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第二百十三話:奪還1
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離れの御所を取り囲む形で、現在俺たちは、洗脳下におかれた近衛隊の集団に囲まれていた。
「降伏して出てくるなら、命までは助けてやるぞ」
しかし、別に焦っている訳じゃない。
そう簡単には破られない結界を張ってるから取り敢えずの危険はないからだ。
「すいやせん。あっしがつけられてしまったばっかしに」
床にゴンゴンと音を鳴らしながら、額を打ち付けている人物がいた。
地下牢から共に脱出してきたマーレさんだ。
この場に身を潜めるということを破り、町に1人降り立ち、ちょうど巡回にあたっていた近衛隊に見つかってしまい、命からがら舞い戻って来たが、後をつけられてしまい、結果として今は20人弱の近衛隊に囲まれてしまっていた。
だからといって、別にマーレさんを責めたりはしない。
半分は俺のせいでもあるからだ。俺が偵察した際は、町中には巡回している人影はなかった。だが、門番を倒してしまった事で、彼等に不信感を与えてしまったらしい。その事により増援された近衛隊にマーレさんは運悪く見つかってしまったのだろう。
という事で、半分は俺のせいでもある。
「顔を上げて下さい。この場は俺がなんとかしますので」
「でもユウさん、周りは完全に囲まれています」
「うむ、結構数が多いようじゃな」
「両陛下は、我らが死んでもお守りします」
張り切っているのは、洗脳から救った門番たちだ。
その言葉通り、みんなを守って貰おうじゃないか。まぁ結界の中にいたら安全だとは思うけど。
さてさて、って、え⋯まじか?
突然パキパキと甲高い音が辺り一帯に鳴り響き、皆が辺りをキョロキョロと見回す。
何の音かって?
防壁にヒビが入る音だよ!
この防壁は常時魔力供給し、維持するタイプではなく、一定数量のダメージを与えるまで壊れないタイプだ。常時魔力供給する障壁などに比べれば、強固さは格段に劣る。
しかし、それなりの魔力を消費して作成した防護壁だ。そう簡単には落とされないはずだったんだけどな。
「様子を見て来ます。皆さんは、この場にいて絶対に外に出ないで下さい」
「一人でなど危険ではないのか?」
「そうですよ。戦闘となれば、多勢に無勢。あっしらも微力ながら協力しますぞ!」
「いえ、本格的に戦うつもりはありません、洗脳を解除して無力化するだけです。近衛隊の皆さんは、ここにいる他の皆さんを守って上げて下さい。この防壁もいつまで持つか分からないので」
正面入り口から外に出ると、表情一つ変えない不気味な集団が、次々と魔術を行使し、防壁を壊そうとしていた。
それを指揮する人物が一人。
「やっと出て来たか! 貴様ら、あいつを殺せ。早くここを突破しないか」
ここでひとつ問題なのは、洗脳に掛かっていない人物がいるという事。
自分の意思で、行動しているのか?
マルベスも確かに洗脳状態ではなかった。言葉巧みに騙されて利用されているのか、はたまた自分から進んで協力しているのかは分からないが、そいつがリーダー的な役割をしていて、洗脳されている者たちを先導している。
いつまでも見ている場合じゃないな。この防壁もそろそろ限界だ。
催眠を使い、相手を無力化するつもりだったが、いつまで経っても効果が現れる兆候がない。
指揮官と思われる人物だけが、高らかとイビキをかいて眠りに落ちる。
もしかして、洗脳化におかれていると、状態異常が効かないとか? だとしたらマズイな。いよいよもって余裕がなくなってきた。
そうしているうちに、とうとう防壁が破られてしまった。
離れの御所が攻撃を受ける前に全員を気絶させる。身体強化を使い、自身のスピードを最大限まで底上げする。
手刀を使い、目にも留まらぬスピードで一人、また一人とその意識を刈り取る。
当初20人弱いた近衛隊全員を地に伏せさせるのに、10秒も必要なかった。
生半可な力だと、また起き上がられても面倒なので、今回は多少強く攻撃を当てておく。
間に合わず、何発か着弾仕掛けた魔術は全て石壁で防いでいた。
「ふぅ、ギリギリ何とかなったな⋯」
そのまますぐに洗脳を解除する。指揮官の男は念の為縄で縛り拘束しておく。
