シスコン、異世界へ行く。〜チート能力かと思ったら、七つの大罪を押し付けられた件〜

ゆーしー

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Chapter.2 シスコン、旅に出る。

2-4:シスコン、竜に続き神獣を拾う。

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 新たに赤き鱗を持つ竜、ルージュを仲間しもべとした俺たちは、改めて神聖ウルノキア皇国を目指していた。
 冒険者ギルドの資料室で地図は確認したが、細かい地形までは覚えていなかったため今がどこかという事は分からない。
 馬車の旅を初めてから二週間以上が経っても国境にすら到達していない現状に、俺は改めてプラキア王国の広さを知った。

 ヒーリたちはあまり街道沿いを進んでこなかったこともあり、俺と同じように驚いてはいたが。
 俺は道中、暇つぶしも兼ねてルージュに気になったことを聞いてみることにした。

「そう言えばルージュはその姿のままでも大丈夫なのか? 俺たちとしては、その姿でいてくれた方がありがたいが」
「ふむ。竜種の人化について、ご主人様マスターには伝えておいた方が良いかもしれん。聞いてくれるか?」
「ああ」

 ルージュ……と言うより竜種は人化を行う場合、活動にそこまでのエネルギーを使わないらしい。むしろ竜の状態よりも燃費がいいので、食べられるご飯が少なくなってきた時にわざわざ人化する竜種がいるくらいだと言う。

 更に、人化という高等魔術を使えるのそれなりに上位の竜種だけらしい。それこそ、世界に十匹……人? いればいい方なのだとか。

 【偉大なる竜帝ドラゴニアス・エンペラー】カイザー・ヴァーミリオン。その直接の子供であるルージュは、力などは他の上位竜種に及ばないものの、炎の魔術の扱いがとても上手く、竜の中では【炎を司る竜姫】と呼ばれているのだとか。
 ……てっきり自称だと思ってたんだがな。想像以上にルージュという存在は規格外らしい。

 ……頭の中に残念な天才という言葉が浮かんでしまったのは、仕方の無いことだと思う。

 そしてそんな竜を従えてしまった俺はもっと規格外……ということになるわけか。まぁ、戦力が増えることに越したことはない。
 それに、人化したことで刃物が通りやすくなったからな。痛みを感じたいというルージュの願いに応じて、今では小さな刃物で傷をつけている。

 ……人化状態は鱗が無いから、その分防御力は落ちているらしい。そもそもの馬力は変わっていないという話だが。
 しかし、こう、見た目は乙女の柔肌に見えるところにナイフを突き立てて傷をつけなくてはならないのは、個人的には勘弁願いたい。
 それを拒否して、アワリティアで貫けと言われるよりマシだからやってはいるが。どうにも倒錯しているように感じられる。

 傷自体は竜の治癒力ですぐに治るから、見た目は問題ないのだが。切りつける度に恍惚とした表情を浮かべるのだけは止めてもらいたいところだ。竜とはいえ美人の嬌声を目の前で聞かせられる俺の身にもなってほしい。

 それに、まぁ、その時に溢れ出る竜の血を貰っているので、こちらとしても損はしていない。ピオスやヒーリに聞いたところ、竜の血と言うのは様々な使い方が出来るらしい。

 さすがに、竜の血を飲むことで寿命が伸びるなどの眉唾ものの話は信じられていないようだが、竜の血には竜の魔力が宿っているらしく、魔導具──魔力を媒体として様々な効力を発揮する道具──作りには重宝されるものなのだとか。
 見るものが見れば本物だと分かるので、街に寄った際にそういった魔導具を作っている職人の元を訪ねて、現金へと換金している。お金はいくつあっても足りないものだからな。

 これがまた馬鹿にならない収入で、旅の物資が不足しないのはルージュのおかげとも言える。そんなことを言ったらもっと傷つけてくれて良いぞ! とうるさいので言わないが。

 そして、あまりにも馬車の旅が暇すぎたので、俺はルージュに人間の基本的な戦い方を教えて貰ったりもしている。
 ルージュは竜だが、人化状態で色んな人間の街に寄ったこともあるらしく、その中で人間の戦い方なども見たことがあるらしい。
 俺にとっては、まぁ暇つぶしみたいなものだ。本当にやることがないからな。

 だが、戦い方を知るのはいい機会だとは思う。あくまでも俺のは我流というか、サブカルチャー系の知識が元になっているから、本当の強者と戦った時にボロが出やすい。
 これも、馬車の中が広いから出来る子だな。本来であれば、馬車の足を止めた時にやらねばならぬことだろうから。

