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二十三話
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スリィツゥの街に戻ったギデオンは、ギルドに直行した。
その日のうちに戻ってきたものの、すでに日は傾き、路地わきの街灯が辺りを照らしていた。
幸いな事にギルドには、まだ明かり残っている。
窓口に向かうと、昼間の受付け嬢が手を振っていた。
「三ツ星の依頼を達成したんだが、受理して貰えるか? それと、魔物素材をいくつか入手してきた鑑定をお願いしたい」
「うえぇえっ!! これ、全部ですか!?」
彼が所持していた品を見て、受付け嬢は目を丸くしていた。
彼女の反応に、ギルド内にいた冒険者たちも騒然となる。
「おいおい、あれ黄金の茶葉じゃないか! 三ツ星でも、ここ数ヶ月間は誰も発見できなかった物だぞ」
「こっちはマッスルマイコニドだとぅ――。しかも、まんま! そのままの状態ときた、コレクターなら喉から手が出るほど欲しがるぞ」
「凄い……ブラックキラータイガーの毛皮があんなにも! あれだけ数あれば、上質な毛皮のコートが何枚も作れるわ~」
ギデオンの初仕事。
その成果に皆、感嘆の声をあげ、新米冒険者である彼に刮目した。
ギルドには今、かつてないほどの熱気が立ち込めた。
それもそのはず、冒険者登録をしたその日の内にこれほどの収穫を得てくる冒険者は稀である。
このスリィツゥギルドに限っては前代未聞の珍事である。
他の冒険者たちが見守る中、受付け嬢は眼鏡をかけ算盤を弾き出した。
鑑定する品数が多い上に、規格外な物もいつくか混じっている。
「あ~、う~ん」と首を傾げながら、四苦八苦する健気な姿にいつの間にか外野から声援が上がっている。
皮肉にも、その声が彼女の集中力を削いでいる。
それが解かっているギデオンは、なるべく静かにしようと努めていた。
「で、出来たぁ――――!! 暫定ですが、こちらが取り引き金額となります。合計、10万2千ニーゼルとなります! 確認の上、了承して頂けるのなら、こちらの書類にサインをお願いします」
提示された金額に元貴族であるギデオンも少々、驚きを隠せないでいた。
10万ニーゼルもあれば、貸出ながらも小さな店を開くことができる。
「屋敷にいたころには、想像もつかなかったが冒険者とは、こうも効率よく稼げるものなのか……」
こうして、ギデオンの大いなるカン違いが幕を開けてしまった。
並みの冒険者では、いくら腕利きでもこう上手くはいかない。
すべては天啓職であるマタギの能力と、それを的確に使いこなす彼自身の即決力のおかげだろう。
素材の状態を良好に保つ為の魔物の仕留め方。
丁寧な素材加工の仕方。
勘に頼った採取、茶葉の目利きはマタギの恩恵がもたらしたものである。
また、冒険者において何をどのように行動するのかは、極めて重要なこととなる。
こと非情事態においては、判断こそが全てだ。
慎重すぎては後れを取る。
性急すぎては事を欠く。
一歩でも間違えば、生存率を大幅に下げてしまう。
ギデオンがマタギとしての能力を授かった理由はそこにあるのかもしれない。
降って湧いたような臨時収入。
興奮冷めやらぬ中、ギデオンは完全に舞い上がってしまっている。
すると、彼の耳元で受付け嬢が囁いた。
「どうします? 祝杯でもあげますか? こういった場合、親睦を深める意味を込めて、他の冒険者の方々にお酒や御馳走を振舞うのが、習わしなんですけど……。あっ! 勿論、嫌なら何もしなくても大丈夫ですよ」
「それで構わないさ。しばらくは、ここで世話になるんだ。折角だから、自己紹介も兼ねて宴会を開こうじゃないか! 皆、それで良いか!?」
ギデオンの言葉にギルドの冒険者全員、大喜びして賛同した。
タダ酒が飲める上に、美味い飯にありつける。
誰がどうして断ろうか。
全員でギルドの食堂に集まるとエールを並々と注いだジョッキを片手に乾杯する。
「今日は僕の奢りだ。皆、気にせずガンガンいってくれ!」
「おう! 理性は大事になっ! でないと、またカミさんにケツ叩かれらぁ」
一人の冗談で、その場にワッと笑いが広がる。
飲み会自体は、晩餐会などで何度か出席したことはあった。
宴など慣れている。
そう軽く見ていた彼にとって、それは新鮮な出来事だった。
人と人の距離の近さ。
社交界にはない宴のカタチにギデオンは驚いてしまった。
それと共に、良からぬ事を考えてしまう。
「もし、この場に蜜酒を用意できたら、どうなってしまうのだろうか?」
「はれぇ~? ギデさん、飲んでますかぁー? お酒がろうかしました???」
「早いな……まだ、始まったばかりだぞ」
受付け嬢は、極度なレベルで酒に弱かった。
一口、飲んだだけで顔を真っ赤にして舌が回らなくなっている。
「いや、これはこれで悪くはないか……」
ギデオンは彼女の様子を眺めてフッと笑みをこぼす。
「そういえば、礼を言ってなかった。今日は世話になったよ、ありがとう。えーと……すまない、君の名前を聞きそびれていたようだ」
「私? 私ですかぁ~? メリッサ。メリッサ・ハウゼンでぇーすぅ!!」
「ハウゼン? へぇー……少し君に興味が湧いてきたよ」
