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Chapter.1:錆び朽ちた魔機人《マギナ》

4話:ダンジョン

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 あれから私は、ゲーム内で六時間ほどモンスターをサーチ&デストロイしていた。
 何度も戦ったからか、この森のモンスターくらいなら鼻歌交じりに倒すことができる。おかげでスキルレベルの方もかなり上昇した。

 ま、他のプレイヤーには出会えなかったけどね。
 そうそう。確認したところ、腕部パーツに追加された情報っていうのは以下の通りだった。

 [パーツ・腕部]錆び朽ちた腕部・右(左) レア度:EXエクストラ
 STR+1 VIT+1 MIND-3
【武装収納1/1】【譲渡不可】【売買不可】【破壊不可】

 新しく武装収納という項目が増えていた。その後に続く1/1というのは、恐らく腕部パーツに格納している剣と刀のことだと思われる。あれも、武装だからね。

 そして以下は、六時間のスキル上げの成果となる。いやー、戦闘が楽しくてついつい倒しすぎちゃったね。

 [所持スキル]
 《魔機人マギナ》Lv.12(11up↑)
《武装》Lv.15(14up↑)《パーツクリエイト》Lv.1 《自動修復オートリペア》Lv8(7up↑)《自動供給オートリチャージ》Lv.5(4up↑)
《刀剣》Lv.14(13up↑)《鑑定》Lv.-- 《感知》Lv.6(5up↑)《直感》Lv.10(9up↑)《敏捷強化》Lv.9(8up↑)

 残りSPスキルポイント14

 戦ってて思ったのは、《敏捷強化》の恩恵がとても大きかったということ。
 錆び朽ちたシリーズによってAGI敏捷がダウンしている中、モンスターと対等以上に動けたのは、どう考えてもこのスキルのおかげだった。

《敏捷強化》は、単にAGIを上げるだけじゃなく、素早い動きをしようとした時にその動き自体に補正が入るみたい。
 それで相手の一撃をかわせた場面も少なくない。いいパッシブスキルを取ったね。

 それに、《感知》スキルも仕事をしてくれた。スキルレベルが上がるにつれて、意識すると周囲のモンスターの大まかな位置がわかるようになったからだ。
 感知できる範囲はそこまで広くないものの、このスキルのおかげでモンスターによる不意打ちは避けられている。

《直感》スキルは、レベルが上がるごとに攻撃予測の精度が増しているように思える。
《感知》スキルと併せて不意打ちを防ぐことができる、非常に優秀なスキルたちだね。

 未だに身体の可動に違和感は残るけど、《敏捷強化》スキルのおかげでだいぶ動きに慣れてきた感じはする。視界の方も見えにくさは変わらないけど、慣れてくれば案外どうにかなるものだ。

 しかも、《魔機人》スキルのレベルを上げることで、少量ながらも基礎ステータス値が上昇することが分かった。
 これが現在のステータス値だ。

[STATUS]
 HP:100(+300) EN:50(+300)
 STR:11(+10)VIT:23(+13)INT:0 MIND:15(-15)AGI: 33(+17)DEX:11(+6)LUK:2

 まぁINTは上がらなかったけどね!!!!!
 見た感じ、《魔機人》スキルのレベルが2ごとにHPとENが50、LUKとINT以外が1ポイント上昇しているようだ。これも()内に加算されている。

 種族レベルを上げることでのステータス上昇はないけど、スキルレベルを上げることでのステータス上昇はあるみたいだ。これはどの種族でも変わらないってことみたいだね。

 特にAGIは《敏捷強化》の分も乗っているから、固定値と合わせて-を消し去るほどになっているようだ。だけどまだまだ、速さが足りない。
 他のプレイヤーと会ってないから、自分のステータスがどれだけのものか分からないのが難点だね。

 それに六時間も狩りをしていればドロップアイテムはかなり集まる。この森に生息しているモンスターは最初に戦ったゴブリンに、ウッドウルフ、マシナリーエイプ、ポイズンスネークだ。
 まぁ、ウッドウルフ以外は問題なかったけどね。

 ウッドウルフは身体が木で構成されているため、突きをあまり通さなかった(こちらの装備が貧弱とも言える)。
 ウッドウルフを倒すためには錆び朽ちた剣でのこぎりのようにギーコギーコと切っていくしかない。ある意味、この中だと一番戦いたくない相手だ。再生能力を持ってないことが唯一の救いだね。

 マシナリーエイプは外面はただの猿なんだけど、中身は機械仕掛け。剣で切りつけた際に皮が破けてその中身を露出させた。
 何故かウッドウルフよりも柔らかかったので普通に突きと斬撃で倒せたのはよかったよ。

