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Chapter.1 シスコン、異世界へ。
1-1:シスコン、世界を渡る。
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その時は、唐突に訪れた。
何の前触れも無いまま、訪れてしまった。
俺が最も大切だと思っている存在が、姉さんが、星河ヒジリが、突如行方不明となった。
原因は分からず、一日、一日と時は過ぎて行った。
最初はヒジリ姉さんのことを覚えていた人たちも、時が経つにつれて姉さんのことを思い出せなくなっていった。いや、あれは思い出せないとか、そういうレベルの話じゃない。
そんな人物は元々存在していなかった。俺は、彼らの反応をそんな風に感じた。
極めつけは、父さんと母さんの反応だろうか。
姉さんのことを話したあの時の、「うちは元々一人っ子だったろう?」という言葉を聞いた時の衝撃は、今でも忘れることが出来ない。
血を分けて、お腹を痛めて産んだ自分の子どものことも、覚えていないのだ。俺は、その事実に頭がどうにかなりそうだった。
俺だけは覚えている。俺だけは知っている。
ヒジリ姉さんは、本当に実在したのだろうか?
その考えが頭をよぎる度に、俺は自分自身を殴りつけて、正気に戻した。
姉さんはいたんだ。確実に。姉さんの存在は、嘘じゃない。俺の作りだした、イマジナリーシスターでは無いのだ。
ヒジリ姉さんがいなくなってから、一ヶ月ほどが経とうとしていた。その頃にはもう姉さんを探そうとする気力も失せ、日々をただただ無感動に過ごしていた。
世界の全てが色褪せて見える。重度のシスコンだと思われるかもしれないが、俺にとって姉さんとは、無くてはならない存在だったんだ。
『なるほど、君か』
そんな時だ。男の声と女の声がミックスされたような、不思議な声の青年が、目の前に現れた。
髪も、肌も、服も、その存在を構成している全てが真っ白い青年。背は俺よりも高く、大体190cmくらいだろうか。
「あんた、は……」
『僕かい? そうだな……ま、神様みたいなものだと思ってくれれば』
「神様……?」
突然何を言ってるんだこいつはと思った瞬間、俺は、訳の分からない空間に連れてこられていた。
さっきまで、家の近所の商店街にいたはずなのに……。
色も、上下も、何もかもが反転した世界。ぶっちゃけ、見ているだけで気持ち悪くなりそうな光景だった。
『ああ、君にはちょっとこの光景はショックが強かったかな。まぁ、じきに慣れるさ』
「いや、さすがに慣れないとは思うが」
『そうかい? でもごめんね。ここ以外に君と話せそうな場所がなかったからさ。まぁ、話自体はそんなに長いわけじゃないから許してよ』
「はぁ……」
実に馴れ馴れしい口調で話すその神様を名乗る青年は、まるで仲のいい友達と話すみたいに続ける。
『まず大前提として、君はお姉さんを取り戻したい。そうだね?』
「……取り戻す?」
『ああ、そうさ。君のお姉さんは、自発的にいなくなったわけでもなければ、存在しなかったわけでもない。今もこの世に実在する、人間だよ』
生きてる世界は違うけどね、と肩を竦めて言う青年。その言葉に俺は、ハッと青年の姿を見つめた。
姉さんは生きている。実在している。決して、空想上の、妄想上の存在では無かった。
その事実にまずはホッとして、青年が言った生きてる世界は違うと言う言葉に首を傾げた。
「って、ちょっと待って欲しい。生きている世界が違うとは……?」
『言葉の通りさ。世界って言うのは、一つだけじゃないんだ。ま、普通の人間には他の世界は観測出来ないし、上位存在の中でも限られた者しか世界を自由に渡ることは出来ないけどね』