それにしても、失われた魔術は負担がデカい。消費魔力が尋常じゃない。並みの魔術師数百人分の魔力量を持つ俺でさえ、連続使用はキツい。
「ユウ殿、ご無事ですか」
騒がしさが収まったから出て来たのだろう。近衛隊の1人が槍を構えて、御所から飛び出してくる。
「ちょうど終わった所です」
中の人たちを呼んで、気を失ってる近衛隊を御所の中に運び入れてもらう。今回は強めに殴り倒した為、すぐには起きてこないだろう。
「シュートルが、首謀者の1人であると?」
シュートルと言うのは、縄でグルグル巻きに巻かれ高らかとイビキをかいている人物だ。
「唯一洗脳状態ではなかったので、恐らく。少なくとも誰に指示されたかくらいは知っている筈です」
「シュートルが反旗を翻すとはな⋯」
「聞き取りはお願いします。俺は王宮の様子を見て来ます。直に正気に戻った近衛隊が眼を覚ますと思いますから、いつでも攻め入れるように準備だけはしておいて下さい」
「分かった。ユウ殿も気をつけるんじゃぞ」
再び離れの御所を離れ、1人王宮へと向かった。
さて、まずは敵の人数把握だな。
《範囲探索》
どうやら、残りの人数は8人みたいだ。
地下はなし。1階に3人。2階に4人。3階に1人。
まずは、地下牢に転移する。ここから順に制圧していこう。
既に敵の位置は完璧に把握している為、楽々進む事が出来る。普通ならば、進むたびに辺りを警戒しながら慎重に進む必要があるが、敵の位置を把握している俺は、何事もないかのようにスイスイと進む事が出来る。
その曲がり角を曲がった先の扉の先に3人いる。内、赤反応は2人だ。
間違っても巻き込まないようにしないとな。
ドアノブに手を差し伸べた瞬間だった。
ピリッと、少なくない刺激が全身を突き抜ける。
⋯っ電撃か。
常人なら意識が飛ぶレベルだろう。そのまま、強引にドアをこじ開ける。
って、待ち伏せかよ!
開けた瞬間に短剣が飛んでくる。
姿勢を低くし、それを躱し、そのまま相手との間合いを詰め、腹部に一撃を加える⋯が、完全に気絶するつもりで放った一撃を躱しやがった。そのまま脇に隠していた短剣で斬りつけてくる。一瞬反応が遅れ、掠ってしまった。
前蹴りで、今度こそ本気で相手の意識を刈り取る。
その隙を狙い、脳天に斧を振り落としてくる1人を足蹴りで斧毎弾き飛ばす。
一瞬、視界が揺れたが⋯気のせいじゃないな⋯⋯グッ⋯くそっ、さっきのナイフに麻痺毒でも仕込んであったのか。
身体が痺れて動かない。
すぐに状態回復を⋯する前に相手の拳が顔面へと振り落とされる。
もろにそれを受けてしまった俺は、続けて壁際まで吹き飛ばされる。まともに攻撃を喰らうのは久し振りかもしれない。
動かない身体に鞭打ち、状態回復と治癒を使用する。
さてと、身体が動けばこっちのターンだな。倍返し、と行きたい所だが、相手は操られているだけだしね。自重する。
相手は、飛ばされた斧を再び拾い、俺へと襲い掛かる。
《紫電》
大柄な体躯の近衛隊兵士が力なく倒れ落ちる。
「悪いね。本職は魔術師なんでね」
すぐに強制解除で洗脳を解除する。
それにしても、まるで事前に襲撃を備えていたかのような攻防だった。それに、ただのエルフ兵にしては、身体能力が高すぎじゃないか?
鑑定で見えているレベルでは説明がつかない程の強さだった。更には、モンスターと違い、命を奪う事ができない点がやり辛い相手だ。
「もう出て来て大丈夫だよ」
奥の机の下にうずくまっている少女の姿があった。
なぜ、こんな場所にいるのかは不明だが、無視するわけにもいかない。
ひょっこりと顔を出した少女の耳は長く、右目が青、左目が赤のオッドアイだった。
「⋯お兄さんも怖い人?」
「いや、俺は君の仲間だよ。助けに来たんだ。一緒にみんなの所へ戻ろう」
少女に手を差し伸べるも、それを拒まれてしまった。
「お姉ちゃんがまだここにいるの。一緒じゃないと行かない」
「この王宮に?」
少女は静かに頷いた。
すぐに範囲探索で確認する。
確かに2階の4人の内1人は、敵対反応を示していない。
「上の階にいるみたいだな。分かった。助けてくるから、君はここにいてくれ」
立ち去ろうとする俺の手を今度は掴んで離さない。
「私も行く」
「だめだ。上の階にはさっきみたいに襲ってくるやつらがいるんだぞ」
「私は襲われない。だからここにいたの」
確かに言われてみたらそうだけど、何故襲われないんだ?
