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第一部 聖女編
私の推しを紹介しましょう
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そうそう
一番大切なことを確認しておきましょう。
今、私は重厚な扉の前にいる。
この先には私の推しがいるのです。
コンコン
はやる気持ちをノックで抑える。
「どうぞ」
聞こえてきた声でせっかく抑えた気持ちが跳ね上がってしまう。
扉を開ける。
ちょうど陽の光が当たり、横分けされた銀の髪がキラキラと輝いて見えた。
(これは私のフィルターのせいではないよね…本当に綺麗)
「陛下。何の用ですか」
彼はこちらへ視線もよこさない。目の前の情報端末と睨めっこしながら言い放っていた。この世界のトップが訪ねてきても、この態度。最高ですありがとうございます。
「あなたのことを確認したくて」
「…?よっぽど暇なんですね。ロキに言って仕事を増やしてもらおうかな」
「ロキ、には…黙って来ているので」
私は毎日書類の確認や押印の仕事がある。よくもこんなに毎日あるかというほどに大量の書類チェックがあるのだ。昨日の夢でどうしても私の気分は害されているため、癒しをもらいにきている(まだ仕事は残っている)
「そんなことだろうと思ってました」
「ううう」
クックと喉を鳴らして笑った。とっても綺麗な顔立ちが途端に可愛くなる。ああもう私の目で動画撮影できたらいいのに。
「まあいいですよ。ちょうど休憩をと思ってたところですから」
「リュカ~」
私の推し、リュカ・ワトー。王立の研究所セレストの所長。とわきらの隠し攻略キャラである。
表向きは女王に仕える従順で礼儀正しい部下なのだが、私的な場面ではこうしてちょっと不遜な態度をとる。(しごできなすぱだり?っていうんだっけ)
「昨日、あまり寝てないだろ」
深い声。ソファに腰掛けると彼の言葉遣いがさらに砕けたものになった。
これが彼の完全オフ。
二人っきりの時にはこうして本当に親しい関係であることを示すように、こういう口調になる。
(推しと結ばれるなんてオタクにはあるまじき行為なのかもしれないが、せっかくレアになったのだから。リュカ×レアを堪能したいじゃない)
「どうしてそう思うの」
「目元、腫れてる。何かあったのか」
ああもう推し様‼︎
化粧で隠してもらったのに、あなたには見えてしまうのか。
「少し嫌なことを思い出したの」
「…そっか」
こういう時、リュカは何も聞かない。話したくないことがあるということを彼は理解してくれている。
ふとリュカの手が私の頬に触れた。
(わああああ)
「俺はここに、ちゃんといるよ。お前のそばに」
私のことを見透かしているかのように、リュカは言った。
リュカはそういう人なのだ。人の気持ちや表情の変化にとても機敏である。だから苦手な人にはあえて離れるような態度をとるし、大切な人の些細な変化も逃さず、欲しい言葉をくれるのだ。
『君のそばにいたい』
夢のリュカはそう言っていたけど。
この関係を崩したくない。
このままいけば間違いなく続編の物語が始まるだろう。
もし新ヒロインが現れたとしても。
(大丈夫、リュカと私なら大丈夫)
そう言い聞かせて。
「そんな強く抱きしめなくても、俺は逃げないよ」
「リュカ、リュカ~愛してます~」
「…俺も愛してますよ、レア」
彼の腕の心地よさを感じ、少しの間目を閉じた。
一番大切なことを確認しておきましょう。
今、私は重厚な扉の前にいる。
この先には私の推しがいるのです。
コンコン
はやる気持ちをノックで抑える。
「どうぞ」
聞こえてきた声でせっかく抑えた気持ちが跳ね上がってしまう。
扉を開ける。
ちょうど陽の光が当たり、横分けされた銀の髪がキラキラと輝いて見えた。
(これは私のフィルターのせいではないよね…本当に綺麗)
「陛下。何の用ですか」
彼はこちらへ視線もよこさない。目の前の情報端末と睨めっこしながら言い放っていた。この世界のトップが訪ねてきても、この態度。最高ですありがとうございます。
「あなたのことを確認したくて」
「…?よっぽど暇なんですね。ロキに言って仕事を増やしてもらおうかな」
「ロキ、には…黙って来ているので」
私は毎日書類の確認や押印の仕事がある。よくもこんなに毎日あるかというほどに大量の書類チェックがあるのだ。昨日の夢でどうしても私の気分は害されているため、癒しをもらいにきている(まだ仕事は残っている)
「そんなことだろうと思ってました」
「ううう」
クックと喉を鳴らして笑った。とっても綺麗な顔立ちが途端に可愛くなる。ああもう私の目で動画撮影できたらいいのに。
「まあいいですよ。ちょうど休憩をと思ってたところですから」
「リュカ~」
私の推し、リュカ・ワトー。王立の研究所セレストの所長。とわきらの隠し攻略キャラである。
表向きは女王に仕える従順で礼儀正しい部下なのだが、私的な場面ではこうしてちょっと不遜な態度をとる。(しごできなすぱだり?っていうんだっけ)
「昨日、あまり寝てないだろ」
深い声。ソファに腰掛けると彼の言葉遣いがさらに砕けたものになった。
これが彼の完全オフ。
二人っきりの時にはこうして本当に親しい関係であることを示すように、こういう口調になる。
(推しと結ばれるなんてオタクにはあるまじき行為なのかもしれないが、せっかくレアになったのだから。リュカ×レアを堪能したいじゃない)
「どうしてそう思うの」
「目元、腫れてる。何かあったのか」
ああもう推し様‼︎
化粧で隠してもらったのに、あなたには見えてしまうのか。
「少し嫌なことを思い出したの」
「…そっか」
こういう時、リュカは何も聞かない。話したくないことがあるということを彼は理解してくれている。
ふとリュカの手が私の頬に触れた。
(わああああ)
「俺はここに、ちゃんといるよ。お前のそばに」
私のことを見透かしているかのように、リュカは言った。
リュカはそういう人なのだ。人の気持ちや表情の変化にとても機敏である。だから苦手な人にはあえて離れるような態度をとるし、大切な人の些細な変化も逃さず、欲しい言葉をくれるのだ。
『君のそばにいたい』
夢のリュカはそう言っていたけど。
この関係を崩したくない。
このままいけば間違いなく続編の物語が始まるだろう。
もし新ヒロインが現れたとしても。
(大丈夫、リュカと私なら大丈夫)
そう言い聞かせて。
「そんな強く抱きしめなくても、俺は逃げないよ」
「リュカ、リュカ~愛してます~」
「…俺も愛してますよ、レア」
彼の腕の心地よさを感じ、少しの間目を閉じた。
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