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Chapter.1 シスコン、異世界へ。
1-ED:シスコン、街を救う。
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木材や石を加工する音が、そこかしこから聞こえてくる。それに混じって聞こえてくる声は、大変そうにしながらもどこか満足気に感じられる。
【疾風の穴熊亭】の一室で目を覚ました俺は、ぴょんとジャンプしたり、伸ばしてみたりと、足の調子を確認していた。
クルーエルがヒーリの逃げ道を塞ぐために街を襲い、やつを俺たちが打倒したのが、およそ一週間くらい前のこと。
クルーエルを蹴り飛ばした後に降ってきた瓦礫をグラで収納した俺だったが、どうやらクルーエルを蹴り飛ばした時にかなりの無理をしていたらしく、戻ってきたピオスから右足の骨が折れていると言われた。しかも骨が粉々系のまずい感じの。
流石に骨折したまま動き回るのはいけないと思った俺は、ピオスを連れて【疾風の穴熊亭】まで戻り、それから一週間の間、療養生活を送っていた。
ちなみにヒーリはその後に無事に目が覚め、今は隣のピオスと同じ部屋に泊まっている。
「……私とピオスを助けて下さり、本当にありがとうございました」
その容姿に似合わぬ丁寧な口調と、姉そっくりな声に思わず泣き出してしまった俺を、ヒーリはおかしな目で見ることなく笑顔を向けてくれた。
そしてその笑顔を見て思った。この笑顔を守れてよかったと。この笑顔を守るためなら、骨折の一つや二つ苦でもない。
そんなこんなで、たまにヒーリたちにお見舞いをされつつ、この部屋で一週間も過ごしていたわけだ。おかげで退屈で仕方がなかった。
だが、もう足の調子は良さそうだ。一週間で粉砕骨折が完治するとか、俺もとうとう人間を辞めてきたかもしれない。
お見舞いに来てくれたジュリアンヌ会頭の話では、粉砕骨折はポーションでは治せないらしいからな。一週間で治ってくれて良かった。
ちなみにクルーエルが使役していた大量のモンスターたちは、クルーエルが死んだと同時に我を取り戻し、八割ほどは森へ、残りは冒険者に襲いかかってきたという。
もちろん大活躍したのは、かつて疾風の穴熊と呼ばれた冒険者であり、我らが【疾風の穴熊亭】の店主であるリカルドだが。
リカルドは昔取った杵柄よ、と照れくさそうに言っていたが、引退前はどれくらいのランクの冒険者だったのだろうか。少なくとも、CやBよりは上だと睨んでいるのだが。下手したらSランクだったりしてな。ははは。
「足も動くようになったし、早速冒険者ギルドに行くか」
俺はいつも使っているダミー用の袋を手に取り、冒険者ギルドに向かうために【疾風の穴熊亭】を後にする。
どうやら店主は街の復興に駆り出されているようで、宿の中にはいなかった。まぁ、二週間分くらいの宿代は払っているから、会わなくても別にいいのだが。
冒険者ギルドに行く理由としては、先日のクルーエル事件の報酬が出ているからだ。
どうやら当時は緊急依頼が出ていたようで、戦績に応じてランクポイントや金銭が報酬として貰えるらしい。
俺は骨折で冒険者ギルドに行くことが出来なかったため、足が治ってからでいいと言われていた。
それに、討伐依頼もいくつか達成しているしな。そちらの納品もしてしまいたい。どうせ持っていてもグラの収納の肥やしになるだけだからな。
「あ、ルトさん! 足、治ったんですね!」
「ああ。歩ける程度には回復したよ」
実際には普通に戦闘も出来るのだが、それは言わない方がいいだろう。
冒険者ギルドに入った俺に声をかけてくれたのは、依頼受付カウンターにいるモニカさんだ。
「よぉ、大将! 俺たちの街を守ってくれてありがとよ!」
「モンスターばっかに気を取られててなぁ。街に入れさせないことだけ考えてたら街が燃えててびっくりしたんだ。ホント、ありがとさん」
「いえ。俺が戦いに集中出来たのは、皆さんが門の外で万のモンスターを押し止めてくれていたおかげですから」
「ルト坊におだてられちゃ、木にも登りたくなるってもんだ!」
「今度一杯やろうぜ! 街の英雄殿!」
仲良くなった先輩冒険者たちにもみくちゃにされながら、俺はモニカさんのいるカウンターまでやってきた。
