幻想世界の統合者

砂鳥 ケイ

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第百二十七話:魔王誕生の秘話

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約5000年前の物語。
魔王視点
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

少女の名前は、リュスティ・キキラン
後の魔王となる少女だ。

「爺、ちょっと地界へ行ってくるぞ」
「だ、駄目です!キキラン様は次期魔王の身を約束されたお方です。それをあんな野蛮人の住む世界に行かれるとは、危険に御座います!」

口うるさい爺は、妾がまだ産まれる前から身の回りの世話をしてくれている人物だ。

「大丈夫だぞ爺。妾が強いのは知っているじゃろ?」

爺の制止を振り切り、妾は今日も地界へと向かう。


魔族の世界を魔界と呼び、人族や他の種族が住む世界を地界と呼んでいる。

地界は最近になってその存在が発見された。
最近と言っても、妾の産まれる少し前の話なので、15年程昔だろうか?

本来、魔界と地界を行き来するには、魔界の辺境にある遺跡群に備え付けられているゲートを潜る必要があるらしいが、どういう訳か妾にはゲートを任意の場所に出現させる事が出来る。
妾は、その事を自分が天才なだけで疑問視したことはない。

地界に通う理由は一つ。

退屈な魔界での生活に飽き飽きしていたから。
産まれながらにしてその余り持っての才能を買われ、次期魔王となるべく英才教育を受けさせられた。
来る日も来る日も、座学に始まり、戦闘訓練もこなしてきた。
そんな生活を産まれてから今に至るまでずっとやっている。
正直ウンザリじゃ。
それに引きかえ、地界は実に胸躍らせてくれる場所じゃ。
見るもの全てが新鮮で、魔界で飽き飽きしていた退屈な人生から一転、地界には魔界では味わえないような興奮や感動で溢れていた。

魔族に似た人族以外にも獣耳や尻尾の生えた獣人族なる種族までいる。
昔から知的好奇心旺盛でよく爺に小言を言われていたのを思い出していた。

しかし、最近はある場所に出入りするようになっている。

「なんだ、今日も来たのか」

妾に話しかけるのは、妾よりも歳上の人族のシュンと言う名の青年じゃ。

以前までは、ただ宛てもなく自らの翼で地界を飛び回るだけだったが、ある日ある時モンスターの群れに襲われている人族の集団に出会った。

上空から少しの間眺めていると、人族は何処かの国の騎士団で、モンスターの討伐依頼中だというのが、彼等の話し声から推察出来た。
しかし、モンスターの実力を見誤ったのか、防戦一方で、あっという間に最後の一人だけになってしまった。

この地界に渡る条件として事前に爺から言い渡されていた事が一つだけある。

それは、地界に住む者と関わらない事じゃ。

これが条件。

という事もあり、言い付けを守るために事の成り行きを上空からひっそりと眺めていたのだが、流石にいたたまれなくなり、人族の味方をしてモンスターを片付けてしまった。

最後に残った青年も瀕死のダメージを負っていて、既に虫の息になっていた。
青年の元へと駆け寄る。

「誰かは知らんが、モンスター共を退治してくれて感謝する・・。これで俺も仲間の元へ行ける・・」

「助けて欲しいか?」

青年は、何を言われているのか分からないと言った表情をしていた。

「お前が望めば妾がその傷を癒してやるぞと言ったのじゃ」
「自分が・・助からんのは・・この出血の量を見れば分かる・・。それか、お前は・・天使か女神なのか?この事態は俺の慢心が招いた結果だ・・悔いはない・・」
「残念じゃな。寧ろその逆の方が近いかもしれん」

暫く待つが、青年からの返答はなかった。

死んだのか?

「おい、お前。まだ生きておるか?」

やはり反応がない。

胸の辺りに耳をかざしてみる。
ドクンドクンと、弱々しくはあるが、まだ心臓の鼓動が微かに聞こえていた。

妾には、儚くも動き続けるその鼓動、が生きたい。まだ死にたくない。と言っているように聞こえた。

「治癒《ヒール》」

何故妾は青年を助けたのか、この時はまだ分からなかった。
ただの気まぐれ程度にしか考えていなかった。

暫くして、青年が目を覚ます。

「こ、ここは・・天国か・・?」

青年を真上から覗き込む。

「残念じゃったな!お前はまだ死んでおらんぞ」
「お前は、あの時の天使か。やはり俺を迎えに来たのか・・」
「じゃから、天使とは真逆だと言っておる!それにお前はまだ死んでない。妾が気まぐれに命を救ってやった」

!?

青年は急に起き上がり、自分の身体の傷がない事を触り、確認した。

「あ、あれだけの怪我をお前が治したのか?」
「そうじゃ、感謝せえよ人族」
「やはりお前は天使か女神だな。責任とってくれよな」

青年が何を言っているのか分からなかった。

「何の事じゃ?」
「お前は死を受け入れていた俺を救った。だから責任を取る義務がある」

うむ・・命を助けるという事は、その責任を取る必要があるのか。中々に奥が深いようじゃ。
今回は、ただなんとなくイタズラに気まぐれ程度に助けてしまったが、今後は考えてから行動せねばならんようだ。

