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Chapter.1:錆び朽ちた魔機人《マギナ》

6話:ダンジョンボス攻略戦②

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 さっきまでと同じように、このままHPを削り切ってやる!
 私はボスロボットの攻撃を避ける。避ける。殴る。受け流す。殴る。避け――

『ぐっ!?』

 集中力が切れてきて、避けられる攻撃も避けられなくなってきた。
 時間の感覚が曖昧で、どれだけこのロボットと戦ってるかわからない。そこそこの時間戦ってるとは思うんだけど。

 私はすぐさま体勢を立て直して、ボスロボットの動きを牽制する。
 大丈夫、着実にHPバーは削れている。焦るな私。決して勝てない相手じゃないぞ!

 深呼吸ののちに集中力を再動員させ、的確にカウンターを決めていく。
 幾度となく鳴り響く金属を打ちつける音。相手に疲労はないはずだけど、確実に弱ってるのがわかる。
 少しずつ、少しずつだけど相手の動きが遅れてきているからだ。

 最後のHPバーが半分を切ろうという時、相手の行動パターンが変わる。ここから先は未知の領域だ。さて、何が来る――?

『ぐっ!』

 右手には今まで通り剣が握られている。しかし、こちらに向けられていた左手には見覚えのある物体が存在感を放つ。

 そう、第二ラウンドで見た銃口がこちらを狙っていた。あの時は魔力弾だったけど、今回は実弾だ。
 威力も実弾の方が上のようで、一発食らっただけでこちらのHPを一割も削っていった。

 ――そうか、魔力弾だと《魔機人》スキルの魔法耐性で威力が下がるのか!

 カラン、と薬莢の転がる音が聞こえる。実弾で、しかも一発一発が重いタイプのようだ。先ほどのような連続射撃をしてこないだけマシと考えるべきかな……?

『っ、あっぶ!』

 ダン、と発射される弾丸を間一髪のところで避ける。しかし、避けた先に振り抜かれた剣が迫ってきた。
 右の剣で何とかそれを受け流し、体勢を崩されながらも左の刀で反撃しダメージを与える。

『ふぅ……っあ!?』

 ダメージを受けずホッとしたのもつかの間、体勢の崩れた私に向かって弾丸が放たれた。避けようとするも回避には至らず、HPを再び一割削りとられる。

『この……っ!』

 隙ありと言わんばかりに間髪を入れず剣を振り下ろしてくるボスロボット。私はそれをクロスさせた剣と刀で受け止めた。耳障りな金属音が響く。

 互いに力を込めて押し合う。両手を使ってる私の方が押されてるってなんて力だ。さすがボスってところかな!

『ちぃっ!』

 咄嗟に顔を逸らした私の頬を弾丸が掠める。こいつ、こんな状態でも撃ってこれるのか!
 私は脚に力を込めて、思いっきり相手の胴を蹴りつける。僅かに力が緩んだ隙に相手の剣を弾き、密着状態から抜け出した。

 危ない危ない。危うくまた死に戻るところだったよ。
 息吐く暇もなく剣を振りかぶってくるボスロボット。
 少しは休憩させて欲しいな、っと!

 息を整えて相手の攻撃を躱し、受け流し、カウンター。何度も繰り返してきたからか、この動きにも無駄がなくなってきたね。
 その後は大した事故もなく順調にHPバーを削っていく。やがて、そのHPバーのメモリがほんのわずかになった瞬間。

 ゾクッ、と背筋が凍るような感覚を覚える。目を凝らして相手を見てみるものの、相手の行動に変わりはない。
 それに、攻撃予測も発生していない。何も起こらない、はずだ。
 このまま相手の攻撃を躱してカウンターを決めて終わり。そのはずだ。

 それでも感じるこの感覚。何かのスキルが警鐘を鳴らしている。
 そもそも本当に攻撃予測はないのか? なにか、見逃していることがあるんじゃ――

『――ちぃっ!』

 私はなにも考えずに右に飛ぶ。身を投げ出した緊急回避。そのすぐ後に私のいたところを鋭い衝撃が駆け抜けていった。

 あれは、《刀剣》スキルのアーツ【ソニックブレイク】かな? 剣を振り下ろしてその剣閃を相手に飛ばす、《刀剣》スキルの中でも珍しい遠距離アーツだったはずだ。

 しかも、ダメージを与えた相手を少しの間硬直させる追加効果があったはず。瀕死になってまた行動パターンが変わったのか!  ってことは、このまま寝てちゃまずい!

 連続で飛来する【ソニックブレイク】。私はそれを全力で避け続ける。
 相変わらず攻撃予測は……いや、違う!  出てないんじゃない!  攻撃が早すぎて攻撃予測が間に合っていないんだ!  なんという落とし穴!

 とりあえずあれは食らっちゃダメだ。アーツだから普通に受け流しも出来ない。
 一度でも食らったら追加効果の硬直が入ってそのまま切り殺される!