 それを踏まえても、たまに襲ってくる山賊たちが癒しになるくらいには、退屈だ。馬車の旅は平穏な方がいいとは分かっているが、どうしても刺激を求めて山賊が襲ってきてくれないかなと思ってしまう。

 まぁ、こちらは絶対に負けないと思っているからこそ思えることなんだがな。そもそも竜種……それも人間で言うところの貴種に当たる竜と真正面から喧嘩出来る山賊がどこにいるというのか。少なくとも俺はごめん蒙りたい。

 とまぁ、そんなことを思っていたわけだが。
 ルージュが訪ねてきた時と同じように、動いていた馬車が止まる。
 また何か来たのかと身構えていると、御者席からピオスが神妙な表情で中へと入ってきた。

「ルト様……」

 そして第一声がこれだ。こんなの、厄介事が起きた以外の何と捉えればいいのか。
 俺は溜息をつきたくなる気持ちを抑えて、ピオスに向き直った。

「どうした?」
「ルト様にお願いがございます。どうか私と共に外に出てきていただけませんか?」
「……そんなことなら別にいいが、何故そうしなければならないのか、詳しく話してくれるのか?」
「申し訳ありません。今は詳しいことを話すわけには。ただ、決して悪いことにはならないとお約束いたしますので、どうか」

 むぅ。詳しくは話せないがどうにかして欲しい問題が馬車の外にある、と。
 これほどに真剣な表情のピオスは、ヒーリに関すること以外に見た覚えがない。それほどのことか。

「……分かった。ヒーリは馬車の中で待っててくれ。ルージュは、ヒーリを頼んだぞ」
「分かりました」
「任せておけ、ご主人様マスター

 俺はピオスに連れられて馬車の外に出る。
そのまま前方の方に歩いて行けば、街道の脇、森に繋がる場所に一つの毛玉が落ちていた。
 その毛玉はボロボロで……というより傷だらけで、血や汚れが元々の毛の色を上書きしているようだった。

「……毛玉?」
「いえ。あれは【神獣】と呼ばれるモンスターです」
「シンジュウ……? 神の獣で?」
「ええ。その神獣です」

 まさかと思い、改めてその毛玉を見る。
 よくよく観れば毛玉にはふさふさの尻尾があり、犬や狼のような耳が付いていることが分かる。
 ……しかし、あのボロ切れみたいな毛玉が、神獣だと? ピオスはよく分かるな。

「それで、ピオスはその神獣とやらをどうして欲しいんだ?」
「……出来ることならば、命を救ってやりたいと思います。見間違いでなければ、あれは……いえ、彼は、我々を逃がすために戦ってくれた戦友でもありますから」
「ふむ」

 あの毛玉について、ピオスは心当たりがあるようだ。神獣と呼ばれていてもモンスター。意思疎通が出来るとは思えないが……。
 いや、高位のモンスターは人語を話せるんだったか? 魔力がどうのこうのとか、よく分からない話を酒の肴に聞かされた覚えがある。

 しかしピオスがここまで言う相手を無下には出来ない。それに、ここから見てる限りでは地球にいたペットとそう変わりは無いように思える。
 ……姉さん、動物好きだったっけ。父さんや母さんが動物があまり得意では無かったから、家では飼えないって愚痴を言っていた。

 ここで見捨てるのも寝覚めが悪くなりそうだしな。だが、このまま連れていくというわけにもいかないだろう。

「分かった。だが、あのまま馬車の中に連れていくとルージュはともかくヒーリが驚いてしまうかもしれないな……」
「不躾なお願いで申し訳ありませんが、ジュリアンヌ様から頂いた魔法薬ポーションを使わせてもらえればと」

 確かにジュリアンヌ会頭からいくつか魔法薬を受け取ってはいる。
 モンスター相手に効くかは分からないが、ここで使わずしていつ使うというのか。少なくともジュリアンヌ会頭は、助けられる命を見捨てる人では無いだろう。
 俺はグラから一本の魔法薬を取り出した。貰ったものの中では、そこそこ等級の高い魔法薬だったと記憶している。
 俺はその魔法薬をピオスに手渡す。

「これを使ってやるといい。後は、そうだな……傷を治したら中で汚れを落とそう」
「……ありがとうございます」
「気にするな。傷が治って元気になれば、ピオスやヒーリが喜ぶだろう」
「はい。では、私はすぐにでも彼を治したいと思います」
「俺は中の二人に事情を説明しよう」

