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Chapter.2:黄昏の戦乙女と第一回イベント

20話:親方と愉快な仲間たち

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 どうも、ミオンです。
 第一回イベントを四日後に控えた今日、皆様はいかがお過ごしでしょうか。
 私は……いえ、私たちは、ひたすら鉱石を掘ってはインゴットにする作業の真っ最中です。

 修復を進めるのに必要な鉱石が〈散華の森〉の採掘ポイントだけでは圧倒的に足りなかったため、ノースディア廃鉱山にまで鉱石を取りに来ることになりました。
 襲い来るモンスターを倒しつつ、ひたすら鉱石を集めていきます。

 〈散華の森〉で鉱石を集めて〈ノースディア廃鉱山〉に移動し、〈ノースディア廃鉱山〉で鉱石を集めて〈散華の森〉に移動すると、〈散華の森〉の採掘ポイントが復活しているので、また掘り出します。
 そしてまた〈ノースディア廃鉱山〉に行くと採掘ポイントが復活しているので……以下エンドレス。

 採掘と移動に疲れたらガレージの中で鉱石をインゴットに変えて……おっと、今ちょっと変になってたね。
 とまぁ、最近の私たちはそんな感じに活動している。
 ヴィーンの方はフレンドさんのとの話し合いが長引いているということで、まだこちらの作業に参加はしていない。

 ちなみに、現在のホーム兼戦艦の修復度はこんな感じになっている。

[戦艦・ホーム]黄昏のトワイライト戦乙女・ヴァルキュリア

 修復度:1500.7/1000000

 あれから現実時間で二日ほど経ってるけど、かなり進んだ方じゃないかな?
 正直、そろそろイベントに向けて行動しなきゃいけないと思わなくもないんだけど、できる限り早くこの子が飛んでる姿を見たいんだよね。

 イベントは出たとこ勝負で行く予定。新しいパーツを作る予定もないしね。武装も……これ以上はいいかな。
 他に作ってみたい武装はいっぱいあるけど、現状で手に入る素材だけだと作れないっぽいからね。

〈ヴィーンの招待により、クラン【自由の機翼フリーダム】に新たなプレイヤーが加入しました〉

 おや? 聞いた事のないアナウンスだ。
 ログを確認したところ、私たちのクランに新しく何人かのプレイヤーが入ったらしい。ヴィーンが許可してるから、きっとフレンドさん繋がりなんだろう。
 そんなことを思っていると、ヴィーンからフレンドチャットが飛んできた。インゴット化の作業を中断して、チャットに応答する。

『ミオン、今大丈夫かい?』
『大丈夫だよ。今はインゴット作ってるだけだし。それでどうしたの?』
『私のフレンド……親方と言うんだけどね。親方とそのフレンド数人をクランに入れることはできたんだけど、彼らは生産プレイヤーで、戦闘プレイヤーほどの力がないんだ。だから、拠点である最奥に来てもらうために、中層と下層のボスを倒すのを手伝ってもらおうと思ってね』

 なるほどなるほど。中層と下層のボスならこの数日で何回か倒してるし、大丈夫だとは思う。
 あ、下層のボスって言っても、あの【アーティファクト・ゴーレム】じゃない。どうやら一度倒すと別のボスに切り替わるタイプのボスだったようで、今は【ダーク・ゴーレム】という別種のゴーレムになっている。

 【アーティファクト・ゴーレム】と違って【ダーク・ゴーレム】には光属性攻撃が効く。それも弱点属性だからすこぶる効くんだよね。
 つまりまぁ、私たちの敵じゃないと。

『おっけー。二人も連れてくよ。私一人で行ったら、後で『何で連れていかなかったんだぁ』って、恨み言を言われそうだし』
『ふふ。その光景が目に浮かぶようだよ。それじゃあ、〈散華の森〉のダンジョンの前で集合しよう。そこで自己紹介をさせるよ』
『分かった。んじゃ、また後でね』
『ああ。また後で』

