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Chapter.1:錆び朽ちた魔機人《マギナ》
3話:錆び朽ちた身体《アバター》
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『な、なんじゃこりゃぁぁぁぁぁ!』
機械的な補正が入った女性の叫び声が聞こえる。……あ、これ私の声か。んー、なんか少し濁って聞こえるね。発声するための機能が不良起こしてるのかな。
ゲームを開始した私、琴宮紫音ことミオンは、薄暗い整備場のような場所にいた。
恐らく、今いる場所が〈ガレージ〉の……魔機人プレイヤーに与えられる専用アイテムの内部のようだね。
って、ちっがーーーう! そんなことよりこれだよ! これ! 私の身体!
アバターエディット時の白と蒼と紫のかっこ美しい色合いがあら不思議。全身が錆び付いて今や見る影もありません!
いや確かに壊れかけのロボットとかも好きだけどさ。エク〇アリペアとか最高よ。ボロボロの機体にマントとか興奮する。でもこれは違うじゃん?
しかも、錆びてるせいか微妙に動かしづらいし……なんか視界も変な感じ。
ロボット的な補正が入ってるのは分かるんだけど、視界の端が見えにくい。これも目のパーツが錆び付いてるから……なのかな。
と、とりあえず装備を確認しよう。今装備してるパーツの説明かなんかがあるはず!
[パーツ・頭部]錆び朽ちた頭部 レア度:EX
VIT+1 MIND-3
【譲渡不可】【売買不可】【破壊不可】
[パーツ・胴部]錆び朽ちた胴部 レア度:EX
VIT+1 MIND-3
【譲渡不可】【売買不可】【破壊不可】
[パーツ・腕部]錆び朽ちた腕部・右(左) レア度:EX
STR+1 VIT+1 MIND-3
【譲渡不可】【売買不可】【破壊不可】
[パーツ・腰部]錆び朽ちた腰部 レア度:EX
VIT+1 MIND-3 AGI-2
【譲渡不可】【売買不可】【破壊不可】
[パーツ・脚部]錆び朽ちた脚部・右(左) レア度:EX
VIT+1 MIND-3 AGI-2
【譲渡不可】【売買不可】【破壊不可】
なるほど。錆び付いていたわけじゃなくて、錆び朽ちていたわけね。納得。
……いや、悪化してるんですけど!? おのれ、謀ったな運営!
ステータス上昇値も軒並み低い。他の種族の初期装備を見習って欲しいレベルだよね。
この状態で魔法攻撃受けたら、下がった魔法防御力のせいで一瞬で溶けてしまいそうだ。
ちなみに、このゲームでのステータスはこんな感じに表される。
STR=攻撃力。
VIT=防御力。
INT=魔法攻撃力。
MIND=魔法防御力。
AGI=敏捷。
DEX=器用。
LUK=運の良さ。
つまりこのパーツは、辛うじて攻撃力と防御力は上がるけど、敏捷と魔法防御力はめちゃくちゃ下がる装備だってことだね。うん、やばい。
初期装備だから壊れないってことくらいしか利点がないね、これは。
しかも何が問題って、魔機人は成長する肉体を持たないから、ステータスがめちゃくちゃやばい事になってるってことです。
そしてこれが現在の私のステータス値だ。
[STATUS]
HP:100 EN:50
STR:3(+2)VIT:17(+7)INT:0 MIND:9(-21)AGI: 15(-1)DEX:5 LUK:2
この、燦然と輝くINT0の文字。いやまぁ、魔法は使えないから問題無いんですけどね。何だろう、この無駄な敗北感は。INT0って言われてる気分だ。
ちなみに、ステータスの横の数字が確定したステータス値で、横の()内の数値が装備やスキルなどで増減する値のようだ。
それにしても、MINDの数値がえげつない。-21されてまだ残ってるみたい。まともなパーツに換装出来れば、魔法防御はかなりのものになりそうだ。説明通りってやつだね。
VITもそこそこの数値がある。これならある程度のダメージ軽減は期待できるかな?
AGIは《敏捷上昇》の通常上昇分と固定値上昇分を含めてこの数値だ。やはり-が痛い。
運は……まぁ、この状況が既に運が悪いと言わざるを得ない。
『魔機人を選んだプレイヤーの皆さんは、まずはその状態を脱却することから始めましょう』
と、目の前にそんなメッセージウィンドウが浮かび上がる。そしてそのままメールボックスへ。
……ちっ。メールを捨ててやろうと思ったら保護がかかってる! しかも外せないし! ちくせう……汚いぞ運営!
