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きうちゃん6 おやつタイム (エロ無)
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吸血鬼であるご主人様は、食事のために人間世界に行かなければならない。なのでご主人様のお城は、人間の世界に行き来のしやすい場所にある。
この世界の住人は、大半が人間世界について興味がない。必然的にご主人様は人間世界の観測という役割を任されている。とは言え吸血鬼以外の住人は人間のことなどどうでもいいし、ご主人様も人間世界に何をする気もなかった。
ご主人様にとっては都合が良いことに、人間の世界で吸血鬼の存在は迷信になっている。そのため人間の方から襲いに来ることもない。たまに少しだけ血液をいただきにいく程度なら、人間の街で狩をしてもそう目立つこともなかった。
定期的に人間世界の調査内容を報告共有するのも、ご主人様の役目だ。しかしあまりに興味を持たれないのではやる気がでない。最近は調査書というよりはゴシップ記事のようなものを書いているのだが、誰も止めるものがいないためそろそろ修正が効かなくなっている。ただし読まれる割合は増えた。
「ご主人様ー、そろそろ休憩しませんか?」
書斎として使っている一室に、きうちゃんが顔を覗かせる。ご主人様は書き物の手を止めて、扉の方を振り返った。
大きなフリルのついた真っ白なエプロンと、アクセントに水色のリボンが飾られた可愛らしいカチューシャ状のホワイトブリム。
きうちゃんはエプロンを着けるときは必ずメイド服とセットで着用する。ご主人様の趣味である。眷属としてお城に住むようになってからずっとなので、それについて疑問に思うこともない。
教育の賜物だとご主人様は無意味に頷いた。
ご主人様がコクコク頷いているのを肯定ととったきうちゃんは、「はーい」と返事をしてキッチンからワゴンを押して来る。
「お仕事中なのでコーヒーです」
「ああ。ミルクも砂糖もマシマシで頼む」
「ミルクたっぷりじゃないと胃が痛むんですよね。ちゃんと覚えてますよ」
きうちゃんは温めたミルクのたっぷり入った甘いミルクコーヒーをご主人様にお出しする。紅茶の給仕が似合いそうなメイド服姿だが、ご主人様の趣味で内装は現代風なこともあり、妙にちぐはぐな光景になっていた。
「きうちゃんも休憩していかないか? この間買ってきたお菓子があるぞ」
「わあい食べますー」
きうちゃんはとててとキッチンに引き返すと、すぐにお気に入りのカップを抱えて戻って来る。
ご主人様はその間に秘密の棚からバターのたっぷり入った焼き菓子を取り出しておいた。きうちゃんはお菓子を見て嬉しそうにしたあと口を尖らせる。
「むー、ご主人様どうしてお菓子隠してるんですか? わたし勝手に食べたりしませんよ」
「本当に?」
「ほんとですー。そんなにいやしんぼじゃないですもん」
ご主人様は膨れっ面のきうちゃんの頬を両手で挟み込んで顔を寄せた。
「まあそうだな。真面目な良い子の顔立ちだ」
「ふにゃ」
ご主人様にほっぺをふにふにされてきうちゃんはちょっとだけ照れた顔になってしまった。そそくさと自分のお茶を淹れて席に着く。なぜか思わずお砂糖を多めに入れていた。
「別に菓子くらい好きに食べればいい。これはただとってあっただけのやつだ」
「ご来客用とかですか?ご主人様は召し上がりませんもんね。でもお城に誰かいらっしゃったことなんて、お兄さんくらいしかないですよ」
「そういえば、最近きうちゃんはあの男のところに入り浸っているな」
「はい、人間の町に行く時はよくお邪魔してます」
「随分気に入ったもんだ。別に俺のことは気にしないで、好きなだけあいつのところに居てもいいんだぞ」
「ご主人様ったらやきもちですか~?」
きうちゃんはテーブルに肘をついて両手を組み顎を乗せると、調子に乗った様子でご主人様を見上げた。面白くなさそうな顔になったご主人様とは対照的だ。
「お兄さんてすごく優しいんですよ」
「ほう?」