なんでもないように言う青年に、俺は我も忘れて掴みかかった。
「姉さんはどこにいるんだ!? どこの世界にいるんだ!?」
『ちょ、少しは落ち着きなよ。そも含めて、全部説明するつもりなんだからさ』
「そ、そうか……」
俺は青年を掴んでいた手を離し、青年の言葉の続きを待つ。
そんな俺の姿を見た青年はやれやれと言わんばかりに肩を竦めて、色のおかしくなった椅子を引き寄せて座った。
その手にはいつの間にか、非常に飲みたくない色をした飲み物が握られていた。あれならまだ、魔女かなんかがツボで煮ている液体を飲んだ方がマシだろう。どちらも、進んで飲みたいものではないが。
『あ、君も飲む?』
「いえ、お構いなく」
『そうかい? 美味しいんだけどねぇ』
食欲が減退しそうな色の飲み物を口に含んだ青年は、本当に美味しいのであろうという笑顔を浮かべて話し始める。
『君の姉さんは、君が住んでいる世界とは違う世界に呼ばれてしまった。いわゆる、召喚というやつだね』
「召喚と言うと……よく、ネット小説なんかで描かれている、あの?」
『まぁそんな感じさ。今回の件の厄介なところは、その首謀者が神さまだってことなんだけど』
「神様って言うと、あなたみたいな?」
『そうだね。僕は確かに神だけど、僕以外にも神様……上位存在ってのは結構な数いるんだぜ?』
「はぁ……」
まぁ、日本でも八百万の神って言うくらいだし……いてもおかしくはないの、か?
神様の存在自体は、目の前の青年で立証されているし……そもそも、神様の言うことを一々疑っていても、話が進まないだろうしな。
そう俺は納得して、神様に話の続きを促した。
『で、神様自身が君のお姉さんを張り切って召喚しちゃったものだから、歴史の修正力とか因果の力なんかをフルに使ってね……君の姉、星河ヒジリが元々その世界に産まれなかったことにしたんだ』
『それで、そのことを他の神々に黙ってやったものだから、めちゃくちゃに怒られてね。それで癇癪を起こしたその神様が、自分の管理する世界と他の世界の繋がりを絶ってしまったんだ。分かりやすく言えば、引きこもりだね』
『世界というのは本来、隣合っているものなんだ。パラレルワールドとか並行世界とか、そういう概念は地球にもあるだろう? 隣接する次元世界~みたいなの。それに似たようなものなんだよ。ま、今回の場合、繋がりが絶たれたってところが大事でね』
『いくら神様でも、一つの世界を一人で管理、運営するなんて出来ないんだよ。狭い個人経営のラーメン屋ならまだしも、大手のチェーン店なんて一人で動かせるものじゃないだろう?』
『そう言うとスケールがちっちゃくなっちゃうけど、本来なら複数人で管理しなきゃいけない世界を一人で管理しようとしてるから、まぁ大変ってね。このまま放置していると、その鎖国しちゃった世界が崩壊。その衝撃が隣合っている世界に伝播して連鎖的に崩壊。で、その崩壊した衝撃が隣合った世界に伝播してさらに連鎖的に崩壊……と、大変なことになっちゃうんだ』
『そこで周りの神々は考えた。いくら繋がりが絶たれていると言っても、所詮は一人の神様の力。みんなの力を合わせれば、他の世界に影響を与えずに小さな穴くらいは作れるんじゃないかってね』
『それで、僕たち神々は、僕たちの代わりにその世界へと向かってくれる存在を選出しようってことになってね。僕たちが選んだのが君ってわけさ。どうだい? ここまでの話で分からないことはあったかな?』
「あ、いえ、別に……」
正直、他の世界とか、世界の連鎖崩壊とか、そこら辺のことはよく分からない。
ただ、その世界に行けば姉さんに会えるかもしれない。もう二度と会えないと思っていた姉さんに会うためなら、世界を救うくらい、簡単なことじゃないだろうか?
