にいた冒険者たちも騒然となる。

「おいおい、あれ黄金の茶葉じゃないか! 三ツ星でも、ここ数ヶ月間は誰も発見できなかった物だぞ」

「こっちはマッスルマイコニドだとぅ――。しかも、まんま! そのままの状態ときた、コレクターなら喉から手が出るほど欲しがるぞ」

「凄い……ブラックキラータイガーの毛皮があんなにも! あれだけ数あれば、上質な毛皮のコートが何枚も作れるわ~」

ギデオンの初仕事。
その成果に皆、感嘆の声をあげ、新米冒険者である彼に刮目した。
ギルドには今、かつてないほどの熱気が立ち込めた。
それもそのはず、冒険者登録をしたその日の内にこれほどの収穫を得てくる冒険者は稀である。
このスリィツゥギルドに限っては前代未聞の珍事である。
他の冒険者たちが見守る中、受付け嬢は眼鏡をかけ算盤そろばんを弾き出した。
鑑定する品数が多い上に、規格外な物もいつくか混じっている。
「あ~、う~ん」と首を傾げながら、四苦八苦する健気な姿にいつの間にか外野から声援が上がっている。
皮肉にも、その声が彼女の集中力を削いでいる。
それが解かっているギデオンは、なるべく静かにしようと努めていた。

「で、出来たぁ――――!! 暫定ですが、こちらが取り引き金額となります。合計、10万2千ニーゼルとなります! 確認の上、了承して頂けるのなら、こちらの書類にサインをお願いします」

提示された金額に元貴族であるギデオンも少々、驚きを隠せないでいた。
10万ニーゼルもあれば、貸出ながらも小さな店を開くことができる。

「屋敷にいたころには、想像もつかなかったが冒険者とは、こうも効率よく稼げるものなのか……」

こうして、ギデオンの大いなるカン違いが幕を開けてしまった。
並みの冒険者では、いくら腕利きでもこう上手くはいかない。
すべては天啓職であるマタギの能力と、それを的確に使いこなす彼自身の即決力のおかげだろう。
素材の状態を良好に保つ為の魔物の仕留め方。
丁寧な素材加工の仕方。
勘に頼った採取、茶葉の目利きはマタギの恩恵がもたらしたものである。
また、冒険者において何をどのように行動するのかは、極めて重要なこととなる。
こと非情事態においては、判断こそが全てだ。
慎重すぎては後れを取る。
性急すぎては事を欠く。
一歩でも間違えば、生存率を大幅に下げてしまう。

ギデオンがマタギとしての能力を授かった理由はそこにあるのかもしれない。

降って湧いたような臨時収入。
興奮冷めやらぬ中、ギデオンは完全に舞い上がってしまっている。
すると、彼の耳元で受付け嬢が囁いた。

「どうします? 祝杯でもあげますか? こういった場合、親睦を深める意味を込めて、他の冒険者の方々にお酒や御馳走を振舞うのが、習わしなんですけど……。あっ! 勿論、嫌なら何もしなくても大丈夫ですよ」

「それで構わないさ。しばらくは、ここで世話になるんだ。折角だから、自己紹介も兼ねて宴会を開こうじゃないか! 皆、それで良いか!?」

ギデオンの言葉にギルドの冒険者全員、大喜びして賛同した。
タダ酒が飲める上に、美味い飯にありつける。
誰がどうして断ろうか。
全員でギルドの食堂に集まるとエールを並々と注いだジョッキを片手に乾杯する。

「今日は僕のおごりだ。皆、気にせずガンガンいってくれ!」

「おう! 理性は大事になっ! でないと、またカミさんにケツ叩かれらぁ」

一人の冗談で、その場にワッと笑いが広がる。

飲み会自体は、晩餐会などで何度か出席したことはあった。
宴など慣れている。
そう軽く見ていた彼にとって、それは新鮮な出来事だった。
人と人の距離の近さ。
社交界にはない宴のカタチにギデオンは驚いてしまった。
それと共に、良からぬ事を考えてしまう。

「もし、この場に蜜酒を用意できたら、どうなってしまうのだろうか?」

「はれぇ~? ギデさん、飲んでますかぁー? お酒がろうかしました???」

「早いな……まだ、始まったばかりだぞ」

受付け嬢は、極度なレベルで酒に弱かった。
一口、飲んだだけで顔を真っ赤にして舌が回らなくなっている。

「いや、これはこれで悪くはないか……」

ギデオンは彼女の様子を眺めてフッと笑みをこぼす。

「そういえば、礼を言ってなかった。今日は世話になったよ、ありがとう。えーと……すまない、君の名前を聞きそびれていたようだ」

「私? 私ですかぁ~? メリッサ。メリッサ・ハウゼンでぇーすぅ!!」

「ハウゼン? へぇー……少し君に興味が湧いてきたよ」

メリッサの顔を間近で見つめるギデオン。
その瞳は怪しく輝いているかのように見えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

悠久の機甲歩兵

竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。 ※現在毎日更新中

鑑定能力で恩を返す

KBT
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。 彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。 そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。  この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。  帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。  そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。  そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

処理中です...