47 / 58
第二部 星雲のソワレ編
隠しキャラという性質上の話
しおりを挟む(朝か)
目を覚ますと、見慣れない豪華な設備。趣味ではない高級そうな家具たちがやけに整頓している。
一瞬眉をゆがめた。しかし、そうだ、休暇のために泊っているんだと寝起きの頭は再確認していく。ぼんやりした視界を眼鏡で補強し、鞄にしまっていた自分の洗顔料、歯ブラシ、歯磨き粉で身支度を整えていく。研究員という職業柄、きっちりと整えられているものを想像されがちだが、大まかにジャンル分けされてあれば特にこだわりはなく。使い終わったそれらは乱雑にしまわれた。
備え付けの粉でコーヒーを落として、彼は今回のことについて考えていた。
補佐官が用意してくれた休暇。しかし二人きりというわけではなく、慰労の意味を兼ねてほとんど聖女事件にかかわった全員が行くこととなった。
自分も疲れていたから、こういうところで疲れを癒すのもいいかもしれない。今は改善されたが仕事のシステムや本来の業務ではないことも請け負っていたのだから。
だが、事件が起きた。というか女王が休暇をなくした。こういう言い方は良くないのかもしれないが、実際これによって準備が必要になるし、魔物との戦闘となると万が一にも備えなくてはならない。
そして皮肉なことに、自分だけが今回は出番がないのだ。
女王、聖女、属性の長達や魔法講師は魔法を使うのが得意な連中ばかりだ。
それによって役職に選ばれているのだから当然と言えば当然なのだが。
しかし自分は才能がなかった。別にそれで悲観することはなかった。自分には学んで知識を得ることや物事を調べてまとめることの方が得意だと思ったから。
しかし今になって、嫌な思いになるとは。
これが王試験なら、聖女のことであれば、自分にも役割がある。しかし魔物の討伐に関しては何もないのだ。情報収集なら彼や彼の周りから聞けば済むだろうし(そしておそらくそれは女王が自分で行うだろう)
「…ふう」
考えると少しむなしく、悲しくなるので彼はバルコニーへ向かい、久しぶりに電子葉巻を点灯させた。淡い光がぽつりぽつり、肺に空気を流してメンソールを充満させる。さすが最上階、眺めはとても良い。碧く美しい海がどこまでも広がっているようだ。
(何、しよっかな…)
一つ伸びて、ゆったりと休日のような気分になる。そうか、いっそのこと自分は休んでもいいのかもしれない。自分にできることは何もない。
これだけ多くの人数が行っているのだ、自分の出る幕はない。
そう考えると少し気が楽になった。女王のことが気になったが、彼女の性格上、自分も魔物との戦いに参加すると言い出すのだろう。そのための準備をするはずだ。
それに聖女とも約束があるようだし。
休暇だからと言ってすべて彼女との時間にする必要はない。乗り気になった自分はもう自分に言い聞かせるためだけに考えていた。自分だけの時間…考えるとわくわくしてきた。もちろん節度をもって行動はするが、こんなに高揚したのは久しぶりだ。
「何しよっかな~」
先ほどと同じ言葉だが、それは先ほどと比べ物にならないほど嬉しそうにつぶやいた。
朝の食事会場へ向かう。朝はビュッフェスタイルで、各々が自分の好きなものを食べていた。一応女王の部屋をノックしたが、返事がなかった。昨日のこともあり約束もしていなかった。もしかしたら疲れて寝ているのかもしれないと思い、ひとりで来てみた。選んでいる時に長達が何人(貴族、医者、騎士団)か食べていた。休日なのに規則正しいひとたちなんだなと改めて思う。
好みのモノを何点か持ってきて席に着く。特に誰かと仲が良いわけではないため、一人用のテーブルに掛け、手を合わせる。
「……!」
さすが観光地の食事、とてもおいしく感じる。これが地産であればもっと良いが、輸入したものであってもここまでの腕前なのかと感心した。
一度では足りず、気になったものを再び持ってきて口にする。この美味しい料理を食べるだけでも来た甲斐はあるのかもしれない、と嬉しく思った。
食事会場からの帰り、聖女に会った。聖女は一人だった。
「おはようございます、アリナ様。おひとりですか」
「…おはようございます。リュカ、さま?眼鏡ですと雰囲気が違いますね。ええ一人ですわ」
にこりと笑った彼女は以前のような天真爛漫さはなく、落ち着いた淑女の笑みといった感じだ。
ひとりと言った時に少しだけ空気がぴりついた感じがしたが、すぐにいつもの彼女に戻った。
ここ最近、彼女も疲弊していたから、ひとりの時間も大事だよね、と勝手に同調する。
「そういうリュカ様こそ、おひとりですか?」
「ええ。陛下の部屋をノックしたのですが返事がなく…昨日の会議や転移門を開いた影響でお疲れかと思い、私もひとりです」
「まあ…そうでしたか」
バツの悪そうな顔をした。おそらく女王に会ったのだろう。しかしそれも自分にとってはさほど気にはならなかった。
「おいしかったですよ。料理の種類も幅広いですし。それでは」
他愛のない話をして、部屋へと戻った。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
悪役令嬢に転生したので、やりたい放題やって派手に散るつもりでしたが、なぜか溺愛されています
平山和人
恋愛
伯爵令嬢であるオフィーリアは、ある日、前世の記憶を思い出す、前世の自分は平凡なOLでトラックに轢かれて死んだことを。
自分が転生したのは散財が趣味の悪役令嬢で、王太子と婚約破棄の上、断罪される運命にある。オフィーリアは運命を受け入れ、どうせ断罪されるなら好きに生きようとするが、なぜか周囲から溺愛されてしまう。
骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
悪役令嬢の騎士
コムラサキ
ファンタジー
帝都の貧しい家庭に育った少年は、ある日を境に前世の記憶を取り戻す。
異世界に転生したが、戦争に巻き込まれて悲惨な最期を迎えてしまうようだ。
少年は前世の知識と、あたえられた特殊能力を使って生き延びようとする。
そのためには、まず〈悪役令嬢〉を救う必要がある。
少年は彼女の騎士になるため、この世界で生きていくことを決意する。
悪役令嬢の独壇場
あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。
彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。
自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。
正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。
ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。
そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。
あら?これは、何かがおかしいですね。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる