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Chapter.2 シスコン、旅に出る。
2-2:シスコン、街に別れを告げる。
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ヒーリたちと話をしたその日の夜。俺はリカルドお手製のご飯を食べながらリカルドと話をしていた。近いうちにこの街を去るということを伝えておかないといけないからな。
ちなみに今日のメニューはウルトラバッファローと呼ばれる闘牛型モンスターのモツ煮込みだ。他にも美味しい色々な具材が入っているが、一番美味いのはやはりウルトラバッファローのモツだな。
噛めば噛むほど旨みが滲み出てきて、しかもそれが煮汁に合うものだから、ひょいぱくひょいぱくと食べられてしまう。
ウルトラバッファローこの付近のモンスターでは無いようで、資料室にある資料にも名前が載っていなかった。何でも、リカルドが独自のルートから入手しているため、普通に出回るよりも安い値段で提供出来るのだとか。
この街を離れるにあたって、リカルドの料理たちと別れなけらばならないというのが、一番辛いかもしれないな。それほどに、俺の胃袋は掴まれている。
一流の冒険者は、一流のコックでもあったわけだ。
「何? お前さん、もう行っちまうのか?」
「ああ。護衛依頼を受けてな。ちょっと神聖ウルノキア皇国まで」
「ウルノキアまでって……ここから相当遠いじゃねぇか。なんでわざわざ……」
「まぁ、なんだ。そこが一番目的に近い場所だから……だろうな」
リカルドの問いにそう答えると、リカルドは後ろ頭をポリポリと掻いて何かを考える素振りを見せた。
だがすぐにいつもの表情に戻ったようだ。その時リカルドが何を思ったのかは、本人では無い俺には預かり知らぬところだがな。
「……そうか。なら何も言わねぇよ。それで出発はいつなんだ?」
「四日後の早朝だな。それまでに、この街のお世話になった人たちに挨拶回りをしておかないと」
「だな。それがいい」
その後は、静かにモツ煮込みを食べる……ことなく、その場にいた話を聞いてた連中に送別会だと酒をたらふく飲まされてしまった。
別に苦手ではないが、特別得意だというわけでもないんだがな……まぁ、こういうバカ騒ぎは嫌いじゃない。
翌日、若干の頭痛に悩まされながら俺はこの街でお世話になった人たちに挨拶をして回った。
「そんな……ルトさんが行ってしまうなんて……私……」
「あの、モニカさん? 何で俺はあなたに抱きつかれているんです?」
「…………ルトさんが遠くへ行ってしまうので、今のうちにルトさん分を補給しておこうかと」
「俺は新種のエネルギーが何かですか……」
「ほらほらモニカ。そろそろ離れないとルトさんに迷惑でしょ?」
「うー。だってぇ。ミザリーは抱きつかないの?」
「私は別に……」
「うう……も少しだけ補給させてください」
「はぁ……まぁ、良いですけど」
「言質取りましたからね! すーーーーーーーっ、はーーーーーーっ」
「モ、モニカちゃん……」
「俺たちのモニカちゃんが!」
「くそう! 相手が英雄殿じゃ相手が悪いですぜ!」
「うるせぇぞお前ら! 俺たちはモニカちゃんの恋路を応援するって誓い合っただろうが!」
「お前が一番うるさいよ!」
冒険者ギルドでは何故かモニカさんに抱きつかれたり。
「ジュリアンヌ会頭。あなたのくれた蘇生薬のおかげで、大切な命を救うことが出来ました。改めて、感謝を」
「わざわざありがとうございます。でも、感謝されるようなことではありませんよ。あれは私が若い頃に、手慰みで作ったものですから。必要な人に、必要な時に使ってもらえれば、魔法薬売りとしてこんなに嬉しいことはありません」
「会頭……」
「それに、これからあなたは大変な旅に出られるのでしょう? あなたの前途が明るくなるように、これらを渡しておきます」
そう言ってジュリアンヌ会頭が取り出したのは、瓶に詰められた色々な色の魔法薬だ。
「これは……」
「魔法薬詰め合わせセットです。ああ、お金はいりませんよ。これは、私の感謝の気持ちですから」
「感謝……ですか?」
「ええ。あなたはもう言われ慣れてるかもしれないけど、あなたに直接お礼を言いたいって人は結構多いのよ? 私を含めて」
「それは……」
「もちろん、不幸にもあの事件で死んでしまった人はいる。それでも、あなたがこの街を救ったのは事実なのですから」
「……はい」
「というわけでこちらを持っていってください。必要になった時は、迷わず、ですよ?」
「はい!」
ジュリアンヌ会頭にいくつもの魔法薬を貰ったり。
「おう! 街の英雄殿じゃないか!」
「そうか。もう行っちまうのか。寂しくなるなぁ」
