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第二百三十三話:魔界侵攻2
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フラン視点(魔王代理メルシーの姉兼護衛)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
折角ユウ様から事前に連絡を頂いていたと言うのに、我らの聖地、魔界に低俗な輩を入れてしまうなんて、魔王様への顔向けが出来ないわ…。
「フラン、避難の状況はどうなってる?」
「はい、先程全員の避難が完了した事が確認出来ています」
「そう、なら取り敢えずは安心ね」
戦闘に関わらない一般人は、被害に遭わないよう遠方の地に作られた有事の際の地下シェルターへと避難させていた。
作戦拠点となっている応接室の扉を強引に開け、大柄な男が入って来る。
「失礼するぜえメルシー様。俺達の出撃準備が整ったんで、先発の大役我等にお任せ願えねえですかね?」
仮にも魔王様代理のメルシー様に向かってその物言い、普段ならば説教の一つも言っている所ですが、今は状況が状況なので、大目に見ましょう。
「あなたは、ガレス隊のリーダーですね」
「ああ、そうだ。精鋭20名揃えましたんで、出撃の許可を頂きたく、あぁ、ちなみに賊の生死は?」
メルシー様が私に視線を向けたので、それを頷きで返す。
「問わぬ」
「なら問題ないぜ。俺達には打ってつけだな」
確か、ガレス隊はゴロツキ共の集まりだったはず。
実力の程はそれ程高くはないだろう。
「分かった。では、先発隊の任をガレス隊に任せる。だが、無様な結果は許さぬ。重々理解するように」
メルシー様が少しだけ相手に対して威圧をかけている。
これには、今まで淡々と話していたガレスも口籠もり、動揺を隠せないようだ。
「か、必ずやご期待に…」
そう告げると、そそくさとこの場を去って行く。
「メルシー様、ガレス隊が時間を稼いでくれている内に、城外の護りを固めましょう。皮肉な話ですが、賊側には魔族も多く含まれていると聞きます。幸いにも城内転移は結界が張ってある為無効ですが、結界外壁へ転移してくる可能性は十分あります」
「フランの言う通りね、魔王城の四方に守備隊第一隊から第四隊の配備をお願い」
「畏まりました。すぐに第1隊から第四隊までの隊長に連絡を取ります」
と言っても直接指示を出しに行くなんて面倒な事はしない。
念話を使って、直接魔王様代理の指示と言う形で伝える。
「それにしても、元老院達とはまだ連絡が取れないの?」
この魔界における魔王様の次に最高戦力の位置付けに4人からなる元老院の方達が居る。
ビャッコ様の離脱により現在は、3人しかいないが、それぞれが圧倒的な迄の力を有している。
賊が侵攻してきているこの惨事に誰とも連絡がつかなくなってしまった。
「はい、やはり念話での反応はありません。今現在、それぞれの屋敷まで伝令を向かわせています」
「連絡が取れたらすぐに魔王城へ顔を出すように伝えてちょうだい」
「畏まりました」
「あの狸じじい共…こんな時くらいちゃんと働きなさいよね、まったく!」
「メルシー様、私と一緒の時はいいですけど、他人がいる時は、控えて下さいね」
威厳を放つ為にも、魔王様代理をしている間は、なるべく強い口調でいるようにお願いしていた。
ドタドタと慌ただしく駆けてくる音が聞こえてきた。
「メルシー様、失礼します。急ぎお伝えしたい内容が御座います」
「入りなさい」
緊急の要件は、予想していた通り賊共が魔王城周辺に出没したとの事。
その中で視認出来ただけでも8名の魔族がいたそうだ。
更には、その中に強者の集団であるクオーツに所属しているサラザールがいたと言う。
報告によりと、奴等が魔界へと渡って来た際に、一番近くに転移門にいたのがサラザールだった。
まだクオーツには入りたての新人だが、彼が敵側に寝返るなど、ましてや脅されて従わされるなどあるはずがない。
何かの術で縛られている可能性が高いだろう。
それなりの実力者でも術に抗えないとなると、危険ね。
他の仲間達もそうなってしまう可能性がある。
操られている仲間をあわよくば拘束し、その術を解析させる必要があるようね。
各班のリーダー達に伝え、注意勧告と同胞の捕縛を命じる。
