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Chapter2.5:アップデートと遺跡攻略

32話:バージョン2.0.

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 アプデ前に浮遊大陸ファンタジアを渡る権利を得た私は、黄昏の戦乙女トワイライト・ヴァルキュリアの修復度を稼ぐために生産活動に励んでいた。

 その際に役に立ったのが、イベントで手に入った大量のドロップアイテム。素材として使うもよし、親方たち経由で売ってよしと、私たちの生産活動をかなり助けてくれた。
 そのおかげもあってか、アプデ後には黄昏の戦乙女の修復度をMAXにすることができそうだ。

 ちなみに時間の合わなかったヴィーンやレン、アイちゃんはそれぞれ自分で渡航権利を獲得している。
 親方たちは修復度を稼ぐ合間に私たちと一緒にボスを倒して、既に渡航権利を獲得済み。

 レベル自体は高めとはいえ、純生産プレイヤーの親方たちだけでそれぞれの最奥のボスを倒すのは、厳しいものがあるからね。

 そうして私たち【自由の機翼フリーダム】の面々は、後顧の憂いなくアプデ後を迎えられるようになった。
 アプデ後に向けて、素材集めやらレベル上げに励み、とうとうアップデートの日を迎えた。

 丸一日をかけたアップデートが終わり、現在はログイン戦争中。みんなログインしようとしてるから、ログインまでに時間がかかるんだよね……あ、ログインできた。

 現実の身体から、仮想の機械の身体へと意識が移っていく。目覚めた場所は、いつものガレージの中だ。
 外に出てガレージをインベントリへとしまい、陽の光を浴びながら大きく伸びをする。装甲の擦れる心地いい音を聴きながら、私は伸びを止めた。

 機械だからこういうことはしなくてもいいんだろうけど、中身は人間だからね。無意識でやっちゃうのは仕方がない。

『おっと、まずはアップデートの詳細を確認しとかないとね』

 メニューから運営のお知らせを確認して、アプデの追加点なんかがないかを確認する。
 んー、特に変わりはないかな? お知らせに載ってない内容は、プレイヤー側で見つけなきゃ分からないようになってるっぽいし。

 さて、と周りを見渡せば、ちょうどヴィーンがログインしてくる所だった。うん、いつも通り綺麗なエルフさんだ。

「おはよう……で、いいのかな、ミオン」
『おはようヴィーン。他のみんなは?』
「レンとアイは少し遅れるそうだ。親方たちは既にログイン済みで、修復度の最後の調整をやっているよ」
『調整?』
「ああ。修復度がぴったり百万になるように、端数を調整中らしい」
『よくやるなぁ』

 親方とか、そういうところ拘りそうだもんねぇ。それに付き合わされてる他のみんな……うーん、合掌!

「ミオンはアップデートの詳細の確認はしたかい?」
『もち』

 そのままヴィーンとだべっていると、ログインして来たのかそれぞれのガレージの中からレンとアイちゃんがやってきた。

『おはよう、二人とも』
『おは』
『はよはよ。いやぁ、楽しみすぎて中々寝付けなかったぜ』
「もしかして、遅れた理由はそれかい?」
『ああ。ちょっと寝過ごした』
『ん。遠足の前日と同じ』
『いや、小学生の頃と一緒にされても困るんだが……』
「ふふ。まぁ、楽しみなのは私も同感だ。おっと、忘れるところだった。アップデートの詳細がお知らせに来てるから、確認だけはしておいてほしいな」
『りょー』
「お。来たな、嬢ちゃんたち。こっちの準備はできてるぜ」

 わいわいガヤガヤと話していると、親方の声が聞こえてきた。声がした方を向けば、親方たち四人が黄昏の戦乙女の前にいた。

『親方たち、おはよう』
「おう、おはよう。早速で悪いが、修復度の確認してもらっていいか? あと鉄のインゴット一つでぴったり百万になるように調整してみたんだが」
『おけおけ』