「ルトが来てから、もう二週間……いや、三週間だったか? 最初は妙な若いやつが入ってきたなと思ってたんだが……」
「気付けば街の英雄よ! みんな! 街の英雄に、乾杯!」
「「「かんぱぁ~い!」」」
「てことでほら。飲め飲め」
「いや、その、昨日も送別会だとかで色々飲まされて……」
「送別会ぃ? そんなん俺たちゃ知らねぇな。お前ら! 俺たちで街の英雄殿の送別会だぁ!」
「「「おーーーーー!」」」
「ほんっと飲むことしか考えてないのか!? ああもう分かったよ。飲むよ。飲めばいいんだろ!?」
「いい飲みっぷりじゃねぇか! おら! 酒持ってこい! 金? そんなもん俺たち全員で出してやるよ!」
突発的に発生した飲み会に巻き込まれたり、巻き込まれたり、巻き込まれたりして。
そしてこの街を去る日がやってきた。
荷物は全てグラの中に収納済みなので、持ち物はいつもの布袋一つだけだ。
こいつとも、もう三週間近い付き合いになるのか。……まぁ、それなりに気に入っている。これからもよろしく頼む、!
入っていても怪しまれないくらいのお金を布袋に詰めて、俺は集合場所である中央広場までやってきた。
そこには既に二人の姿があった。少し遅れたかな。
「すまない。待ったか?」
「いいえ。我々も少し前に来たところです」
「ルドさん。私たちの依頼を受けていただいて──」
「そういうのは無しだ。俺たちだって元々そっち方面の護衛依頼を探してたって話しただろ? だから、君が頭を下げることじゃないさ」
「……はい」
しかし、旅装姿のヒーリもまたいいものだ。履いている靴は耐衝撃性に優れている素材を使っているし、動きやすそうな服もところどころに金属での補強が見える。モンスター相手では心もとないかもしれないが、旅をする上では中々に良い装いではないだろうか。
しかし、ピオスはいつも通りの執事服だな。まぁ本人に一番似合っているし、強度が高いことも知っているから文句は無いのだが。
それに二人の後ろには大きな馬車が止まっていた。
二頭引きの馬車らしく、既に馬車に馬が繋がれているようだった。
……何だか馬車を見て初めて、あぁ、これから旅をするんだな、と思ってしまった。
「この馬車は?」
「それなりに持ち合わせがありましたので、この街で調達させていただきました。馬車の方もちょうど在庫が余っていたとかで」
「……馬車の在庫って余るものなのか?」
「さて? ですが馬車がなければ、快適な旅とは行きますまい。私が御者を務めますので、お嬢様とルトさまは中へ」
「ありがとうピオス」
「何だか悪い気もするが……俺は御者なんてやったことがないからな。すまないが頼む」
「いえいえ。これも執事の仕事なれば」
優雅に一礼をしたピオスは、ヒーリが馬車に入るのを手伝った後に御者席へと座る。
俺も初めての馬車に少しワクワクしつつ、ヒーリの入っていった馬車の中へと入っていく。
「……想像以上に広い、というか物理的に広すぎないか?」
「何でも、空間魔法の使い手が製作に協力した特別な馬車らしいです。そのおかげで、見た目以上に広くなっているのだとか」
「そんな馬車の在庫が都合よく余っていた……いや、もう何も言うまい」
多分これは、詳しく突っ込んでも何の意味もない話だ。便利な馬車が手に入った。それでいいじゃないか。
「私は昨日のうちに中の案内をしてもらったので、ルトさんには私から説明しますね」
「よろしく頼む」
ヒーリの好意に甘えて、馬車の中の機能について説明してもらう。
馬車の中にはくつろげるスペースや台所のようなもの、トイレのようなものまで置いてあるようだ。もちろん、トイレは個室になっている。
トイレは浄化魔法を付与したアイテムを使っているらしく、排泄物を無害な灰に変えてしまえるのだとか。これを発明した人物を俺は一生尊敬出来るかもしれない。そう言えば、宿のトイレもこれと似たようなものだったか。
台所にはシンクとコンロ、それに水の出る蛇口と冷蔵庫のような箱が置いてあった。
蛇口には水魔法が付与されており水を常に生み出すことが出来、排水は浄化魔法で綺麗にした水をタンクに保存することで、飲み水に変わるのだとか。
冷蔵庫には氷魔法が付与されており、冷蔵と冷凍の箱がそれぞれ一つずつ置かれている。
コンロには火魔法が付与されており、自分で自由に火加減を調節出来るようになっているらしい。
……はっきりと言わせてもらおう。これは明らかに馬車としてオーバースペックだと。フィクションでもここまでの馬車は中々お目にかかれないだろう。
リカルドの宿よりも住み心地は良さそうだ。まぁ、ご飯はあれには勝てないだろうが。
ますますこの馬車の値段が気になる。執事の持ち合わせとやらでぽんと買えるものなのだろうか……?
