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十七話
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「この景色……見覚えが」
閉ざしていた瞳を開く。
そこは天啓の儀が行われた大聖堂。
その礼拝堂にてギデオンは何故か一人、ミルティナスの像に祈りを捧げていた。
疑問よりも先に、これが現実ではないと直感した。
妙に現実味を帯びている……まるで、何かの啓示がなされている、そんな感覚に襲われていた。
「つぅ!」
首筋に突然、激痛が走った。
患部を触れてみると何かが皮膚に突き刺さっている。
慌てて、引き抜くとまさに針そのものだった。
毒針! そう思った矢先、全身の筋肉が脱力し、その場で倒れる。
強力な麻痺毒だ……呼吸器官までやられた。
息苦しさに喉元をかきむしる。
助けを呼ぼうとしても声がだせない。
「苦しい……酸素――――誰か、酸素を――――わあああぁ!!」
絶叫しながら身を起こすギデオン、全身汗だくになっていた。
辺りを見回すと、そこは大聖堂でも自宅でもない洞窟、鍾乳洞の中だった。
だだっ広いだけで、質素な調度品以外は何もない。
覚醒と共に次第に記憶は鮮明となり思い出す。
ここが自分の窮地を救ってくれた恩人の仮宿だという事を。
「随分とうなされていたじゃん~。で……気分はどうなのよ?」
「最悪だ。助けてもらってなんだが……アンタは一体何者なんだ?」
寝起きのギデオンの傍に男がやってきた。
とは、言っても声と気配だけで、ギデオンにはその姿を確認することができない。
あまりに気さくに話かけてくるので、昔馴染かと疑ってしまうも実際は、まったくもって初対面だ。
「どーも、斜華斜華歩帝斗でぇーす!」
「……斜? すまない、もう一度教えてくれないか?」
「だから~、斜華斜華歩帝斗だって! ポテっち、って呼んでくれても構わないぞ」
「普通に呼びたくないんだが……斜華でいいか?」
「んーまあ、それでいいけどお……really?」
「それよりも答えてくれ。正直、裏があって僕を助けたんだろう、違うか?」
ギデオンの問いに歩帝斗が「ん~」と唸っていた。
何かを躊躇っているようだ。
「こういう話をすると、疑いの目で見られるから気乗りしないのよ。実は俺、神様……みたいなぁ? 感じの仕事やってんのよ。そんで、お前を助けた理由ってのは天職マタギと、そのスキル瞬間蜜造が原因よ。元々、コイツらは女神ミルティナスの管理下にはないモンなんよ。それが何の手違いか、この世界の人間――つまりギデオン、お前が授かっちまったから天界は大騒ぎとなったわけだ」
「何故? 僕に授けられたんだ?」
「考えられる一番の原因は、ミルティナスの神としての力が急激に弱体化したせいで、この世界と他世界の均衡が大きく崩れ、外の力がこの世界に流出してしまっていることぐらいだな。で、たまたまお前の所にその力が行き渡ったということだな」
「社会が強欲という悪意に汚染され、あるべき真実がどんどん捻じ曲げられている。生きることに余裕をなくした人々の心は荒れすさんで、やがて信仰心を失ってゆく。そうした流れが女神様を弱らるに至ったということなのか?」
「それも一理ある。が……おそらく、今のミルティナスは何者かの手に墜ち、力を封じられている状態にある。だからこそギデオン、俺はお前を生かしたんだ。ミルティナスの捜索をさせる為にな」
「僕がか……無関係ではないにしろ、女神を捜すなんて大役すぎる。どちらかというと、斜華たち神サイドで捜した方が手っ取り早く、発見できるんじゃないか?」
「そいつは無理之助だ。俺は、お前たちの世界の神じゃないから制限があるんだよ。事、ミルティナスに関しては下手に干渉できないようになっている」
