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第二部 星雲のソワレ編
魔物との初めての戦闘(聖女視点)
しおりを挟む紫の光が鈍く輝く。海上には霧が立ち込め、そこから少しずつ姿を現す。
「…」
想定したよりもその姿は大きい。初めてまともに見る異形はここまで恐ろしいものか、と体がすくむ。
「アリナ…頑張ろう」
私の変化を察してか、彼がそばに来て支えてくれた。
オオオオォォォー
遠吠えのような深い不気味な声が響いていく。
何か言っているようにも聞こえるが…
「ミ、ケ…ゾ。キ…マ、カイ…ウシタ、ジョ」
「何言ってるの…」
「アリナ、避けろっ」
私めがけて大波が来る。
避けろってこの量の水をどうやって避けろっていうの!
私の前に涼しい顔のニール様がやってきて防壁をつくる。
「うーん。なんだか君を見る目つきが違うんだよなあ」
そんなことをつぶやきながら次々と半透明の膜を作っていく。
これが防壁、魔法攻撃から物理攻撃までなんでも2~3回防げるもの。私たちの作る「籠」よりも精度も速さも何もかも強い。海蛇たちが続けて私へ向かってくるのをいともたやすく防いでいく。
「あの大海蛇に何かした?アリナ嬢」
「いいえっ…特にはっ」
「そうか…女性好きな海蛇なのかな」
「ニール様、そんなことを言ってる場合ですか!」
「…騎士団の方は意外と持たないんですねえ」
「ニール!早く来てくれ」
前線の方々がニール様を呼ぶ。小さな海蛇たちの攻撃に手をこまねいているよう。
小海蛇たちは連携を取りながら斬撃を避けたり、波を起こし受け流しながらかわしていく。
「…今の防壁、真似できそうかい?」
ニール様はいまだ到底無理なことを言ってきた。あれと同じ速さで作れと?
…しかし今の現状、大きな海蛇は執拗に私を狙ってくる。あれを防げばいくらかは勝機が見えてくるかもしれない。
「やり、ますっ」
できないじゃない。やるしかない。
思い切り一歩踏み込んで、私は集中する。
「よし。じゃあ僕は前線に向かうよ」
彼は私の返事が当然のようにあるべき場所へ向かった。いくつか防壁を用意しながら。
「すごいな、次々と…」
彼のようにはカンペキなものではないが、何層かの防壁を張る。数回の攻撃で壊れてしまうから、今の防壁の数を考えながら、攻撃に回ろうとしたのだが…
「くっっ」
「なかなか攻められない!」
「チームワーク良すぎでしょ!こいつら」
小さな海蛇たちが連携をとって大きな海蛇を守り、その間に大きな水球をつくる。そしてその水球は私のもとへ来るのだ。
前線の方々は小さなものたちに手が取られ、後衛は身体強化などを行っている。
「攻撃魔法をっ」
「それが、補助魔法しか使えないんだ!」
「どういうことだ!?」
そうなのだ。武器に効果を付与する魔法は使えるのだが、相手へ向けての攻撃魔法となると、詠唱しようとすると口が閉じる。無詠唱で発動しようとすると大海蛇がその対象に向かって水球を放ってくるのだ。
「これっ呪術の関係なのかも!」
「うーん、確かにこれ、そうなのかもしれないな~」
じゅじゅつ?マンガで聞いたことあるような?攻撃魔法が使えない呪いってこと?
でもそんな術、聞いたことないんだけど。
「あれは封じられた技術だから、今はだれに使えないと思ってたんだけどね。この魔物が使えるとは」
「どうする!?」
「アリナの聖魔法で解除はできないのか?」
「今アリナは大海蛇の攻撃を防ぐので精一杯なんだよ!」
戦いながら、みなさんがそれぞれ意見を言っているけど、話はうまくまとまらず、長引いてしまっている。
陛下、本当にコレ、たいしたことないものなんですか…
疲労が少しずつたまっていく中で、私はそんなことを考えていた。
(ああ。展開がわかる陛下を、あんな状態でも連れてくればよかったかな。
っていうか、そもそもリュカ様があんなことしなかったら陛下は普通に参加していたのに!)
私は自分のことも反省しながら、リュカ様へもしっかりと八つ当たりしていた。
「お前っいい加減にしろっ!」
そんなことを考えていると、彼が叫んだ。
それまで混乱していた戦場はシンとなり、ふと彼の方を見ると、高揚しているのか息はあがり、かすかにその赤い瞳は輝いているように見える。
「ケイト…」
「楽しいのかよ、アリナさんばっかり狙いやがって!アリナさんがお前に何をしたっていうんだよ!」
私が弱くみえるからかもしれない。というかそもそも魔物に言葉は通じないだろう。しかし切れてしまった彼は収まらない。
「だいたいお前たちが現れなければ!この新しい土地で俺たちはちゃんと暮らしていけるんだ!」
彼の目に少しずつ魔力が集中する。自分の背景から、魔物への恨みを少しずつ膨れ上がらせていく。
完全なる八つ当たりだが、彼の怒りは止まらないようだ。
「ウ…サイ、ニン、ン…
ワタシ、リニ…カンゲイシ、テイルノダ
ワレワ、レヲ…カイホウシテ、クレタコ、トヲ」
「魔物が…しゃべった?」
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