……まぁいいか。旅が快適になる分には問題あるまい。
「それに空調も風魔法と火、氷魔法の併用で常に丁度いい暑さに整えてくれるそうです」
「魔法、便利すぎないか?」
「ここまでの魔法を一気に付与出来る人は、そうそういないとは思いますよ? 常人であれば魔力が持ちそうにないですからね。この馬車はピオスが全てやってくれていますが」
……本当に何者なんだあの執事! 今なら、神の化身ですとか言われても信じられそうだ!
内心でピオスにツッコミを入れつつ、俺はヒーリの対面に座った。
「それでは、出発いたします」
ピオスが馬に鞭を入れて、ゆっくりと馬車が動き出した。
石畳の上を歩いてるはずだが、思った以上に揺れがない、つまりこれも、風魔法を付与して衝撃を柔らげてるとかそんな感じなんだろう。
『馬車の旅なんて初めて! 楽しみ!』
『同意します』
『そりゃ初めてだろうさ。マスターのところに来てから初めてなんだから』
『あなたは本当に……まぁいいですわ。わたくしたちも初めての旅を楽しむとしましょう』
『旅と言えば襲撃! 襲撃と言えば戦い! 戦いと言えば喧嘩だ! くぅ、楽しみだぜ!』
「無駄な戦いは遠慮したいところなんだがな……まぁ、なるようになるか」
それに、山賊相手なら金になるし、モンスター相手でも素材が売れる。金はいくらあってもいいからな。そういった相手ならいいのだが。
こうして俺たちは、神聖ウルノキア皇国に向かい、アルダートの街を出発したのだった。
ちなみに今日のメニューはウルトラバッファローと呼ばれる闘牛型モンスターのモツ煮込みだ。他にも美味しい色々な具材が入っているが、一番美味いのはやはりウルトラバッファローのモツだな。
噛めば噛むほど旨みが滲み出てきて、しかもそれが煮汁に合うものだから、ひょいぱくひょいぱくと食べられてしまう。
ウルトラバッファローこの付近のモンスターでは無いようで、資料室にある資料にも名前が載っていなかった。何でも、リカルドが独自のルートから入手しているため、普通に出回るよりも安い値段で提供出来るのだとか。
この街を離れるにあたって、リカルドの料理たちと別れなけらばならないというのが、一番辛いかもしれないな。それほどに、俺の胃袋は掴まれている。
一流の冒険者は、一流のコックでもあったわけだ。
「何? お前さん、もう行っちまうのか?」
「ああ。護衛依頼を受けてな。ちょっと神聖ウルノキア皇国まで」
「ウルノキアまでって……ここから相当遠いじゃねぇか。なんでわざわざ……」
「まぁ、なんだ。そこが一番目的に近い場所だから……だろうな」
リカルドの問いにそう答えると、リカルドは後ろ頭をポリポリと掻いて何かを考える素振りを見せた。
だがすぐにいつもの表情に戻ったようだ。その時リカルドが何を思ったのかは、本人では無い俺には預かり知らぬところだがな。
「……そうか。なら何も言わねぇよ。それで出発はいつなんだ?」
「四日後の早朝だな。それまでに、この街のお世話になった人たちに挨拶回りをしておかないと」
「だな。それがいい」
その後は、静かにモツ煮込みを食べる……ことなく、その場にいた話を聞いてた連中に送別会だと酒をたらふく飲まされてしまった。
別に苦手ではないが、特別得意だというわけでもないんだがな……まぁ、こういうバカ騒ぎは嫌いじゃない。
翌日、若干の頭痛に悩まされながら俺はこの街でお世話になった人たちに挨拶をして回った。