……どこか、モニカさんが俺を見る表情がおかしい気もするんだが。それに触れたら多分、まずいことになりそうだ。ここは気付かない感じで行こう。
「それで、モニカさん。先日の報酬が出ているとのことですが」
「はい! ルトさんは先日の事件で多大なる戦果を挙げられました! な・の・で! まずはギルドカードを出してください!」
「はぁ……」
何だかテンションが高いモニカさん。そんなに良い報酬が貰えるのだろうか。少しワクワクしてきたな。
ギルドカードを持って裏に入ったモニカさんは、一分もしないうちに新たなカードを持って戻ってきた。
「まず、これがルトさんの新しいギルドカードになりますっ! そして何と、またもや昇格ですよ! ルトさんは今日付けでEランクからCランク冒険者になりました!」
「ありがとうございます」
モニカさんから新しいギルドカードを受け取りつつ、俺は内心で驚いていた。
こんなにも早い昇格、しかも、またもや2ランク上昇だ。飛び級ってレベルじゃないな。
「それで、本来はCランクに上がるためには一つの試験を受けていただくことになっているのですが、ルトさんはその試験が免除されます!」
「……ちなみに、免除される理由とかは聞けます?」
「はい、それはもちろん。Cランク昇格試験は、対人戦闘に重きを置いた試験となりまして……その、盗賊やら山賊やらの首を取ってくる、というものでして……」
なるほど。つまり、既に事件の首謀者であるクルーエル・ファナティックを殺しているから、試験をするまでもないということか。
確かにあいつは、そこら辺の山賊なんか目じゃないくらいの犯罪者だが。まぁ、それでいいと言うならありがたくCランクに上げさせてもらおう。
「そしてこちらが今回の報酬である300ゴル金貨になります」
「300ゴル金貨!?」
モニカさんがスっと布袋を取り出したかと思うと、そんなことをのたまった。
おいおい、それはいくらなんでも多すぎないか? だって俺のしたことと言えば、クルーエルに操られた竜を倒して、更に首謀者であるクルーエルを倒し、やつの自爆から街を守った……って、結構働いてるな。
「今回のルトさんの働きは、これくらいの価値はあると判断されました。なのでこちらとしても、受け取っていただけるとありがたいのですが……」
「……分かりました。ありがたく受け取らせていただきます」
「ヒューヒュー!」
「よっ、お金持ち!」
「さすがは街の英雄殿!」
「Cランクおめでとう!」
俺がモニカさんからずっしりと重い金貨袋を受け取ると、周囲にいた冒険者が口笛を鳴らしたり、祝福の声をかけてきたりと、ちょっとしたお祭り騒ぎになっていた。
……ふむ。一度やって見たかったことがあるんだが。
俺は受け取ったばかりの金貨袋から、20枚ほどの金貨を取り出し、その場で掲げた。
「なら、今日は宴会と洒落こもうじゃないか! 金貨20枚分、飲んで食べて騒ぎまくれ!」
「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!」」」」
「「「「ルット! ルット! ルット!」」」」
俺を包み込む大歓声。そして俺の所業を讃えるかのように俺の名前が連呼されていく。
……それは、ちょっと恥ずかしいが。まぁ、みんな騒ぐ理由を探していたんだろう。
街が滅んでしまうかもしれない瀬戸際だったんだ。なら、日頃頑張ってるやつにこれくらいの役得があってもいいだろう?
「もう、ルトさんったら。これじゃあ今日は仕事になりませんよ」
「はは。まぁ、こんな時間が必要だと思ったんですよ。みんなで何も考えずに馬鹿みたいに騒げる、そんな時間が」
「そうですかねぇ……あ、ならちょっと私に付き合って貰えませんか?」
「え、いや、それは……」
「なんでぃなんでぃ! 俺たちのモニカちゃんに色目使おうってかぁ!?」
「いくら街の英雄殿でも見過ごせませんなぁ!」
「モニカちゃんが欲しいなら、まずは俺たちを倒してからにしろ!」
「うるさい! っていうか、もう出来上がってるのか!? ああもう、酒をこぼすな! 溢れるくらい注ぐな! 後で床を掃除するギルド員の身にもなって……騒ぐにもほどがあるだろうがお前らぁ!」
ツッコミどころが多すぎる! ええい、男に二言はないが、こいつらに金貨20枚は少し多すぎたか……って、どんどん参加者が増えてないか?