「神独自のルールという奴か……」
「ギデオン、お前……ミルティナスを捜す気、zeroだろ? まあ、あんだけ派手にやらかしちまった後だ。後悔する気持ちも分からなくはないさ。でもよ、このままミルティナスが見つからなければ、今度こそ世界はThe end、終わりだぜ。お前なら気づいていると思うが、悪い話じゃないはずだ! ミルティナスを救う事は、世界を救う事に結びつく。したら、今まで事は綺麗さっぱり無罪放免、今度こそお前は憧れの英雄になれるんだぜ!!」
自称、神の甘言。
救世という言葉を餌として取り扱う様に、ギデオンは乾いた笑いをこぼす。
「僕は何人、殺した?」
「おっ? やっぱ、気になる系。そーだな、ざっと見積もって三百人以上は逝ったんじゃねぇ?」
告げられるのは、罪の重さ、業の深さ。
その数字は予想を遥かに上回る、残酷な桁を叩き出している。
それでも、ギデオンは平静を保って聞いていた。
不気味なほどに落ち着きを払う彼に、歩帝斗が一瞬口を止めたぐらいに。
「神のくせに人の気持ちが解かるのか? 面白いことを言ってくれる。斜華、僕は自分の行いに後悔なんかしていない。例え、不慮の事故だったとしても世界を滅しようと思ったのは僕の本心だ。ずっと、考えていたんだ……いつ、どこで、どうして、何故、僕は間違ってしまったのかって。そして気づいたんだよ、そもそも間違うことを恐れて、正しくあろうとした事が間違いだったのだと」
「ギデオン……お前、信仰を捨てる気か?」
「さあな? ただ僕は、どんなに悪党でも話合えば解決する可能性がある、相手の要望に応じてやれば会心してくれるかもしれないと、知らず知らずの内に人の善意に頼りきってしまっていた。今回のことで学んだよ、悪党に聖人の道理は通じない。悪党は生まれながら悪党だ、奴らには奴らの取り決めがある。ならば、やってやろうじゃないか! 連中のルールに沿ったやり方で!!」
閉ざしていた瞳を開く。
そこは天啓の儀が行われた大聖堂。
その礼拝堂にてギデオンは何故か一人、ミルティナスの像に祈りを捧げていた。
疑問よりも先に、これが現実ではないと直感した。
妙に現実味を帯びている……まるで、何かの啓示がなされている、そんな感覚に襲われていた。
「つぅ!」
首筋に突然、激痛が走った。
患部を触れてみると何かが皮膚に突き刺さっている。
慌てて、引き抜くとまさに針そのものだった。
毒針! そう思った矢先、全身の筋肉が脱力し、その場で倒れる。
強力な麻痺毒だ……呼吸器官までやられた。
息苦しさに喉元をかきむしる。
助けを呼ぼうとしても声がだせない。
「苦しい……酸素――――誰か、酸素を――――わあああぁ!!」
絶叫しながら身を起こすギデオン、全身汗だくになっていた。
辺りを見回すと、そこは大聖堂でも自宅でもない洞窟、鍾乳洞の中だった。
だだっ広いだけで、質素な調度品以外は何もない。
覚醒と共に次第に記憶は鮮明となり思い出す。
ここが自分の窮地を救ってくれた恩人の仮宿だという事を。
「随分とうなされていたじゃん~。で……気分はどうなのよ?」
「最悪だ。助けてもらってなんだが……アンタは一体何者なんだ?」
寝起きのギデオンの傍に男がやってきた。
とは、言っても声と気配だけで、ギデオンにはその姿を確認することができない。
あまりに気さくに話かけてくるので、昔馴染かと疑ってしまうも実際は、まったくもって初対面だ。
「どーも、斜華斜華歩帝斗でぇーす!」
「……斜? すまない、もう一度教えてくれないか?」
「だから~、斜華斜華歩帝斗だって! ポテっち、って呼んでくれても構わないぞ」
「普通に呼びたくないんだが……斜華でいいか?」
「んーまあ、それでいいけどお……really?」
「それよりも答えてくれ。正直、裏があって僕を助けたんだろう、違うか?」
ギデオンの問いに歩帝斗が「ん~」と唸っていた。
何かを躊躇っているようだ。
「こういう話をすると、疑いの目で見られるから気乗りしないのよ。実は俺、神様……みたいなぁ? 感じの仕事やってんのよ。そんで、お前を助けた理由ってのは天職マタギと、そのスキル瞬間蜜造が原因よ。元々、コイツらは女神ミルティナスの管理下にはないモンなんよ。それが何の手違いか、この世界の人間――つまりギデオン、お前が授かっちまったから天界は大騒ぎとなったわけだ」
「何故? 僕に授けられたんだ?」
「考えられる一番の原因は、ミルティナスの神としての力が急激に弱体化したせいで、この世界と他世界の均衡が大きく崩れ、外の力がこの世界に流出してしまっていることぐらいだな。で、たまたまお前の所にその力が行き渡ったということだな」
「社会が強欲という悪意に汚染され、あるべき真実がどんどん捻じ曲げられている。生きることに余裕をなくした人々の心は荒れすさんで、やがて信仰心を失ってゆく。そうした流れが女神様を弱らるに至ったということなのか?」
「それも一理ある。が……おそらく、今のミルティナスは何者かの手に墜ち、力を封じられている状態にある。だからこそギデオン、俺はお前を生かしたんだ。ミルティナスの捜索をさせる為にな」
「僕がか……無関係ではないにしろ、女神を捜すなんて大役すぎる。どちらかというと、斜華たち神サイドで捜した方が手っ取り早く、発見できるんじゃないか?」
「そいつは無理之助だ。俺は、お前たちの世界の神じゃないから制限があるんだよ。事、ミルティナスに関しては下手に干渉できないようになっている」
「神独自のルールという奴か……」
「ギデオン、お前……ミルティナスを捜す気、zeroだろ? まあ、あんだけ派手にやらかしちまった後だ。後悔する気持ちも分からなくはないさ。でもよ、このままミルティナスが見つからなければ、今度こそ世界はThe end、終わりだぜ。お前なら気づいていると思うが、悪い話じゃないはずだ! ミルティナスを救う事は、世界を救う事に結びつく。したら、今まで事は綺麗さっぱり無罪放免、今度こそお前は憧れの英雄になれるんだぜ!!」
自称、神の甘言。
救世という言葉を餌として取り扱う様に、ギデオンは乾いた笑いをこぼす。
「僕は何人、殺した?」
「おっ? やっぱ、気になる系。そーだな、ざっと見積もって三百人以上は逝ったんじゃねぇ?」
告げられるのは、罪の重さ、業の深さ。
その数字は予想を遥かに上回る、残酷な桁を叩き出している。
それでも、ギデオンは平静を保って聞いていた。
不気味なほどに落ち着きを払う彼に、歩帝斗が一瞬口を止めたぐらいに。
「神のくせに人の気持ちが解かるのか? 面白いことを言ってくれる。斜華、僕は自分の行いに後悔なんかしていない。例え、不慮の事故だったとしても世界を滅しようと思ったのは僕の本心だ。ずっと、考えていたんだ……いつ、どこで、どうして、何故、僕は間違ってしまったのかって。そして気づいたんだよ、そもそも間違うことを恐れて、正しくあろうとした事が間違いだったのだと」
「ギデオン……お前、信仰を捨てる気か?」
「さあな? ただ僕は、どんなに悪党でも話合えば解決する可能性がある、相手の要望に応じてやれば会心してくれるかもしれないと、知らず知らずの内に人の善意に頼りきってしまっていた。今回のことで学んだよ、悪党に聖人の道理は通じない。悪党は生まれながら悪党だ、奴らには奴らの取り決めがある。ならば、やってやろうじゃないか! 連中のルールに沿ったやり方で!!」
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