 [戦艦・ホーム]黄昏の戦乙女 レア度:ユニーク
 修復度:999999.5/1000000[捧げる]
【収納不可】【譲渡不可】【移動不可】

『うん、ばっちり0.5だけ残ってるね!』
「てことでほれ、鉄のインゴットだ」

 親方からトレード申請が送られてきたので、了承して鉄のインゴットを一つ受け取る。私のインベントリには鉄のインゴットは入ってないからなぁ……全部加工済みなんだよね。

『よし! それじゃあ最後の素材、捧げます!』

 ポチッと捧げるのボタンを押して、インベントリの素材を選択する。
 鉄のインゴットを捧げれば、メニューの数字が1000000ピッタリになり、表記が変わる。

 [戦艦・ホーム]黄昏の戦乙女 レア度:ユニーク
 所有クラン:【自由の機翼フリーダム
 魔力充填率:100%
 稼動効率:100%
 
【収納不可】【譲渡不可】【クランメンバー以外訪問不可】

 よっし! これで名実ともにこのふねは私たちのものになったね! 早く中を見てみたい!
 と、く気持ちを抑えて、更新された内容をみんなと共有する。

「ふむ。するとこいつは魔力を溜めないと動かせねぇってことだな? こうやって《鑑定》で魔力残量が分かるのはありがたいぜ」
「それに、稼動効率の詳細を見れば、どこがどんな風に稼動してるのかが分かるのもいいね。それだけ修理もしやすい」
『……なぁなぁ! これで黄昏の戦乙女こいつはアタシたちのものになったんだよな!?』
『うん、そうだよ!』
『くぅぅ! いいねぇ! こうしちゃいられない! 早く戦艦の中に入ろうぜ!』
『……ん。気になる』
「ははは。実を言うと私も気になってしょうがなかったんだ。ミオンもそうだろう?」
『もちろん! というわけで、早速私たちの黄昏の戦乙女ホームの中を確認だ!』
「「『『おー(おう)!!!!』』」」

 黄昏の戦乙女に入るには、ホームの所有権または訪問権が必要になる。ま、そこら辺は他のクランのクランハウスと仕様は同じかな?
 システムが自動で処理を行ってくれたから、黄昏の戦乙女の所有権は私たちが持ってることになる。いちいち役所とかに行かなくていいのはありがたい。

 黄昏の戦乙女に触れれば、ホーム内に転移するか否かのポップアップが表示された。私たちは迷うことなく転移するを選ぶ。
 瞬間視界が切り替わり、森を背景とした場所からだだっ広い倉庫のような場所に移る。

「ここは……格納庫か? 結構凝ってるじゃねぇか」
「しかし、魔機人マギナの格納庫にしては大きすぎるような気もしますね。これはもしかしたら、もしかするかもしれませんよ?」
「……なるほどな」
『ん、どういうことだ?』

 フラハムさんの言葉に首を傾げるレン。整備班メカニックのみんなが浮かべるニヤリとした笑顔に、私はピンと来た。

『――もしかして、本物の機動兵器ロボットなんかがあったりするんですか!?』
「可能性はあるだろうよ。じゃなきゃ、こんなに広い格納庫は必要ねぇ。現に、魔機人と比べても大きいカタパルトデッキみたいなのが置いてあるしな」
『……ホントだ!』

 見れば、私たちの視界の先には、外に繋がっているであろう開閉できそうなハッチと、そこに繋がるレールのようなものが敷かれたカタパルトデッキが見える。
 そのサイズは明らかに私たち魔機人よりも大きい。うーん、夢が広がるね。

「ただ、現状でそういったものの話は出ていない。もしかしたら、新しい浮遊大陸ファンタジアの方に情報が眠っているかもね」
『……わくわく』
『そうだね。いつまでも格納庫ここにいるわけには行かないか。とりあえず軽く艦内を見て回って、艦橋ブリッジを目指そう!』

 マップを確認すれば、格納庫の次は部屋が沢山ある居住区になっているみたいだった。
 私たちは、格納庫から続く扉を開けて、そのまま艦内を進んでいく。扉の先は廊下になっていて、いくつかの扉が見えた。

 廊下の内装は至ってシンプルで、無骨というか、派手派手しくない重厚な感覚を覚える。足を踏み出せば、コツンコツンと音が鳴る感覚が心地いい。私はこういう雰囲気好きだな。
 そのまま扉の一つを開ければ、中はマップの通りに部屋になっていた。

「ほう」
『……んー。なんか、味気ないっつーか……あー、なんて言うんだ、こういうの』
『シンプル?』
『そうそう。すごいシンプルだな』
「まぁ、否定はできないね」

 中を覗いてみれば、硬そうな金属製のベッドしか無かった。おそらくここら辺は大昔の魔機人が寝ていた場所なのだろう。人間じゃこの硬いベッドで寝ることはできない……いや、無理すればいけないことはないけど、好んで寝ようとは思えない。

 部屋の内装は廊下と同じようにシンプルで、余計なものは一切置いていないようだ。ここはクランメンバー用の部屋らしく、一人一部屋使えるらしい。余裕のあるときにでも、自分好みに模様替えするのはありだろう。

 他の部屋もチラリと確認してみたけど、魔機人用の部屋とそれ以外の種族の部屋が分かれているみたいだった。見分け型はベッドだね。魔機人のだけ異様に硬い金属のベッドだからわかりやすい。

『なぁ、部屋はそろそろいいんじゃねぇか? 早く他の場所も見てみたいぜ』
『実は私も早く次の場所が見たくてソワソワしてたよ。じゃ、マップ確認してさっさと行こうか』

 黄昏の戦乙女は、私たちが入ってきた格納庫から順に、廊下を挟んで乗員の部屋、食堂、娯楽室、そこから艦橋と動力部に分かれるようだ。

 順番に食堂と娯楽室も確認したけど、こちらにも置いてあるものはなかった。
 使いたいなら必要な設備を修理なり製作なりしろってことなんだろう。まぁ、今のところは必要ない場所なのでスルー。

 ひとまず艦橋は置いておいて、先に動力部を見に行くことにする。娯楽室から先にもいくつもの扉があったけど、そのどれもが使用停止状態だった。マップにも何も写っていない。ここら辺も修理するなりして使えってことなんだろうか。

