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Chapter.1 シスコン、異世界へ。
1-10:シスコン、狂信者と戦う。
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「それで、これからどうするつもりですか?」
俺が目の前でグラとインウィディアを装着したのにも拘わらず、そのことに触れずにこれからのことを聞いてくるピオス。
聞かないでいてくれているのか、それとも知った上で無視しているのか。そう言えば、さっきアワリティアを消した時も何も言われなかったな。
まぁ、特に触れないでいてくれる分には構わないだろう。七つの大罪のことなんて言ったところで分からないかもしれないが。
……アスクレピオスという彼の名前を、どこかで聞いたことがある気がするものの、この世界に来てからは聞いた覚えがない。偶然名前が同じなだけだろう。きっとそうだ。
俺はピオスの問いに、インウィディアを指さして答える。
「こいつで街まで飛ばすさ。この位置なら、一時間はかからないだろう」
「それはすごい。で、私はどうすれば?」
「片腕はヒーリを抱いておくために使うし、何かあった時のために片腕は開けておきたい。申し訳ないが、好きな方の足に掴まっていてくれないか?」
「それくらいならば。向こうに着いた後は、お嬢様をお預かりします」
「頼む」
俺はまだ七割ほどエネルギーが残っている翼を起動し、ピオスがしっかりと足につかまったことを確認した後、ヒーリの元へやって来た際に開けた枝葉の間から空へと飛び立つ。
いつの間にか空は赤みがかっており、もうしばらくすれば夜の帳が降りることだろう。出来れば明るいうちに街には着いておきたいところだ。
「少し飛ばすぞ。舌を噛まないように気を付けろ!」
「お気遣いありがとうございます。どうぞ」
「翔べ! インウィディア!」
残っているエネルギーを全て使い切るつもりで、アルダートの街へと飛翔する。
とは言っても、竜種と戦うことも想定しておかないといけないな。俺はアルダートへと飛びつつ、姉さんを独り占めしているであろう引きこもりの神を思う。
……よし、エネルギー充填完了だ。
アルダートの姿を視認できるくらいに近付けば、街から火の手が上がっているのが見えた。
空にいる大きな何かが、街に向かって炎のようなものを吐いているのが見える。恐らくあれがクルーエルの従える竜種だろう。
「ルトさん! あれを!」
「……多いな」
ピオスに指さされ眼下を見てみると、そこには街に向かって進軍するモンスターの大群が、アルダートの街を包囲している姿が見えた。
モンスターの種類は多種多様だが、アルダートの森に生息しているモンスターがほとんどのようだ。
見たところ外縁部のモンスターが多い。見覚えのあるモンスターに混じって、見たことのないモンスターがいるが。
周りのモンスターと比べても強そうなそのモンスターたちは、恐らく外縁部よりも中心部に近いところから連れてきたのだろう。
そしてモンスターが殺到している門の前では、見覚えのある人物が身の丈以上の大金槌を振るっていた。
彼が一度その大金槌を振るえば風圧でモンスターは吹き飛び、不幸にも当たってしまったモンスターはその場で全身の骨が砕けた後に後続のモンスターへとぶつけられる。
さらにはその男は魔法も使えるらしく、地に手をついて地面に魔力を流し、岩の棘や落とし穴などを作っていく。
俺のよく知る男──宿の主人の実力のその一端、店名の由来を垣間見たような気がした。
とりあえず、南門はリカルドに任せておいていいだろう。ここから見る限りだが、尋常じゃない使い手だぞ、あの男は。
