17 / 362
十七話
しおりを挟む
「この景色……見覚えが」
閉ざしていた瞳を開く。
そこは天啓の儀が行われた大聖堂。
その礼拝堂にてギデオンは何故か一人、ミルティナスの像に祈りを捧げていた。
疑問よりも先に、これが現実ではないと直感した。
妙に現実味を帯びている……まるで、何かの啓示がなされている、そんな感覚に襲われていた。
「つぅ!」
首筋に突然、激痛が走った。
患部を触れてみると何かが皮膚に突き刺さっている。
慌てて、引き抜くとまさに針そのものだった。
毒針! そう思った矢先、全身の筋肉が脱力し、その場で倒れる。
強力な麻痺毒だ……呼吸器官までやられた。
息苦しさに喉元をかきむしる。
助けを呼ぼうとしても声がだせない。
「苦しい……酸素――――誰か、酸素を――――わあああぁ!!」
絶叫しながら身を起こすギデオン、全身汗だくになっていた。
辺りを見回すと、そこは大聖堂でも自宅でもない洞窟、鍾乳洞の中だった。
だだっ広いだけで、質素な調度品以外は何もない。
覚醒と共に次第に記憶は鮮明となり思い出す。
ここが自分の窮地を救ってくれた恩人の仮宿だという事を。
「随分とうなされていたじゃん~。で……気分はどうなのよ?」
「最悪だ。助けてもらってなんだが……アンタは一体何者なんだ?」
寝起きのギデオンの傍に男がやってきた。
とは、言っても声と気配だけで、ギデオンにはその姿を確認することができない。
あまりに気さくに話かけてくるので、昔馴染かと疑ってしまうも実際は、まったくもって初対面だ。
「どーも、斜華斜華歩帝斗でぇーす!」
「……斜? すまない、もう一度教えてくれないか?」
「だから~、斜華斜華歩帝斗だって! ポテっち、って呼んでくれても構わないぞ」
「普通に呼びたくないんだが……斜華でいいか?」
「んーまあ、それでいいけどお……really?」
「それよりも答えてくれ。正直、裏があって僕を助けたんだろう、違うか?」
ギデオンの問いに歩帝斗が「ん~」と唸っていた。
何かを躊躇っているようだ。
「こういう話をすると、疑いの目で見られるから気乗りしないのよ。実は俺、神様……みたいなぁ? 感じの仕事やってんのよ。そんで、お前を助けた理由ってのは天職マタギと、そのスキル瞬間蜜造が原因よ。元々、コイツらは女神ミルティナスの管理下にはないモンなんよ。それが何の手違いか、この世界の人間――つまりギデオン、お前が授かっちまったから天界は大騒ぎとなったわけだ」
「何故? 僕に授けられたんだ?」
「考えられる一番の原因は、ミルティナスの神としての力が急激に弱体化したせいで、この世界と他世界の均衡が大きく崩れ、外の力がこの世界に流出してしまっていることぐらいだな。で、たまたまお前の所にその力が行き渡ったということだな」
「社会が強欲という悪意に汚染され、あるべき真実がどんどん捻じ曲げられている。生きることに余裕をなくした人々の心は荒れすさんで、やがて信仰心を失ってゆく。そうした流れが女神様を弱らるに至ったということなのか?」
「それも一理ある。が……おそらく、今のミルティナスは何者かの手に墜ち、力を封じられている状態にある。だからこそギデオン、俺はお前を生かしたんだ。ミルティナスの捜索をさせる為にな」
「僕がか……無関係ではないにしろ、女神を捜すなんて大役すぎる。どちらかというと、斜華たち神サイドで捜した方が手っ取り早く、発見できるんじゃないか?」
「そいつは無理之助だ。俺は、お前たちの世界の神じゃないから制限があるんだよ。事、ミルティナスに関しては下手に干渉できないようになっている」
「神独自のルールという奴か……」
「ギデオン、お前……ミルティナスを捜す気、zeroだろ? まあ、あんだけ派手にやらかしちまった後だ。後悔する気持ちも分からなくはないさ。でもよ、このままミルティナスが見つからなければ、今度こそ世界はThe end、終わりだぜ。お前なら気づいていると思うが、悪い話じゃないはずだ! ミルティナスを救う事は、世界を救う事に結びつく。したら、今まで事は綺麗さっぱり無罪放免、今度こそお前は憧れの英雄になれるんだぜ!!」
自称、神の甘言。
救世という言葉を餌として取り扱う様に、ギデオンは乾いた笑いをこぼす。
「僕は何人、殺した?」