もちろん、俺自身が無力な高校生って言うのは忘れちゃいけないが……。
『なら話を進めよう。君には、その世界に行って世界の繋がりを絶っている存在……その世界の神を殺して欲しいんだ』
「!?」
『驚いた? 驚いたかい? まぁ、急に神殺しを依頼されたら驚くかもしれないけど、君がお姉さんと再び日常を過ごすためには、必要な事だ。何せ、君のお姉さんは神様のお気に入りだからね。そう易々と、手放してくれるとは思えないだろう?』
「それは、まぁ……そうですね」
『つまり、これはウィン・ウィンの関係ってことさ。僕たちは世界の崩壊を防げて嬉しい。君は、お姉さんを取り戻せて嬉しい。ね?』
そう、とびきりの笑顔で囁く神様。
これは悪魔の囁きだ。俺はふと、何故かそう思った。
だが、それが悪魔の囁きでも、堕落の誘いでも構わない。姉さんを取り戻すためなら、魂だって差し出せるだろう。
……あ、姉さんと過ごせなくなるから魂はちょっとダメだな。仮に代償が必要なら何か別のものにしてもらおう。
まぁとにかく、俺に神様の頼みを断る気はないということだ。
『それで、君の答えは如何に?』
「ああ。あなたのその頼み、引き受けたいと思う」
『それは良かった! じゃあ早速、その世界に送る準備を始めないとね!』
「それでなんだが、何か特殊な力とか、そういうのは貰えないだろうか。今のままでは無力な高校生に過ぎないし、ただの高校生が神様を殺すなんて出来ないだろう?」
『ふむ。確かにその通りだね。んー、どうしよっかな……』
俺の願いに、手を顎に当てて考え込む神様。
貰えるのならどんな能力でもいいが……俺も一端のオタク趣味を持っている男子高校生だ。それなりにかっこよく、便利で、強そうな能力が貰えるのが一番だが……さすがにそれは求めすぎだろうか。
俺が内心でそんなこと考えていると、俺に授ける能力が決まったのか、神様は指をパチンと弾いてこちらを向いた。
『そうだな。君には七つの能力を与えることにしよう。どれも強力で、便利な能力さ。きっと、気に入ってくれると思うよ』
「おお、助かる!」
一個だけかと思ったら七個も能力をくれると!? なんだか異世界もののチート主人公にでもなった気分だ。どんな能力なのかが気になるが……。
『ま、その能力に関しては、向こうに着いてから確認するといいよ。それで、もうこちらの準備は出来ているけど、君は準備は出来ているかい?』
「準備……と言っても、今着ている学生服と、ポケットに入っているものくらいだが」
『ノンノン。持ち物の準備じゃなくて、心の準備さ。向こうの世界に君を送ったら、君はもうこちらの世界には帰って来れない。親とも、友達とも、君の好きなゲームや小説なんかともお別れしなくちゃいけない。それでもいいかい?』
神様の言葉に、少し考える。確かにそれらとお別れしなくちゃいけないのは、辛い。だが、姉さんがいない世界なんて、俺には考えられないんだ。それらと天秤にかけてでも、俺は姉さんを取る。
気持ち悪いと罵ってくれても構わないし、理解出来ないと拒絶してくれてもいい。
ただ俺には、姉さんの存在が必要なんだ。
「……ああ」
『よし。君の覚悟は理解した。では、君の存在をかの世界に送るとしよう。ちょっと気持ち悪くなるかもしれないけど、世界を渡ったことによる酔いのようなものだから、しばらくすれば治るから安心していいよ』
『次に目覚めた時はもう異世界だよ。君が住んでいた世界とは異なる理の世界だ。大変なこともあるだろう。辛いこともあるかもしれない。でも、僕の依頼は忘れないでね』
「……分かりました」
『おっけー。じゃ、おやすみ』
パチン、と、神様が指を鳴らす。
瞬間、俺の意識は闇の中へと落ちていった。
『……ほんと、頑張ってくれよ、星河ルト君。僕を楽しませておくれよ。もしつまらない死に方をしたら……その魂、無事に円環に戻れるとは思わないことだ。
――ま、あの力を押し付けたから、まともな死に方は出来ないだろうけどね。アハハ……』
何の前触れも無いまま、訪れてしまった。
俺が最も大切だと思っている存在が、姉さんが、星河ヒジリが、突如行方不明となった。
原因は分からず、一日、一日と時は過ぎて行った。
最初はヒジリ姉さんのことを覚えていた人たちも、時が経つにつれて姉さんのことを思い出せなくなっていった。いや、あれは思い出せないとか、そういうレベルの話じゃない。
そんな人物は元々存在していなかった。俺は、彼らの反応をそんな風に感じた。
極めつけは、父さんと母さんの反応だろうか。
姉さんのことを話したあの時の、「うちは元々一人っ子だったろう?」という言葉を聞いた時の衝撃は、今でも忘れることが出来ない。
血を分けて、お腹を痛めて産んだ自分の子どものことも、覚えていないのだ。俺は、その事実に頭がどうにかなりそうだった。
俺だけは覚えている。俺だけは知っている。
ヒジリ姉さんは、本当に実在したのだろうか?