「そんな……ルトさんが行ってしまうなんて……私……」
「あの、モニカさん? 何で俺はあなたに抱きつかれているんです?」
「…………ルトさんが遠くへ行ってしまうので、今のうちにルトさん分を補給しておこうかと」
「俺は新種のエネルギーが何かですか……」
「ほらほらモニカ。そろそろ離れないとルトさんに迷惑でしょ?」
「うー。だってぇ。ミザリーは抱きつかないの?」
「私は別に……」
「うう……も少しだけ補給させてください」
「はぁ……まぁ、良いですけど」
「言質取りましたからね! すーーーーーーーっ、はーーーーーーっ」
「モ、モニカちゃん……」
「俺たちのモニカちゃんが!」
「くそう! 相手が英雄殿じゃ相手が悪いですぜ!」
「うるせぇぞお前ら! 俺たちはモニカちゃんの恋路を応援するって誓い合っただろうが!」
「お前が一番うるさいよ!」
冒険者ギルドでは何故かモニカさんに抱きつかれたり。
「ジュリアンヌ会頭。あなたのくれた蘇生薬のおかげで、大切な命を救うことが出来ました。改めて、感謝を」
「わざわざありがとうございます。でも、感謝されるようなことではありませんよ。あれは私が若い頃に、手慰みで作ったものですから。必要な人に、必要な時に使ってもらえれば、魔法薬売りとしてこんなに嬉しいことはありません」
「会頭……」
「それに、これからあなたは大変な旅に出られるのでしょう? あなたの前途が明るくなるように、これらを渡しておきます」
そう言ってジュリアンヌ会頭が取り出したのは、瓶に詰められた色々な色の魔法薬だ。
「これは……」
「魔法薬詰め合わせセットです。ああ、お金はいりませんよ。これは、私の感謝の気持ちですから」
「感謝……ですか?」
「ええ。あなたはもう言われ慣れてるかもしれないけど、あなたに直接お礼を言いたいって人は結構多いのよ? 私を含めて」
「それは……」
「もちろん、不幸にもあの事件で死んでしまった人はいる。それでも、あなたがこの街を救ったのは事実なのですから」
「……はい」
「というわけでこちらを持っていってください。必要になった時は、迷わず、ですよ?」
「はい!」
ジュリアンヌ会頭にいくつもの魔法薬を貰ったり。
「おう! 街の英雄殿じゃないか!」
「そうか。もう行っちまうのか。寂しくなるなぁ」
「ルトが来てから、もう二週間……いや、三週間だったか? 最初は妙な若いやつが入ってきたなと思ってたんだが……」
「気付けば街の英雄よ! みんな! 街の英雄に、乾杯!」
「「「かんぱぁ~い!」」」
「てことでほら。飲め飲め」
「いや、その、昨日も送別会だとかで色々飲まされて……」
「送別会ぃ? そんなん俺たちゃ知らねぇな。お前ら! 俺たちで街の英雄殿の送別会だぁ!」
「「「おーーーーー!」」」
「ほんっと飲むことしか考えてないのか!? ああもう分かったよ。飲むよ。飲めばいいんだろ!?」
「いい飲みっぷりじゃねぇか! おら! 酒持ってこい! 金? そんなもん俺たち全員で出してやるよ!」
突発的に発生した飲み会に巻き込まれたり、巻き込まれたり、巻き込まれたりして。
そしてこの街を去る日がやってきた。
荷物は全てグラの中に収納済みなので、持ち物はいつもの布袋一つだけだ。
こいつとも、もう三週間近い付き合いになるのか。……まぁ、それなりに気に入っている。これからもよろしく頼む、!