それから暫し、交戦開始の連絡やら救援要請やらが飛び交う。
クオーツそれぞれがリーダーとなり率いるレギオンも先程全ての部隊が戦場へと赴いた。
四方から攻めて来た軍勢は中々の戦力で、当初防衛していた守備隊だけでは圧倒的に劣勢に立たされていた。
しかし、レギオンの登場により次第に盛り返し、優勢となり、2時間程度を費やし、沈静化させる事に成功していた。
しかし、こちら側もかなりの負傷者を出してしまい、城内に設けられた50人規模の療養可能な治療室も溢れかえっていた。
こちらは5倍近い人数を投入しているにも関わらず敵側の一個体の能力はこちらよりも数段上だ。
辛くも数により薄氷の勝利だったと言えるのだろう。
クオーツにも相当数の負傷者が出ていた。
「何とか一段落ついたって感じね」
「いえ、油断は出来ません。今回の首謀者がいる敵本体は未だ健在です。先陣を切ったガレス隊は全滅したとの報告が上がっています。それに…」
「フラン?」
「あ、いえ、すみません、少し考え事をしていました」
不可解なのは、敵側に敗れた同胞達が全員奴等と行動を共にしている事、あのガレス本人でさえも操られている。
命辛々逃げ帰った者の証言では、確実に殺されたであろう人物が平然と奴等の一人、背丈よりも遥かに大きな大鎌を持ち、フードを深く被り、顔が見えない人物に付き従っていたと言う。
それに、捕縛した何名かの同胞は意志はあるものの、皆別人のように様変わりしていた。
対話を試みてみたが、まともに会話が成立しない。
何を問うても
「魔族は滅ぼす」「根絶やしだ」
などと、壊れた人形のようにその言葉を繰り返し繰り返し発していた。
まるで、外見はそのままで別人に成り下がってしまったようなそんな感じだ。
捕縛した者の中には、自らの命を省みず自爆する者、一瞬の隙をついて転移でその場をやり過ごし、近くの仲間を襲う者。
まるで、呪縛にでもかけられているかのように、1人でも多くの仲間を殺めようとしているようだった。
以上の事から私の推察は…
7大魔王を名乗るあの人物は、死者を意のままに操る事が出来る能力を持っていると言う事。
もしそれが事実だとすれば、同胞達が奴に従っている理由も頷けるし、死んだ者が復活したという不可解な事象も説明出来る。
確信はない。
だけど全員の耳に入れておくべきだと私は思う。
私の推察をメルシー様に伝え、メルシー様自身から各班のリーダーへと伝えられた。
そんな中、またしても扉が慌ただしくノックされた。
「失礼します!」
「入りなさい」
報告兵は背筋をピンと伸ばし、手には紙の束を携えている。
「現在の死傷者の数を報告致します。軽傷者376名、重傷者24名、戦死者52名、行方不明者及び敵側に拘束された者が36名となっています。軽傷者は、治癒にて回復後戦線に復帰する予定です」
予想以上にかなりの数の死傷者が出ているわね。
敵側の戦力が想定以上だったのもあるのでしょうが、完全に隙を突かれたのが痛いわね。
それでもこの程度で済んだのは、事前に情報を下さったユウ様のお陰ですね。
報告兵が次の指示を待っている。
というより、この部屋の空気の重たさに押しつぶされそうな顔をしている。
ふとメルシー様の方に視線を向けると、額に手を当て深妙な顔をしている。
報告兵が気まずそうな顔をしていたので、退出の許可を出しておく。
「報告ありがとう。下がってくれていいわ」
「は!失礼しました!」
バタンと扉が閉まり、暫しの間沈黙が続く。
「メルシー様。残酷な事を言うようですが、気に止む事は後でして下さい。今は魔界への侵略者を排除する事に全力を注ぐ必要があります。でなければ、もっと大勢の犠牲者が出ます」
「ごめんなさい。フランの言う通りね」
いいえ、謝るのは私の方です。
自分でも酷な事を言っているのは分かっています。
メルシー様は私と違いまだ若い。
故に仲間の死を乗り越えるだけの場数を踏んでいない。
仲間の死に慣れて下さいと言うつもりは勿論ありません。
その感情、気持ち、悲しみを一時でいいから心の片隅に閉じ込めて時期が来たら、その時は……
「泣いてるの?」
「え?」
自分の頬を伝わる涙に指摘されるまで気が付かなかった。
メルシー様が、私の背中に手を回す。
「ごめんね、辛いのはフランも同じだよね」
「ごめんなさい…」
少しの間。そう、ほんの少しの間だけ2人で悲しみを分かち合った後、最後の手段を打って出るべく、決意を新たにする。
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折角ユウ様から事前に連絡を頂いていたと言うのに、我らの聖地、魔界に低俗な輩を入れてしまうなんて、魔王様への顔向けが出来ないわ…。
「フラン、避難の状況はどうなってる?」
「はい、先程全員の避難が完了した事が確認出来ています」
「そう、なら取り敢えずは安心ね」
戦闘に関わらない一般人は、被害に遭わないよう遠方の地に作られた有事の際の地下シェルターへと避難させていた。
作戦拠点となっている応接室の扉を強引に開け、大柄な男が入って来る。
「失礼するぜえメルシー様。俺達の出撃準備が整ったんで、先発の大役我等にお任せ願えねえですかね?」
仮にも魔王様代理のメルシー様に向かってその物言い、普段ならば説教の一つも言っている所ですが、今は状況が状況なので、大目に見ましょう。
「あなたは、ガレス隊のリーダーですね」
「ああ、そうだ。精鋭20名揃えましたんで、出撃の許可を頂きたく、あぁ、ちなみに賊の生死は?」
メルシー様が私に視線を向けたので、それを頷きで返す。
「問わぬ」
「なら問題ないぜ。俺達には打ってつけだな」
確か、ガレス隊はゴロツキ共の集まりだったはず。
実力の程はそれ程高くはないだろう。
「分かった。では、先発隊の任をガレス隊に任せる。だが、無様な結果は許さぬ。重々理解するように」
メルシー様が少しだけ相手に対して威圧をかけている。
これには、今まで淡々と話していたガレスも口籠もり、動揺を隠せないようだ。
「か、必ずやご期待に…」
そう告げると、そそくさとこの場を去って行く。
「メルシー様、ガレス隊が時間を稼いでくれている内に、城外の護りを固めましょう。皮肉な話ですが、賊側には魔族も多く含まれていると聞きます。幸いにも城内転移は結界が張ってある為無効ですが、結界外壁へ転移してくる可能性は十分あります」
「フランの言う通りね、魔王城の四方に守備隊第一隊から第四隊の配備をお願い」
「畏まりました。すぐに第1隊から第四隊までの隊長に連絡を取ります」
と言っても直接指示を出しに行くなんて面倒な事はしない。
念話を使って、直接魔王様代理の指示と言う形で伝える。
「それにしても、元老院達とはまだ連絡が取れないの?」
この魔界における魔王様の次に最高戦力の位置付けに4人からなる元老院の方達が居る。
ビャッコ様の離脱により現在は、3人しかいないが、それぞれが圧倒的な迄の力を有している。
賊が侵攻してきているこの惨事に誰とも連絡がつかなくなってしまった。
「はい、やはり念話での反応はありません。今現在、それぞれの屋敷まで伝令を向かわせています」
「連絡が取れたらすぐに魔王城へ顔を出すように伝えてちょうだい」
「畏まりました」
「あの狸じじい共…こんな時くらいちゃんと働きなさいよね、まったく!」
「メルシー様、私と一緒の時はいいですけど、他人がいる時は、控えて下さいね」
威厳を放つ為にも、魔王様代理をしている間は、なるべく強い口調でいるようにお願いしていた。
ドタドタと慌ただしく駆けてくる音が聞こえてきた。
「メルシー様、失礼します。急ぎお伝えしたい内容が御座います」
「入りなさい」
緊急の要件は、予想していた通り賊共が魔王城周辺に出没したとの事。
その中で視認出来ただけでも8名の魔族がいたそうだ。
更には、その中に強者の集団であるクオーツに所属しているサラザールがいたと言う。
報告によりと、奴等が魔界へと渡って来た際に、一番近くに転移門にいたのがサラザールだった。
まだクオーツには入りたての新人だが、彼が敵側に寝返るなど、ましてや脅されて従わされるなどあるはずがない。
何かの術で縛られている可能性が高いだろう。
それなりの実力者でも術に抗えないとなると、危険ね。
他の仲間達もそうなってしまう可能性がある。
操られている仲間をあわよくば拘束し、その術を解析させる必要があるようね。
各班のリーダー達に伝え、注意勧告と同胞の捕縛を命じる。
それから暫し、交戦開始の連絡やら救援要請やらが飛び交う。
クオーツそれぞれがリーダーとなり率いるレギオンも先程全ての部隊が戦場へと赴いた。