「戦闘が始まったら巻き添えを喰らうかもしれない」
「守って」
「はい?」
「強いんでしょ。守って」
ええと⋯。
「降伏して出てくるなら、命までは助けてやるぞ」
しかし、別に焦っている訳じゃない。
そう簡単には破られない結界を張ってるから取り敢えずの危険はないからだ。
「すいやせん。あっしがつけられてしまったばっかしに」
床にゴンゴンと音を鳴らしながら、額を打ち付けている人物がいた。
地下牢から共に脱出してきたマーレさんだ。
この場に身を潜めるということを破り、町に1人降り立ち、ちょうど巡回にあたっていた近衛隊に見つかってしまい、命からがら舞い戻って来たが、後をつけられてしまい、結果として今は20人弱の近衛隊に囲まれてしまっていた。
だからといって、別にマーレさんを責めたりはしない。
半分は俺のせいでもあるからだ。俺が偵察した際は、町中には巡回している人影はなかった。だが、門番を倒してしまった事で、彼等に不信感を与えてしまったらしい。その事により増援された近衛隊にマーレさんは運悪く見つかってしまったのだろう。
という事で、半分は俺のせいでもある。
「顔を上げて下さい。この場は俺がなんとかしますので」
「でもユウさん、周りは完全に囲まれています」
「うむ、結構数が多いようじゃな」
「両陛下は、我らが死んでもお守りします」
張り切っているのは、洗脳から救った門番たちだ。
その言葉通り、みんなを守って貰おうじゃないか。まぁ結界の中にいたら安全だとは思うけど。
さてさて、って、え⋯まじか?
突然パキパキと甲高い音が辺り一帯に鳴り響き、皆が辺りをキョロキョロと見回す。
何の音かって?
防壁にヒビが入る音だよ!
この防壁は常時魔力供給し、維持するタイプではなく、一定数量のダメージを与えるまで壊れないタイプだ。常時魔力供給する障壁などに比べれば、強固さは格段に劣る。
しかし、それなりの魔力を消費して作成した防護壁だ。そう簡単には落とされないはずだったんだけどな。
「様子を見て来ます。皆さんは、この場にいて絶対に外に出ないで下さい」
「一人でなど危険ではないのか?」
「そうですよ。戦闘となれば、多勢に無勢。あっしらも微力ながら協力しますぞ!」
「いえ、本格的に戦うつもりはありません、洗脳を解除して無力化するだけです。近衛隊の皆さんは、ここにいる他の皆さんを守って上げて下さい。この防壁もいつまで持つか分からないので」
正面入り口から外に出ると、表情一つ変えない不気味な集団が、次々と魔術を行使し、防壁を壊そうとしていた。
それを指揮する人物が一人。
「やっと出て来たか! 貴様ら、あいつを殺せ。早くここを突破しないか」
ここでひとつ問題なのは、洗脳に掛かっていない人物がいるという事。
自分の意思で、行動しているのか?
マルベスも確かに洗脳状態ではなかった。言葉巧みに騙されて利用されているのか、はたまた自分から進んで協力しているのかは分からないが、そいつがリーダー的な役割をしていて、洗脳されている者たちを先導している。
いつまでも見ている場合じゃないな。この防壁もそろそろ限界だ。
催眠を使い、相手を無力化するつもりだったが、いつまで経っても効果が現れる兆候がない。
指揮官と思われる人物だけが、高らかとイビキをかいて眠りに落ちる。
もしかして、洗脳化におかれていると、状態異常が効かないとか? だとしたらマズイな。いよいよもって余裕がなくなってきた。
そうしているうちに、とうとう防壁が破られてしまった。
離れの御所が攻撃を受ける前に全員を気絶させる。身体強化を使い、自身のスピードを最大限まで底上げする。
手刀を使い、目にも留まらぬスピードで一人、また一人とその意識を刈り取る。
当初20人弱いた近衛隊全員を地に伏せさせるのに、10秒も必要なかった。
生半可な力だと、また起き上がられても面倒なので、今回は多少強く攻撃を当てておく。
間に合わず、何発か着弾仕掛けた魔術は全て石壁で防いでいた。
「ふぅ、ギリギリ何とかなったな⋯」
そのまますぐに洗脳を解除する。指揮官の男は念の為縄で縛り拘束しておく。
それにしても、失われた魔術は負担がデカい。消費魔力が尋常じゃない。並みの魔術師数百人分の魔力量を持つ俺でさえ、連続使用はキツい。
「ユウ殿、ご無事ですか」
騒がしさが収まったから出て来たのだろう。近衛隊の1人が槍を構えて、御所から飛び出してくる。
