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Chapter2.5:アップデートと遺跡攻略

31話:【遺跡の最奥を護る鉄の巨人】

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 ガーディアン・アイアンゴーレム・ゲートキーパーが動き出すのと共に、大盾と両手剣を構えた兄さんと大斧を構えたカンナヅキさんが前に出る。
 ブン、とその巨体に見合わぬスピードで振り下ろされるゲートキーパーの直剣を、兄さんは大盾で受け流すように逸らした。

 衝撃と共に直剣の切っ先が地面にめり込む。動きは軽快ながらも、その一撃は重く鋭い。重厚な鎧のような見た目に反して、動きは素早いようだ。それでも、兄さんの護りを抜くことはできない。

「ちぃ、やっぱり浅いか!」
「カンナヅキ! 横着しないでちゃんとアーツを使っていけ!」
「分かってらァ!」

 その隙にカンナヅキさんの振るう大斧がゲートキーパーの右腕を捉えるものの、軽く火花を散らしたくらいで大したダメージはなさそうだ。アイアンゴーレムなだけあって、耐久の高さも今までのゴーレムとは比べ物にならない。

 高機動、高威力、高防御の三拍子が揃っているゲートキーパーの攻略は簡単ではないだろう。
 だけど【アーティファクト・ゴーレム】ほどの強さは感じない。速くて硬くて強いけど、それだけだ。

『私の攻撃は効くかなっと!』

 視界内に現れた照準レティクルをゲートキーパーに合わせて、トリガーを引く。銃口放たれた光線は減衰することなくゲートキーパーの肩を穿ち、突き抜けた。

 なるほど。【アーティファクト・ゴーレム】ほどの属性耐性もない、と。これなら、私の攻撃が充分通るね。

「あら。私を忘れてもらっては困りますわ?」

 私が再びトリガーを引いたタイミングで、リリスタリアさんが翼をはためかせて頭上を飛ぶ。
 マギアライフルの一撃で怯むゲートキーパーを横目に、槍を使った連続攻撃を叩き込む。

 リリスタリアさんはゲートキーパーのヘイトを稼ぎすぎないように調整して、ゲートキーパーの周囲を旋回し続ける。隙を見つけてはアーツを発動させ槍を突き、攻撃を受ける前に戻りと、ヒットアンドアウェイを繰り返していた。

 私も飛ぼうと思えば飛べるけど、翼人ほど自由に空を飛べるわけじゃないからね……やっぱり飛行用のバックパックは作っておきたい。うん、素材が集まったら作ってみようかな。

「【ヘイト・ボルテージ】! 【タウンティング・シールド】!」

 私たち攻撃役がヘイトを稼ぎすぎてゲートキーパーのターゲットが向けば、ユージン兄さんはヘイト上昇系のアーツで直ぐにターゲットを取り返してくれる。どうやら今回はタンク役に徹底してくれるようだ。

「防御は俺に任せろ! 攻撃は任せた!」
「「『任された(ました)!』」」

 ゲートキーパーの攻撃パターンは、そんなに多くない。
 右腕の剣による攻撃に、左腕の盾を使ったシールドバッシュ。剣の攻撃は振り上げに振り下ろし、薙ぎ払いの三パターンだ。とは言ってもゲートキーパーの巨体から放たれる一撃は、威力のその一つ一つがアーツクラスと言ってもいい。

 その一撃一撃を、それぞれの手に持った大盾で時に受け、時に受け流すユージン兄さん。アタッカーとしてもタンクとしても優秀な頼れる兄さんだ。

 カンナヅキさんは一撃一撃を重視するように立ち回っている。全身の力を使って振り下ろされる大斧の一撃は、ゲートキーパーの防御を抜いて簡単にHPを奪い去っていく。

 私は兄さんの後ろに陣取り、EN残量と自動回復量を確認しながらマギアライフルを撃ち放つ。ヘイト管理は兄さんがやってくれているから、私はヘイトを気にせずにバンバンダメージを与えていく。頼れる兄さんがいて私は嬉しいよ。

 それにしても、やっぱりと言うべきか、マギアライフルのEN消費が結構重いね……その分ダメージも大きいんだけど、他の種族のアーツの威力と消費ENと比べると、少し効率が悪いかもと感じてしまう。まぁ、アーツと違ってクールタイムがないのが強みなんだけどね。

 これはアプデが来たら本格的に色々強化しないといけないかもなぁ……なんてことを思いつつ、ライフルでゲートキーパーのHPを削っていく。

 時折強力な攻撃が兄さんの防御を抜いてダメージを与えてくるけど、リリスタリアさんの放つ回復魔法でそのダメージも直ぐに回復してしまう。うーん、頼もしいね。

「はっ! やっぱりボス戦はスキルレベルの上がりがいいな!」

 ユージン兄さんはゲートキーパーの攻撃を大盾二枚で捌きながら、獰猛な笑顔を浮かべた。
 ギャリィン! ガキィン! と金属同士がぶつかり合う派手な音を立てながら、ゲートキーパーのヘイトを稼ぐ兄さん。