「おっ? やっぱ、気になる系。そーだな、ざっと見積もって三百人以上は逝ったんじゃねぇ?」
告げられるのは、罪の重さ、業の深さ。
その数字は予想を遥かに上回る、残酷な桁を叩き出している。
それでも、ギデオンは平静を保って聞いていた。
不気味なほどに落ち着きを払う彼に、歩帝斗が一瞬口を止めたぐらいに。
「神のくせに人の気持ちが解かるのか? 面白いことを言ってくれる。斜華、僕は自分の行いに後悔なんかしていない。例え、不慮の事故だったとしても世界を滅しようと思ったのは僕の本心だ。ずっと、考えていたんだ……いつ、どこで、どうして、何故、僕は間違ってしまったのかって。そして気づいたんだよ、そもそも間違うことを恐れて、正しくあろうとした事が間違いだったのだと」
「ギデオン……お前、信仰を捨てる気か?」
「さあな? ただ僕は、どんなに悪党でも話合えば解決する可能性がある、相手の要望に応じてやれば会心してくれるかもしれないと、知らず知らずの内に人の善意に頼りきってしまっていた。今回のことで学んだよ、悪党に聖人の道理は通じない。悪党は生まれながら悪党だ、奴らには奴らの取り決めがある。ならば、やってやろうじゃないか! 連中のルールに沿ったやり方で!!」
閉ざしていた瞳を開く。
そこは天啓の儀が行われた大聖堂。
その礼拝堂にてギデオンは何故か一人、ミルティナスの像に祈りを捧げていた。
疑問よりも先に、これが現実ではないと直感した。
妙に現実味を帯びている……まるで、何かの啓示がなされている、そんな感覚に襲われていた。
「つぅ!」
首筋に突然、激痛が走った。
患部を触れてみると何かが皮膚に突き刺さっている。
慌てて、引き抜くとまさに針そのものだった。
毒針! そう思った矢先、全身の筋肉が脱力し、その場で倒れる。
強力な麻痺毒だ……呼吸器官までやられた。
息苦しさに喉元をかきむしる。
助けを呼ぼうとしても声がだせない。
「苦しい……酸素――――誰か、酸素を――――わあああぁ!!」
絶叫しながら身を起こすギデオン、全身汗だくになっていた。
辺りを見回すと、そこは大聖堂でも自宅でもない洞窟、鍾乳洞の中だった。
だだっ広いだけで、質素な調度品以外は何もない。
覚醒と共に次第に記憶は鮮明となり思い出す。
ここが自分の窮地を救ってくれた恩人の仮宿だという事を。
「随分とうなされていたじゃん~。で……気分はどうなのよ?」
「最悪だ。助けてもらってなんだが……アンタは一体何者なんだ?」
寝起きのギデオンの傍に男がやってきた。
とは、言っても声と気配だけで、ギデオンにはその姿を確認することができない。
あまりに気さくに話かけてくるので、昔馴染かと疑ってしまうも実際は、まったくもって初対面だ。
「どーも、斜華斜華歩帝斗でぇーす!」
「……斜? すまない、もう一度教えてくれないか?」
「だから~、斜華斜華歩帝斗だって! ポテっち、って呼んでくれても構わないぞ」
「普通に呼びたくないんだが……斜華でいいか?」
「んーまあ、それでいいけどお……really?」
「それよりも答えてくれ。正直、裏があって僕を助けたんだろう、違うか?」
ギデオンの問いに歩帝斗が「ん~」と唸っていた。
何かを躊躇っているようだ。
「こういう話をすると、疑いの目で見られるから気乗りしないのよ。実は俺、神様……みたいなぁ? 感じの仕事やってんのよ。そんで、お前を助けた理由ってのは天職マタギと、そのスキル瞬間蜜造が原因よ。元々、コイツらは女神ミルティナスの管理下にはないモンなんよ。それが何の手違いか、この世界の人間――つまりギデオン、お前が授かっちまったから天界は大騒ぎとなったわけだ」
「何故? 僕に授けられたんだ?」
「考えられる一番の原因は、ミルティナスの神としての力が急激に弱体化したせいで、この世界と他世界の均衡が大きく崩れ、外の力がこの世界に流出してしまっていることぐらいだな。で、たまたまお前の所にその力が行き渡ったということだな」
「社会が強欲という悪意に汚染され、あるべき真実がどんどん捻じ曲げられている。生きることに余裕をなくした人々の心は荒れすさんで、やがて信仰心を失ってゆく。そうした流れが女神様を弱らるに至ったということなのか?」
