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十九話
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氷雪が舞い散るなか、ガルムとの死闘が始まった。
赤黒い毛並みを風になびかせ、大型の猟犬よりも一回り大きな獣の身体が宙をかける。
攻撃を回避する余裕はあるものの、ギデオンにとって決め手となる攻撃手段はない。
せめてロングソードの一本でもあれば、魔獣に致命傷を負わせる事ができるだろう。
苛立ち、口元を噛みしめるギデオンに、ガルムは顎を大きく開いて、口の中から黒い炎を吐き出した。
「ちっ!」軽く舌打ちする彼、足下にあった氷の床に深く幅広い溝ができていた。
炎の熱でそこだけ溶けたのではない。
炎が触れた際、消し飛び蒸発してしまったのだ。
黒い炎はただの炎とは似て非なるものだ。
ダークフレイムと呼ばれる魔法より発せられる火炎は、燃やしたものをすべて消滅させてしまう呪いを持っている。
何の対応策も持ち合わせない、今のギデオンにとってガルムの吐息は危険、極まりないものだった。
そうと分かりきっていながらも、魔物と正面きって向き合わないよう極力動いて、攻撃できそうなタイミングを計る。
上手くかく乱しているつもりだが、どうにも相手の隙を作れない。
というか……この魔獣は人の手の内を知り尽くしている気配すらある。
魔獣とはいえ、高い知性を備えているようだ。
「ズサッ!」と音を立るギデオンの姿勢が崩れ出した。
片足を氷の地面に滑らせてしまった。
彼の、様子に逸早く気づいたガルムは、前足から鋭い爪をのばして彼を氷の地面に押し倒そうとした。
「かかったな!」
ガルムの動きに合わせ、ギデオンが小太刀を突き出す。
ガチィィィィ―――ンと鈍い物音を打ち鳴らし、双方の動きが止まる。
突き出した刃は、魔獣の厚みある爪に接触していた。
一見すると爪にぶつかって、攻撃が阻害されたようにも見える。
が――実は違う。
ギデオンは最初からこれを狙っていた。
彼の放った一撃は、パラディンが剣術で使うパリィという技に酷似していた。
実のところ、パリィを真似たのだがパラディンの資質を持たない彼の一撃は、未完なモノと化していた。
それでも、ガルムの動きを一時だけ封じる事に成功した。
ギデオンが求めていた活路は、そこにあった。
ズボンのポケットから先ほど少量の蜜酒を入れた瓶を掴み、勢いよくガルムの開いた口の中に流しこんだ。
これには、さしものガルムも敵わなかった。
自身の尾っぽを獲物だと勘違いし、その場でグルグルと回り続けていた。
その首を押さえつける手と共に、小太刀が突き刺さる。
「大人しくしろ……お前は賢い魔獣だ。今の状況が分かっているはずだ。素直に従うというのなら、これ以上の危害は加えない」
あろうことか、ギデオンは魔獣にトドメを刺さなかった。
彼が刺したのは氷の地面、ガルムは無傷のままだ。
その事に意味は無いのかもしれない。
けれど、斜華は調伏しろと言ったが討伐しろなどとは一ミリも口にしていない。
試されている予感する。
これもまたハンター系ならではの稀有な力だ。
予感は見事、的中した。
ガルムの身体が淡い色彩を放つ。
真紅に染まる獣の身体が細長くカタチを変えて、ギデオンの手の内へと吸い込まれる。
魔銃ガルム
白銀の銃口を軸とし艶やかな真紅の銃身から成る猟銃。
細部には煌びやかな宝石が留め具として散りばめられ、撃鉄からグリップ部分にかけては、葡萄の葉と蔦を模した真鍮の装飾があしらってある。
どちらかと言えば武具というよりも美術品に近いほど、洗練されたフォルムを持つ。
これが神威。
神獣、魔獣を己が武器とし使役するゴッドスキル。
そして猟銃こそ、ギデオンが初めて手に入れたマタギ専用の武器だ。
「へぇー、やるじゃん。もう、ちょい苦戦するかと思ったわ。どうだ、神威を手にした気分は? SUGEEE――!! だろ?」
「ああ。悪くない! これなら、奴らに対抗できる」
「んじゃ~。早く使いこなせるように手合わせしてやるわ! 出でよ! 神獣、ゴリラ=ゴリラ」
――――こうして、数日もの間。
神威に慣れる為、歩帝斗ととの特訓に付き合わされることになったギデオン。
銃の扱いは初心者だった彼が、天職のベースアビリティ効果によりメキメキと腕を磨いていく。
あまりの成長速度に、神である歩帝斗でさえも舌を巻かずにはいられなかった。
やがて、特訓も終了し時は満ちる。
「――――以上が、二つめのゴッドスキルだ。使い方は説明したとおりだ」
「ゴッドスキルじゃくて、これはベースアビリティの気がするんだが……一体、どういう了見だ? 神が約束を違えるつもりか?」
「うっ! 仕方ないだろっ……あんまり人間に教えて良いもんじゃないのよ。神威だって、ミルティナスを捜す為という理由あっての付与だったんよ。ベスアビといってもゴッドスキルに引けを取らないほどレアなchoiceしたんだ、分かってくれよ!!」
「事情を訊いただけだ。もとよりギブアンドテイクな関係だ、お互い相手の都合を優先させる事になるだろう」
「オッケィ! 手筈どうり、今からギデオンには女神を手掛かりを見つける為に、とある街に行ってもらう」
「そこの聖域を調べればいいんだよな?」