おっと、いけない。少し落ち着こうか。
ふぅ……。しかし、なるほど。確かにこれは不遇種族だ。
そりゃ、これだけ酷い初期装備な上に自分の作り上げたアバターをむちゃくちゃにされたら、このまま魔機人で遊ぼうと思うプレイヤーも少なくなっちゃうよね。
この錆び朽ちたパーツを変えようにも、変え方も分からないわけだし。
ま、私を舐めてもらっちゃ困るよ。こんなことでへこたれるもんですか。むしろ、俄然やる気が出てきたね。やってやろうじゃん!
というわけで、残念な初期装備の確認を終えた私は、ガシャンガシャンと大きな音を立てながら〈ガレージ〉の中を見て回る。
驚くことにその大きさは高校の体育館ほどの大きさがあった。高校によっては狭い体育館もあるかもしれないけれど、少なくとも私の通ってる高校の体育館と同じくらいかな。つまり、かなり大きい。
あっ、そうだ。《鑑定》で〈ガレージ〉について調べられるかな?
[アイテム・ホーム]ガレージ レア度:EX
設置不可区域以外のどこにでも設置可能。簡易ホーム扱い。
【譲渡不可】【売買不可】【破壊不可】
お、ガレージには簡単な説明が付いてるね。
ふむふむ。簡易ホーム扱いってことは、ここで安全にログアウトができるってことか。こんな序盤から簡易ホームが貰えるんだから、確かに魔機人を選ぶ唯一のメリットって言われるくらいはある。
そう言えば、このガレージもレア度EXなんだね。魔機人以外は持ってないだろうから、たしかに珍しいかも。
このゲームにおいてアイテムのレア度とは、珍しさや手に入れにくさ、強力さなどで設定されるらしい。
基本レアリティは下からC、U、R、SR、SSR、URとなっていて、それぞれに-と+の段階が存在する。
基本レアリティに関してはわかりやすく親しみやすいように、ソーシャルゲームのレア度を参考にしたらしい。
希少レアリティはEX、G、UNの三種類で、EXは種族専用のアイテムに、Gは神が遺したとされる伝説級のアイテムに付けられる。
UNにいたってはこのゲーム内で一つしか存在しないアイテムに対してつけられるレアリティだ。これらのアイテムに+や-は付かない。
つまり、種族専用のガレージやパーツなんかは基本的にレア度はEXになるわけだね。
さて、と。ガレージの中も大体見て回ったし、いつまでもここにいてもしょうがない。一回外に出てみますか。
『えっと、出口は……』
幸いなことに出口はすぐに見つかった。どうやらここは地下らしく上へと続く階段と、その先に閉じられたシャッターが見える。
ガシャンガシャンと階段を昇っていき、近くにあったボタンを押してシャッターを開く。
大きな音を立てて開ききったシャッターの向こう側には、一面の緑が広がっていた。
見渡す限り木々が生い茂っており、空は伸びた枝と葉により見ることはできない。辛うじて陽光は入ってくるらしく、木々が生い茂っている割には視界は悪くない。
ま、頭部が錆び朽ちているせいでちょっと見えにくいけどね。
『はは……あれだけ大きな音だったからね。そりゃそうなるか』
そんな私の目の前に、一匹のモンスターが現れた。緑色の肌にボロボロの皮鎧。錆び付いた剣にヨダレを垂らした不快な面構え。
第一村人ならぬ第一モンスター、ゴブリンが現れた!
――ちょっとちょっと! 《感知》スキルさんが仕事してくれないんですけど!
……って、ああ、パッシブカテゴリーだけど、意識してないと意味無いのか。次からは意識して使うようにしよう。こういう説明のない理不尽さが昔のゲームを彷彿とさせて、面白いね。
「グギャアッ!」
ガレージから現れた私を見つけたゴブリンは、一目散に剣を振りかぶってくる。攻撃範囲が視界に赤く表示されて……ってやば!
私は全力で横に飛び、身体を地面に擦り付ける。無様な姿を晒しているけど、なんとか初撃は避けられた。ナイス、《直感》スキルさん!
なお、振りかぶった一撃を躱されたゴブリンは怒り心頭のご様子。先ほどよりも鋭い殺気が私を襲う。その殺気に一瞬身体が固まってしまう。
……これが、リアルの戦闘。モニターを見ているだけじゃ分からない、生の臨場感! ゲームだけどゲームじゃない……確かな現実がここにある!