 ポイズンスネークは雑魚だね。機械の身体には毒なんて効かないから一方的な蹂躙よ。ある意味ゴブリンよりやりやすい。ま、毒に腐食属性が付与されていたら分からなかったけど。
 魔機人以外のプレイヤーだと結構キツい相手かもしれない。

 もっと、普通のウルフとかいてもおかしくないとは思うけど、それらは多分草原フィールドの方にいるんだろう。方角で言えば、この森の北東だね。

 ドロップアイテムもいくつか手に入れた。ただ、有用そうなドロップアイテムはあまりない。

 ゴブリンの汚れた腰蓑
 ウッドウルフの木片
 マシナリーエイプの残骸
 ポイズンスネークの皮

 使い道がありそうなのは、マシナリーエイプの残骸と、ポイズンスネークの皮くらいかな?

 ま、使い道がないやつは今度まとめて捨てちゃおうか。持ってるだけ無意味だしね。
 それに売れそうなアイテムが集まったところで、現状のパーツの状態で街には行きたくないし、売る相手もいないんだけどね。
 んー、でもマシナリーエイプの残骸は機械素材か。もしかしたらあれが使えるかも?

『《パーツクリエイト》!』

 私がスキルの使用を宣言すると、目の前にいくつかのホロウィンドウが表示される。見れば、いくつかのウィンドウには名前がついているのがわかった。

 一つは素材庫。どうやらここに《パーツクリエイト》で使用する素材アイテムを入れるみたい。
 もう一つは生成。素材庫に入れた素材アイテムをここでパーツに変えていくらしい。操作パネルやホロキーボードが表示される。

 ……くふふ、オリジナルパーツ作成、胸が高鳴ります!

 物は試しとインベントリを開き、マシナリーエイプの残骸を一つ《パーツクリエイト》の素材庫へと移す。しかしその瞬間アイテムは弾かれ、インベントリの中へと戻っていった。
 ウィンドウには、素材の条件を満たしていません、と表示されている。

 それなら、と(ゴブリン素材を除く)手持ちのアイテムを片っ端から突っ込んでいったが、どれも弾かれる結果となった。
 これにはさすがの私もむむむと唸る。なにがいけないんだろうか。素材の条件っていうのがなに一つ分からないから手の打ちようもない。

 うんうん言いながら森を歩いていると、ふと気になるものを見つけた。《パーツクリエイト》を閉じてそちらを見る。
 それは、何の変哲もない穴だった。森の動物かモンスターが掘った穴だろうか。私はそう考えて穴を無視して歩き始める。が――

『んー、でも気になるなぁ』

 気になる理由としては、森の中にぽつん、と穴が空いていること。動物やモンスターが掘ったにしては綺麗すぎる形をしていること。この二つが挙げられる。あの穴、なにかありそうね。もしかして、ダンジョンだったり?

『ま、確認するだけならタダだし』

 私は進路を変えてその穴へと近づいていく。近づくにつれて、私の中で疑惑が確信に変わった。それは、穴の奥に青く光る膜のようなものが張られていたからだ。これは、間違いない!

『もしかしなくても本当にダンジョンさんじゃないですか!?』

 ダンジョン。RPGではお馴染みの場所だろう。プレイヤーを襲うモンスターが跋扈し、巧みに宝箱が隠されており、最奥ではボスモンスターが宝物を守っている。

 このフリファンでも例に漏れずダンジョンは存在し、現在判明しているダンジョンボスが落とすアイテムはどれもが一級品の素材となる。それだけダンジョンの踏破っていうのは難しいんだけどね。

 しかも、目の前にあるダンジョンはベータテスト時代には存在していないダンジョン。つまりは、製品版から追加された新規のダンジョンだ。興奮せずにはいられない。

 未発見のダンジョンは中の様子が分からないため危険だが、その分の見返りをくれることだろう。つまり、私はこのダンジョンに釘付けになっていたわけだよ。

 ダンジョンの近くにガレージを置き、リスポーン地点として設定する。これでダンジョンで死に戻ってもここで生き返るわけだ。デスペナルティはあるけどね。

 ガレージの倉庫へ要らない素材アイテムを預けて、装備を確認する。と言っても確認するほどの装備はない。剣と刀だけだからなぁ。しかも錆び朽ちてるやつ。

 ま、とりあえずダンジョンに潜りますか。幸い、時間はまだまだある。必ず私が、このダンジョンを踏破してみせるぜ!