 ヴィーンとのフレンドチャットを終わらせると、作業をしながらこちらに聞き耳を立てていた二人に話しかける。

『ということなので、二人も一緒に来てね!』
『おう! ここ数時間ずっと鍛冶ばっかで身体が鈍るかと思ったぜ……』
『仕方ない。作業ゲーはMMOの運命さだめ
『それは分かってはいるんだけどなぁ……』
『準備は……まぁ、わざわざ要らないか。よし、しゅっぱーつ!』
『おー!』
『ん』

 私たちは広げていたガレージをアイテムボックスの中にしまい込み、自動回復で賄えるくらいのENを使って合流地点を目指す。
 あ、そうそう。この前《自動修復オートリペア》と《自動供給オートリチャージ》スキルをレベル30まで上げたことで解放されたスキルだけど、こんな感じのスキルだった。

 《自動回復強化》
 カテゴリー:パッシブ
 自動回復するスキルの回復量を強化する。

 スキルレベルによって回復量の強化の度合いが変わってくるようだ。もちろん、すぐに取得したよ。3SPは安くない出費だったけどね。
 このスキルを得たおかげで、EN管理が更にしやすくなった。欲を言えば、パーツスキルの《魔力自動吸収》も強化して欲しかったけど、それは高望みかな。

 掲示板の情報では、何かしらの自動回復系スキル二種をスキルレベル30以上にすれば習得可能になるとのこと。便利なスキルは大歓迎だ。

 他にもこの二日間で変わったことがある。
 アイちゃんの脚部パーツに、ローラーダッシュが追加されたんだよね。EN消費で移動速度上昇だったかな。普段は足の裏に格納されていて、使用する際に展開されるようだ。

 小さいアイちゃんが、素早くなったことによって更にダメージを受けにくくなったね。最近では、レンではなくアイちゃんがタンク役になることも多い。
 見た目がちっちゃいから多少の罪悪感はあるけど……うん、適材適所だ。それにアイちゃん本人も、好き好んで相手の攻撃をバットで打ち返してるし。

 後は、私のマギアライフルがもう一丁追加されたってことくらいかな。右手側と同じジョイントを左手側にも作って接続してある。
 EN消費はさらに激しくなったけど、【アーティファクト・ゴーレム】みたいな耐性持ち以外には、遠距離から少なくないダメージを与えられるようになった。

 最早敵ではなくなった下層や中層のモンスターを蹴散らしつつ、私たち三人は上層の魔機人ダンジョンの前までやってきた。
 えっと、ヴィーンは……いた、あそこか。
 手を振ってくるヴィーンに、私も手を振り返す。

「思ったより早かったね」
『それだけ私たちも、強くなってるってことだよ。それで、その人たちが?』
「ん、ああ。私のフレンド、親方だ」
『親方?』
「そう。雰囲気から親方って呼ばれるわけじゃなくて、本当にプレイヤーネームが親方なんだ」

 ヴィーンの説明に、まじまじと親方さんを見てしまう。
 種族は人族で、鍛冶、木工、裁縫、その他etc……つまり、あらゆる生産系スキルを習得してる生粋の生産プレイヤーらしい。

 身長はドワーフほど低くはなく、身体付きはとても筋肉質だ。日に焼けた肌が眩しいね。灰色のオーバーオールがトレンドマークとなっている。
 口元に立派な髭も生えている、まさに思わず「親方」と呼んでしまいそうになる風体だ。

「ほうほう。ほうほうほう」

 件の親方は、私の視線を無視して私たち三人のパーツを見ていた。パーツから武装、その隅々に至るまで観察されているみたいだ。その鋭い視線に、私の身体に電流が走った。
 ――ああ、この人は同志ともであると。
 そして観察を終えた親方が、その口を開いた。