私はなんとか立ち上がると大きくバックステップし、アイテムボックス……このゲームではインベントリと呼ばれるプレイヤーの『ふくろ』を漁る。《刀剣》を取ってるから何かしらの武器はあるはず!
『武器は……錆び朽ちたソードにブレード、これだけか!』
すぐさまインベントリを弄り、錆び朽ちたソードを右手に、錆び朽ちたブレードを左手に装備する。瞬間、手に感じる重み。
見れば、私の身体と同じように錆び朽ちた武器が現れていた。性能の確認は後回し。まずはこいつを倒す!
『せぇぇぇぇぇぇいっ!』
音を立てながらゴブリンへと近づき、右の剣を振りかぶる。それをゴブリンは粗末な剣で受け止めた。
ギャリィン! という耳障りな金属音が鳴り響く。私はそのまま押し込もうとしたけど、ゴブリンも足に力を込めているのか動く気配がない。もしかして、貧相なゴブリンと同じSTRってことですか!?
お互いの武器を押し付け合う鍔迫り合い。でも、それに馬鹿正直に付き合ってあげる必要はないね。私は残った左の刀をゴブリンの首元目掛けて突き刺した。
「グギャァァッ!」
さしものゴブリンもこの攻撃は予測できていなかったのか、驚いた表情を浮かべる。
モンスターなのに、表情が豊かだね。これもフルダイブゲームだからかな?
そのまま私の刀はゴブリンの首元に深々と突き刺さっていき、赤い血を模したダメージエフェクトが飛び散る。その一撃で身体を仰け反らせるゴブリン。このまま押し切る!
突き刺した刀を捻りつつ抜き、剣でがら空きになった心臓部分を突き刺す。肉を突き破る感触に一瞬躊躇するも、そのまま剣を押し込む。
ゴブリンは断末魔の叫びと派手な赤い血飛沫のエフェクトを撒き散らし、そのまま光の粒子へと変わっていく。
戦闘終了とドロップアイテムを示すウィンドウがポップアップされ、私の初戦闘は終わった。
ふぅ、と軽く息を吐く。
〈刀剣スキルのレベルが上がりました〉
〈敏捷強化スキルのレベルが上がりました〉
『これは、かなり疲れる……』
それが私の正直な感想だった。たった一回の戦闘。それも、わずか数十秒の出来事だ。それで、この疲労感。
ま、慣れてくしかない。どんなゲームだって初心者の時は大なり小なりこんなものだろうし。
数分かけて休んだ私は、改めて両手に持つ武器を眺める。《鑑定》さんお願いします!
[武装・剣]錆び朽ちたソード レア度:EX
ATK+1
【譲渡不可】【売買不可】【破壊不可】
[武装・刀]錆び朽ちたブレード レア度:EX
ATK+1
【譲渡不可】【売買不可】【破壊不可】
分かってはいたけど、散々な数字だ。
これも初期装備だからか、三つの不可が付いている。
さて、と。ガレージで一度休憩するまでに、あと何匹かはモンスターを倒しておきたいな。
スキルレベルを上げなくちゃいけないし、もしかしたら私以外にも魔機人で始めたプレイヤーがいるかもしれないしね。
どの道、じっとしていては駄目だ。危険覚悟で森を探索しないと。
幸いなことにこのゲームには自動マッピング機能がある。それによるとここは、〈散華の森〉……始まりの街の近くの森にしては物騒な名前だね
『さて、行こうか』
忘れずにガレージをアイテム化させインベントリへとしまう。ちなみに、剣と刀は私の両腕の中へとしまってある。
そう、アバターを作成した時に作った開閉ギミックがここで役に立った。明らかに腕に入らない大きさの武装が入ったのは、とてもゲームらしい。
好きに取り出せて、手の甲から刀身だけを出すこともできる。これは是非とも活用せねば。そして、腕部パーツの情報が更新されたというメッセージウィンドウ。これは後で確認しよう。
カション、という音と共に右腕の装甲が開閉し、剣の刀身だけが現れた。ブンブンと腕を振り、重さを確かめる。
んー、しばらくはこのまま進みますか。この状態の剣にも慣れておかないといけないしね。
私は未だ違和感の残る身体を動かし、次のモンスターを探して歩き始めた。とりあえずマップを埋めつつ、視界に入ったモンスターは殲滅する方向で。
『よーし、やったるぞー!』
私のFFO初日は、始まったばかりだ。
機械的な補正が入った女性の叫び声が聞こえる。……あ、これ私の声か。んー、なんか少し濁って聞こえるね。発声するための機能が不良起こしてるのかな。
ゲームを開始した私、琴宮紫音ことミオンは、薄暗い整備場のような場所にいた。
恐らく、今いる場所が〈ガレージ〉の……魔機人プレイヤーに与えられる専用アイテムの内部のようだね。
って、ちっがーーーう! そんなことよりこれだよ! これ! 私の身体!
