シスコン、異世界へ行く。〜チート能力かと思ったら、七つの大罪を押し付けられた件〜

ゆーしー

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Chapter.2 シスコン、旅に出る。

2-5:シスコン、神獣の話を聞く。

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 街道沿いで神獣と呼ばれるモンスターを拾ってから、翌日のこと。
 いつものように馬車の中で寝ていると、胸に妙な圧迫感を覚える。煩わしいなと思いながら寝返りをうつと、今度は頬にふにゃりとした柔らかい物が当たった。

 それはそのままぺしぺしと何度も頬を叩いてくる。当たっている部分が柔らかいので、全く痛くない。むしろ気持ちいいくらいだ。
 俺がその気持ちよさのままもう一度意識を手放さそうとすると、生暖かいヌメヌメした物が頬を撫でるのを感じた。

 さすがに何かがおかしいと思い目を開けると、そこには毛玉があった。
 ……否、尻尾を振りながら俺の頬をぺしぺしと叩く神獣がいた。

『ようやく起きてくれましたね』

 頭の中に響くような声が聞こえてくる。響きとしては、女性的な感じだろうか? 聞き覚えの無い女性の声だ。
 俺が思わずその場に座り込んで周りを見回すと、神獣はぺしぺしと俺の手の甲を叩いてくる。

『私はここです。ここですよ』
「……この声、もしかして、神獣か!?」
『その通りです』

 と、その場で胸を張るように上を向く神獣。だが上を向きすぎてその場にこてんと倒れてしまった。神獣は慌てて体勢を元に戻そうと手足を必死に動かしているようだ。
 ……何だこの可愛い生き物は。今なら、地球でペットを求める人の気持ちが、分かるような気がする。確かにこれは可愛い。

 というか、神獣って喋れたんだな。確か、上位のモンスターは人語を理解することが出来るって言っていたっけ?
 俺は、何とか神獣が起き上がったのを見計らって、神獣に話しかける。

「あー、その、神獣って喋れたんだな」
『存在が上位のモンスターは、人語を理解し、話すことが可能になります。私もその一つですね』

 何だろう。声が凄い大人っぽい女性の声なのに、目の前にいるのは可愛い毛玉みたいなもふもふモンスターだからか、声と見た目が結びつかない。違和感が凄まじいというか、何というか。ギャップ、と言えばいいんだろうか……とりあえず、慣れないうちは脳が混乱しそうだ。

 周りを見てみれば、ヒーリとルージュはまだ眠っているようだ。ピオスは外で何かしらの作業をしているんだったか。つまり、オレだけがこの小さな生き物に起こされたわけだ。
 俺は思わず神獣の頭をなでなでする。丁度いい位置に頭があったから、つい……。

 そんな俺に神獣は怒ることなく、むしろもっと撫でてほしそうにこちらを見た。俺はそのまましばらくの間、無言で神獣を撫で回す。
 ……もふもふ、気持ちいい。
 さすがに撫ですぎたのか、神獣は『こほん』と咳払いをして俺の手から逃れた。

『……今の私は力を使い果たしている状態です。ですので、このような幼き姿になっています』
「つまり、本来の神獣の姿はもっと大きいと?」
『その通りです。幼き姿になってしまったとはいえ、こうして命を助けていただいたこと、誠にありがとうございます』

 と、その場で伏せの体勢になる神獣。うーん、普通に可愛い。
 しかし、神獣が元気になったのなら、詳しい話を聞けそうだな。ヒーリとピオスと別れた後、何があったのかとか。
 俺がそのことを聞いてみれば、神獣は分かっているとばかりに頷いた。

『そのことについて、マスターとなるあなたさまに話しておきたいと、こうして起こしたのです』
「……ん?」

 今何か変なこと言わなかったか? 俺の耳には、いや、頭か? そこはどうでもいいが、俺のことをマスターと呼んだ気がしたんだが……気のせい、では無いよな。
 マスターから始まるこの流れ、少し前にもみた気がするんだが。