「ちょうど終わった所です」
中の人たちを呼んで、気を失ってる近衛隊を御所の中に運び入れてもらう。今回は強めに殴り倒した為、すぐには起きてこないだろう。
「シュートルが、首謀者の1人であると?」
シュートルと言うのは、縄でグルグル巻きに巻かれ高らかとイビキをかいている人物だ。
「唯一洗脳状態ではなかったので、恐らく。少なくとも誰に指示されたかくらいは知っている筈です」
「シュートルが反旗を翻すとはな⋯」
「聞き取りはお願いします。俺は王宮の様子を見て来ます。直に正気に戻った近衛隊が眼を覚ますと思いますから、いつでも攻め入れるように準備だけはしておいて下さい」
「分かった。ユウ殿も気をつけるんじゃぞ」
再び離れの御所を離れ、1人王宮へと向かった。
さて、まずは敵の人数把握だな。
《範囲探索》
どうやら、残りの人数は8人みたいだ。
地下はなし。1階に3人。2階に4人。3階に1人。
まずは、地下牢に転移する。ここから順に制圧していこう。
既に敵の位置は完璧に把握している為、楽々進む事が出来る。普通ならば、進むたびに辺りを警戒しながら慎重に進む必要があるが、敵の位置を把握している俺は、何事もないかのようにスイスイと進む事が出来る。
その曲がり角を曲がった先の扉の先に3人いる。内、赤反応は2人だ。
間違っても巻き込まないようにしないとな。
ドアノブに手を差し伸べた瞬間だった。
ピリッと、少なくない刺激が全身を突き抜ける。
⋯っ電撃か。
常人なら意識が飛ぶレベルだろう。そのまま、強引にドアをこじ開ける。
って、待ち伏せかよ!
開けた瞬間に短剣が飛んでくる。
姿勢を低くし、それを躱し、そのまま相手との間合いを詰め、腹部に一撃を加える⋯が、完全に気絶するつもりで放った一撃を躱しやがった。そのまま脇に隠していた短剣で斬りつけてくる。一瞬反応が遅れ、掠ってしまった。
前蹴りで、今度こそ本気で相手の意識を刈り取る。
その隙を狙い、脳天に斧を振り落としてくる1人を足蹴りで斧毎弾き飛ばす。
一瞬、視界が揺れたが⋯気のせいじゃないな⋯⋯グッ⋯くそっ、さっきのナイフに麻痺毒でも仕込んであったのか。
身体が痺れて動かない。
すぐに状態回復を⋯する前に相手の拳が顔面へと振り落とされる。
もろにそれを受けてしまった俺は、続けて壁際まで吹き飛ばされる。まともに攻撃を喰らうのは久し振りかもしれない。
動かない身体に鞭打ち、状態回復と治癒を使用する。
さてと、身体が動けばこっちのターンだな。倍返し、と行きたい所だが、相手は操られているだけだしね。自重する。
相手は、飛ばされた斧を再び拾い、俺へと襲い掛かる。
《紫電》
大柄な体躯の近衛隊兵士が力なく倒れ落ちる。
「悪いね。本職は魔術師なんでね」
すぐに強制解除で洗脳を解除する。
それにしても、まるで事前に襲撃を備えていたかのような攻防だった。それに、ただのエルフ兵にしては、身体能力が高すぎじゃないか?
鑑定で見えているレベルでは説明がつかない程の強さだった。更には、モンスターと違い、命を奪う事ができない点がやり辛い相手だ。
「もう出て来て大丈夫だよ」
奥の机の下にうずくまっている少女の姿があった。
なぜ、こんな場所にいるのかは不明だが、無視するわけにもいかない。
ひょっこりと顔を出した少女の耳は長く、右目が青、左目が赤のオッドアイだった。
「⋯お兄さんも怖い人?」
「いや、俺は君の仲間だよ。助けに来たんだ。一緒にみんなの所へ戻ろう」
少女に手を差し伸べるも、それを拒まれてしまった。
「お姉ちゃんがまだここにいるの。一緒じゃないと行かない」
「この王宮に?」
少女は静かに頷いた。
すぐに範囲探索で確認する。
確かに2階の4人の内1人は、敵対反応を示していない。
「上の階にいるみたいだな。分かった。助けてくるから、君はここにいてくれ」
立ち去ろうとする俺の手を今度は掴んで離さない。
「私も行く」
「だめだ。上の階にはさっきみたいに襲ってくるやつらがいるんだぞ」
「私は襲われない。だからここにいたの」
確かに言われてみたらそうだけど、何故襲われないんだ?
「戦闘が始まったら巻き添えを喰らうかもしれない」
「守って」
「はい?」
「強いんでしょ。守って」
ええと⋯。
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