「大丈夫……ですかね?」
「ああ。問題ないだろうさ、あれなら」
随分と鍛え上げられた身体だと思っていたが、あそこまでやるとは。正直、素の俺では触れることすら出来ないだろう。七つの大罪を使っても勘弁願いたいところだ。
文字通りモンスターたちが血祭りになってる南門を越せば、そこはもう街の中だ。
先ほどよりも近くに寄ったことで、その姿をはっきりと見ることが出来た。
全身を光沢のある鱗に包まれた、赤い西洋竜。人生で初めて見る、本物の竜種だ。
鋭い牙と爪を持ち、強靭な肉体と剛健な鱗を持つ超生物。しかも空を自在に飛び回り、口からは炎のブレスを吐く化け物だ。
その背中に、人の影らしきものも見える。どうやらやつは、竜の背中が一番安全な場所だとでも思っているらしい。もしくは、自らの手で滅ぼされる街の姿を特等席で見たいがためか。
後者な気がするのは、俺の気のせいだと思いたい。
「ピオス、竜にバレないうちにここで降ろすぞ」
「はい。……どうかお気をつけて」
「あんたもな。その子のこと、頼んだ」
「あなたに言われるまでもありません。お嬢様は、命にかえても守り抜きます」
竜からはちょうど死角になるような位置に二人を降ろして、俺はスペルビアとアワリティアを展開する。ピオスは曲刀を抜いてヒーリを片手に抱く。
さぁ。最初から全力だ。出し惜しみなんてして知り合いが死ぬとか、冗談じゃないからな。
「みんな、やれるな?」
『うん!』
『ええ』
『もちろんさ』
『行けますわよ!』
「……よし。まずはあのデカブツを倒すぞ!」
俺は翼からエネルギーを噴射して、一気に竜の懐へと飛び込もうとする。
『ナニモノダ!』
竜はすぐに俺の存在に気付き、自らが君臨する空にやってきた不届き者を叩き落とそうと腕を振り上げた。
俺は竜の問いに答えることなく、アワリティアへ能力の発動を要請する。
「アワリティア!」
『はい。【硬化】【突撃】【回転】!』
「ドリル……ブレイクッ!」
振り下ろされる強靭な腕をすんでのところで回避し、そのがら空きの土手っ腹にアワリティアの切っ先を押し当てた。
『グッガァ……!』
「とりあえず、一発持ってけ!」
加速と回転をかけた一撃は竜の脇腹を食い破り、街に向かって竜の血の雨が降り注ぐ。
俺はそのまま回転の勢いを止めずに、背後から竜の背中にいる男を狙う。
「もう一撃!」
「やれやれ。なんなのだね、君は。この私が、敬虔なる神の信徒が、クルーエル・ファナティックが、我らが神への供物を捧げているところだと言うのに」
その男は、白に金の装飾が施されたカソックコートを身にまとい、左目には黄金で縁取られた単眼鏡を付けている老齢の男だった。
左手に杖を持ち、右手に分厚い本を持つその男は、頭上から迫り来る俺を見て忌々しげに眉間にしわを寄せると、ブランコを遊び終えた子どものようにひょいっと竜の背から飛び降りた。
「なっ……!」
「そこの竜はここまでよくやってくれた。最後は君が引導を渡してあげるといい」
「ちぃ……ッ!」
地面に落ちていくクルーエル。このままでは竜の背中を突き破っている間に姿を見失ってしまうかもしれない。
「そんなことッ!」
『やりますわよ!』
「ぐ……ッ!」
俺は翼のエネルギーを側面に噴射し、ドリルブレイクの軌道を、背中への直撃コースから、翼膜を突き破るコースへと変える。
それなりに身体に負荷がかかったみたいだが、アワリティアの強化のおかげで何とか耐えられるレベルになっていて助かった。
『ガァ……!』
「──悪いな」
翼をぶち破られた痛みに悶絶する竜を横目に、俺は落ちていくクルーエルを追いかける。
追いかけてくる俺に気付いたのか、クルーエルは舌打ちをしながら片手を俺に向けてきた。