その考えが頭をよぎる度に、俺は自分自身を殴りつけて、正気に戻した。
姉さんはいたんだ。確実に。姉さんの存在は、嘘じゃない。俺の作りだした、イマジナリーシスターでは無いのだ。
ヒジリ姉さんがいなくなってから、一ヶ月ほどが経とうとしていた。その頃にはもう姉さんを探そうとする気力も失せ、日々をただただ無感動に過ごしていた。
世界の全てが色褪せて見える。重度のシスコンだと思われるかもしれないが、俺にとって姉さんとは、無くてはならない存在だったんだ。
『なるほど、君か』
そんな時だ。男の声と女の声がミックスされたような、不思議な声の青年が、目の前に現れた。
髪も、肌も、服も、その存在を構成している全てが真っ白い青年。背は俺よりも高く、大体190cmくらいだろうか。
「あんた、は……」
『僕かい? そうだな……ま、神様みたいなものだと思ってくれれば』
「神様……?」
突然何を言ってるんだこいつはと思った瞬間、俺は、訳の分からない空間に連れてこられていた。
さっきまで、家の近所の商店街にいたはずなのに……。
色も、上下も、何もかもが反転した世界。ぶっちゃけ、見ているだけで気持ち悪くなりそうな光景だった。
『ああ、君にはちょっとこの光景はショックが強かったかな。まぁ、じきに慣れるさ』
「いや、さすがに慣れないとは思うが」
『そうかい? でもごめんね。ここ以外に君と話せそうな場所がなかったからさ。まぁ、話自体はそんなに長いわけじゃないから許してよ』
「はぁ……」
実に馴れ馴れしい口調で話すその神様を名乗る青年は、まるで仲のいい友達と話すみたいに続ける。
『まず大前提として、君はお姉さんを取り戻したい。そうだね?』
「……取り戻す?」
『ああ、そうさ。君のお姉さんは、自発的にいなくなったわけでもなければ、存在しなかったわけでもない。今もこの世に実在する、人間だよ』
生きてる世界は違うけどね、と肩を竦めて言う青年。その言葉に俺は、ハッと青年の姿を見つめた。
姉さんは生きている。実在している。決して、空想上の、妄想上の存在では無かった。
その事実にまずはホッとして、青年が言った生きてる世界は違うと言う言葉に首を傾げた。
「って、ちょっと待って欲しい。生きている世界が違うとは……?」
『言葉の通りさ。世界って言うのは、一つだけじゃないんだ。ま、普通の人間には他の世界は観測出来ないし、上位存在の中でも限られた者しか世界を自由に渡ることは出来ないけどね』
なんでもないように言う青年に、俺は我も忘れて掴みかかった。
「姉さんはどこにいるんだ!? どこの世界にいるんだ!?」
『ちょ、少しは落ち着きなよ。そも含めて、全部説明するつもりなんだからさ』
「そ、そうか……」
俺は青年を掴んでいた手を離し、青年の言葉の続きを待つ。
そんな俺の姿を見た青年はやれやれと言わんばかりに肩を竦めて、色のおかしくなった椅子を引き寄せて座った。
その手にはいつの間にか、非常に飲みたくない色をした飲み物が握られていた。あれならまだ、魔女かなんかがツボで煮ている液体を飲んだ方がマシだろう。どちらも、進んで飲みたいものではないが。