入っていても怪しまれないくらいのお金を布袋に詰めて、俺は集合場所である中央広場までやってきた。
そこには既に二人の姿があった。少し遅れたかな。
「すまない。待ったか?」
「いいえ。我々も少し前に来たところです」
「ルドさん。私たちの依頼を受けていただいて──」
「そういうのは無しだ。俺たちだって元々そっち方面の護衛依頼を探してたって話しただろ? だから、君が頭を下げることじゃないさ」
「……はい」
しかし、旅装姿のヒーリもまたいいものだ。履いている靴は耐衝撃性に優れている素材を使っているし、動きやすそうな服もところどころに金属での補強が見える。モンスター相手では心もとないかもしれないが、旅をする上では中々に良い装いではないだろうか。
しかし、ピオスはいつも通りの執事服だな。まぁ本人に一番似合っているし、強度が高いことも知っているから文句は無いのだが。
それに二人の後ろには大きな馬車が止まっていた。
二頭引きの馬車らしく、既に馬車に馬が繋がれているようだった。
……何だか馬車を見て初めて、あぁ、これから旅をするんだな、と思ってしまった。
「この馬車は?」
「それなりに持ち合わせがありましたので、この街で調達させていただきました。馬車の方もちょうど在庫が余っていたとかで」
「……馬車の在庫って余るものなのか?」
「さて? ですが馬車がなければ、快適な旅とは行きますまい。私が御者を務めますので、お嬢様とルトさまは中へ」
「ありがとうピオス」
「何だか悪い気もするが……俺は御者なんてやったことがないからな。すまないが頼む」
「いえいえ。これも執事の仕事なれば」
優雅に一礼をしたピオスは、ヒーリが馬車に入るのを手伝った後に御者席へと座る。
俺も初めての馬車に少しワクワクしつつ、ヒーリの入っていった馬車の中へと入っていく。
「……想像以上に広い、というか物理的に広すぎないか?」
「何でも、空間魔法の使い手が製作に協力した特別な馬車らしいです。そのおかげで、見た目以上に広くなっているのだとか」
「そんな馬車の在庫が都合よく余っていた……いや、もう何も言うまい」
多分これは、詳しく突っ込んでも何の意味もない話だ。便利な馬車が手に入った。それでいいじゃないか。
「私は昨日のうちに中の案内をしてもらったので、ルトさんには私から説明しますね」
「よろしく頼む」
ヒーリの好意に甘えて、馬車の中の機能について説明してもらう。
馬車の中にはくつろげるスペースや台所のようなもの、トイレのようなものまで置いてあるようだ。もちろん、トイレは個室になっている。
トイレは浄化魔法を付与したアイテムを使っているらしく、排泄物を無害な灰に変えてしまえるのだとか。これを発明した人物を俺は一生尊敬出来るかもしれない。そう言えば、宿のトイレもこれと似たようなものだったか。
台所にはシンクとコンロ、それに水の出る蛇口と冷蔵庫のような箱が置いてあった。
蛇口には水魔法が付与されており水を常に生み出すことが出来、排水は浄化魔法で綺麗にした水をタンクに保存することで、飲み水に変わるのだとか。
冷蔵庫には氷魔法が付与されており、冷蔵と冷凍の箱がそれぞれ一つずつ置かれている。
コンロには火魔法が付与されており、自分で自由に火加減を調節出来るようになっているらしい。
……はっきりと言わせてもらおう。これは明らかに馬車としてオーバースペックだと。フィクションでもここまでの馬車は中々お目にかかれないだろう。
リカルドの宿よりも住み心地は良さそうだ。まぁ、ご飯はあれには勝てないだろうが。
ますますこの馬車の値段が気になる。執事の持ち合わせとやらでぽんと買えるものなのだろうか……?
……まぁいいか。旅が快適になる分には問題あるまい。
「それに空調も風魔法と火、氷魔法の併用で常に丁度いい暑さに整えてくれるそうです」
「魔法、便利すぎないか?」
「ここまでの魔法を一気に付与出来る人は、そうそういないとは思いますよ? 常人であれば魔力が持ちそうにないですからね。この馬車はピオスが全てやってくれていますが」
……本当に何者なんだあの執事! 今なら、神の化身ですとか言われても信じられそうだ!
内心でピオスにツッコミを入れつつ、俺はヒーリの対面に座った。
「それでは、出発いたします」
ピオスが馬に鞭を入れて、ゆっくりと馬車が動き出した。
石畳の上を歩いてるはずだが、思った以上に揺れがない、つまりこれも、風魔法を付与して衝撃を柔らげてるとかそんな感じなんだろう。
『馬車の旅なんて初めて! 楽しみ!』
『同意します』
『そりゃ初めてだろうさ。マスターのところに来てから初めてなんだから』
『あなたは本当に……まぁいいですわ。わたくしたちも初めての旅を楽しむとしましょう』
『旅と言えば襲撃! 襲撃と言えば戦い! 戦いと言えば喧嘩だ! くぅ、楽しみだぜ!』
「無駄な戦いは遠慮したいところなんだがな……まぁ、なるようになるか」
それに、山賊相手なら金になるし、モンスター相手でも素材が売れる。金はいくらあってもいいからな。そういった相手ならいいのだが。
こうして俺たちは、神聖ウルノキア皇国に向かい、アルダートの街を出発したのだった。
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