「全く……本当になんなのだ君は。私は君になんて用は無いのだがね」
「お前に無くても俺にはあるさ! ウルノキア教のこと、神聖ウルノキア皇国のこと、知っていることを話してもらう!」
「そう言われて、私が素直に君に話すと思っているのかね? そうだとしたら、おめでたい頭をしている」
「話す気がないなら、話す気にさせてやるだけだ!」
「ふぅ。これだから言葉の通じない若者は、嫌いなのだよ。これでもくらって大人しくしたまえ」
クルーエルが伸ばした右手の五指の先から、真っ黒い球体が五つ現れる。
その球体はピンポン球くらいの大きさまで大きくなると、バチバチと雷を纏い、俺目掛けて射出された。
「あれは、触れたらまずいか」
『急制動をかけますわ! 耐えて下さいまし!』
『【回転】【突撃】解除します』
「ぐぅ……ッ! グラ!」
『 はいはーい! ぱくっ!』
インウィディアが翼のエネルギーを逆噴射することで急制動をかけ、俺が自由に動けるようにアワリティアが能力を解除した。
俺は迫り来る全ての黒球を、左手のグラに収納させることで回避する。
自らの生み出した黒球が消えたことで、クルーエルの顔に怪訝な表情が浮かんだ。
「ふむ。私の極小黒球をかき消したか。方法は分からないが……どうやら、ただの若者ではないらしい」
……って、今のマイクロブラックホールなのか!? 当たってたら本当にやばかったじゃないか。このジジイ、何て魔法を使いやがる!
俺は再びインウィディアにエネルギーを噴射させて、クルーエルを追う。そろそろ地面も近くなってきた。
クルーエルはそんな中でも落ち着いており、顎に手を当てながら何かを考えているようだ。
そして考え事が終わったのか、何度か頷いて両手を広げた。
「よろしい。君なら神への供物に申し分ない。あの悪魔の討伐前に、君を捧げものにするとしようか」
瞬間、クルーエルの背後にサッカーボールくらいの大きさの黒い球体が二つ生まれ、クルーエルの落下が止まる。
「なっ」
「空を飛ぶことは、君の専売特許では無いのでね」
そして先ほどと同じ極小黒球を両手の指先に生み出し、俺へと撃ち放ってきた。
その黒球は俺を囲むように配置され、全方位から襲いかかってくる!
「マイクロブラックホールなんてまともに触れてたまるか! インウィディア、細かい調整は任せる!」
『任されましたわ!』
「グラ! あの黒い球を片っ端から喰っていけ! 今のところあれにまともに対処出来そうなのはお前だけだ!」
『おっけー! 任せといて!』
「スペルビア! お前の鎧であのマイクロブラックホールを受けることは出来るか?」
『僕の口からは、確実に受けられるとは言えないね。そこはマスター次第だよ』
「そうか……!」
マイクロブラックホールを受け……流石に受けられないだろう。
俺が受けられると思えれば、スペルビアの鎧でも受けられるかもしれないが、俺にはあれを受け切れるビジョンが見えない。鎧ごと俺の身体が消滅して終わりだ。
「どれ、もう少し追加だ。これで君は終わり。さてと。私は、先ほど見かけた悪魔の元へと行くことにしよう。神託は確実に実行せねばならないのでね」
「待て!」
クルーエルはさらにマイクロブラックホールを十個追加し、地上へ、先ほどヒーリたちを降ろした辺りに向かっていった。
くそっ、早く追いかけないといけないのに……!
「それに、悪魔……悪魔だと……? ヒーリが、悪魔だとでも言うのか、あいつは!?」
彼女は……まぁ、まだ目を覚ましていないからどんな人物かは分からないが、そう悪い人物ではあるまい。
ピオスが命を懸けてまで守りたい存在なんだ。あんな子が、悪魔であるはずがない。
それにあの子は、俺の大切な人に……姉さんに似ているんだ。そんな子を、悪魔だと……?
