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「あれ~?木元、テンション低いじゃん。さては、水津先生にフラれたな?」

放課後、補修で使ったプリントを片付けていると地球儀を持った月島がニヤニヤしながら現れた。なんでこいつはいつもニヤニヤしているんだ。

「フラれる以前に告白してねーよバカ。」
「はあ?告白するってルールだろバーカ。」
「あのなあ。告白しようにも俺は今日寝坊したので幼等部に行ってません。」
「あ!それで寝坊してサービス出勤サボったのを教頭に怒られてるからテンション低いんだ。」

相変わらずニヤニヤしている月島にムカついてプリントを丸めて頭を叩いてやった。そうだ、その通りだ。昨日の飲み会で最後に一気に飲みすぎたせいで朝は見事に寝坊。普通の出勤は間に合ったが、見張りのサービス出勤が間に合わなかったことを教頭に笑顔で怒られたのである。

「そういえばお前のクラスの田中、変なこと聞いてきたぞ。」
「なに?地球にはどんだけ美女がいますか、って?」
「そんなの興味あるのはお前だけだ。」

俺は月島の持っている地球儀をぐるぐると回しながら聞く。世界で一番美女が多いのはアメリカだろうか?

「じゃあ何。」
「なんか『自転車で人にぶつかって怪我させた場合は捕まりますか?』って聞いてきたぞ。」
「え?」

ぴた、と地球儀を止めて月島を見る。月島は俺が放置していたプリントをシュレッターにかけながら俺に話を続けた。

「まだ日本史しかやってないのにもう公民の授業聞いてくるなんて偉いな。刑法についてたくさん話してしまったよ。田中そんな勉強熱心だっけ?」
「ねえ、それ真剣な顔だった?」

人間いい予感よりも悪い予感の方が当たるもんだ。田中と自転車という単語で思い当たるものは1つしかない。脳裏に浮かぶのは毎朝あのスピードで登校してくる田中の姿。

「うん、結構真剣。今すぐ教えてほしいって言ってきたよ‥‥って、え!?木元!?」
「ごめん!そのプリント捨てといて!」

俺は廊下をダッシュで走って玄関に向かう。途中色んな生徒に見られたり、高等部のチア部の先生に声を掛けられたけどもっぱら無視して幼等部に向かった。
ゆみちゃんだ。俺がいると思って遊びにきたゆみちゃんに突っ込んで絶対怪我させたんだ‥‥!

「失礼します!」

バン!と幼等部の入口のドアを開けると、ゆか先生が驚いた顔で俺を見てくる。俺は乱暴に靴を脱ぎ捨てると、ゆか先生の両肩を掴んだ。

「あ!木元せん、」
「ゆみちゃんは!?うちの生徒が怪我させましたよね!?」
「へ!?」

ゆか先生は半分びっくりした顔をして、それから下を見る。

「ゆみちゃんなら、ここにいますよ‥‥?」
「え?」

ゆか先生に倣って視線を落とすと、そこには「あ、おにーさん!」とニコニコ笑顔で俺を見上げるゆみちゃんがいた。

「あれ‥‥?ゆみちゃん、怪我は‥‥?」
「え?ゆみ怪我してないよ?」

両手を広げて俺に見せてくるゆみちゃんを見て、思わず糸が切れたかのように座り込んでしまった。そんな俺の姿を見て、ゆか先生もゆみちゃんも疑問の表情を浮かべている。

「よかった。思い違いでした。」
「うん!ゆみ元気いっぱいだよ!怪我しちゃったのは水津先生。」
「そっか~‥‥ん?え、今なんて言った?」

耳を疑う言葉が聞こえた気がしてゆみちゃんを見ると、隣にいたゆか先生が「こら、ゆみちゃん!木元先生には言っちゃダメだって言ったでしょ!」と続けた。待って、どういうことだ?

「すみません、ゆか先生。どういうことですか?」
「んー‥‥木元先生が責任感じちゃうから言うなって水津先生に言われたんだけど‥‥。」

ゆか先生はいつもと違い少し焦った表情で俺を見る。さっきまでの安心が嘘みたいに心臓がまたバクバクと鳴り始めた。

「お願いです。言ってください。」
「ゆかから聞いたって言わないでくださいよ?」
「絶対言いません。」
「実は‥‥木元先生が今日いらっしゃらないのを知らずに、ゆみちゃんがいつものように遊びに行ったんです。そこを木元先生の生徒さんがすごいスピードで自転車でいらして‥‥。」

その次の言葉を聞いたのとほぼ同時に俺はまた走り出していた。

「ゆかちゃんを守ったら水津先生が自転車と衝突してしまい、今付属の大学病院で検査入院中なんです。」

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