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二十二話

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さんざめく緑林を駆け抜け、ついに主を発見した。
その場所には木々が立ち並んでおり、木々にはたわわとなった彩取り取りの果実が実を結んでいた。
人の手が入った果樹園。
そこにある景観に目を奪われてしまいがちだが、今は悠長にしてはいられない。
目の前で女の子が魔物に襲われている。
持ち前の直感に頼って正解だった。

「ステータスオープン!」

走りながら、魔物のステータスを開示する。
ブラックキラータイガーは、密林に生息する獣であり二足歩行をする黒色の猛虎だ。
くわえて知能が高い、片言なれど人語を話してくる。
無論、会話ではなく脅迫としてだ。

薄墨色うすずみいろの頭髪と瞳を持つ少女は猛虎襲来に臆することなく、その場で両腕を広げていた。
これ以上は近づくなと意思表示しているようだ。
それでも、虎達にとっては彼女は馳走でしかない。

「にくぅ~、ウマそうなニオイが……する、にくぅ――くわせろ、くろせろ」

「寄るな、ケダモノ。ここは、お前達が荒らしていい場所ではない」

やせ細った身体で果敢に、魔物を止めようとする少女。
だが、分が悪い。
キラータイガーは単独では行動しない、常に群れをなしている。
ギデオンが視認できるだけでも八体はいる。
早急に仕留めるには、相手側に気づかれる前に狩らないといけない。
果樹園にある木の陰に身を隠し、即座に銃を構える。
虎達の嗅覚、察知力がどれほど優れているのか彼にはわからない。
ただ、うち二匹が群れから若干離れた場所にいる。
その事に気づいた彼が、二匹は見張り役で虎達の嗅覚は大したモノではないと結論づけるのに、そう時間はかからなかった。

ズダン! ズダダダァ――ダダン!! 銃口が火を噴く。
計、六回鳴り響いくもあまりの速射に、ほぼ同時に虎達の頭部が吹き飛んでいく。
目の前の惨状に仲間を失った二匹は撤退を余儀なくされた。
その退路を断つように踊り出てきたのはギデオンだった。

「おおおおぅお……」言葉にならない声を上げて、魔物たちは場にひれ伏した。
本能的に、この人間がキケンであると悟ったのだろう。
もはや、抵抗する意思はないようだ。
ギデオンは構わず、銃口を向ける。

「止めだ、無抵抗な奴を仕留めても面白くもない、シラけるだけだ……今回だけは見逃してやる。さっさと消えろ!」

怒鳴り散らされた魔物二匹はおずおずとジャングルの奥へと駆けてゆく。
ギデオンが虎達を見逃したのは決して慈悲などではない。
魔物の巣穴の位置把握と生態系を崩さない為だ。
無闇やたらに退治したところで、また厄介な別種の魔物が繁殖する。
その知識がある故の行いだ。

「さてと――」

ギデオンが果樹園に戻ると少女はまだそこにいた。
肉塊となった魔物に恐れ成して避難してくれればと、期待していた彼だったが……どうも、あてが外れたらしい。
少女は余程、肝を据えているのか? 彼が戻ってくるのを待ち構えていた。

「君、怪我はないか?」

「………ああ」

「いや……そう、警戒しないでくれ。僕の名はギデ、見ての通り冒険者だ。ここには黄金の茶葉を求めてきたんだが、どこにあるのか知らないか?」

少女があまりにも口を閉ざしたままなので、ギデオンはここでの活動目的を率直に語った。
そうすることで、緊張も解け信頼してもらえるはず……だったのだが、どうにも要領を得ない。
それどころか、ますます警戒されてしまっている。
少女との距離が知らないうちに開けている。

「失敗だったか……やはり、僕には気さくな人間を演じるのは無理があるようだな。こんな時、シルクエッタがいてくれたら上手く取り入ってくれただろう……はぁ~、元気にしているのだろうか?」

「人間……一つだけ、お前に聞く。お前は悪い人間か?」

思いもしない問いに、ギデオンが少女を顔を見た。
間近で見て、ようやく彼女の正体に気付いた。

「その耳……お前、エルフなのか? あの童話で出てくる本物のエルフか――!!」

希少な存在を目にして、ギデオンはついつい興奮気味になってしまった。
少女からすれば、見慣れた光景なのだろう。
「またか」と言わんばかりに嫌悪に満ちた目を向けている。

「いいから、答えろ」

「ああ、悪い奴さ! 関係のない大勢の人々を自身の勝手で巻き込んでしまった……僕は救われることすらない大罪人だ」

「そーか。なら、お前は悪い奴ではないな……」

「どうして、そう思う?」

「私が知っている人間は、自分の事を悪いとは決して言わない。むしろ、良い奴だと主張してくる……そういう者に限って私の仲間をさらってゆく」

「聞いたことがある。奴隷として囚われたエルフは商人達によって高値で取引されていたって。その話は、真実なのか!?」

「人間のくせに無知なのだな。それは今も尚、続いているぞ。おかげで私達は元いた森を追われ、このような僻地へきちで暮らす羽目になってしまった。私……いや、我々は人間の愚かな行いを赦しはしない。絶対にな!」

少女の言葉にギデオンは衝撃を受けていた。
赦さないと言うが、その言葉に恨みも失望も怒りすら感じられない。
異なる種族への純然たる憎しみと、それ以上の痛烈な拒絶。
そこには取り除けない確かながあった。

「少し話がすぎた。お前が欲する葉はアレだろ? ちょっとだけなら分けてやる」

彼女が指し示した先には、黄金色の葉が揺れていた。
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