アバターエディット時の白と蒼と紫のかっこ美しい色合いがあら不思議。全身が錆び付いて今や見る影もありません!
いや確かに壊れかけのロボットとかも好きだけどさ。エク〇アリペアとか最高よ。ボロボロの機体にマントとか興奮する。でもこれは違うじゃん?
しかも、錆びてるせいか微妙に動かしづらいし……なんか視界も変な感じ。
ロボット的な補正が入ってるのは分かるんだけど、視界の端が見えにくい。これも目のパーツが錆び付いてるから……なのかな。
と、とりあえず装備を確認しよう。今装備してるパーツの説明かなんかがあるはず!
[パーツ・頭部]錆び朽ちた頭部 レア度:EX
VIT+1 MIND-3
【譲渡不可】【売買不可】【破壊不可】
[パーツ・胴部]錆び朽ちた胴部 レア度:EX
VIT+1 MIND-3
【譲渡不可】【売買不可】【破壊不可】
[パーツ・腕部]錆び朽ちた腕部・右(左) レア度:EX
STR+1 VIT+1 MIND-3
【譲渡不可】【売買不可】【破壊不可】
[パーツ・腰部]錆び朽ちた腰部 レア度:EX
VIT+1 MIND-3 AGI-2
【譲渡不可】【売買不可】【破壊不可】
[パーツ・脚部]錆び朽ちた脚部・右(左) レア度:EX
VIT+1 MIND-3 AGI-2
【譲渡不可】【売買不可】【破壊不可】
なるほど。錆び付いていたわけじゃなくて、錆び朽ちていたわけね。納得。
……いや、悪化してるんですけど!? おのれ、謀ったな運営!
ステータス上昇値も軒並み低い。他の種族の初期装備を見習って欲しいレベルだよね。
この状態で魔法攻撃受けたら、下がった魔法防御力のせいで一瞬で溶けてしまいそうだ。
ちなみに、このゲームでのステータスはこんな感じに表される。
STR=攻撃力。
VIT=防御力。
INT=魔法攻撃力。
MIND=魔法防御力。
AGI=敏捷。
DEX=器用。
LUK=運の良さ。
つまりこのパーツは、辛うじて攻撃力と防御力は上がるけど、敏捷と魔法防御力はめちゃくちゃ下がる装備だってことだね。うん、やばい。
初期装備だから壊れないってことくらいしか利点がないね、これは。
しかも何が問題って、魔機人は成長する肉体を持たないから、ステータスがめちゃくちゃやばい事になってるってことです。
そしてこれが現在の私のステータス値だ。
[STATUS]
HP:100 EN:50
STR:3(+2)VIT:17(+7)INT:0 MIND:9(-21)AGI: 15(-1)DEX:5 LUK:2
この、燦然と輝くINT0の文字。いやまぁ、魔法は使えないから問題無いんですけどね。何だろう、この無駄な敗北感は。INT0って言われてる気分だ。
ちなみに、ステータスの横の数字が確定したステータス値で、横の()内の数値が装備やスキルなどで増減する値のようだ。
それにしても、MINDの数値がえげつない。-21されてまだ残ってるみたい。まともなパーツに換装出来れば、魔法防御はかなりのものになりそうだ。説明通りってやつだね。
VITもそこそこの数値がある。これならある程度のダメージ軽減は期待できるかな?
AGIは《敏捷上昇》の通常上昇分と固定値上昇分を含めてこの数値だ。やはり-が痛い。
運は……まぁ、この状況が既に運が悪いと言わざるを得ない。
『魔機人を選んだプレイヤーの皆さんは、まずはその状態を脱却することから始めましょう』
と、目の前にそんなメッセージウィンドウが浮かび上がる。そしてそのままメールボックスへ。
……ちっ。メールを捨ててやろうと思ったら保護がかかってる! しかも外せないし! ちくせう……汚いぞ運営!