メリッサの顔を間近で見つめるギデオン。
その瞳は怪しく輝いているかのように見えた。
その日のうちに戻ってきたものの、すでに日は傾き、路地わきの街灯が辺りを照らしていた。
幸いな事にギルドには、まだ明かり残っている。
窓口に向かうと、昼間の受付け嬢が手を振っていた。
「三ツ星の依頼を達成したんだが、受理して貰えるか? それと、魔物素材をいくつか入手してきた鑑定をお願いしたい」
「うえぇえっ!! これ、全部ですか!?」
彼が所持していた品を見て、受付け嬢は目を丸くしていた。
彼女の反応に、ギルド内にいた冒険者たちも騒然となる。
「おいおい、あれ黄金の茶葉じゃないか! 三ツ星でも、ここ数ヶ月間は誰も発見できなかった物だぞ」
「こっちはマッスルマイコニドだとぅ――。しかも、まんま! そのままの状態ときた、コレクターなら喉から手が出るほど欲しがるぞ」
「凄い……ブラックキラータイガーの毛皮があんなにも! あれだけ数あれば、上質な毛皮のコートが何枚も作れるわ~」
ギデオンの初仕事。
その成果に皆、感嘆の声をあげ、新米冒険者である彼に刮目した。
ギルドには今、かつてないほどの熱気が立ち込めた。
それもそのはず、冒険者登録をしたその日の内にこれほどの収穫を得てくる冒険者は稀である。
このスリィツゥギルドに限っては前代未聞の珍事である。
他の冒険者たちが見守る中、受付け嬢は眼鏡をかけ算盤を弾き出した。
鑑定する品数が多い上に、規格外な物もいつくか混じっている。
「あ~、う~ん」と首を傾げながら、四苦八苦する健気な姿にいつの間にか外野から声援が上がっている。
皮肉にも、その声が彼女の集中力を削いでいる。
それが解かっているギデオンは、なるべく静かにしようと努めていた。
「で、出来たぁ――――!! 暫定ですが、こちらが取り引き金額となります。合計、10万2千ニーゼルとなります! 確認の上、了承して頂けるのなら、こちらの書類にサインをお願いします」
提示された金額に元貴族であるギデオンも少々、驚きを隠せないでいた。
10万ニーゼルもあれば、貸出ながらも小さな店を開くことができる。
「屋敷にいたころには、想像もつかなかったが冒険者とは、こうも効率よく稼げるものなのか……」
こうして、ギデオンの大いなるカン違いが幕を開けてしまった。
並みの冒険者では、いくら腕利きでもこう上手くはいかない。
すべては天啓職であるマタギの能力と、それを的確に使いこなす彼自身の即決力のおかげだろう。
素材の状態を良好に保つ為の魔物の仕留め方。
丁寧な素材加工の仕方。
勘に頼った採取、茶葉の目利きはマタギの恩恵がもたらしたものである。
また、冒険者において何をどのように行動するのかは、極めて重要なこととなる。
こと非情事態においては、判断こそが全てだ。
慎重すぎては後れを取る。
性急すぎては事を欠く。
一歩でも間違えば、生存率を大幅に下げてしまう。
ギデオンがマタギとしての能力を授かった理由はそこにあるのかもしれない。
降って湧いたような臨時収入。
興奮冷めやらぬ中、ギデオンは完全に舞い上がってしまっている。
すると、彼の耳元で受付け嬢が囁いた。
「どうします? 祝杯でもあげますか? こういった場合、親睦を深める意味を込めて、他の冒険者の方々にお酒や御馳走を振舞うのが、習わしなんですけど……。あっ! 勿論、嫌なら何もしなくても大丈夫ですよ」
「それで構わないさ。しばらくは、ここで世話になるんだ。折角だから、自己紹介も兼ねて宴会を開こうじゃないか! 皆、それで良いか!?」
ギデオンの言葉にギルドの冒険者全員、大喜びして賛同した。
タダ酒が飲める上に、美味い飯にありつける。
誰がどうして断ろうか。
全員でギルドの食堂に集まるとエールを並々と注いだジョッキを片手に乾杯する。
「今日は僕の奢りだ。皆、気にせずガンガンいってくれ!」
「おう! 理性は大事になっ! でないと、またカミさんにケツ叩かれらぁ」
一人の冗談で、その場にワッと笑いが広がる。
飲み会自体は、晩餐会などで何度か出席したことはあった。
宴など慣れている。
そう軽く見ていた彼にとって、それは新鮮な出来事だった。
人と人の距離の近さ。
社交界にはない宴のカタチにギデオンは驚いてしまった。
それと共に、良からぬ事を考えてしまう。
「もし、この場に蜜酒を用意できたら、どうなってしまうのだろうか?」
「はれぇ~? ギデさん、飲んでますかぁー? お酒がろうかしました???」
「早いな……まだ、始まったばかりだぞ」
受付け嬢は、極度なレベルで酒に弱かった。
一口、飲んだだけで顔を真っ赤にして舌が回らなくなっている。
「いや、これはこれで悪くはないか……」
ギデオンは彼女の様子を眺めてフッと笑みをこぼす。
「そういえば、礼を言ってなかった。今日は世話になったよ、ありがとう。えーと……すまない、君の名前を聞きそびれていたようだ」
「私? 私ですかぁ~? メリッサ。メリッサ・ハウゼンでぇーすぅ!!」
「ハウゼン? へぇー……少し君に興味が湧いてきたよ」
メリッサの顔を間近で見つめるギデオン。
その瞳は怪しく輝いているかのように見えた。
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