見れば、騒ぎを聞き付けた街の住人まで集まって酒を飲んで飯を食っているようだ。冒険者ギルドどころか、他の場所でも仕事にならなそうだなこれは……。
俺はやれやれとため息をついて、追加で金貨を30枚叩きつけた。これも、英雄の仕事だと割り切りながら。
「こいつも持ってけ! 金貨30枚追加だ! これ以上は出さんからな! それ以上に食べて飲みたいやつは自腹を切れ!」
「まだまだ飲めるぜェ!」
「街の英雄殿はやることが違うな!」
「だがモニカちゃんは渡さん!」
「ミザリーたんも渡すものか!」
「そうだそうだ!」
「誰がいると言ったか!?」
酒をかっ食らい、つまみを貪る男どもに混じって酒を飲む。こちらの世界に来てから飲み始めた(こちらでは成人年齢が地球よりも低いためだ)が、案外美味しいものだ。ただ、個人的には果実酒の方が好みではあるのだが。
「おらおら! 【疾風の穴熊亭】から料理と酒を持ってきてやったぞ野郎ども!」
「よっ! さすがはリカルド!」
「もう一人の英雄殿が来たぞ! 囲め囲め!」
「ちょ、おま、俺にはまだ仕事が……!」
「飲め飲めー! そして料理を作れ!」
「てめぇの料理目当てにこの街に来てるやつもいるんだぜ!」
「おい、ルト! お前が始めた酒盛りだろ! お前が何とかしろ!」
「んー、聞こえないなぁ? ほら、リカルド殿が酒を所望だぞ! もっと持ってこーい!」
「ルトぉぉぉぉぉぉっ!?」
「英雄殿に言われちゃしょうがねぇよなぁ!?」
「飲め飲めー! 食らえー! 騒げー!」
「でも汚すなよ! 汚したらお前らの好きな受付嬢に嫌われるぞ?」
「「「それはいけない!」」」
そうして、リカルドも加えて宴は続いていく。
その片隅に、楽しそうに料理を食べる金色の髪の女の子と、執事服を着た男がいたような気がしたが、酒臭い先輩冒険者たちに絡まれる俺は酒を飲んで、料理を喰らった……。
********************
『あーもー、マスターも混じって……楽しそうにしてるね』
『はい。マイマスターが笑顔です。あんな笑顔、初めて見たかもしれません』
『ふん。こんな安酒で盛り上がれる彼らの舌が羨ましいね』
『あら、素直に混ざりたいと言えばよろしいのではなくて?』
『誰も混ざりたいなんて言ってないさ!』
『酒の場は喧嘩の場! どんどん盛り上がって殴り合え! そして怒れ!』
『イラちゃん、抑えて抑えて』
そんな風に楽しそうにお喋りする、謎の女の声も聞こえたとか何とか。
【疾風の穴熊亭】の一室で目を覚ました俺は、ぴょんとジャンプしたり、伸ばしてみたりと、足の調子を確認していた。
クルーエルがヒーリの逃げ道を塞ぐために街を襲い、やつを俺たちが打倒したのが、およそ一週間くらい前のこと。
クルーエルを蹴り飛ばした後に降ってきた瓦礫をグラで収納した俺だったが、どうやらクルーエルを蹴り飛ばした時にかなりの無理をしていたらしく、戻ってきたピオスから右足の骨が折れていると言われた。しかも骨が粉々系のまずい感じの。
流石に骨折したまま動き回るのはいけないと思った俺は、ピオスを連れて【疾風の穴熊亭】まで戻り、それから一週間の間、療養生活を送っていた。
ちなみにヒーリはその後に無事に目が覚め、今は隣のピオスと同じ部屋に泊まっている。
「……私とピオスを助けて下さり、本当にありがとうございました」
その容姿に似合わぬ丁寧な口調と、姉そっくりな声に思わず泣き出してしまった俺を、ヒーリはおかしな目で見ることなく笑顔を向けてくれた。
そしてその笑顔を見て思った。この笑顔を守れてよかったと。この笑顔を守るためなら、骨折の一つや二つ苦でもない。
そんなこんなで、たまにヒーリたちにお見舞いをされつつ、この部屋で一週間も過ごしていたわけだ。おかげで退屈で仕方がなかった。
だが、もう足の調子は良さそうだ。一週間で粉砕骨折が完治するとか、俺もとうとう人間を辞めてきたかもしれない。
お見舞いに来てくれたジュリアンヌ会頭の話では、粉砕骨折はポーションでは治せないらしいからな。一週間で治ってくれて良かった。
ちなみにクルーエルが使役していた大量のモンスターたちは、クルーエルが死んだと同時に我を取り戻し、八割ほどは森へ、残りは冒険者に襲いかかってきたという。
もちろん大活躍したのは、かつて疾風の穴熊と呼ばれた冒険者であり、我らが【疾風の穴熊亭】の店主であるリカルドだが。
リカルドは昔取った杵柄よ、と照れくさそうに言っていたが、引退前はどれくらいのランクの冒険者だったのだろうか。少なくとも、CやBよりは上だと睨んでいるのだが。下手したらSランクだったりしてな。ははは。
「足も動くようになったし、早速冒険者ギルドに行くか」
俺はいつも使っているダミー用の袋を手に取り、冒険者ギルドに向かうために【疾風の穴熊亭】を後にする。