あの男は一体、何様のつもりなんだ。
『そうだ。あいつがムカつくよな。お前の気持ち、アタシに届いたぜ』
ふと、そんな声が、どこからがした気がした。
俺が目の前でグラとインウィディアを装着したのにも拘わらず、そのことに触れずにこれからのことを聞いてくるピオス。
聞かないでいてくれているのか、それとも知った上で無視しているのか。そう言えば、さっきアワリティアを消した時も何も言われなかったな。
まぁ、特に触れないでいてくれる分には構わないだろう。七つの大罪のことなんて言ったところで分からないかもしれないが。
……アスクレピオスという彼の名前を、どこかで聞いたことがある気がするものの、この世界に来てからは聞いた覚えがない。偶然名前が同じなだけだろう。きっとそうだ。
俺はピオスの問いに、インウィディアを指さして答える。
「こいつで街まで飛ばすさ。この位置なら、一時間はかからないだろう」
「それはすごい。で、私はどうすれば?」
「片腕はヒーリを抱いておくために使うし、何かあった時のために片腕は開けておきたい。申し訳ないが、好きな方の足に掴まっていてくれないか?」
「それくらいならば。向こうに着いた後は、お嬢様をお預かりします」
「頼む」
俺はまだ七割ほどエネルギーが残っている翼を起動し、ピオスがしっかりと足につかまったことを確認した後、ヒーリの元へやって来た際に開けた枝葉の間から空へと飛び立つ。
いつの間にか空は赤みがかっており、もうしばらくすれば夜の帳が降りることだろう。出来れば明るいうちに街には着いておきたいところだ。
「少し飛ばすぞ。舌を噛まないように気を付けろ!」
「お気遣いありがとうございます。どうぞ」
「翔べ! インウィディア!」
残っているエネルギーを全て使い切るつもりで、アルダートの街へと飛翔する。
とは言っても、竜種と戦うことも想定しておかないといけないな。俺はアルダートへと飛びつつ、姉さんを独り占めしているであろう引きこもりの神を思う。
……よし、エネルギー充填完了だ。
アルダートの姿を視認できるくらいに近付けば、街から火の手が上がっているのが見えた。
空にいる大きな何かが、街に向かって炎のようなものを吐いているのが見える。恐らくあれがクルーエルの従える竜種だろう。
「ルトさん! あれを!」
「……多いな」
ピオスに指さされ眼下を見てみると、そこには街に向かって進軍するモンスターの大群が、アルダートの街を包囲している姿が見えた。
モンスターの種類は多種多様だが、アルダートの森に生息しているモンスターがほとんどのようだ。
見たところ外縁部のモンスターが多い。見覚えのあるモンスターに混じって、見たことのないモンスターがいるが。
周りのモンスターと比べても強そうなそのモンスターたちは、恐らく外縁部よりも中心部に近いところから連れてきたのだろう。
そしてモンスターが殺到している門の前では、見覚えのある人物が身の丈以上の大金槌を振るっていた。
彼が一度その大金槌を振るえば風圧でモンスターは吹き飛び、不幸にも当たってしまったモンスターはその場で全身の骨が砕けた後に後続のモンスターへとぶつけられる。
さらにはその男は魔法も使えるらしく、地に手をついて地面に魔力を流し、岩の棘や落とし穴などを作っていく。
俺のよく知る男──宿の主人の実力のその一端、店名の由来を垣間見たような気がした。
とりあえず、南門はリカルドに任せておいていいだろう。ここから見る限りだが、尋常じゃない使い手だぞ、あの男は。
「大丈夫……ですかね?」
「ああ。問題ないだろうさ、あれなら」
随分と鍛え上げられた身体だと思っていたが、あそこまでやるとは。正直、素の俺では触れることすら出来ないだろう。七つの大罪を使っても勘弁願いたいところだ。