「遊びに行くとおやつをくれますし、バイト帰りでもわたしのお話に付き合ってくれるし、ちょっとご迷惑をかけてしまってもすぐに許してくれます」
「そうかそうかそれはよかったな」
「もー、拗ねないでくださいよ~」
きうちゃんは、テーブルの真ん中に並んでいる貝殻の形をした黄金色の焼き菓子を手に取って一口齧る。軽快な歯触りとともにバターの香りがふんわり口いっぱい広がって、優しい甘さに自然と頬が緩んでいた。
「ご主人様だって優しいですよ?」
「優しい? 俺が?」
「優しいですよ。とっても。……でも時々意地悪なときもあるのが玉に瑕ですね~」
「そうかもな。だいたいきうちゃんも眷属だからといって、俺に絶対服従ってわけでもなし。嫌なら言うこと聞く必要もないさ」
「何を言ってるんですか。わたしは眷属だから、ご主人様に見捨てられたら生きてはいけないんです」
きうちゃんはご主人様を見上げてニッコリする。一人では人間の血を吸えないきうちゃんは、ご主人様との繋がりを断たれてしまうと生命力を補給する術がなくなってしまうのだ。ご主人様はそれを見てちょっとだけ黙ったあとで、迷うように視線をずらし口を開いた。
「……きうちゃんは今の自分をどう思っている?」
「今の? わたしですか?」
「ああ。この先やりたいこととか、こうなりたいとかそういうのでもいい。何かあるか?」
「今のわたしというのはよく分かりませんが、なりたいものなら最初からおんなじです」
きうちゃんはほんのちょっとだけはにかんで、元気いっぱいに宣言する。
「わたしはご主人様のお嫁さんになりたいです! 毎日かわいがられて、たくさんお喋りしたり、お出かけしたりするんです。それでずっと一緒に居られたら、わたしは世界一幸せでいられます」
「……そうか」
ご主人様は僅かに一瞬だけ、どこか寂しげな笑みを浮かべた。
「だからずっとお側に置いてくださいね?」
「そんなこと言っておいて、そのうちお前の方が他へ行きたくなるんじゃないのか?」
「もー、またそんな意地悪言うんですから」
ご主人様はそんなきうちゃんに苦笑しながら、ちょっとだけ真面目な顔になる。
「きうちゃん、吸血鬼が不死と言われるのは何故だと思う?」
唐突な問いかけにきうちゃんは目を瞬かせる。そして少し首を捻って問いの答えを考えた。
「えっと、人間と違って寿命がないからですか?」
「確かにその通りだが、実は死ぬ方法はいくらでもある。太陽に長時間晒されたり、血を流しすぎたりとかな。出血多量によるエネルギー喪失で体を維持できなくなる。だから定期的に生命力の源である血を取り込まないといけない」
「はい」
「だが致命傷を負ったとしても、血液の摂取が間に合えば復活する。そういうところが人間からは不死に見えるわけだな。その血を供給する人間を連れてくるのがきうちゃんの仕事なんだから、お前はかなり重要なんだ。どうだ、少しは自覚できたか?」
「わたし、大事なお仕事を任されてるんですね」
ご主人様に頼りにされているようできうちゃんは嬉しくなるも、失敗続きであることに少し申し訳ない気持になる。でもきっと大丈夫。だってきうちゃんはご主人様のためならなんだってできる。
「それじゃあ今日も、人間の街にお仕事行って参ります!」
「うむ、任せたぞ。……あの人間の男は保険として、今回こそは美少女を連れて来てくれよ」
「はいっ!がんばりますっ」
「いい返事だ。期待してるからな」
ご主人様に頭を撫でて貰い、きうちゃんは嬉しくなって満面の笑顔を見せた。
足取り軽く部屋を後にしたきうちゃんは、大急ぎでキッチンにお片付けに向かう。そこにはちょうど数匹のコウモリたちが居た。
「きうちゃんたらそんなに急いでどうしたの?」
「あっ、モモちゃん!」
モモちゃんはきうちゃんよりもご主人様の眷属として先輩で、いつもきうちゃんをフォローしてくれる。
モモちゃんと同じコウモリの眷属はお城にまだまだたくさん居て、きうちゃんはいつも一緒にお掃除などのお仕事をしていた。コウモリたちはきうちゃんの同僚でありお友達なのだ。
「今日こそ美少女の人を連れて来ますよぉ、ご主人様に褒めてもらえるように頑張ります!」