どうやら店主は街の復興に駆り出されているようで、宿の中にはいなかった。まぁ、二週間分くらいの宿代は払っているから、会わなくても別にいいのだが。
冒険者ギルドに行く理由としては、先日のクルーエル事件の報酬が出ているからだ。
どうやら当時は緊急依頼が出ていたようで、戦績に応じてランクポイントや金銭が報酬として貰えるらしい。
俺は骨折で冒険者ギルドに行くことが出来なかったため、足が治ってからでいいと言われていた。
それに、討伐依頼もいくつか達成しているしな。そちらの納品もしてしまいたい。どうせ持っていてもグラの収納の肥やしになるだけだからな。
「あ、ルトさん! 足、治ったんですね!」
「ああ。歩ける程度には回復したよ」
実際には普通に戦闘も出来るのだが、それは言わない方がいいだろう。
冒険者ギルドに入った俺に声をかけてくれたのは、依頼受付カウンターにいるモニカさんだ。
「よぉ、大将! 俺たちの街を守ってくれてありがとよ!」
「モンスターばっかに気を取られててなぁ。街に入れさせないことだけ考えてたら街が燃えててびっくりしたんだ。ホント、ありがとさん」
「いえ。俺が戦いに集中出来たのは、皆さんが門の外で万のモンスターを押し止めてくれていたおかげですから」
「ルト坊におだてられちゃ、木にも登りたくなるってもんだ!」
「今度一杯やろうぜ! 街の英雄殿!」
仲良くなった先輩冒険者たちにもみくちゃにされながら、俺はモニカさんのいるカウンターまでやってきた。
……どこか、モニカさんが俺を見る表情がおかしい気もするんだが。それに触れたら多分、まずいことになりそうだ。ここは気付かない感じで行こう。
「それで、モニカさん。先日の報酬が出ているとのことですが」
「はい! ルトさんは先日の事件で多大なる戦果を挙げられました! な・の・で! まずはギルドカードを出してください!」
「はぁ……」
何だかテンションが高いモニカさん。そんなに良い報酬が貰えるのだろうか。少しワクワクしてきたな。
ギルドカードを持って裏に入ったモニカさんは、一分もしないうちに新たなカードを持って戻ってきた。
「まず、これがルトさんの新しいギルドカードになりますっ! そして何と、またもや昇格ですよ! ルトさんは今日付けでEランクからCランク冒険者になりました!」
「ありがとうございます」
モニカさんから新しいギルドカードを受け取りつつ、俺は内心で驚いていた。
こんなにも早い昇格、しかも、またもや2ランク上昇だ。飛び級ってレベルじゃないな。
「それで、本来はCランクに上がるためには一つの試験を受けていただくことになっているのですが、ルトさんはその試験が免除されます!」
「……ちなみに、免除される理由とかは聞けます?」
「はい、それはもちろん。Cランク昇格試験は、対人戦闘に重きを置いた試験となりまして……その、盗賊やら山賊やらの首を取ってくる、というものでして……」
なるほど。つまり、既に事件の首謀者であるクルーエル・ファナティックを殺しているから、試験をするまでもないということか。
確かにあいつは、そこら辺の山賊なんか目じゃないくらいの犯罪者だが。まぁ、それでいいと言うならありがたくCランクに上げさせてもらおう。
「そしてこちらが今回の報酬である300ゴル金貨になります」
「300ゴル金貨!?」
モニカさんがスっと布袋を取り出したかと思うと、そんなことをのたまった。
おいおい、それはいくらなんでも多すぎないか? だって俺のしたことと言えば、クルーエルに操られた竜を倒して、更に首謀者であるクルーエルを倒し、やつの自爆から街を守った……って、結構働いてるな。
「今回のルトさんの働きは、これくらいの価値はあると判断されました。なのでこちらとしても、受け取っていただけるとありがたいのですが……」
「……分かりました。ありがたく受け取らせていただきます」
「ヒューヒュー!」
「よっ、お金持ち!」
「さすがは街の英雄殿!」
「Cランクおめでとう!」
俺がモニカさんからずっしりと重い金貨袋を受け取ると、周囲にいた冒険者が口笛を鳴らしたり、祝福の声をかけてきたりと、ちょっとしたお祭り騒ぎになっていた。
……ふむ。一度やって見たかったことがあるんだが。
俺は受け取ったばかりの金貨袋から、20枚ほどの金貨を取り出し、その場で掲げた。
「なら、今日は宴会と洒落こもうじゃないか! 金貨20枚分、飲んで食べて騒ぎまくれ!」
「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!」」」」
「「「「ルット! ルット! ルット!」」」」
俺を包み込む大歓声。そして俺の所業を讃えるかのように俺の名前が連呼されていく。
……それは、ちょっと恥ずかしいが。まぁ、みんな騒ぐ理由を探していたんだろう。
街が滅んでしまうかもしれない瀬戸際だったんだ。なら、日頃頑張ってるやつにこれくらいの役得があってもいいだろう?