「マスター? 俺が?」
『はい。あなたさまに命を助けられ、また私があなたさまを気に入ってしまったのです。そのことをルージュさんに言ったら、『ならお前もご主人様マスターのしもべになるといい』と仰りまして……』

 あんのドMドラゴン無責任に何てことを言ってくれたんだ!?
 確かに、神獣と呼ばれるほどの上位のモンスターを仲間に出来るメリットは大きい。しかし、少しでもいいから俺に相談して欲しかった! 寝て起きたらしもべが一匹増えてました、めでたしめでたし。で終わる話じゃないんだぞ!?

 俺はため息をついてこめかみの部分に手を当てる。
 その様子を見た神獣が慌てて俺の膝の上に乗ってきて、ぺしぺしと手のひらを叩いてきた。肌に当たるにくきうの感触が心地いい。
 俺の顔を見上げる目が、うるうると潤み始める。

『やはり私ではダメなのでしょうか?』
「ダメじゃない。全然ダメじゃない。だから泣かないでくれ」
『……ぐすん』

 くっ、何だこの可愛い小動物は。もう一度全身をわしゃわしゃしてやろうか……っと、今はそんなことしてる場合じゃないか。
 俺は改めて神獣に向き直り、その小さな手を握った。

「分かった。お前……君……あー、名前は何て言うんだ? 俺は何て呼べばいい?」
『私は神獣、マーナガルム。どうぞ主の好きなようにお呼びください』

 目の前の神獣……マーナガルムはそう言いながら、尻尾を大きくフリフリしている。どうやら、俺のしもべになったことが嬉しいらしい。こうして神獣が俺に好意的なのも、クルーエルから奪った【テイム】能力が関係しているのだろうか。これから先、こんな感じでテイムモンスターがどんどん増えていくのは勘弁願いたい。

 だが、マーナガルムが心強い味方なのも確かだ。今は力を失っているが、全盛期の力を……とまでは言わないが、ある程度の力を取り戻せれば、ルージュと同じように戦力となってくれるだろう。

「ふわぁ。おはようございます」
「おはようヒーリ。マーナガルム……神獣が元気になったぞ」
「本当ですか!?」

 先ほどまで眠そうに目をこすっていたヒーリがバッと起きたかと思うと、俺の膝の上にいたマーナガルムを奪い取ると、そのもふもふな顔に頬ずりをし始めた。

『ヒーリ。その、今は大切な話をしていて……』
「はっ、すみません。ですが、こうしてあなたが無事だと分かって、とても嬉しいのです。それだけは、伝えさせてください」
『ヒーリ……』

 きゅっ、とそこにいるマーナガルムを確かめるように抱きしめるヒーリに、マーナガルムは何も言えなかった。
 そのまましばらくヒーリによるもふもふタイムが始まり、やがてルージュも起き出してきた。
 全員が起床したところで、外からピオスが入ってくる。どうやら

「おや、皆さんお早い起床で」
「ああ。マーナガルムに起こされてな」
「なるほど。元気になったようで何よりです」
『あなたも、よく無事で』

 こうして旅の仲間が全員起き出したので、マーナガルムにピオスたちと別れてから今までの話を聞くことにした。

「ではマーナガルム。ヒーリやピオスたちと別れてからのことを話してくれるか?」
『もちろんです。少々長い話になってしまいますが、大丈夫ですか?』
「問題ない」

 そうして始まったマーナガルムの話を、分かりやすく要約するとこんな感じになる。
 元々マーナガルムは戦いの中に生きていた神獣だったが、延々と繰り返される戦いの日々に飽きて、一度戦いから離れようと世界各地を渡り歩いていたという。
 その長い長い道中で、マーナガルムは追われているピオスとヒーリに出会ったのだとか。

