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二十話
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港街、スリィツゥ。
聖王国と海を隔てて浮かぶ西の孤島、エンデリデにその街はあった。
正規のルートなら首都グラダートから船で向かうはずの、この島も歩帝斗にかかれば一飛び。
瞬時に到着できる。
スリィツゥは漁業が盛んな街でありながら、焼き菓子の街としても世界に名を馳せている。
特に名物、カスティーラは国内、海外問わず女性人気が殺到、わざわざ遠方から買い付けにくる客も珍しくない。
ミルティナスは、よく人の娘に扮し頻繁にこの街を訪れていたという。
歩帝斗にその話を聞いて、ため息をつかずにはいられないがそうも言っていられない。
街に到着したギデオンは、早速ギルドへと足を運んだ。
ギルドに向かう途中、街の様子をうかがったが、取り立ておかしな点は見つからなかった。
ミルティナスの悲涙の影響がこの島にも及んでいるかもしれないと、ギデオンは覚悟していた。
ところが街はいたって平穏そのもの、どうやらここには黄金の雨が降らなかったようだ。
街に入ってからのギデオンは、ずっと周囲を警戒していた。
今、聖王国内での彼の存在は死亡者扱いになっていると聞いた。
もしも、こんなところで顔見知りの人間に出くわしたら、存命している事がバレてしまう。
そうなると面倒事にも拍車がかかってくる。
正直、衣類のフードで顔を隠したい気持ちもあるはずだ。
あえてそうしないのは、下手に顔を隠そうとすれば逆に目立ってしまうからである。
「冒険者登録したんだが?」
ギルドで受付けを済まそうと窓口に向かうギデオン。
そこにいた冒険者たちは、新米冒険者に対して一同に視線を送る。
その殆どが疑惑の眼差しだが、さして気にも留めない。
周囲の反応は正当なものだ。
年齢もさることながら、新米冒険者としては装備一式すら揃えていない状態……なのに、背負った銃だけは上等な物だとくれば、誰だって彼の出自を気にする。
「はぁーい! それじゃ、この書類に名前、性別、出身、年齢、経歴などを書いてくださいね」
窓口から明るい声が返ってきた。
見ると、ギデオンと同年代ぐらいの少女が彼の担当をしている。
伸びた金の髪を編み込み束ねている彼女は、視線が合うとにっこりと笑顔を見せてくれる。
そんな愛嬌の良さに、カン違いする男が後を絶たないという。
書類を手渡されたギデオン本人にとっては、もはやそんな余裕すらなかった。
書類の内容に本当の事は書き込めない、どうにか、偽装しなければならない。
その事で真摯に頭を悩ませていた。
「こんな感じで良いか?」
「確認しますね。ギデ様ですね、職業はハンター。冒険者としての経歴は無し。あの……出身地が不明になっているんですけど?」
「ああ、根無し草だから。一箇所に留まっていないんだ。しばらくはこの街に滞在するつもりだから、問題はないだろう?」
「う~ん。これで審査が通るかギルド長に訊いてみます。少々、お時間を頂けますか?」
ギデオンが頷くと、受付け嬢は席を外しお伺いを取りにいった。
すでに、この登録は通った。
彼には、そう思う確たる自信があった。
それもまた、歩帝斗から授かった能力の一端である。
「お待たせしました! ギルド長の許可が下りましたので、冒険者プレートを作製します。そこの台座に手をかざしてください」
「プレート作成ついでに、早速依頼を受けたいのだが可能なのか?」
「問題ありません。一つ星からのスタートとなりますので、受領できる依頼は簡単なモノしかありませんが、どれも安全なモノばかりですよ」
受付け嬢から、受け取った依頼書すべてに目を通していくギデオン。
薬草採取に、迷子のペット探し、書庫の整理と、雑務も結構混じている。
やはり、初級レベルでは彼の目に留まる依頼は見つからない。
「すまないが、ハント系の依頼はないのか? 一応、ハンターなのだが……」
「ありますけど、三つ星のモノなのでオススメ出来かねますが」
「では仮に、依頼を受領する前に討伐対象を仕留めてしまった場合はどうなるんだ?」
「えっ? 前例は無くもないですが、多くの場合は依頼完了となり、直前で受領したカタチになります」
「参考になった、ありがとう」
出来たばかりのプレートを受け取り、ギデオンはギルドを後にした。
外では儀式と称し、新米冒険者を待ち伏せしている人影が何人か確認できる。
「新人狩りとは、ったく……冒険者ならその労力を本業で活かせないのか?」
彼らに、ギデオンを見つけ出すことはできなかった。
いくら隠れているつもりでも、気配や匂いで居場所はすべて筒抜けだ。
人影たちがギデ不在の知らせを聞いたのはしばらく時間が経ってからだった。
その間にギデオン自身は、街の外へと移動しエンデリデ島の中心にある密林地帯に向かっていた。
凶悪な魔物との遭遇は勿論のこと、そこは希少な植物、鉱物といたレア素材の宝庫になっている事で知られていた。
何よりそこには、冒険者を襲う森の狩人たちが住んでいる。
