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十四話

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利己的な感情を愛と主張するアドミラル。
ギデオンは心底、辟易へきえきしていた。
アドミラルが言う愛はすべて自身に向けられていた。
もしも、彼の中に以前の家族への想いや慈しみが少しでも感じられたのならば、また違ったのかもしれない。
だが、どうだ……。
そのような気持ちは皆無どころか、家族という存在は彼にとっての勲章、ステータスシンボルでしかない。
ギデオンとの価値観が根底からしてズレているのだ。
会話が成り立つわけがない。

「父上と話がしたい。枢機卿、アンタとの事はそれからだ」

「ノーだ。話をしてどうなる? もう契約は完了してしまっている。それにワシがクロイツの件を口外すれば、貴公は終わりだ」

「そうしたければ、そうすればいい。クロイツについては、元から憲兵に話すつもりだった。父上が無罪になるのなら僕はどうなっても構わないんだ」

「なっ……なんて愚かなことを。あくまでもワシを父と認めぬというのか……ならば、別策を講じるのみ」

パンパン! アドミラルが手を叩く。
合図により奥にある管理棟の扉が開かれる。

「ギデオン!」

憲兵に連れられ、建屋の中から出てきたのは両手に拘束具をはめられたシルクエッタだった。

「シルクエッタ、何故? 国の保護下にあるはずの君が、何故ゆえ捕まっている? 枢機卿! 彼女に何をした!?」

「人聞きの悪い。まだ、何もしていない。もっとも――するのはこれからだ」

部下が持ち出してきた肘掛け椅子に腰を据えるアドミラル。
まるで高みの見物をきめこむかのように、ワイングラスを手にする。

「何の真似だ!? 答えろ、枢機卿!」

「なぁーにチョットした余興だよ。ほどよく、貴公の心が折れてくれるように今から、この者を罪を公然にさらす」

「罪だって……シルクエッタは聖職者だぞ、そんなモノあるわけないだろう!」

ギデオンの叫びにアドミラルが目を細めた。
それは悪意に満ち溢れる嬉々とした表情だった。

「その者の服をはぎ取れ!!」

「い、嫌ぁあああ――――!!」

辺りに、シルクエッタの悲鳴がこだました。
急ぎ、ギデオンが彼女を助けようとするも憲兵が数人がかりで彼をとり抑える。
法衣が引き裂かれ、肌着が破られる。
徐々に露わになるシルクエッタの柔肌。

「やめろ!! 彼女に乱暴するなぁああ――!! 自分たちが何をしようとしているのか、分からないのか!? 赦さないぞ! 貴様ら、絶対に赦さないからなぁ――――!!」

全力で制止を振り解こうとする。
懸命に前へ手を伸ばしても、シルクエッタまでには届かない。
現実はどこまでも無慈悲だった。
容赦ないからこそ、暴かれた彼女の姿に目を疑わずにいられなかった。

「どうだ、ギデオン! これが罪人、シルクエッタ・クリーンの本当の姿だ。この下卑たる豚は、こともあろうに神の御意志に背いた。ミルティナス信徒たる者、自身の性を偽る事は禁止されているのだぞ。いやはや、怪我の功名だった! お前を調べるついでに、このの身辺調査もしておいて正解だったぞ」

「シルクエッタ、お前……そんな……僕のせい……なのか?」

「ごめん! ごめんなさい、ギデオン!! お願いだから……ボクの方を見ないでよ!! ううっ、君だけには、こんな姿を見られたくなかった――――」

大粒の涙を流しながら、取り押さえられながら必死で抵抗するシルクエッタ。
その頬にアドミラルの平手打ちが飛ぶ。

「これで分かったろう、ギデオン。この世で信じられる者は己しかいないという事だ。この色豚はお前に近づく為、独占する為だけに、女のフリをしていたのだ。穢らわしい以外に何がある? 人間とは、常に己が欲望を満たす事だけしか考えておらん。とりわけ、この男は聖職者だ。神に身を捧げる者でありながら人の良い貴公をだまし、あわよくば奉仕しようなどと目論むのは不浄でしかなかろう?」

しばし沈黙が続いた。
反論する術は、もはや無いとそこに立ち会う者達は感じていた。
彼、一人を除いて――――

「枢機卿、アンタみたいな人間を何て言うのか僕は知っている。潔癖者、完全至上主義者、だからこそ些細な淀みすら見過ごせない。聖職者や男だからダメだって? そんなモノは関係ない!! 少なくとも身分や立場で僕たちは一緒にいたわけじゃない。互いが互いを必要としたこそ、今まで共にあったんだ! 彼女を豚や男と蔑称するのは赦さないぞ。女性であろうとしたのは、シルクエッタ自身が選んだ道だ。そこに欲が絡んで性別を偽ったとしても、女性であろうとした気持ちまでは偽れないだろう! そんな些細な人の願いを罪とするほど僕達の女神様は器量が小さいのか!?」

「ぎ、ギデオン。貴公は本気で言っているのか? お前に対して誰よりも誠実でいられるのはワシだけなんだぞ!」

「枢機卿、それこそ欺瞞でしかない! アンタのチープな愛情よりも、僕たちの絆の方がより深く重いぞ」

少年の瞳に迷いといった陰りは一切、見受けられない。
彼の誇らし気な視線は、敬愛する友へと注がれていた。
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