 その隙に私たちが攻撃を続けて、あっという間に一本目のHPバーが削り切れる。

「こいつは二本目を削り切るまで行動パターンの変化がないから、存分にやってくれ!」
『了解!』

 その後も特に動きに変わりはなく、兄さんがゲートキーパーの攻撃を捌き、私たちがゲートキーパーに攻撃を加えていく。
 ENの消費を考えながらの射撃だから頻繁に撃てるわけじゃないけど、私の攻撃は着実にゲートキーパーのHPを削っていた。

「【大切断】! 【大伐採】! も一つオマケに【月天魔断】!」
「私も! 【エアロ・ランス】! 【ドリル・ランス】! 【ブレイク・ランス】! これもオマケに持っていきなさい!」
「ちょ、お前らは少し自重しろ! 【ヘイト・ボルテージ】! 【タウンティング・シールド】! 【ターゲット・ロアー】!」

 カンナヅキさんたちのアーツ乱舞に、思わずヘイトを持っていかれそうになった兄さんがヘイト上昇系のアーツを発動する。
 こんなことがありながらも、ゲートキーパーのHPはどんどんと削れていき、遂に二本目のHPバーを削り切った。

「ここから攻撃パターンが変わるから、各自注意!」
「おう!」
「ええ!」
『分かった!』

 仕切り直しとばかりにゲートキーパーはバックステップ。私たちから距離を取ったゲートキーパーは右手に持った剣を地面に突き刺すと、左腕の盾から短剣を――私たちからしたら普通に大きい――取り出し、右手に握る。
 地面に突き刺した剣は空いている左手で握り、ゲートキーパーは二刀流状態になった。

「さっきまでと同じように俺がヘイトを稼いで防御するが、さっきよりも攻撃の威力と密度が上がっている。リリスタリアは回復のために後衛に戻ってきてくれ! 代わりにミオンちゃんにアタッカーを任せたいんだけど……大丈夫?」
『任せて!』

 私はマギアライフルを肘側に回転させて格納すると、バックパックから両手でサーベルを引き抜き、刀身を出現させる。

「ユージン、俺は?」
「お前は好きに動け。俺の指示がなくても動けるだろ?」
「まぁそうだけどよ……こう、パーティメンバーとして俺だけ指示がねぇってのもな」
「意外にめんどくさいなお前……まぁいい。ならカンナヅキは今までと同じくアタッカーだ。斧系統の特徴である高火力なアーツをバンバン決めてやれ」
「おうよ!」

 作戦会議が終わったところで、ゲートキーパーが一番ヘイトを稼いでる相手――ユージン兄さんに駆けてくる。そのまま振り下ろされた直剣と短剣の一撃を両の大盾で防ぎつつ、兄さんは声を上げた。

「さぁ、やるぞ!」
『もちろん!』

 私は地面を蹴るのと同時にスラスターを噴かせて急加速し、両手のマギアサーベルでゲートキーパーとのすれ違いざまに左の脛を切り裂く。
 バーニアの噴射で方向を変えつつ、再びスラスターで加速。同じく左の膝裏に向けてサーベルを振るった。

 何度か集中して左の膝を狙えば、蓄積ダメージが部位破壊を起こし、ゲートキーパーの体勢が崩れる。
 カンナヅキさんが嬉々として効果力アーツを撃ちにいくのを横目に、私は残った右膝にサーベルの連撃を加え、同じように部位破壊を引き起こす。

 完全に両膝を砕かれたゲートキーパーは盾も剣も放り投げて、両手を地面について頭を垂れた。
 そんな決定的な隙を、私たちが逃すはずもなく。

「「「『よっしゃあ(ですわ)!』」」」

 残った最後のHPバーを容赦なく削り切るのだった。



 *



「いやぁ、いつもより楽だったな」
「ふふふ。これもミオンさんのおかげですね」
『いえいえ。みなさんの火力があってこそですよ。私一人だったら、途中で部位破壊が直ってこんなに早く倒すことなんてできなかったと思いますし……』
「ま、そういうことにしておいてやるか」

 ゲートキーパーを倒した私たちはレベルアップとドロップアイテムを確認した後、遺跡の入口まで戻っていた。〈散華の森〉と違ってこの遺跡はボスを倒した後に帰還用の魔法陣が現れるようで、帰りはそれで戻ってきたってわけ。

『これでアプデ後に直ぐに他の浮遊大陸ファンタジアに向かえます! 今日はありがとうございました!』

 私は三人に頭を下げる。

「ミオンちゃんのためならこれくらいなんてことはないさ」
「まぁ、実際何回も倒してるボスだしな。スキルレベル上げになるから、ボス戦のお誘いはこれからも大歓迎だぜ」
「私は同じ女性プレイヤー同士、もう少し仲良くなりたいですわね。また用があれば……いえ、用がなくても、是非呼んでほしいですわ」
「そうだな。同じクランマスター同士だ。仲良くしようぜ?」
『はい!』

 三人はそのままボスアタックをしているクランメンバーの監督につくということで、この場での解散となった。
 さてさて。アップデートの日まであと少し。それまでには何とか黄昏の戦乙女トワイライト・ヴァルキュリアの修復度をMAXにしたいところだね。
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