異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

文字の大きさ
上 下
4 / 362

四話

しおりを挟む
「何ぃ! もう釈放すると言うのか?」

今だ、意識は覚醒しきらないのか? まどろみながら、天井を眺めるギデオン。
そんな折、外から何やら騒がしい声が響いてきた。
宥める部下をその腕で振り払い、カツカツと荒々しい足音を鳴らして懲罰房へやってきたのは、ギデオンと近しい年齢の長髪の美男子だった。

「おい! 起きているな、ギデオン・グラッセ。だったら、さっさとここから出ろ。私としては不本意だが、貴様を釈放せよと、クロイツ監査官からのお達しが出た……おい! 聞いているのか!?」

マブタを閉じてはいるも、ギデオンはあからさまに狸寝入りをきめこんでいた。
まったくもって反省の態度を示さない、彼の態度が気に食わないのか? 長髪の青年は独房の施錠を解くと彼の横腹を蹴り飛ばした。

「がはっ……」

咳込みながら、脇腹を庇う。
ギデオンは気怠そうに上半身を起こし、重くなったマブタを開く。

「どうだ? 家畜のように蹴り起こされた気分は?」

「はぁ? 腹をに刺された気がするな。で……何か御用でしょうか? どうして自分は、懲房に入れられているのでしょう?」

「はっ! 何たる事だ。あまりにもショックが大きすぎて、記憶が飛んでしまったようだな。私は、哨戒の任にあたっていた為、あの場に居合わせなかったが監査官から事の顛末てんまつは聞き及んでいるぞ」

「顛末? そうだ! 天啓の儀はどうなったのです!?」

「可哀そうに、貴様はパラディンに選ばれなかったよ。所詮、貴様はグラッセ子爵の気まぐれで拾われた平民の子だったというわけだ」

「嘘だ……嘘だ嘘だ嘘だ―――――司教様は、お前なら絶対にパラディンになれると仰っていた。司教様の言葉が間違っていた事なんて一度たりともないんだ。だから僕はその言葉を信じて――――」

両目を見開いたまま、頭を抱え苦悶するギデオンを見下しながら青年は卑しく微笑む。

「だったら、自身のステータスを開くが良い。得意だったろ、異世界人しか使えない固有能力を自分にも使えると、周囲に散々ひけらかしていたんだ。きっと、パラディンの|パの字も記されていないだろうがな」

「そ、そうだ! ステータスオープン!」

目の前に浮かぶ、真四角の手鏡。
その中には、ギデオン・グラッセという男の情報がすべて詰まっている。
彼だけが閲覧を許される魔法の鏡。
ステータス画面を見る彼の顔に暗い影がこもる。

「よ、読めない……文字化けしてしまっている! 何故!? こんな事今まで無かったのに……」

「くははっ、女神様を侮辱した罰だろうな。貴様の行いは問答無用、万死に値するが……喜べ! 宰相様がお偉方に掛け合って下さったおかげで貴様は懲罰だけで済む」

「僕は女神様を敬い慕っている。毎朝毎晩の祈りだって、ここ十年欠かした事はない。これは何かの間違いだ! 信じてくれ!!」

「知っているさ。檻に閉じ込められた者は皆、似通った台詞を口にする。どの口がほざく!? あれほどの醜態をさらした挙句、司教様を失脚させようとした極悪人のお前が女神様を語るなぁ!!」

「貴方は一体、何なんだ……僕を目の敵にしているようだが。すまない、貴方の事は知らない」

その言葉に青年は小さく舌打ちする。

「覚えていないのも無理はないか……まあ、いい。罪人に名乗る名など持ち合わせていない。さっさと外に出ろ、私も貴様を相手してやるほど暇ではないのだよ」

有無を言わさず、懲罰房から叩き出される。
外に出たギデオンは、そこが罪人収容施設ではなく私邸の一角にある施設だったことを知る。
広大な面積を誇る宮殿規模の豪邸。
目を見張る外観に圧倒され誰しも言葉を失うという富の結晶、権力の象徴。
そこの主は一度も姿をみせる事もなく、何を目的として自分を閉じ込めていたのか?
ギデオンにはサッパリだった。