『しまっ――』

 幾度となく襲いくる【ソニックブレイク】だったが、それを全て避けることはできなかった。避けそこねた左足に衝撃が直撃し、私は宙を舞う。

 HPが急激に減り、アーツを食らったことによって追加効果である硬直が私を襲った。その好機を逃すまいとボスロボットの剣がアーツの光を纏う。

 あの予備動作と攻撃予測の感じからすると……【スライサー】!? 身動きの取れない状況でそのアーツはヤバすぎる!  なにかない!? なにか――!

 アーツが発動し、ボスロボットが駆ける。目指すは硬直中の私。くっ、このまま黙って切られるしかないの!? まだ、できることがあるはず。私はゆったりと感じられる時間の中で、必死に頭を回転させる。

 アーツは――使えない。アイテムは――持ってない。硬直は――解けない。パーツギミックは――意味がない。

 ……? 待って、パーツギミック?

 そう言えば、アバター作成時に作ったギミックがゲームでも普通に使えてた。アバターを作った時に、腕の開閉ギミック以外に何を作った……?

『――スラスター!』

 そういえば後ろ腰にスラスターを、脚部と肩のところにバーニアを取り付けたはず。実際に使えるかわからないけど、これに賭けるしかない!
 でも、どうやって動かす? 腕のギミックは意識すれば動くけど、スラスターはどうかな。

 スラスターを噴射させるイメージで動かしてみるものの、何の反応もない。力を込めてみても同様だ。やばい、もうすぐ近くまできてる!

 どうすれば動く? なにで動く? スラスター……噴射……エネルギー?
 でもそんなエネルギーなんて……。
 ふと、視線が自分のHPゲージに向く。正確には、その下に伸びる一本のゲージ。

 そうか、ENエネルギーゲージだ!
 私は目を閉じ(感覚的に)身体の中で循環しているエネルギーの流れを感じる。その流れを意識してスラスターに向けた。
 急いで、でも焦っちゃだめ。

 そして、アーツ【スライサー】によって加速したボスロボットの剣が私の胴体を薙ぐ、その瞬間。

『いっけぇぇぇえおぉぉぉぅぉぉ!?』

 腰の辺りに集まったエネルギーがスラスターを起動させ、私を宙へと打ち上げた。おかげで【スライサー】は躱せたけど、私は空中で四肢を投げ出して無防備な姿を晒している。
 このままだと、ボスロボットに切り殺される未来は変わらないか!

 ……えっと、スラスターが推進器だから姿勢制御は、バーニア!

『ぐっ!』

 スラスターにENを送る要領でバーニアを噴射させ、姿勢を整える。スラスター含めてこれだけでENを半分も消費してしまったけど、背に腹はかえられない。
 そもそもENは使用してなかったんだから、何も問題はないはずだ。

 床と平行になった私には、ボスロボットの姿がよく見えた。どうやら空中から落ちてくる私をそのまま切るつもりらしい。剣を上段に構える姿が見てとれた。

 重力に引かれ、徐々にボスロボットへと近づいていく。あまり時間はないか!
 相手のHPバーもほんの少し。先に一撃当てられれば勝てる!

 私は両腕の剣と刀をボスロボットに向け、スラスターを噴射させる。さらにバーニアをそれぞれ別方向に噴射させて回転を加えた。
 今の私はさながら、空から落ちてくるドリルか弾丸か。
 私は、残りのENを全て消費するくらいの気持ちでボスロボットに吶喊とっかんする。

『これでも食らえぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!』

 ぐるぐる回る視界の中で、ボスロボットの姿を中心に捉える。三半規管が乱れて気持ち悪さを覚えるものの、相手の一挙手一投足を見逃さない。
 少しでも逃げる素振りを見せるなら、私はそれを追いかけるだけ!

 ――ここで、決めてやる!

『貫けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!』

 私自身が弾丸となったその一撃は振り下ろされた剣を真っ二つに折り、ボスロボットの胴体すらも貫通する。
 そのまま突き抜けた私は床に突き刺さった状態でその回転を止めた。

 ENが足りず、制動のためのバーニアすら噴けない状態だったからだ。
 ……とりあえず、床から抜け出さないと。今の格好はその……酷く滑稽だからね。

『よっ……と』

 なんとか突き刺さった剣と刀を腕の中へとしまい、ドガシャ、と背中から床へ着地する。
 そんな私の目の前には上半身と下半身が分かたれたボスロボットの残骸と、勝利を告げるログとドロップアイテムのウィンドウが表示されていた。

 勝てた。その感慨もひとしおに私はその場で座り込む。今は、ちょっと休まないと。疲れたし、なによりHPがやばい。
 無理して姿勢制御した結果身体に負担がかかったのか、HPは残り数ドットほどしか残っていなかった。

『ふぅ……』

 いくつか確認したいログもあるんだけど、全部後回し。HPの回復と呼吸が落ち着くまでは、休憩だね。
 私は一人でボスを倒した達成感と全身に襲いくる疲労感に包まれて、その場に寝転んだ。
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