四方から攻めて来た軍勢は中々の戦力で、当初防衛していた守備隊だけでは圧倒的に劣勢に立たされていた。
しかし、レギオンの登場により次第に盛り返し、優勢となり、2時間程度を費やし、沈静化させる事に成功していた。
しかし、こちら側もかなりの負傷者を出してしまい、城内に設けられた50人規模の療養可能な治療室も溢れかえっていた。
こちらは5倍近い人数を投入しているにも関わらず敵側の一個体の能力はこちらよりも数段上だ。
辛くも数により薄氷の勝利だったと言えるのだろう。
クオーツにも相当数の負傷者が出ていた。
「何とか一段落ついたって感じね」
「いえ、油断は出来ません。今回の首謀者がいる敵本体は未だ健在です。先陣を切ったガレス隊は全滅したとの報告が上がっています。それに…」
「フラン?」
「あ、いえ、すみません、少し考え事をしていました」
不可解なのは、敵側に敗れた同胞達が全員奴等と行動を共にしている事、あのガレス本人でさえも操られている。
命辛々逃げ帰った者の証言では、確実に殺されたであろう人物が平然と奴等の一人、背丈よりも遥かに大きな大鎌を持ち、フードを深く被り、顔が見えない人物に付き従っていたと言う。
それに、捕縛した何名かの同胞は意志はあるものの、皆別人のように様変わりしていた。
対話を試みてみたが、まともに会話が成立しない。
何を問うても
「魔族は滅ぼす」「根絶やしだ」
などと、壊れた人形のようにその言葉を繰り返し繰り返し発していた。
まるで、外見はそのままで別人に成り下がってしまったようなそんな感じだ。
捕縛した者の中には、自らの命を省みず自爆する者、一瞬の隙をついて転移でその場をやり過ごし、近くの仲間を襲う者。
まるで、呪縛にでもかけられているかのように、1人でも多くの仲間を殺めようとしているようだった。
以上の事から私の推察は…
7大魔王を名乗るあの人物は、死者を意のままに操る事が出来る能力を持っていると言う事。
もしそれが事実だとすれば、同胞達が奴に従っている理由も頷けるし、死んだ者が復活したという不可解な事象も説明出来る。
確信はない。
だけど全員の耳に入れておくべきだと私は思う。
私の推察をメルシー様に伝え、メルシー様自身から各班のリーダーへと伝えられた。
そんな中、またしても扉が慌ただしくノックされた。
「失礼します!」
「入りなさい」
報告兵は背筋をピンと伸ばし、手には紙の束を携えている。
「現在の死傷者の数を報告致します。軽傷者376名、重傷者24名、戦死者52名、行方不明者及び敵側に拘束された者が36名となっています。軽傷者は、治癒にて回復後戦線に復帰する予定です」
予想以上にかなりの数の死傷者が出ているわね。
敵側の戦力が想定以上だったのもあるのでしょうが、完全に隙を突かれたのが痛いわね。
それでもこの程度で済んだのは、事前に情報を下さったユウ様のお陰ですね。
報告兵が次の指示を待っている。
というより、この部屋の空気の重たさに押しつぶされそうな顔をしている。
ふとメルシー様の方に視線を向けると、額に手を当て深妙な顔をしている。
報告兵が気まずそうな顔をしていたので、退出の許可を出しておく。
「報告ありがとう。下がってくれていいわ」
「は!失礼しました!」
バタンと扉が閉まり、暫しの間沈黙が続く。
「メルシー様。残酷な事を言うようですが、気に止む事は後でして下さい。今は魔界への侵略者を排除する事に全力を注ぐ必要があります。でなければ、もっと大勢の犠牲者が出ます」
「ごめんなさい。フランの言う通りね」
いいえ、謝るのは私の方です。
自分でも酷な事を言っているのは分かっています。
メルシー様は私と違いまだ若い。
故に仲間の死を乗り越えるだけの場数を踏んでいない。
仲間の死に慣れて下さいと言うつもりは勿論ありません。
その感情、気持ち、悲しみを一時でいいから心の片隅に閉じ込めて時期が来たら、その時は……
「泣いてるの?」
「え?」
自分の頬を伝わる涙に指摘されるまで気が付かなかった。
メルシー様が、私の背中に手を回す。
「ごめんね、辛いのはフランも同じだよね」
「ごめんなさい…」
少しの間。そう、ほんの少しの間だけ2人で悲しみを分かち合った後、最後の手段を打って出るべく、決意を新たにする。
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