「取り敢えず、屋敷に戻るか……父上も心配しておられるはずだ」

身に着けたままの法衣、その袖を嗅いで顔を曇らせる。
歩き出して間もなく、その場で崩れ落ちた。

「帰るって……どこにだ? ハハッ……自分の家すら忘れてしまったというのか? 僕は」

行き場を見失い、トボトボと街中をうろつくギデオン。
「僕の家を探しているのですが知りませんか?」と誰かに聞くのもはばかられるのだろう。
あてもなく道を進むだけだ。
心なしか彼に向けられる周囲の視線は異様に冷たい。
その事に気づいたのか、法衣のフードを頭に被せようとした。

「み、見つけた! ギデオン」

路地脇から、か細い声が聞こえてくる。
トタトタと駆けながら、彼の元にやってきたのは小柄で華奢な肉づきをした少女だった。
彼女を見るなり、ギデオンを瞳に光が宿った。

「シルクエッタ! シルクエッタじゃないか!? 確か、今は共和国に留学していたはずだ」

その娘の事については記憶していた。
シルクエッタ・クリーン。
彼と同じく貴族家柄でギデオンより一つ年上の娘だ。
昨年、天啓の儀でとしての力を授かった彼女は、そのまますぐに東大陸、北方にある共和国へ行ってしまった。
留学というていで共和国内に滞在している彼女だが、これも治癒師としての役割。
内戦が絶えず常時、治癒師不足に悩まされる共和国民を救う為に教会が派遣した結果だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です

しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。

嫌われ者の皇族姫

shishamo346
ファンタジー
両親に似ていないから、と母親からも、兄たち姉たちから嫌われたシーアは、歳の近い皇族の子どもたちにいじめられ、使用人からも蔑まれ、と酷い扱いをうけていました。それも、叔父である皇帝シオンによって、環境は整えられ、最低限の皇族並の扱いをされるようになったが、まだ、皇族の儀式を通過していないシーアは、使用人の子どもと取り換えられたのでは、と影で悪く言われていた。 家族からも、同じ皇族からも蔑まされたシーアは、皇族の儀式を受けた時、その運命は動き出すこととなります。 なろう、では、皇族姫という話の一つとして更新しています。設定が、なろうで出たものが多いので、初読みではわかりにくいところがあります。

レティシア公爵令嬢は誰の手を取るのか

宮崎世絆
ファンタジー
うたた寝していただけなのに異世界転生してしまった。しかも公爵家の長女、レティシア・アームストロングとして。 あまりにも美しい容姿に高い魔力。テンプレな好条件に「もしかして乙女ゲームのヒロインか悪役令嬢ですか?!」と混乱するレティシア。 溺愛してくる両親に義兄。幸せな月日は流れ、ある日の事。 アームストロング公爵のほかに三つの公爵が既存している。各公爵家にはそれぞれ同年代で、然も眉目秀麗な御子息達がいた。 公爵家の領主達の策略により、レティシアはその子息達と知り合うこととなる。 公爵子息達は、才色兼備で温厚篤実なレティシアに心奪われる。 幼い頃に、十五歳になると魔術学園に通う事を聞かされていたレティシア。 普通の学園かと思いきや、その魔術学園には、全ての学生が姿を変えて入学しなければならないらしく……? 果たしてレティシアは正体がバレる事なく無事卒業出来るのだろうか?  そしてレティシアは誰かと恋に落ちることが、果たしてあるのか? レティシアは一体誰の手(恋)をとるのか。 これはレティシアの半生を描いたドタバタアクション有りの爆笑コメディ……ではなく、れっきとした恋愛物語である。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

処理中です...