おっと、いけない。少し落ち着こうか。
ふぅ……。しかし、なるほど。確かにこれは不遇種族だ。
そりゃ、これだけ酷い初期装備な上に自分の作り上げたアバターをむちゃくちゃにされたら、このまま魔機人で遊ぼうと思うプレイヤーも少なくなっちゃうよね。
この錆び朽ちたパーツを変えようにも、変え方も分からないわけだし。
ま、私を舐めてもらっちゃ困るよ。こんなことでへこたれるもんですか。むしろ、俄然やる気が出てきたね。やってやろうじゃん!
というわけで、残念な初期装備の確認を終えた私は、ガシャンガシャンと大きな音を立てながら〈ガレージ〉の中を見て回る。
驚くことにその大きさは高校の体育館ほどの大きさがあった。高校によっては狭い体育館もあるかもしれないけれど、少なくとも私の通ってる高校の体育館と同じくらいかな。つまり、かなり大きい。
あっ、そうだ。《鑑定》で〈ガレージ〉について調べられるかな?
[アイテム・ホーム]ガレージ レア度:EX
設置不可区域以外のどこにでも設置可能。簡易ホーム扱い。
【譲渡不可】【売買不可】【破壊不可】
お、ガレージには簡単な説明が付いてるね。
ふむふむ。簡易ホーム扱いってことは、ここで安全にログアウトができるってことか。こんな序盤から簡易ホームが貰えるんだから、確かに魔機人を選ぶ唯一のメリットって言われるくらいはある。
そう言えば、このガレージもレア度EXなんだね。魔機人以外は持ってないだろうから、たしかに珍しいかも。
このゲームにおいてアイテムのレア度とは、珍しさや手に入れにくさ、強力さなどで設定されるらしい。
基本レアリティは下からC、U、R、SR、SSR、URとなっていて、それぞれに-と+の段階が存在する。
基本レアリティに関してはわかりやすく親しみやすいように、ソーシャルゲームのレア度を参考にしたらしい。
希少レアリティはEX、G、UNの三種類で、EXは種族専用のアイテムに、Gは神が遺したとされる伝説級のアイテムに付けられる。
UNにいたってはこのゲーム内で一つしか存在しないアイテムに対してつけられるレアリティだ。これらのアイテムに+や-は付かない。
つまり、種族専用のガレージやパーツなんかは基本的にレア度はEXになるわけだね。
さて、と。ガレージの中も大体見て回ったし、いつまでもここにいてもしょうがない。一回外に出てみますか。
『えっと、出口は……』
幸いなことに出口はすぐに見つかった。どうやらここは地下らしく上へと続く階段と、その先に閉じられたシャッターが見える。
ガシャンガシャンと階段を昇っていき、近くにあったボタンを押してシャッターを開く。
大きな音を立てて開ききったシャッターの向こう側には、一面の緑が広がっていた。
見渡す限り木々が生い茂っており、空は伸びた枝と葉により見ることはできない。辛うじて陽光は入ってくるらしく、木々が生い茂っている割には視界は悪くない。
ま、頭部が錆び朽ちているせいでちょっと見えにくいけどね。
『はは……あれだけ大きな音だったからね。そりゃそうなるか』
そんな私の目の前に、一匹のモンスターが現れた。緑色の肌にボロボロの皮鎧。錆び付いた剣にヨダレを垂らした不快な面構え。
第一村人ならぬ第一モンスター、ゴブリンが現れた!
――ちょっとちょっと! 《感知》スキルさんが仕事してくれないんですけど!
……って、ああ、パッシブカテゴリーだけど、意識してないと意味無いのか。次からは意識して使うようにしよう。こういう説明のない理不尽さが昔のゲームを彷彿とさせて、面白いね。
「グギャアッ!」
ガレージから現れた私を見つけたゴブリンは、一目散に剣を振りかぶってくる。攻撃範囲が視界に赤く表示されて……ってやば!
私は全力で横に飛び、身体を地面に擦り付ける。無様な姿を晒しているけど、なんとか初撃は避けられた。ナイス、《直感》スキルさん!
なお、振りかぶった一撃を躱されたゴブリンは怒り心頭のご様子。先ほどよりも鋭い殺気が私を襲う。その殺気に一瞬身体が固まってしまう。
……これが、リアルの戦闘。モニターを見ているだけじゃ分からない、生の臨場感! ゲームだけどゲームじゃない……確かな現実がここにある!