密林地帯は熟練の冒険者にさえも手を焼く危険な領域だった。
聖王国と海を隔てて浮かぶ西の孤島、エンデリデにその街はあった。
正規のルートなら首都グラダートから船で向かうはずの、この島も歩帝斗にかかれば一飛び。
瞬時に到着できる。
スリィツゥは漁業が盛んな街でありながら、焼き菓子の街としても世界に名を馳せている。
特に名物、カスティーラは国内、海外問わず女性人気が殺到、わざわざ遠方から買い付けにくる客も珍しくない。
ミルティナスは、よく人の娘に扮し頻繁にこの街を訪れていたという。
歩帝斗にその話を聞いて、ため息をつかずにはいられないがそうも言っていられない。
街に到着したギデオンは、早速ギルドへと足を運んだ。
ギルドに向かう途中、街の様子をうかがったが、取り立ておかしな点は見つからなかった。
ミルティナスの悲涙の影響がこの島にも及んでいるかもしれないと、ギデオンは覚悟していた。
ところが街はいたって平穏そのもの、どうやらここには黄金の雨が降らなかったようだ。
街に入ってからのギデオンは、ずっと周囲を警戒していた。
今、聖王国内での彼の存在は死亡者扱いになっていると聞いた。
もしも、こんなところで顔見知りの人間に出くわしたら、存命している事がバレてしまう。
そうなると面倒事にも拍車がかかってくる。
正直、衣類のフードで顔を隠したい気持ちもあるはずだ。
あえてそうしないのは、下手に顔を隠そうとすれば逆に目立ってしまうからである。
「冒険者登録したんだが?」
ギルドで受付けを済まそうと窓口に向かうギデオン。
そこにいた冒険者たちは、新米冒険者に対して一同に視線を送る。
その殆どが疑惑の眼差しだが、さして気にも留めない。
周囲の反応は正当なものだ。
年齢もさることながら、新米冒険者としては装備一式すら揃えていない状態……なのに、背負った銃だけは上等な物だとくれば、誰だって彼の出自を気にする。
「はぁーい! それじゃ、この書類に名前、性別、出身、年齢、経歴などを書いてくださいね」
窓口から明るい声が返ってきた。
見ると、ギデオンと同年代ぐらいの少女が彼の担当をしている。
伸びた金の髪を編み込み束ねている彼女は、視線が合うとにっこりと笑顔を見せてくれる。
そんな愛嬌の良さに、カン違いする男が後を絶たないという。
書類を手渡されたギデオン本人にとっては、もはやそんな余裕すらなかった。
書類の内容に本当の事は書き込めない、どうにか、偽装しなければならない。
その事で真摯に頭を悩ませていた。
「こんな感じで良いか?」
「確認しますね。ギデ様ですね、職業はハンター。冒険者としての経歴は無し。あの……出身地が不明になっているんですけど?」
「ああ、根無し草だから。一箇所に留まっていないんだ。しばらくはこの街に滞在するつもりだから、問題はないだろう?」
「う~ん。これで審査が通るかギルド長に訊いてみます。少々、お時間を頂けますか?」
ギデオンが頷くと、受付け嬢は席を外しお伺いを取りにいった。
すでに、この登録は通った。
彼には、そう思う確たる自信があった。
それもまた、歩帝斗から授かった能力の一端である。
「お待たせしました! ギルド長の許可が下りましたので、冒険者プレートを作製します。そこの台座に手をかざしてください」
「プレート作成ついでに、早速依頼を受けたいのだが可能なのか?」
「問題ありません。一つ星からのスタートとなりますので、受領できる依頼は簡単なモノしかありませんが、どれも安全なモノばかりですよ」
受付け嬢から、受け取った依頼書すべてに目を通していくギデオン。
薬草採取に、迷子のペット探し、書庫の整理と、雑務も結構混じている。
やはり、初級レベルでは彼の目に留まる依頼は見つからない。
「すまないが、ハント系の依頼はないのか? 一応、ハンターなのだが……」
「ありますけど、三つ星のモノなのでオススメ出来かねますが」
「では仮に、依頼を受領する前に討伐対象を仕留めてしまった場合はどうなるんだ?」
「えっ? 前例は無くもないですが、多くの場合は依頼完了となり、直前で受領したカタチになります」
「参考になった、ありがとう」
出来たばかりのプレートを受け取り、ギデオンはギルドを後にした。
外では儀式と称し、新米冒険者を待ち伏せしている人影が何人か確認できる。
「新人狩りとは、ったく……冒険者ならその労力を本業で活かせないのか?」
彼らに、ギデオンを見つけ出すことはできなかった。
いくら隠れているつもりでも、気配や匂いで居場所はすべて筒抜けだ。
人影たちがギデ不在の知らせを聞いたのはしばらく時間が経ってからだった。
その間にギデオン自身は、街の外へと移動しエンデリデ島の中心にある密林地帯に向かっていた。
凶悪な魔物との遭遇は勿論のこと、そこは希少な植物、鉱物といたレア素材の宝庫になっている事で知られていた。
何よりそこには、冒険者を襲う森の狩人たちが住んでいる。
密林地帯は熟練の冒険者にさえも手を焼く危険な領域だった。
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