「張り切ってるねきうちゃん」
モモちゃんたちに後片付けをお願いして、きうちゃんは自室でお出かけの用意をする。
そして元気よく人間の街に向かって飛び立って行った。
この世界の住人は、大半が人間世界について興味がない。必然的にご主人様は人間世界の観測という役割を任されている。とは言え吸血鬼以外の住人は人間のことなどどうでもいいし、ご主人様も人間世界に何をする気もなかった。
ご主人様にとっては都合が良いことに、人間の世界で吸血鬼の存在は迷信になっている。そのため人間の方から襲いに来ることもない。たまに少しだけ血液をいただきにいく程度なら、人間の街で狩をしてもそう目立つこともなかった。
定期的に人間世界の調査内容を報告共有するのも、ご主人様の役目だ。しかしあまりに興味を持たれないのではやる気がでない。最近は調査書というよりはゴシップ記事のようなものを書いているのだが、誰も止めるものがいないためそろそろ修正が効かなくなっている。ただし読まれる割合は増えた。
「ご主人様ー、そろそろ休憩しませんか?」
書斎として使っている一室に、きうちゃんが顔を覗かせる。ご主人様は書き物の手を止めて、扉の方を振り返った。
大きなフリルのついた真っ白なエプロンと、アクセントに水色のリボンが飾られた可愛らしいカチューシャ状のホワイトブリム。
きうちゃんはエプロンを着けるときは必ずメイド服とセットで着用する。ご主人様の趣味である。眷属としてお城に住むようになってからずっとなので、それについて疑問に思うこともない。
教育の賜物だとご主人様は無意味に頷いた。
ご主人様がコクコク頷いているのを肯定ととったきうちゃんは、「はーい」と返事をしてキッチンからワゴンを押して来る。
「お仕事中なのでコーヒーです」
「ああ。ミルクも砂糖もマシマシで頼む」
「ミルクたっぷりじゃないと胃が痛むんですよね。ちゃんと覚えてますよ」
きうちゃんは温めたミルクのたっぷり入った甘いミルクコーヒーをご主人様にお出しする。紅茶の給仕が似合いそうなメイド服姿だが、ご主人様の趣味で内装は現代風なこともあり、妙にちぐはぐな光景になっていた。
「きうちゃんも休憩していかないか? この間買ってきたお菓子があるぞ」
「わあい食べますー」
きうちゃんはとててとキッチンに引き返すと、すぐにお気に入りのカップを抱えて戻って来る。
ご主人様はその間に秘密の棚からバターのたっぷり入った焼き菓子を取り出しておいた。きうちゃんはお菓子を見て嬉しそうにしたあと口を尖らせる。
「むー、ご主人様どうしてお菓子隠してるんですか? わたし勝手に食べたりしませんよ」
「本当に?」
「ほんとですー。そんなにいやしんぼじゃないですもん」
ご主人様は膨れっ面のきうちゃんの頬を両手で挟み込んで顔を寄せた。
「まあそうだな。真面目な良い子の顔立ちだ」
「ふにゃ」
ご主人様にほっぺをふにふにされてきうちゃんはちょっとだけ照れた顔になってしまった。そそくさと自分のお茶を淹れて席に着く。なぜか思わずお砂糖を多めに入れていた。
「別に菓子くらい好きに食べればいい。これはただとってあっただけのやつだ」
「ご来客用とかですか?ご主人様は召し上がりませんもんね。でもお城に誰かいらっしゃったことなんて、お兄さんくらいしかないですよ」
「そういえば、最近きうちゃんはあの男のところに入り浸っているな」
「はい、人間の町に行く時はよくお邪魔してます」
「随分気に入ったもんだ。別に俺のことは気にしないで、好きなだけあいつのところに居てもいいんだぞ」
「ご主人様ったらやきもちですか~?」
きうちゃんはテーブルに肘をついて両手を組み顎を乗せると、調子に乗った様子でご主人様を見上げた。面白くなさそうな顔になったご主人様とは対照的だ。
「お兄さんてすごく優しいんですよ」
「ほう?」
「遊びに行くとおやつをくれますし、バイト帰りでもわたしのお話に付き合ってくれるし、ちょっとご迷惑をかけてしまってもすぐに許してくれます」
「そうかそうかそれはよかったな」
「もー、拗ねないでくださいよ~」