「……いい趣味してやがるぜ。おい、アンタ。名前は?」
『ミオンです。親方』
「ミオン……そうか、アンタが……」

 親方はそう言うと、再び私たちを観察する作業に入った。うん、現実でやったらアウトなやつだね。今はロボットの身体だし、私は気にしないけど。

 私は視線を親方の後ろにいた人たちに移す。えっと、この人たちもクランに入ってくれたんだよね。確か、親方のフレンド……だったっけ?
 その内の一人と視線が合い、会釈をする。

「あ、どうも。親方に弟子入りしているフラハムと言います。よろしくお願いします」
『どうもご丁寧に……』
「こっちが順番に、A.Tエー・ティー、ゲッガーです」
「「よろしくお願いします」」

 この人たちも同類だ。親方と、そして私と同じ匂いを感じる。
 フラハムさんは、エルフの男性。木工プレイヤーかと思えば、親方と同じくあらゆる生産スキルを習得しているようだ。鍛冶するエルフって、絵面的にいいのかな?
 見た目は長い金髪をまとめた、ポニーテールの爽やかイケメン。ちなみに、高速で動いて変形するロボットが好きなようです。

 A.Tさんは、翼人の女性。他のメンバーと違い、近接戦闘スキルもある程度鍛えている武闘派生産プレイヤーだ。
 赤紫色の長髪に見え隠れする左目がGood。泥臭いロボットが好きなようです。むせる。

 ゲッガーさんは魔人の男性。魔法系スキルと生産系スキルの融合を目指しているそうだ。
 銀の短髪を逆立てたような髪型をしていて、こちらもイケメン。
 名前の由来は、好きなロボットの名前を合わせたらしい。うん、分かるよ。いいよね。

 まさに、親方と愉快な仲間たちだね……うちのクランにピッタリだ。
 それにしても、全員が全員生産プレイヤーなんだね。一部戦える人はいるけど。現状を考えたら、生産プレイヤーが増えるのはありがたい限りだ。これで修復度の進みも早くなるね。

「ミオン」

 不意に、私の身体を隅々まで観察していた親方が立ち上がり、私の名前を呼んだ。
 見れば、親方の右手が私に向けて差し出されている。

「気に入った。これからは【自由の機翼フリーダム】の整備班メカニックとして、よろしく頼む」
『……! はい!』

 私は親方に差し出された手を握った。
 何だかよく分からないけど、私は……と言うより、私のパーツは親方のお眼鏡に適ったようだ。
 手を握り返した私を見て、親方は楽しそうに笑った。

「くくっ。この歳で昔の夢を思い出すとはな。せいぜい頑張らせてもらうぜ、ミオンの嬢ちゃん」
『嬢ちゃん!?』
「嬢ちゃんは嫌か? 俺的には一番しっくりくる呼び名なんだが」
『……いえ、驚いてしまっただけなので、それでいいです』
「そうか。あと、俺に丁寧な言葉遣いは要らねぇ。後ろの連中にもな。いつも通りの言葉遣いで頼むぜ、ミオンの嬢ちゃん」
『わかり……分かった。そうするよ、親方』
「おう!」

 サムズアップをしながら、ニカッと歯を見せて笑う親方。うーん、似合う。

「それはそうと、話はヴィーンの嬢ちゃんから聞いてるぜ。何でも、すっげえものを蘇らせようとしてるらしいじゃねぇか。早速クランメンバーとして、仕事をさせてもらいたいんだがよ」
『……そうだね。とりあえず、さっさと中層と下層を抜けちゃおう。私とヴィーン、レンとアイちゃんに別れて、順にボスを倒していこう。親方たちは二人組になって私たちのパーティーに入ってね』
「おう。んじゃ、A.Tとゲッガーが組め。俺はフラハムで組む」
「「「はい」」」

 パーティー編成を終えた私たちは、既に楽勝と成り果てた中層と下層のボスを突破。
 親方たちを連れて、最奥の拠点まで辿りついたのだった。
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