私はなんとか立ち上がると大きくバックステップし、アイテムボックス……このゲームではインベントリと呼ばれるプレイヤーの『ふくろ』を漁る。《刀剣》を取ってるから何かしらの武器はあるはず!
『武器は……錆び朽ちたソードにブレード、これだけか!』
すぐさまインベントリを弄り、錆び朽ちたソードを右手に、錆び朽ちたブレードを左手に装備する。瞬間、手に感じる重み。
見れば、私の身体と同じように錆び朽ちた武器が現れていた。性能の確認は後回し。まずはこいつを倒す!
『せぇぇぇぇぇぇいっ!』
音を立てながらゴブリンへと近づき、右の剣を振りかぶる。それをゴブリンは粗末な剣で受け止めた。
ギャリィン! という耳障りな金属音が鳴り響く。私はそのまま押し込もうとしたけど、ゴブリンも足に力を込めているのか動く気配がない。もしかして、貧相なゴブリンと同じSTRってことですか!?
お互いの武器を押し付け合う鍔迫り合い。でも、それに馬鹿正直に付き合ってあげる必要はないね。私は残った左の刀をゴブリンの首元目掛けて突き刺した。
「グギャァァッ!」
さしものゴブリンもこの攻撃は予測できていなかったのか、驚いた表情を浮かべる。
モンスターなのに、表情が豊かだね。これもフルダイブゲームだからかな?
そのまま私の刀はゴブリンの首元に深々と突き刺さっていき、赤い血を模したダメージエフェクトが飛び散る。その一撃で身体を仰け反らせるゴブリン。このまま押し切る!
突き刺した刀を捻りつつ抜き、剣でがら空きになった心臓部分を突き刺す。肉を突き破る感触に一瞬躊躇するも、そのまま剣を押し込む。
ゴブリンは断末魔の叫びと派手な赤い血飛沫のエフェクトを撒き散らし、そのまま光の粒子へと変わっていく。
戦闘終了とドロップアイテムを示すウィンドウがポップアップされ、私の初戦闘は終わった。
ふぅ、と軽く息を吐く。
〈刀剣スキルのレベルが上がりました〉
〈敏捷強化スキルのレベルが上がりました〉
『これは、かなり疲れる……』
それが私の正直な感想だった。たった一回の戦闘。それも、わずか数十秒の出来事だ。それで、この疲労感。
ま、慣れてくしかない。どんなゲームだって初心者の時は大なり小なりこんなものだろうし。
数分かけて休んだ私は、改めて両手に持つ武器を眺める。《鑑定》さんお願いします!
[武装・剣]錆び朽ちたソード レア度:EX
ATK+1
【譲渡不可】【売買不可】【破壊不可】
[武装・刀]錆び朽ちたブレード レア度:EX
ATK+1
【譲渡不可】【売買不可】【破壊不可】
分かってはいたけど、散々な数字だ。
これも初期装備だからか、三つの不可が付いている。
さて、と。ガレージで一度休憩するまでに、あと何匹かはモンスターを倒しておきたいな。
スキルレベルを上げなくちゃいけないし、もしかしたら私以外にも魔機人で始めたプレイヤーがいるかもしれないしね。
どの道、じっとしていては駄目だ。危険覚悟で森を探索しないと。
幸いなことにこのゲームには自動マッピング機能がある。それによるとここは、〈散華の森〉……始まりの街の近くの森にしては物騒な名前だね
『さて、行こうか』
忘れずにガレージをアイテム化させインベントリへとしまう。ちなみに、剣と刀は私の両腕の中へとしまってある。
そう、アバターを作成した時に作った開閉ギミックがここで役に立った。明らかに腕に入らない大きさの武装が入ったのは、とてもゲームらしい。
好きに取り出せて、手の甲から刀身だけを出すこともできる。これは是非とも活用せねば。そして、腕部パーツの情報が更新されたというメッセージウィンドウ。これは後で確認しよう。
カション、という音と共に右腕の装甲が開閉し、剣の刀身だけが現れた。ブンブンと腕を振り、重さを確かめる。
んー、しばらくはこのまま進みますか。この状態の剣にも慣れておかないといけないしね。
私は未だ違和感の残る身体を動かし、次のモンスターを探して歩き始めた。とりあえずマップを埋めつつ、視界に入ったモンスターは殲滅する方向で。
『よーし、やったるぞー!』
私のFFO初日は、始まったばかりだ。
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