 ウルノキア教から追われていたピオスは、マーナガルムを一目見て意思持ち言葉持つ神獣であると理解し、マーナガルムに助けを求めた。
 マーナガルムも人間のことは嫌いではなく、ピオスたちを追いかけてくる人間の匂いが気に入らなかったこともあり、ピオスたちに協力したのだとか。

 その時の追っ手はピオスとマーナガルムが返り討ちにし、意気投合したマーナガルムは、ピオスとヒーリが逃げられるように手伝うことにしたらしい。

 その後はマーナガルムとピオスたちで旅を続け、神聖ウルノキア皇国の国境を超えたところで、大量のモンスターに囲まれた。
 そう。クルーエルの支配したモンスターたちだ。マーナガルムと協力してる返り討ちにした者に生き残りがいたらしく、マーナガルムの存在も相まって、直接クルーエルが出張ってくることになったようだ。

 クルーエルの【テイム】は相手の意思を無理やり自身に従わせるというもので、神獣であるマーナガルムにもその力を振るおうとした。
 だがマーナガルムは全力を振り絞ってその【テイム】に耐え、二人を逃がすために囮になったという。

「よくそれで生きていたな」
『私は運が良かったのでしょう。私を追いかけて来ていたモンスターたちが、急に方向転換をしてどこかに行ってしまったのです』
「間違いありません。クルーエルが私たちの寄ろうとする街を滅ぼした時ですね」
「アルダートは何とかなったが、それまでに犠牲になった街は……」
「仕方がない、と割り切れるわけではありませんが、そのおかげで私たちが逃げる時間が出来たのも確かなのです」
「……複雑だな」

 話を戻そう。
 そうして何とか助かったマーナガルムだったが、思った以上に力の消耗が激しかったらしく、徐々に自身の身体が縮んでいくことに気付いたという。

 気付いたところでマーナガルムにはどうしようも無かった。モンスターを狩って喰らっても、身体を休めても、力はどんどん抜けていってしまったらしい。
 最早そこに戦いの中に生きた神獣の姿は無く、戦えるのかどうかすらも怪しまれる子狼が誕生した。

 力を大幅に失ったマーナガルムは、少量を求めるモンスターに追われ、レアモンスターを求める冒険者に追われ、精も根も尽き果ててしまった時に、俺に拾われたという。

『ですので、マスターにはとても感謝をしているのです』
「感謝をするなら俺じゃなくて、毛玉状態のマーナガルムを神獣だと見抜いたピオスにするんだな」
『ええ。ピオスにも感謝しています。ありがとう』
「いえいえ。私がお役に立てたのなら幸いです」

 ありがとう、いえいえ、ありがとう、いえいえと延々と続きそうな感じだったので、俺はごほんとわざとらしい咳払いを入れる。

「それで、マーナガルムはどうやれば力が戻るんだ?」
『マスターと主従になったおかげで、マスターの力が私に流れ込んでくるようになりました。このままこの力が抜けないように出来れば、ひと月……いえ、ふた月もあればそれなりに力は戻るでしょう』
「ふむ」

 俺としては何か特別なことをしているつもりはないんだが……恐らく、これも【テイム】能力の一つなのだろう。何事もなければ二ヶ月後にはある程度力が戻るというのだから、それでいいんじゃないか?

「では、私は御者席に。そろそろ次の街に寄っておきたいところなので」
「ああ。頼む……っとそうだ。マーナガルム。お前にもこいつらを紹介しないとな」
『こいつら?』
『どもども! いつもぺこぺこあなたのご飯に這い寄る暴喰、グラです!』
「どこぞの邪神のような口上で出てくるな。それと他人のご飯を食べるんじゃない」
『えへへ!』
『喋っている……意思持つ武具を見るのは初めてです』
「グラだけじゃないぞ。あと四人いる」
『なんと!?』

 驚くマーナガルムを横目に、俺は次々に大罪たちを出現させていく。
 俺は内心では後二人は増える予定だがな、と呟きつつ、マーナガルムと大罪たちの顔合わせを行うのだった。
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