「もう、ルトさんったら。これじゃあ今日は仕事になりませんよ」
「はは。まぁ、こんな時間が必要だと思ったんですよ。みんなで何も考えずに馬鹿みたいに騒げる、そんな時間が」
「そうですかねぇ……あ、ならちょっと私に付き合って貰えませんか?」
「え、いや、それは……」
「なんでぃなんでぃ! 俺たちのモニカちゃんに色目使おうってかぁ!?」
「いくら街の英雄殿でも見過ごせませんなぁ!」
「モニカちゃんが欲しいなら、まずは俺たちを倒してからにしろ!」
「うるさい! っていうか、もう出来上がってるのか!? ああもう、酒をこぼすな! 溢れるくらい注ぐな! 後で床を掃除するギルド員の身にもなって……騒ぐにもほどがあるだろうがお前らぁ!」
ツッコミどころが多すぎる! ええい、男に二言はないが、こいつらに金貨20枚は少し多すぎたか……って、どんどん参加者が増えてないか?
見れば、騒ぎを聞き付けた街の住人まで集まって酒を飲んで飯を食っているようだ。冒険者ギルドどころか、他の場所でも仕事にならなそうだなこれは……。
俺はやれやれとため息をついて、追加で金貨を30枚叩きつけた。これも、英雄の仕事だと割り切りながら。
「こいつも持ってけ! 金貨30枚追加だ! これ以上は出さんからな! それ以上に食べて飲みたいやつは自腹を切れ!」
「まだまだ飲めるぜェ!」
「街の英雄殿はやることが違うな!」
「だがモニカちゃんは渡さん!」
「ミザリーたんも渡すものか!」
「そうだそうだ!」
「誰がいると言ったか!?」
酒をかっ食らい、つまみを貪る男どもに混じって酒を飲む。こちらの世界に来てから飲み始めた(こちらでは成人年齢が地球よりも低いためだ)が、案外美味しいものだ。ただ、個人的には果実酒の方が好みではあるのだが。
「おらおら! 【疾風の穴熊亭】から料理と酒を持ってきてやったぞ野郎ども!」
「よっ! さすがはリカルド!」
「もう一人の英雄殿が来たぞ! 囲め囲め!」
「ちょ、おま、俺にはまだ仕事が……!」
「飲め飲めー! そして料理を作れ!」
「てめぇの料理目当てにこの街に来てるやつもいるんだぜ!」
「おい、ルト! お前が始めた酒盛りだろ! お前が何とかしろ!」
「んー、聞こえないなぁ? ほら、リカルド殿が酒を所望だぞ! もっと持ってこーい!」
「ルトぉぉぉぉぉぉっ!?」
「英雄殿に言われちゃしょうがねぇよなぁ!?」
「飲め飲めー! 食らえー! 騒げー!」
「でも汚すなよ! 汚したらお前らの好きな受付嬢に嫌われるぞ?」
「「「それはいけない!」」」
そうして、リカルドも加えて宴は続いていく。
その片隅に、楽しそうに料理を食べる金色の髪の女の子と、執事服を着た男がいたような気がしたが、酒臭い先輩冒険者たちに絡まれる俺は酒を飲んで、料理を喰らった……。
********************
『あーもー、マスターも混じって……楽しそうにしてるね』
『はい。マイマスターが笑顔です。あんな笑顔、初めて見たかもしれません』
『ふん。こんな安酒で盛り上がれる彼らの舌が羨ましいね』
『あら、素直に混ざりたいと言えばよろしいのではなくて?』
『誰も混ざりたいなんて言ってないさ!』
『酒の場は喧嘩の場! どんどん盛り上がって殴り合え! そして怒れ!』
『イラちゃん、抑えて抑えて』
そんな風に楽しそうにお喋りする、謎の女の声も聞こえたとか何とか。
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