『あ、君も飲む?』
「いえ、お構いなく」
『そうかい? 美味しいんだけどねぇ』
食欲が減退しそうな色の飲み物を口に含んだ青年は、本当に美味しいのであろうという笑顔を浮かべて話し始める。
『君の姉さんは、君が住んでいる世界とは違う世界に呼ばれてしまった。いわゆる、召喚というやつだね』
「召喚と言うと……よく、ネット小説なんかで描かれている、あの?」
『まぁそんな感じさ。今回の件の厄介なところは、その首謀者が神さまだってことなんだけど』
「神様って言うと、あなたみたいな?」
『そうだね。僕は確かに神だけど、僕以外にも神様……上位存在ってのは結構な数いるんだぜ?』
「はぁ……」
まぁ、日本でも八百万の神って言うくらいだし……いてもおかしくはないの、か?
神様の存在自体は、目の前の青年で立証されているし……そもそも、神様の言うことを一々疑っていても、話が進まないだろうしな。
そう俺は納得して、神様に話の続きを促した。
『で、神様自身が君のお姉さんを張り切って召喚しちゃったものだから、歴史の修正力とか因果の力なんかをフルに使ってね……君の姉、星河ヒジリが元々その世界に産まれなかったことにしたんだ』
『それで、そのことを他の神々に黙ってやったものだから、めちゃくちゃに怒られてね。それで癇癪を起こしたその神様が、自分の管理する世界と他の世界の繋がりを絶ってしまったんだ。分かりやすく言えば、引きこもりだね』
『世界というのは本来、隣合っているものなんだ。パラレルワールドとか並行世界とか、そういう概念は地球にもあるだろう? 隣接する次元世界~みたいなの。それに似たようなものなんだよ。ま、今回の場合、繋がりが絶たれたってところが大事でね』
『いくら神様でも、一つの世界を一人で管理、運営するなんて出来ないんだよ。狭い個人経営のラーメン屋ならまだしも、大手のチェーン店なんて一人で動かせるものじゃないだろう?』
『そう言うとスケールがちっちゃくなっちゃうけど、本来なら複数人で管理しなきゃいけない世界を一人で管理しようとしてるから、まぁ大変ってね。このまま放置していると、その鎖国しちゃった世界が崩壊。その衝撃が隣合っている世界に伝播して連鎖的に崩壊。で、その崩壊した衝撃が隣合った世界に伝播してさらに連鎖的に崩壊……と、大変なことになっちゃうんだ』
『そこで周りの神々は考えた。いくら繋がりが絶たれていると言っても、所詮は一人の神様の力。みんなの力を合わせれば、他の世界に影響を与えずに小さな穴くらいは作れるんじゃないかってね』
『それで、僕たち神々は、僕たちの代わりにその世界へと向かってくれる存在を選出しようってことになってね。僕たちが選んだのが君ってわけさ。どうだい? ここまでの話で分からないことはあったかな?』
「あ、いえ、別に……」
正直、他の世界とか、世界の連鎖崩壊とか、そこら辺のことはよく分からない。
ただ、その世界に行けば姉さんに会えるかもしれない。もう二度と会えないと思っていた姉さんに会うためなら、世界を救うくらい、簡単なことじゃないだろうか?