文字通りモンスターたちが血祭りになってる南門を越せば、そこはもう街の中だ。
先ほどよりも近くに寄ったことで、その姿をはっきりと見ることが出来た。
全身を光沢のある鱗に包まれた、赤い西洋竜。人生で初めて見る、本物の竜種だ。
鋭い牙と爪を持ち、強靭な肉体と剛健な鱗を持つ超生物。しかも空を自在に飛び回り、口からは炎のブレスを吐く化け物だ。
その背中に、人の影らしきものも見える。どうやらやつは、竜の背中が一番安全な場所だとでも思っているらしい。もしくは、自らの手で滅ぼされる街の姿を特等席で見たいがためか。
後者な気がするのは、俺の気のせいだと思いたい。
「ピオス、竜にバレないうちにここで降ろすぞ」
「はい。……どうかお気をつけて」
「あんたもな。その子のこと、頼んだ」
「あなたに言われるまでもありません。お嬢様は、命にかえても守り抜きます」
竜からはちょうど死角になるような位置に二人を降ろして、俺はスペルビアとアワリティアを展開する。ピオスは曲刀を抜いてヒーリを片手に抱く。
さぁ。最初から全力だ。出し惜しみなんてして知り合いが死ぬとか、冗談じゃないからな。
「みんな、やれるな?」
『うん!』
『ええ』
『もちろんさ』
『行けますわよ!』
「……よし。まずはあのデカブツを倒すぞ!」
俺は翼からエネルギーを噴射して、一気に竜の懐へと飛び込もうとする。
『ナニモノダ!』
竜はすぐに俺の存在に気付き、自らが君臨する空にやってきた不届き者を叩き落とそうと腕を振り上げた。
俺は竜の問いに答えることなく、アワリティアへ能力の発動を要請する。
「アワリティア!」
『はい。【硬化】【突撃】【回転】!』
「ドリル……ブレイクッ!」
振り下ろされる強靭な腕をすんでのところで回避し、そのがら空きの土手っ腹にアワリティアの切っ先を押し当てた。
『グッガァ……!』
「とりあえず、一発持ってけ!」
加速と回転をかけた一撃は竜の脇腹を食い破り、街に向かって竜の血の雨が降り注ぐ。
俺はそのまま回転の勢いを止めずに、背後から竜の背中にいる男を狙う。
「もう一撃!」
「やれやれ。なんなのだね、君は。この私が、敬虔なる神の信徒が、クルーエル・ファナティックが、我らが神への供物を捧げているところだと言うのに」
その男は、白に金の装飾が施されたカソックコートを身にまとい、左目には黄金で縁取られた単眼鏡を付けている老齢の男だった。
左手に杖を持ち、右手に分厚い本を持つその男は、頭上から迫り来る俺を見て忌々しげに眉間にしわを寄せると、ブランコを遊び終えた子どものようにひょいっと竜の背から飛び降りた。
「なっ……!」
「そこの竜はここまでよくやってくれた。最後は君が引導を渡してあげるといい」
「ちぃ……ッ!」
地面に落ちていくクルーエル。このままでは竜の背中を突き破っている間に姿を見失ってしまうかもしれない。
「そんなことッ!」
『やりますわよ!』
「ぐ……ッ!」
俺は翼のエネルギーを側面に噴射し、ドリルブレイクの軌道を、背中への直撃コースから、翼膜を突き破るコースへと変える。
それなりに身体に負荷がかかったみたいだが、アワリティアの強化のおかげで何とか耐えられるレベルになっていて助かった。
『ガァ……!』
「──悪いな」
翼をぶち破られた痛みに悶絶する竜を横目に、俺は落ちていくクルーエルを追いかける。
追いかけてくる俺に気付いたのか、クルーエルは舌打ちをしながら片手を俺に向けてきた。
「全く……本当になんなのだ君は。私は君になんて用は無いのだがね」
「お前に無くても俺にはあるさ! ウルノキア教のこと、神聖ウルノキア皇国のこと、知っていることを話してもらう!」
「そう言われて、私が素直に君に話すと思っているのかね? そうだとしたら、おめでたい頭をしている」
「話す気がないなら、話す気にさせてやるだけだ!」
「ふぅ。これだから言葉の通じない若者は、嫌いなのだよ。これでもくらって大人しくしたまえ」
クルーエルが伸ばした右手の五指の先から、真っ黒い球体が五つ現れる。
その球体はピンポン球くらいの大きさまで大きくなると、バチバチと雷を纏い、俺目掛けて射出された。
「あれは、触れたらまずいか」
『急制動をかけますわ! 耐えて下さいまし!』
『【回転】【突撃】解除します』
「ぐぅ……ッ! グラ!」
『 はいはーい! ぱくっ!』
インウィディアが翼のエネルギーを逆噴射することで急制動をかけ、俺が自由に動けるようにアワリティアが能力を解除した。
俺は迫り来る全ての黒球を、左手のグラに収納させることで回避する。
自らの生み出した黒球が消えたことで、クルーエルの顔に怪訝な表情が浮かんだ。
「ふむ。私の極小黒球をかき消したか。方法は分からないが……どうやら、ただの若者ではないらしい」
……って、今のマイクロブラックホールなのか!? 当たってたら本当にやばかったじゃないか。このジジイ、何て魔法を使いやがる!
俺は再びインウィディアにエネルギーを噴射させて、クルーエルを追う。そろそろ地面も近くなってきた。
クルーエルはそんな中でも落ち着いており、顎に手を当てながら何かを考えているようだ。
そして考え事が終わったのか、何度か頷いて両手を広げた。
「よろしい。君なら神への供物に申し分ない。あの悪魔の討伐前に、君を捧げものにするとしようか」
瞬間、クルーエルの背後にサッカーボールくらいの大きさの黒い球体が二つ生まれ、クルーエルの落下が止まる。
「なっ」
「空を飛ぶことは、君の専売特許では無いのでね」
そして先ほどと同じ極小黒球を両手の指先に生み出し、俺へと撃ち放ってきた。
その黒球は俺を囲むように配置され、全方位から襲いかかってくる!
「マイクロブラックホールなんてまともに触れてたまるか! インウィディア、細かい調整は任せる!」
『任されましたわ!』
「グラ! あの黒い球を片っ端から喰っていけ! 今のところあれにまともに対処出来そうなのはお前だけだ!」
『おっけー! 任せといて!』
「スペルビア! お前の鎧であのマイクロブラックホールを受けることは出来るか?」
『僕の口からは、確実に受けられるとは言えないね。そこはマスター次第だよ』
「そうか……!」
マイクロブラックホールを受け……流石に受けられないだろう。
俺が受けられると思えれば、スペルビアの鎧でも受けられるかもしれないが、俺にはあれを受け切れるビジョンが見えない。鎧ごと俺の身体が消滅して終わりだ。
「どれ、もう少し追加だ。これで君は終わり。さてと。私は、先ほど見かけた悪魔の元へと行くことにしよう。神託は確実に実行せねばならないのでね」
「待て!」
クルーエルはさらにマイクロブラックホールを十個追加し、地上へ、先ほどヒーリたちを降ろした辺りに向かっていった。
くそっ、早く追いかけないといけないのに……!
「それに、悪魔……悪魔だと……? ヒーリが、悪魔だとでも言うのか、あいつは!?」
彼女は……まぁ、まだ目を覚ましていないからどんな人物かは分からないが、そう悪い人物ではあるまい。
ピオスが命を懸けてまで守りたい存在なんだ。あんな子が、悪魔であるはずがない。
それにあの子は、俺の大切な人に……姉さんに似ているんだ。そんな子を、悪魔だと……?
あの男は一体、何様のつもりなんだ。
『そうだ。あいつがムカつくよな。お前の気持ち、アタシに届いたぜ』
ふと、そんな声が、どこからがした気がした。
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