 動力部に続く扉はロックがかかっていて、【自由の機翼】のメンバーがいないと開かない仕組みになっているようだ。安全性もそれなり、と。

「おお……こいつは……」
『綺麗。美しい……』
『だな。キラキラ光ってやがるぜ……』

 扉を開けた先にあったのは、巨大な結晶のようなものだった。
 緑……というよりも、翡翠色に輝くその結晶は、キラキラとした粒子を放出しながらゆっくりと回転していた。

 ……というよりも、これあれだね。魔機人わたしたちの中にも入ってる、魔力結晶炉マギアスタルドライヴをめっちゃ大きくしたって感じの結晶だ。
 なるほど。確かにこれなら戦艦の動力としては申し分ないかもしれない。

 巨大な魔力結晶炉に魔力を充填するには、本体の下部に設置されている小さい結晶に手を触れて魔力を注ぎ込めばいいみたいだ。

 現状では私たち魔機人のMP……もとい、EN量が高いため、少なくなってきたら私たちの誰かが魔力を補給するということになった。まぁ、パーツ作る時と同じ要領でやればいいってことだね。

 というわけで、最後にやってきたのが艦橋。中心には艦長席が備えつけられており、その周囲にはオペレーターや火器管制の人員が座るであろう席があった。
 一番奥には操舵席と、外の様子が確認できる巨大モニターが設置されている。今は、深い森の様子が映し出されていた。

『さて、と。とりあえずブリッジで作業する人を決めようか。最低限操舵と、艦長は決めないとね』
「艦長ならミオンでいいんじゃないのかい? クランリーダーでもあるし」
『いやいや、私は有事の際は出撃しないといけないからね。戦闘の度に毎回毎回いなくなる艦長なんてダメじゃない? ここはヴィーンを艦長に推したいんだけど』
「ふむ。まぁいいんじゃねぇのか? 俺たち整備班は基本格納庫にいる予定だしよ」
「なら、私が操舵を担当してみたいですね。整備班ではありますが、こういう巨大な戦艦を動かすのも心が踊ります」

 どうやらフラハムさんは操舵をやってみたいとのこと。某足付きの守護神みたいになってくれると嬉しいな。

『レンとアイちゃんは?』
『ん? アタシはちまちま操作してるより剣振ってた方がしょうに合ってるからパスで』
『ん。私も戦いたい』
『おっけー。ってことで、艦長さんにはこれを進呈』
「……帽子かい? それにしては出来がいいね」
『ま、実際にある軍の帽子を参考にして作ってみたからね』

 私がヴィーンに渡したのは、白い帽子に黒いつばがついている、海軍みたいな帽子だ。まぁ、私の《裁縫》だとちゃんとしたエンブレムを刺繍するのが難しくて、適当な図柄になっちゃってるんだけど。いつかは【自由の機翼】のクラン章なんかを作って、刺繍したいところだ。

『それで、まずはどこに行く? 早速航海の旅に出ちゃう?』

 まぁ、周りは海じゃないから航海ってよりも、航空かもしれないけど。

「いや、まずはここから北の街ノースファスディアを目指すよ。そこで次の大陸へと続く空路図を手に入れよう。私たちは全員渡航権利を持っているから、手続きをすれば貰えるはずだよ」

 あー、完全にテンション上がって忘れてた。
 そうだよね。空路図がないと、どこからどの方角で向かえば次の大陸に着くかなんてわかんないもんね。
 自前の船とか艦とか持ってないプレイヤーは、定期便で向かうから特に気にするところじゃないけど、私たちは違うからなぁ。

『よし! そうと決まれば早速出航だ! このまま立ってるのもなんだし、私はオペレーターのところに座っておこう』
「ふむ。なら俺は火器管制のところにでも座っておくか」

 そんな感じで全員がそれぞれの席に着く。魔機人の表情は分からないけど、それ以外の種族のみんなはウキウキとした表情を浮かべていた。

『……よし! じゃあ艦長! お願いします!』
「やれやれ。これも様式美ってものかな……こほん」

 ヴィーンは私が渡した帽子を深く被ると、咳払いをする。

「各員! システムチェックを!」
「推進機関に異常なし。魔力結晶炉の稼働状況、正常値です」
『メンバー全員の乗艦を確認!』
「黄昏の戦乙女の各機関、正常に稼動中。システムオールグリーン!」
『艦長、行けるよ!』

 全員ノリノリで各部の確認を終えた。ここまでノリノリだと、私も盛り上がってくるよ!
 私がチラッとヴィーンに視線を送れば、ヴィーンは頷いて右手を前に突き出し、叫ぶ。

「……【自由の機翼フリーダム】旗艦、黄昏のトワイライト戦乙女・ヴァルキュリア、発進する! 上昇後、前進微速!」
「了解しました! 全乗組員は、発進時の衝撃に備えてくださいよ! 黄昏の戦乙女、発進します!」

 フラハムさんがノリノリでヴィーンに応え、黄昏の戦乙女が一瞬、ぐらりと揺れる。
 こうして黄昏の戦乙女は、再び空へ舞い上がった。
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