「それも一理ある。が……おそらく、今のミルティナスは何者かの手に墜ち、力を封じられている状態にある。だからこそギデオン、俺はお前を生かしたんだ。ミルティナスの捜索をさせる為にな」
「僕がか……無関係ではないにしろ、女神を捜すなんて大役すぎる。どちらかというと、斜華たち神サイドで捜した方が手っ取り早く、発見できるんじゃないか?」
「そいつは無理之助だ。俺は、お前たちの世界の神じゃないから制限があるんだよ。事、ミルティナスに関しては下手に干渉できないようになっている」
「神独自のルールという奴か……」
「ギデオン、お前……ミルティナスを捜す気、zeroだろ? まあ、あんだけ派手にやらかしちまった後だ。後悔する気持ちも分からなくはないさ。でもよ、このままミルティナスが見つからなければ、今度こそ世界はThe end、終わりだぜ。お前なら気づいていると思うが、悪い話じゃないはずだ! ミルティナスを救う事は、世界を救う事に結びつく。したら、今まで事は綺麗さっぱり無罪放免、今度こそお前は憧れの英雄になれるんだぜ!!」
自称、神の甘言。
救世という言葉を餌として取り扱う様に、ギデオンは乾いた笑いをこぼす。
「僕は何人、殺した?」
「おっ? やっぱ、気になる系。そーだな、ざっと見積もって三百人以上は逝ったんじゃねぇ?」
告げられるのは、罪の重さ、業の深さ。
その数字は予想を遥かに上回る、残酷な桁を叩き出している。
それでも、ギデオンは平静を保って聞いていた。
不気味なほどに落ち着きを払う彼に、歩帝斗が一瞬口を止めたぐらいに。
「神のくせに人の気持ちが解かるのか? 面白いことを言ってくれる。斜華、僕は自分の行いに後悔なんかしていない。例え、不慮の事故だったとしても世界を滅しようと思ったのは僕の本心だ。ずっと、考えていたんだ……いつ、どこで、どうして、何故、僕は間違ってしまったのかって。そして気づいたんだよ、そもそも間違うことを恐れて、正しくあろうとした事が間違いだったのだと」
「ギデオン……お前、信仰を捨てる気か?」
「さあな? ただ僕は、どんなに悪党でも話合えば解決する可能性がある、相手の要望に応じてやれば会心してくれるかもしれないと、知らず知らずの内に人の善意に頼りきってしまっていた。今回のことで学んだよ、悪党に聖人の道理は通じない。悪党は生まれながら悪党だ、奴らには奴らの取り決めがある。ならば、やってやろうじゃないか! 連中のルールに沿ったやり方で!!」
10
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

あなたがそう望んだから
まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」
思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。
確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。
喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。
○○○○○○○○○○
誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。
閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*)
何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

【完結】拾ったおじさんが何やら普通ではありませんでした…
三園 七詩
ファンタジー
カノンは祖母と食堂を切り盛りする普通の女の子…そんなカノンがいつものように店を閉めようとすると…物音が…そこには倒れている人が…拾った人はおじさんだった…それもかなりのイケおじだった!
次の話(グレイ視点)にて完結になります。
お読みいただきありがとうございました。
[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~
k33
ファンタジー
初めての小説です..!
ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる