最後の魔女

砂鳥 ケイ

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最後の魔女45 魔界へ行く

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 転移門の前までやってきた。

 案の定というか、やっぱり簡単には通してくれないみたい。転移門の前には腕を組んだ筋骨隆々の門番が2人立ち塞がっていた。
 しかも、今までの雑魚魔族じゃない。そこそこ強い?
 さて、このまま通れる⋯

「誰かいるな」
「侵入者か」

 ⋯訳ないか。

「兄者」

 容姿が似てると思ったら兄弟なのか。
 兄者と呼ばれた方の魔族が何やら魔法を行使する。

 《不可視解除サイトビジョン


 私の不可視化が解除され、儚くか弱いその姿が露わとなった。

「何だ、姿を消しているから小狡いエルフの類かと思えば人族とはな」
「まて弟よ。人族は魔法は使えぬだろう。それに膨大な魔力を感じる。油断はするなよ」

 探知魔法を使っていれば不可視なんてものはすぐに察知することは出来る。
 それを常時発動させてたことと、私がただの雑魚じゃないと見抜いたその推眼。中々有能ね。

「邪魔だから退いてくれる?」

 弟魔族が槍を構え、高速の突きを放つ。
 まさに目にも留まらぬスピードだけど、地面から飛び出した植物の蔦に止められた。

「何だこれは。こんな地下に植物だと。これも魔法か!」
「ええい、面妖な術を使うな」

 どうやら兄魔族は魔法を使い、弟魔族は武器を使うコンビプレーのようだ。
 前衛後衛と別れて戦う方が相手をする方からしたらやり辛い。

 杖先から炎を吐き出し、私の《植物の楽園プラントオブガーデン》が燃やされる。

 解放された槍を振るい今度こそ私の首を容易く刎ね⋯られる前に地面に潜り、兄魔族の背後へと周り、石化の魔法を行使する。

 しかし、何かに阻害されて魔法が効力を果たさなかった。

 一瞬隙が出来た私を両の腕で摑みかかると。
 兄魔族はそのまま握りつぶした。

 状態異常無効の術を持っていたとはね。
 まぁ、関係ないけど。

「弟よ! 後ろだ!」

 遅い。はい、まずは1体。

 再び地面から現れた私に首チョンパされた弟魔族。
 最初に地面に潜った際に《分身》を使ってた。
 本当は2人とも無力化させるはずだったけど、石化が効かなかったのは想定外。
 まぁでも手数が1つ増えるだけ。

「貴様ぁぁぁ!」

 兄魔族が怒ってる。
 地面に手をつくや否や、超振動が発生した。
 そんな魔法あるんだね。私は知らない。

 流石に立っていられなくなり、私は空中へと回避した。
 そしてそれを狙っての次なる攻撃に少しだけ冷やっとさせられてしまった。

 無数の槍が四方から私を襲う。
 恐らく元々仕掛けられていたトラップの類い。
 避けられそうもないので、緊急時にいつでも展開出来るようにしているドーム状の障壁を展開し、飛来する槍を防ぐと、トドメの雷撃を脳天にお見舞いする。
 魔力をリチャージする時間がなかった為、仕留めるまでには至らない。
 いや、この魔族自体がタフなだけかも。

 フラフラになっている状態で悪いけど、はい。首チョンパ。
 その際、キラキラと光り輝くネックレスが虚空を舞う。
 魔力的な何かを感じ、反射的に掴み取る。

 ふむふむ、なるほど。魔導具だね。石化が効かなかったのは魔法ではなくこのネックレスのせいか。
 折角なので戦利品として頂いておく。

 かなり暴れてしまったお陰で、たくさんの反応がこちらへと向かってくる。
 元々追って来て貰わないと意味がないので、丁度いい。
 魔界へ渡る転移門の前に立った私は魔力を込めて転移門を起動させる。
 転移門は魔力がないと起動しない。
 故に魔力を持たない人族は転移門を起動させることが出来ない。
 何人かの魔族が部屋の中に入って来た所で転移門を潜る私の姿をわざと目撃させ、たっぷりと挑発した後に中へと入る。

 転移門の先はすぐに魔界に繋がっているのかと思いきや、何もない真っ暗な空間が広がっているだけだった。
 正面の奥の方に見える僅かな光を頼りに真っ直ぐ進んでいくと、やがて出口へと辿り着いた。