「そうよ! その為に、まずは冒険者ギルドに行って冒険者登録してくれッツゴ――!!」
赤黒い毛並みを風になびかせ、大型の猟犬よりも一回り大きな獣の身体が宙をかける。
攻撃を回避する余裕はあるものの、ギデオンにとって決め手となる攻撃手段はない。
せめてロングソードの一本でもあれば、魔獣に致命傷を負わせる事ができるだろう。
苛立ち、口元を噛みしめるギデオンに、ガルムは顎を大きく開いて、口の中から黒い炎を吐き出した。
「ちっ!」軽く舌打ちする彼、足下にあった氷の床に深く幅広い溝ができていた。
炎の熱でそこだけ溶けたのではない。
炎が触れた際、消し飛び蒸発してしまったのだ。
黒い炎はただの炎とは似て非なるものだ。
ダークフレイムと呼ばれる魔法より発せられる火炎は、燃やしたものをすべて消滅させてしまう呪いを持っている。
何の対応策も持ち合わせない、今のギデオンにとってガルムの吐息は危険、極まりないものだった。
そうと分かりきっていながらも、魔物と正面きって向き合わないよう極力動いて、攻撃できそうなタイミングを計る。
上手くかく乱しているつもりだが、どうにも相手の隙を作れない。
というか……この魔獣は人の手の内を知り尽くしている気配すらある。
魔獣とはいえ、高い知性を備えているようだ。
「ズサッ!」と音を立るギデオンの姿勢が崩れ出した。
片足を氷の地面に滑らせてしまった。
彼の、様子に逸早く気づいたガルムは、前足から鋭い爪をのばして彼を氷の地面に押し倒そうとした。
「かかったな!」
ガルムの動きに合わせ、ギデオンが小太刀を突き出す。
ガチィィィィ―――ンと鈍い物音を打ち鳴らし、双方の動きが止まる。
突き出した刃は、魔獣の厚みある爪に接触していた。
一見すると爪にぶつかって、攻撃が阻害されたようにも見える。
が――実は違う。
ギデオンは最初からこれを狙っていた。
彼の放った一撃は、パラディンが剣術で使うパリィという技に酷似していた。
実のところ、パリィを真似たのだがパラディンの資質を持たない彼の一撃は、未完なモノと化していた。
それでも、ガルムの動きを一時だけ封じる事に成功した。
ギデオンが求めていた活路は、そこにあった。
ズボンのポケットから先ほど少量の蜜酒を入れた瓶を掴み、勢いよくガルムの開いた口の中に流しこんだ。
これには、さしものガルムも敵わなかった。
自身の尾っぽを獲物だと勘違いし、その場でグルグルと回り続けていた。
その首を押さえつける手と共に、小太刀が突き刺さる。
「大人しくしろ……お前は賢い魔獣だ。今の状況が分かっているはずだ。素直に従うというのなら、これ以上の危害は加えない」
あろうことか、ギデオンは魔獣にトドメを刺さなかった。
彼が刺したのは氷の地面、ガルムは無傷のままだ。
その事に意味は無いのかもしれない。
けれど、斜華は調伏しろと言ったが討伐しろなどとは一ミリも口にしていない。
試されている予感する。
これもまたハンター系ならではの稀有な力だ。
予感は見事、的中した。
ガルムの身体が淡い色彩を放つ。
真紅に染まる獣の身体が細長くカタチを変えて、ギデオンの手の内へと吸い込まれる。
魔銃ガルム
白銀の銃口を軸とし艶やかな真紅の銃身から成る猟銃。
細部には煌びやかな宝石が留め具として散りばめられ、撃鉄からグリップ部分にかけては、葡萄の葉と蔦を模した真鍮の装飾があしらってある。
どちらかと言えば武具というよりも美術品に近いほど、洗練されたフォルムを持つ。
これが神威。
神獣、魔獣を己が武器とし使役するゴッドスキル。
そして猟銃こそ、ギデオンが初めて手に入れたマタギ専用の武器だ。
「へぇー、やるじゃん。もう、ちょい苦戦するかと思ったわ。どうだ、神威を手にした気分は? SUGEEE――!! だろ?」
「ああ。悪くない! これなら、奴らに対抗できる」
「んじゃ~。早く使いこなせるように手合わせしてやるわ! 出でよ! 神獣、ゴリラ=ゴリラ」
――――こうして、数日もの間。
神威に慣れる為、歩帝斗ととの特訓に付き合わされることになったギデオン。
銃の扱いは初心者だった彼が、天職のベースアビリティ効果によりメキメキと腕を磨いていく。
あまりの成長速度に、神である歩帝斗でさえも舌を巻かずにはいられなかった。
やがて、特訓も終了し時は満ちる。
「――――以上が、二つめのゴッドスキルだ。使い方は説明したとおりだ」
「ゴッドスキルじゃくて、これはベースアビリティの気がするんだが……一体、どういう了見だ? 神が約束を違えるつもりか?」
「うっ! 仕方ないだろっ……あんまり人間に教えて良いもんじゃないのよ。神威だって、ミルティナスを捜す為という理由あっての付与だったんよ。ベスアビといってもゴッドスキルに引けを取らないほどレアなchoiceしたんだ、分かってくれよ!!」
「事情を訊いただけだ。もとよりギブアンドテイクな関係だ、お互い相手の都合を優先させる事になるだろう」
「オッケィ! 手筈どうり、今からギデオンには女神を手掛かりを見つける為に、とある街に行ってもらう」
「そこの聖域を調べればいいんだよな?」
「そうよ! その為に、まずは冒険者ギルドに行って冒険者登録してくれッツゴ――!!」
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