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第9話 撫でる
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ただ髪の毛をくくっただけの状態の咲茉《えま》を見られ、俺は今まで感じたことのないほどの焦りを感じる。
そこまで暑くないのに、汗も出てくる。
「……いや、なんでもない。お前の彼女、可愛いんだな」
結翔《ゆいと》は何か言いかけていたのを飲み込んで、作ったような笑顔を見せてそう言った。
「……うん」
返事をしようか迷ったが、無視はあまりしたくないと思ったので一言だけ返す。
恐らくだが彼女の正体に気付いてしまった彼と見つめ合っているのは、尋常じゃないほど気まずい。
地獄みたいな空気が流れている。
「……それじゃ」
とにかく早くこの空気から解放されたかった俺は、帽子とメガネを拾い上げて再び歩く足を進め始めた。
◇ ◇ ◇
10分ほど歩いて、ようやく駅に到着。
周りにこちらを見ている人がいないのを確認してから、ほっとため息を吐く。
「……絶対バレたよね、?」
切符を買う機械がある前で並びながら、不安そうな顔をした咲茉《えま》が尋ねてくる。
今にも泣き出しそうな顔をしていて、ちょっと撫でてあげたくなってくる。
「……多分、な」
「だよね……。ごめん……」
マジで泣くんじゃないかと思わせるような雰囲気を出して、うつむかれたので流石に俺も我慢出来なくなった。
右手を彼女の頭に乗せて、犬を撫でるように優しく手を動かし始めた。
こんな所で泣かれると困るから、とか自分で勝手に理由を付けて。
「なぁっ!?」
突然のことで驚いたのか、咲茉《えま》は顔をほんのり赤くして、素早く後ずさりしながら俺の手から離れようとした。
そんな反応をされると、地味に悲しくなる。
「あ……、ごめん。なんか可愛かったから」
謝ろうと思っただけなのに。
ぼーっとしていたせいか、そう思いっきり口を滑らせてしまった。
その余計な一言を聞いて、彼女はさらに顔を赤く染める。
「なっ……!?」
「あ、いや! ほんとにごめん! もう二度としないから許してください……」
嫌われたらどうしようという新たな不安が出てきて、胸が苦しくなるのを感じる。
こっちは不安で潰れてしまいそうなのに、咲茉《えま》はニコッと笑った。
「許してほしかったら、また撫でて」
「……え?」
「言う方も恥ずかしいんだから、二回は言わないよー」
わざとなのか無意識のうちになのかはわからないが、彼女は視線をこちらから逸らしながら言った。
それはつまり、嫌がられていないということで良いのだろうか。
いや、きっとそういう事なのだろう。
「……ありがとう」
すごく安心した。
嫌がられていないと知って嬉しくなった俺は、何故か感謝を伝えてから再び咲茉《えま》の頭をそっと撫でる。
すると、嫌がっていないはずの彼女が逃げるようにまた後ずさりした。
顔から耳までを真っ赤にして。
「今は! ダメでしょ!」
怒っているような口調で、でも幸せそうな顔をして咲茉《えま》は言う。
確かに、周りに人がいたら恥ずかしいよな。
今更ながら気付いた俺も、顔が熱くなってくるのを感じた。
そこまで暑くないのに、汗も出てくる。
「……いや、なんでもない。お前の彼女、可愛いんだな」
結翔《ゆいと》は何か言いかけていたのを飲み込んで、作ったような笑顔を見せてそう言った。
「……うん」
返事をしようか迷ったが、無視はあまりしたくないと思ったので一言だけ返す。
恐らくだが彼女の正体に気付いてしまった彼と見つめ合っているのは、尋常じゃないほど気まずい。
地獄みたいな空気が流れている。
「……それじゃ」
とにかく早くこの空気から解放されたかった俺は、帽子とメガネを拾い上げて再び歩く足を進め始めた。
◇ ◇ ◇
10分ほど歩いて、ようやく駅に到着。
周りにこちらを見ている人がいないのを確認してから、ほっとため息を吐く。
「……絶対バレたよね、?」
切符を買う機械がある前で並びながら、不安そうな顔をした咲茉《えま》が尋ねてくる。
今にも泣き出しそうな顔をしていて、ちょっと撫でてあげたくなってくる。
「……多分、な」
「だよね……。ごめん……」
マジで泣くんじゃないかと思わせるような雰囲気を出して、うつむかれたので流石に俺も我慢出来なくなった。
右手を彼女の頭に乗せて、犬を撫でるように優しく手を動かし始めた。
こんな所で泣かれると困るから、とか自分で勝手に理由を付けて。
「なぁっ!?」
突然のことで驚いたのか、咲茉《えま》は顔をほんのり赤くして、素早く後ずさりしながら俺の手から離れようとした。
そんな反応をされると、地味に悲しくなる。
「あ……、ごめん。なんか可愛かったから」
謝ろうと思っただけなのに。
ぼーっとしていたせいか、そう思いっきり口を滑らせてしまった。
その余計な一言を聞いて、彼女はさらに顔を赤く染める。
「なっ……!?」
「あ、いや! ほんとにごめん! もう二度としないから許してください……」
嫌われたらどうしようという新たな不安が出てきて、胸が苦しくなるのを感じる。
こっちは不安で潰れてしまいそうなのに、咲茉《えま》はニコッと笑った。
「許してほしかったら、また撫でて」
「……え?」
「言う方も恥ずかしいんだから、二回は言わないよー」
わざとなのか無意識のうちになのかはわからないが、彼女は視線をこちらから逸らしながら言った。
それはつまり、嫌がられていないということで良いのだろうか。
いや、きっとそういう事なのだろう。
「……ありがとう」
すごく安心した。
嫌がられていないと知って嬉しくなった俺は、何故か感謝を伝えてから再び咲茉《えま》の頭をそっと撫でる。
すると、嫌がっていないはずの彼女が逃げるようにまた後ずさりした。
顔から耳までを真っ赤にして。
「今は! ダメでしょ!」
怒っているような口調で、でも幸せそうな顔をして咲茉《えま》は言う。
確かに、周りに人がいたら恥ずかしいよな。
今更ながら気付いた俺も、顔が熱くなってくるのを感じた。
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