『ミオン、行きまーす!』

 そして意気揚々とダンジョンへと潜っていった私だったが――

『あふんっ』

 ――見事に死に戻っていました。
 ダンジョン探索は最後まで順調だった。というのも、全くモンスターが出てこなかったからだ。

 内部は近未来チックな装いで、どちらかと言えば私のガレージの内部によく似ている。壁にはよくわからない機械類が取り付けられていて、明かりとして不思議な光を灯したランプが等間隔で設置されていた。

 どんなモンスターが出てくるのかワクワクしながら進んでいたけどモンスターには一向に出会わず、宝箱のたの字もないときた。
 しかもダンジョンはほぼ直線で、最奥に扉が一つあるのみ。その扉も重厚感溢れる巨大な扉で、一目でボス部屋だとわかる。

 程なくして最奥にたどり着いた私は重そうな扉を力を入れて両手で押した。見た目ほど重くないのかあまり力を込めなくても開いたみたいで、力を入れて押した私はその場でつんのめってしまう。うう、見掛け倒しか……。

 巨大な門を通ってきた私が見たのは、このダンジョンのボスと思われるモンスター。
 見た目は私とそう変わりない、錆び付いている外見の人型ロボット。

 装甲の端々はボロボロになっているが、もとの金属の色があちらこちらに見えており、私の装備ほど朽ちているわけではなさそうだ。
 さらに近くに片手剣(ここから見える大きさ的には)が突き刺さっており、恐らくそれを武器にして戦うボスなんだろう。

 私が周囲を警戒しながら部屋の中央まで入った瞬間、目の前のロボットの瞳に光が宿り、床に突き刺さった剣を引き抜き私に襲いかかってきた。
 戦闘開始……いきなりのご挨拶だね!

『――速いっ!?』

 私はすぐさま剣と刀の刀身を出現させ、ロボットの一撃を受け止める。その頭上には、確かにHPバーが三本存在していた。

 FFOのモンスターは基本的にHPゲージが見えない。相手の反応や動き方でどれだけHPが減っているかを見るわけだ。私も六時間の狩りでだいぶ相手のHPの減ってからの動きが分かってきたと思っている。
 基本的に、と言ったのは例外があって、それが目の前のボスモンスターだ。

 ボスモンスター、または単にボスと呼ばれるモンスターにはHPゲージが存在する。その本数はモンスターによってまちまちで、三本しかないやつもいれば十本もあるモンスターもいたという。
 そして目の前のロボットの頭上にはHPゲージが三本。さて、勝てるかな?

 私は力任せにロボットの一撃を振り払い、右の剣で渾身の突きをお見舞する。私の一撃はロボットの装甲を削り、はっきりとしたダメージを与える。
 HPバーの減り方からして、バー一本に対して大体5%くらいのダメージは与えられたようだ。

 初めてのボス戦にしては、かなりダメージ入ってるんじゃない?

 私の攻撃を受けたロボットはお返しと言わんばかりに鋭い斬撃を放つ。
 辛うじてそれを避けるが、ロボットは連続で高速の斬撃を放ってくる。当然それを避け続けなきゃいけないわけで、このままだとジリ貧だ。

 ロボットは錆び付いた見た目からは想像もできない膂力と速度で剣を振り続ける。私はそれを剣や刀を使いながら避け続けた。

『ちっ!』

 そして、この戦いも終わりの時がやってきた。私がロボットの攻撃を受け損なったためだ。
 ガリガリと減っていくHP。さすがに脆すぎる、とは思ったものの自分が装備しているパーツの性能を思い出して舌打ちする。敵は、そんな私の隙を逃さなかった。

 連撃に次ぐ連撃。それをいなしそこねた私に繰り出されるアーツ。振り上げられた刀身が輝いているため、アーツを使ったのだと見当をつけた。そのアーツは私のHPを残らず刈り取っていき、死に戻りとなったのだ。

 ちなみにアーツとは、某大作RPGでいうところの特技のようなもので、今回使われたのは刀剣スキルで覚えられる《スラッシュ》だと思われる。

『アーツを使ってくるなんてきいてなーい!』

 と、半ばやけくそ気味に叫んだ私は、ガレージの入口で仰向けに倒れる。完膚なきまでに負けたぁ……同じ錆び朽ちロボットとは思えない動きだったよ。

 今の敗戦でどれだけスキルレベルが上がったか確認すると、一回の戦闘で得られる経験値としてはかなり多いことがわかった。戦闘に勝たなくても経験値が入ることが分かったのはありがたいね。

 んー、これからしばらくはあのロボットと戦ってようかな。この森のモンスターだともうレベルが上がりにくくなってきたし、この錆び朽ちた身体じゃあ始まりの街にも行きたくない。

 かっこよく、まではいかないけど、もう少しちゃんとした格好をして街に行きたいな。そのためには、この錆び朽ちたパーツシリーズをどうにかしなくてはいけない。

『ま、再戦は休憩してからかな』

 私はガレージの中へと帰り、安全を確認した後にログアウトした。
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