「責任とは、何をすれば良いのじゃ?」
「そうだな・・」

そう言って青年は考えているのか腕を組み、目を閉じている。
そして何かを閃いた様に、

「お前強いんだよな?」
「ああ、強いぞ!魔界でもトップクラスの実力じゃ。敬うが良いぞ!」

ペタンコな胸を張り、ドヤ顔を見せつける。

「なら、俺に力を貸してくれないか?」
「いいぞ」

即答した事に青年は何だか驚いているようじゃった。

「はやいな」
「暇潰しじゃ。そういえば、お前名前は何というのじゃ?」
「普通、人に尋ねる前に自分から名乗るのが常識だろ」
「そうなのか?まあ良い。妾の名前は、リュスティ・キキランじゃ」
「長いな。覚えれんからキキでいいか?」
「な!妾の名前を略すとは戯けめ!」
「俺はシュン。覚えやすいだろ?」

此奴は人の話を聞かんやつじゃの・・

「まあ良いわ。シュンか。覚えたぞ。こう見えても妾は覚えるのは得意なのだ」
「よろしくな、キキ」

はははっ、とシュンは笑う。

こんなに無礼な奴は初めてじゃな。
と思う反面、こういう雑な扱いも悪くないと思う自分も確かにいる。

シュンと握手をかわして、シュンが騎士団を務めているザムル国という場所へと向かう。

「馬がなくなっちまったから、俺の国まで歩いて3日だ」
「はっ?徒歩などありえぬ。飛んでいくぞ」
「飛ぶ?」

隠していた翼を出現させ、宙に浮いて見せた。

「凄いなキキ・・。やっぱり天使なんじゃないのか?」
「違うって言ってるじゃろ。もう、早くつかまるんじゃ」

右手をシュンへと差し出す。
シュンもその手をガッチリと掴んだ。

「ちゃんと捕まってるんじゃぞ。離して落ちても知らんからな」

少し脅してみたが、シュンは気をつけるよと一言。

つまらんな。

妾に掴まったシュンもまた自身の身体がフワリと宙に浮く。

「うわ、すご、本当に浮いてるよ」
「初めてじゃろうからな、ゆっくり飛んでやる。道案内は頼むぞ」

その後、妾はシュンと二人きりの優雅な空の旅を満喫した。
その道中、色々な話をシュンと交わした。

シュン自身の事、自分の国、この世界など、時には冗談も言い合いながら、あっという間に目的地であるザムルに到着した。
ゆっくり飛行していた為、半日以上は空を飛んでいた計算になるが、実際は数時間くらいにしか体感していなかった。

こんなに笑ったのは初めてかもしれない。


シュンと共に騎士団の仕事をこなす毎日。
モンスター討伐や他国への戦争など。
妾の強さは圧倒的だった。
しかし、妾が目立つのは良くないと二人で話し合い、なるべく表には出ないようにシュンの影として手助けしていた。

妾は心の何処かで段々と人族の青年であるシュンに惹かれていった。

気が付けば、シュンと出会ってから1年という歳月が経過していた。
シュンもまた妾には遠く及ばないにしても剣の腕っ節は見事なもので、ザムル国では彼の右に出る者はいなかった。
ザムル国もシュンと裏方からサポートしていた妾の活躍により領土を広げていった。
他国間の領土戦争において12戦12勝という輝かしい実績も上げていた。

そんなある日の出来事。

「キキはそういえば、魔族なんだよな?」
「今更?」
「人族と魔族って、共存する事が出来ると思うんだ」
「どうじゃろうな。上の者は、同族以外は下等種族と決めつけているようじゃ」
「俺達で証明してやろうぜ。魔族と人族は分かり合えるって事をさ」
「妾は、別にどっちでも良いがな」
「同盟を結べば、隠れてこそこそ来なくても良くなるんだぜ」
「それは確かに良いかもしれんな」
「だろ?」
「そうじゃな、それに妾はもうすぐ魔王になる予定じゃ」
「魔王ってなんだ?」
「んー、魔族の代表者?じゃろか」
「王様みたいなものか」

この時代にはまだ、魔王という名は知られていない。
しかし、近いうちに地界全土に魔王という名が知れわたる日が来ようとは、この時の二人には知る由もない。

「ならば、話は早いじゃないか。ザムル国の王に話を持ちかけてみようぜ」
「妾が魔王の爵位を正式に授かるのは、まだ5年は先の話じゃぞ」
「待つさ。どうせ時間はいっぱいあるしな」

しかし、二人に残された時間はそれ程長くは無かった。


シュンは今までの功績を称えられて、騎士団長に就任した。
大事な話があるとシュンに言われ朝一からシュンの元を訪れたキキ。

「俺の側にいつまでも居てくれないか」

唐突にそんな事を言うものだから一瞬呆けてしまった。

「なっ、それはどう言う意味じゃ」
「キキの事が好きだ」

かぁぁぁぁと顔が赤くなる。
こんな体験、キキは初めての事だったが、内から込み上げて来る感情にキキ自身でさえも戸惑いを隠せなかった。

「な、なにを言っておるのじゃ、シュンは!」

明らかに動揺しているのが妾にも分かる。
少なからず妾自身もシュンの事を意識していたからだ。

「妾達は、種族が違うのじゃぞ。そんな事叶うはずがーー」

シュンは妾を抱きしめる。

「この気持ちに偽りはない。種族間の違いなど関係ないさ」

言った本人も恥ずかしさからか相手の顔を直視する事が出来ない。

妾本人もまた、まんざらではなかった。
「・・・ど、同盟条約でも結んだら考えてやるかな」

ワザとそっけない態度を取っていたが、今出来る精一杯の回答だった。


それから3日後、事件は起こった。

第一次人魔対戦の火蓋が切って落とされたのだ。
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