 やることを決めて、俺は馬車の中へと戻っていく。
 馬車の中に戻れば、外で何があったのか気になるヒーリとルージュに詰め寄られた。

「ルトさん、外で何が?」
「微弱な気配は感じる。だが、微弱すぎて直ぐに死にそうだぞ」
「まぁ待ってくれ。いま外でピオスが治しているところだから」
「……治す?」
「ああ。ヒーリは神獣って知っているか?」
「神獣……はい。私とピオスがプラキア王国にたどり着く前に教会の追っ手と戦ってくれた、言葉の通じるモンスターです」
「その神獣とやらが、街道の脇にボロボロの状態で見つかったんだ。ピオスには魔法薬を渡したから大丈夫だとは思うんだが……」
「ボロボロ!? ではやはり、あの後……」

 それだけ言うと、ヒーリは俯いて黙ってしまった。恐らくあの森に来るまでに何かあったのだろう。彼女の何かをこらえるような表情を見ると、俺も胸が締め付けられるような思いを感じる。
 ピオスに魔法薬は渡してあるから、大丈夫だとは思うのだが。

 っと、ヒーリを見ている場合じゃないな。さっさとお湯を沸かすとしよう。
 この馬車には、何故かお風呂までついているからな。今回の場合、ついていて良かったと思うべきなのだろうが。

 電池代わりの魔石──魔力を貯めておくことが出来る石。充電池のようなもの──を起動させて、浴槽にちょうどいい温度のお湯を張る。

「ルトさま」
「ああ。準備は出来ている」

 俺は袖をまくり、ピオスから毛玉こと神獣を受け取る。
 魔法薬によって傷は完全に塞がっているようだが、その小さな身体から感じる鼓動は弱い。もしかしたら、何日もの間あの場所で放置されていたのかもしれないな。

 俺は血と土で汚れきっている毛を撫で、「こんなになるまでよく頑張ったな」と呟く。
 その後はお湯が口の中に入らないように気を付けながら丁寧に身体を洗っていき、数回お湯を取り換えて汚れが浮かび上がらなくなったところでその身体を拭いていく。

 しばらく綺麗な布で拭いて、ピオスからドライヤーのような魔導具を貸してもらい、乾かしていく。
 汚れを取り払った毛は本来の輝きを取り戻しており、とても触り心地のいいもふもふとした感触だ。思わず頬ずりしたくなり、相手が先ほどまで死にかけだったことを思い出して自重する。

 俺が風呂場から出れば、待っていましたと言わんばかりにヒーリが詰め寄ってくる。ルージュも、神獣という存在に興味があるらしくチラチラとこちらを見ていた。

「それで、どうですか!?」
「大丈夫だ。魔法薬で全身の怪我は治ってるし、病気の元になりそうな汚れも綺麗にした。あとは本人……本獣? が目を覚ましてくれれば安心だ」
「ほっ……良かった……」

 ヒーリは本当に安堵しているという様子だった。先ほどピオスが連れてきた状態しか見ていなかったから、不安に思っていたのだろう。

「なら、ヒーリがお世話をするか? とりあえず、彼が起きるまでだが」
「いいのですか!? やります! やりたいです!」

 と、食い気味に言ってくるので、俺は苦笑いしながら神獣を落とさないように手渡した。
 小さく寝息を立てる神獣を「本当に良かった……!」と涙を流しながら抱きしめるヒーリ。

 と、その様子を見ていたルージュがそろっと近付いてくる。どうやらヒーリには聞かれたくないのか、小声で話しかけてきた

「ご主人様、あやつが何者か気付いているか?」
「いや、俺にはさっぱり。ピオスたちが神獣と呼んでいたことしか分からない」
「ふむ。神獣という言葉を聞いてもしや最近音沙汰の無い知り合いかとも思ったのだが……あやつはあのように小さくは無かった。きっと他人の空似というやつだな」
「ふむ……」

 神獣と呼ばれるモンスターがそう何匹もいるとは思えないが、ルージュが言うのならそういうものなのだろう。俺にはよく分からないからな。
 しかし、神獣とまで呼ばれるモンスターがあんなにボロボロになるとは……この街道の先に、問題が無ければいいのだが。

 ……多少の刺激は欲しいとは思ったが、ここまでのものは求めていないぞ、俺は。
 泣き止んだヒーリが優しい手つきで神獣の毛を撫でるのを見ながら、俺は厄介事フラグが立ってしまったかもしれないと、ため息をつくのだった。
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