「おぉ⋯」

 その光景に思わず口に出してしまった。
 赤い空、赤いゴツゴツとした大地。近くには拠点なのか、物資の山と武器の数々が並んでいる光景が目に映った。

 ここが魔界。

 初めてではないけど、前に来た時とは全く別の光景。場所も何処だか分からないから無理もないけど。

 探知魔法を発動させ、近くに魔族がいないことを確認した。
 どうやら待ち伏せはされていなかったようでホッと安心する。
 大量の魔族に待ち構えられていたら、流石に失礼しましたと言って退却せざるを得なかったけど。

 さてさて、まずはこの目の前に広がっている美味しそうな物資の山を全て灰にしておく。

 お、燃やした煙で魔族たちが集まって来たね。
 じゃあ、計画を実行しますかね。

 地界に待機させていた眷属、闇王ベテルギウス、龍王ヴァーミリオンをそれぞれ召喚する。

「ククッ、相手が魔族とは楽しめそうだな」
「ギウス。ヘマをしてリア様を失望させるなよ」

 闇王ベテルギウスはその名の通り、闇の魔法に特化した眷属。
 その姿は悪魔以上に悪魔っぽい姿をしている。
 というのも、まだ悪魔を見たことがなかった私が悪魔はきっとこんな姿なのだろうと想像して作成した。
 巨大な2本のツノに山羊の顔。背には漆黒の羽。
 正直怖い。子供が見たら泣きわめく事必至。

 うん、我ながら恥ずかしい。

 まだ若い頃、少しだけ妄想が激しい時にイメージして作った眷属だから、何というか恥ずかしい。
 自分の黒歴史を見ているかのよう。

 龍王ヴァーミリオンも丁度同じ頃に作った眷属。
 当時、いや今でも最強たる種族は龍族というのが常識。そんな理由から作ったのだけど⋯。
 龍本来の姿だと大き過ぎるし、かといって小さな龍だとマスコットにしかならない。見ただけで相手に威圧を与えるのが龍種の理。
 故に人型の龍族をイメージして作り上げた。
 魔法は一切使えない。だけど、龍族のように多彩なブレスを放つ。龍族はそれぞれ氷龍、火龍、風龍、雷龍の4種類に分類され、種族にあった属性攻撃しか出来ない。
 だけどヴァーミリオンは違う。
 全ての属性を操る事が出来る。故に龍王。

 あー恥ずかしい⋯私の黒歴史が⋯

 私が1人葛藤していると、いつのまにやら魔族たちが視認出来る距離まで集まって来ていた。

「なんだ貴様等は。一体どうやって魔界に侵入した」

 おうおう、集まってきたね。

「リア様、作戦は?」
「合図するまで皆殺しで」
「「了解」」

 集まって来た魔族の数は凡そ30弱。今もまだ集まりつつある。
 対するこちらは私を含めて3人。
 と言っても私は手は出さない。基本的に2人に任せる。
 私にはやる事があるから。

 折角滅多に来られない魔界に来たのだもの。最初は乗り気じゃなかったけど、来てしまったからには最大限に活用させてもらう。

 ここで新たな眷属を2体召喚する。
 増援じゃないよ?
 元々、眷属は一度に召喚出来る数は決まっている。
 だけど、この子たちは別。
 戦闘能力は皆無だけど、情報収集に長けた眷属。
 色々と探らせて頂きますね。魔王の事とかね。

 神託を待つよりも現地からの情報の方が早いに決まってる。本当に魔王はまだ復活していないのだろうか?
 それが気になる。
 今はまだ復活してなくとも近い将来復活するんじゃないかって、そんな気がする。

 3本の短剣が私を囲むように投擲されたかと思えば、ドーム型の結界めいたものが出現し、私を中に閉じ込めてしまった。

「魔女め! その中では魔法はおろか、呼吸すらできん。せいぜい苦しみながら悶え死ぬがいい!」

 あらあら、全く戦況を見てなかったバチが当たったみたい。
 ていうか、何故だか魔女ってバレてるし。
 まぁ、眷属召喚している所を見られたら流石に分かるか。

 他の2人は何やってるの⋯⋯うん、まだ戦ってるね。周りに転がる魔族の亡骸がかなりの数になってる。
 流石にこの数を2人で捌ききるのは酷ってものだね。

 結界めいたものに触れて見るけど、弾かれてしまった。段々と息が苦しくなる。
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