きうちゃんは、テーブルの真ん中に並んでいる貝殻の形をした黄金色の焼き菓子を手に取って一口齧る。軽快な歯触りとともにバターの香りがふんわり口いっぱい広がって、優しい甘さに自然と頬が緩んでいた。
「ご主人様だって優しいですよ?」
「優しい? 俺が?」
「優しいですよ。とっても。……でも時々意地悪なときもあるのが玉に瑕ですね~」
「そうかもな。だいたいきうちゃんも眷属だからといって、俺に絶対服従ってわけでもなし。嫌なら言うこと聞く必要もないさ」
「何を言ってるんですか。わたしは眷属だから、ご主人様に見捨てられたら生きてはいけないんです」
きうちゃんはご主人様を見上げてニッコリする。一人では人間の血を吸えないきうちゃんは、ご主人様との繋がりを断たれてしまうと生命力を補給する術がなくなってしまうのだ。ご主人様はそれを見てちょっとだけ黙ったあとで、迷うように視線をずらし口を開いた。
「……きうちゃんは今の自分をどう思っている?」
「今の? わたしですか?」
「ああ。この先やりたいこととか、こうなりたいとかそういうのでもいい。何かあるか?」
「今のわたしというのはよく分かりませんが、なりたいものなら最初からおんなじです」
きうちゃんはほんのちょっとだけはにかんで、元気いっぱいに宣言する。
「わたしはご主人様のお嫁さんになりたいです! 毎日かわいがられて、たくさんお喋りしたり、お出かけしたりするんです。それでずっと一緒に居られたら、わたしは世界一幸せでいられます」
「……そうか」
ご主人様は僅かに一瞬だけ、どこか寂しげな笑みを浮かべた。
「だからずっとお側に置いてくださいね?」
「そんなこと言っておいて、そのうちお前の方が他へ行きたくなるんじゃないのか?」
「もー、またそんな意地悪言うんですから」
ご主人様はそんなきうちゃんに苦笑しながら、ちょっとだけ真面目な顔になる。
「きうちゃん、吸血鬼が不死と言われるのは何故だと思う?」
唐突な問いかけにきうちゃんは目を瞬かせる。そして少し首を捻って問いの答えを考えた。
「えっと、人間と違って寿命がないからですか?」
「確かにその通りだが、実は死ぬ方法はいくらでもある。太陽に長時間晒されたり、血を流しすぎたりとかな。出血多量によるエネルギー喪失で体を維持できなくなる。だから定期的に生命力の源である血を取り込まないといけない」
「はい」
「だが致命傷を負ったとしても、血液の摂取が間に合えば復活する。そういうところが人間からは不死に見えるわけだな。その血を供給する人間を連れてくるのがきうちゃんの仕事なんだから、お前はかなり重要なんだ。どうだ、少しは自覚できたか?」
「わたし、大事なお仕事を任されてるんですね」
ご主人様に頼りにされているようできうちゃんは嬉しくなるも、失敗続きであることに少し申し訳ない気持になる。でもきっと大丈夫。だってきうちゃんはご主人様のためならなんだってできる。
「それじゃあ今日も、人間の街にお仕事行って参ります!」
「うむ、任せたぞ。……あの人間の男は保険として、今回こそは美少女を連れて来てくれよ」
「はいっ!がんばりますっ」
「いい返事だ。期待してるからな」
ご主人様に頭を撫でて貰い、きうちゃんは嬉しくなって満面の笑顔を見せた。
足取り軽く部屋を後にしたきうちゃんは、大急ぎでキッチンにお片付けに向かう。そこにはちょうど数匹のコウモリたちが居た。
「きうちゃんたらそんなに急いでどうしたの?」
「あっ、モモちゃん!」
モモちゃんはきうちゃんよりもご主人様の眷属として先輩で、いつもきうちゃんをフォローしてくれる。
モモちゃんと同じコウモリの眷属はお城にまだまだたくさん居て、きうちゃんはいつも一緒にお掃除などのお仕事をしていた。コウモリたちはきうちゃんの同僚でありお友達なのだ。
「今日こそ美少女の人を連れて来ますよぉ、ご主人様に褒めてもらえるように頑張ります!」
「張り切ってるねきうちゃん」
モモちゃんたちに後片付けをお願いして、きうちゃんは自室でお出かけの用意をする。
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