もちろん、俺自身が無力な高校生って言うのは忘れちゃいけないが……。
『なら話を進めよう。君には、その世界に行って世界の繋がりを絶っている存在……その世界の神を殺して欲しいんだ』
「!?」
『驚いた? 驚いたかい? まぁ、急に神殺しを依頼されたら驚くかもしれないけど、君がお姉さんと再び日常を過ごすためには、必要な事だ。何せ、君のお姉さんは神様のお気に入りだからね。そう易々と、手放してくれるとは思えないだろう?』
「それは、まぁ……そうですね」
『つまり、これはウィン・ウィンの関係ってことさ。僕たちは世界の崩壊を防げて嬉しい。君は、お姉さんを取り戻せて嬉しい。ね?』
そう、とびきりの笑顔で囁く神様。
これは悪魔の囁きだ。俺はふと、何故かそう思った。
だが、それが悪魔の囁きでも、堕落の誘いでも構わない。姉さんを取り戻すためなら、魂だって差し出せるだろう。
……あ、姉さんと過ごせなくなるから魂はちょっとダメだな。仮に代償が必要なら何か別のものにしてもらおう。
まぁとにかく、俺に神様の頼みを断る気はないということだ。
『それで、君の答えは如何に?』
「ああ。あなたのその頼み、引き受けたいと思う」
『それは良かった! じゃあ早速、その世界に送る準備を始めないとね!』
「それでなんだが、何か特殊な力とか、そういうのは貰えないだろうか。今のままでは無力な高校生に過ぎないし、ただの高校生が神様を殺すなんて出来ないだろう?」
『ふむ。確かにその通りだね。んー、どうしよっかな……』
俺の願いに、手を顎に当てて考え込む神様。
貰えるのならどんな能力でもいいが……俺も一端のオタク趣味を持っている男子高校生だ。それなりにかっこよく、便利で、強そうな能力が貰えるのが一番だが……さすがにそれは求めすぎだろうか。
俺が内心でそんなこと考えていると、俺に授ける能力が決まったのか、神様は指をパチンと弾いてこちらを向いた。
『そうだな。君には七つの能力を与えることにしよう。どれも強力で、便利な能力さ。きっと、気に入ってくれると思うよ』
「おお、助かる!」
一個だけかと思ったら七個も能力をくれると!? なんだか異世界もののチート主人公にでもなった気分だ。どんな能力なのかが気になるが……。
『ま、その能力に関しては、向こうに着いてから確認するといいよ。それで、もうこちらの準備は出来ているけど、君は準備は出来ているかい?』
「準備……と言っても、今着ている学生服と、ポケットに入っているものくらいだが」
『ノンノン。持ち物の準備じゃなくて、心の準備さ。向こうの世界に君を送ったら、君はもうこちらの世界には帰って来れない。親とも、友達とも、君の好きなゲームや小説なんかともお別れしなくちゃいけない。それでもいいかい?』
神様の言葉に、少し考える。確かにそれらとお別れしなくちゃいけないのは、辛い。だが、姉さんがいない世界なんて、俺には考えられないんだ。それらと天秤にかけてでも、俺は姉さんを取る。
気持ち悪いと罵ってくれても構わないし、理解出来ないと拒絶してくれてもいい。
ただ俺には、姉さんの存在が必要なんだ。
「……ああ」
『よし。君の覚悟は理解した。では、君の存在をかの世界に送るとしよう。ちょっと気持ち悪くなるかもしれないけど、世界を渡ったことによる酔いのようなものだから、しばらくすれば治るから安心していいよ』
『次に目覚めた時はもう異世界だよ。君が住んでいた世界とは異なる理の世界だ。大変なこともあるだろう。辛いこともあるかもしれない。でも、僕の依頼は忘れないでね』
「……分かりました」
『おっけー。じゃ、おやすみ』
パチン、と、神様が指を鳴らす。
瞬間、俺の意識は闇の中へと落ちていった。
『……ほんと、頑張ってくれよ、星河ルト君。僕を楽しませておくれよ。もしつまらない死に方をしたら……その魂、無事に円環に戻れるとは思わないことだ。
――ま、あの力を押し付けたから、まともな死に方は出来ないだろうけどね。アハハ……』
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