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ドキドキしてもいいですか?
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数学って一度躓くとわからなくなるよね。
「公式だ~」とか「こういうものだ~」とか言われても全然理解できないし、でもそれって数学だけだと思ってたんだよね。
「‥‥あの、俺日本語わからなくなったかもしれません。『うん、いいよ』って英語だと『Yes』で韓国語だと『응』で中国語だと『好的』で、」
「フランス語だと『Oui.』でスペイン語だと『Vale』だけど?他なんか聞きたい言語あんのか。」
「いや、ないです。ないんですけど信じられなくて‥‥。」
今まで告白されてきた人生だから、罰ゲームの人生初告白が男でも成功しちゃった感じ?ビギナーズラックってやつ?
「なんでそんな驚いてるんだ?お前から告白してきたんだろ。」
「本当に俺と付き合うつもりですか?」
「お前、俺と付き合いたいから告白してきたんじゃないの?」
いや、ビギナーズラックなんて簡単な言葉じゃこれは解決できないな。さて、どうしようか。
もしかして今日の占いは恋愛運最強で罰ゲームだとしても、悪名高い先生に告白しても成功してしまうとか?
頼むよ、お天気お姉さん。それもちゃんと放送してくれよ。
.
人生の中で「お前の血は何色だ?!」と聞きたくなった相手はいますか?少なくとも俺には1人いる。
「以上の理由から中等部の生徒指導並びに、改めて幼等部と中等部の抜け道に人員配置を求めます。」
それがこの人、水津先生だ。幼等部から高等部までの100名近い教員が集まって会議する場で、思わず小さく舌打ちをしそうになった。
「うげー、また幼等部の水津先生ダルいこと言い始めたよ。」
「どうせまた、中等部の俺たちに『抜け道警備お願いします』とか言ってくるパターンだな。」
「さすが陰で絶対零度と呼ばれるだけあるわな。」
「シーッ。聞こえる。」
俺は隣に座っている同期の月島を注意しつつも小さく溜息をつく。大声で悪口を言いたくなる気持ちもわかるし無理はないだろう。
ゆっくり手を挙げると、前からマイクが回ってくる。受け取って席を立つと、壇上に座っている水津先生と目があった。
「中等部の木元です。まず始めに、中等部の生徒が近道をする為に幼等部との裏道を自転車で走り危ない思いをさせてしまっていることお詫び申し上げます。
しかしながら、中等部の方も人員が富んでいるわけではないので幼等部の方からも抜け道の人員配置の方協力願えないでしょうか?」
俺の言葉に月島が小さく拍手してくるから、机の下で思いっきり足を踏んでやる。馬鹿野郎、空気を読め。
壇上の水津先生は手元のマイクを取ると氷のような視線で俺だけでなく中等部の教員全員を見てくる。思わずその視線に姿勢を直したのは俺だけではなく月島も一緒だった。
「幼等部の水津です。お言葉ですが、そもそも裏道は幼等部の敷地で幼等部の子どもが遊びで使う物です。正しい使い方をしているこちらがわざわざ人員を割く必要性がわかりません。以上です。」
しん、と空気が凍ったのがわかる。なにこれ、静止画?もしかして時間止まっちゃった感じ?
もはや乾いた笑いしか出てこず、半ば腰が抜けるように席に座る。
くそ‥‥くそ‥くそ、くそくそ、くそぉぉ!!!
「あの言い方はねーだろ!絶対零度!!!」
ドカッ、と職員室の椅子に腰掛けると隣で月島がケタケタ笑い始めた。
「木元、さっきまで俺に言ってたくせに、自分だって絶対零度って言ってるじゃん。」
「そりゃさあ!中等部の生徒が裏道使うのはよくないのがわかるけど、手伝ってくれるとか通るなって看板作るとかしてくれる気はないわけ!?」
「あんなに可愛いエプロン着けてるのに、大人には信じられないくらい冷酷だからなあ。」
「絶対零度の水津ぅ!お前の血は何色だ!」
近くにあった三角定規をグニグニ曲げると、月島に「まあまあ」と笑いながら取り上げられた。
ここ、耀華学園は幼等部から高等部までが同じ広大な敷地内にある有名私立校。俺は中等部で数学を教えているわけだが、とにかくここの学校はそれぞれ仲が悪い。なかでも最近は幼等部が合同会議が行われる度に要望を出しまくるせいでその仲は現在進行中で悪化中だ。
「でも水津先生さ、整った顔してるじゃん?うちの中等部の女子生徒にも隠れファン多いらしいよ。」
「あの絶対零度に!?」
「そうそう。木元みたいな王道ワンコ系イケメンも人気だけど、今の流行りは水津先生みたいな中性的なイケメンも人気なんだってさ。」
「え、でも俺の方が人気だよな!?」
「自分がイケメンっていう自覚はあるんだな。」
同期の月島は同じく中等部で社会科の教師をやっている仲間だ。さっきのように最近の会議では幼等部の絶対零度こと水津先生に言われっぱなしの状況なのである。
月島は三角定規を俺の机の上に置きながら「でもよ。」と呟いた。
「考えてみろよ、木元。水津先生黙ってればめちゃくちゃイケメンじゃない?」
「ゲ。お前そっち系走った?」
「いやいや。走ってないんだけどさ、俺らにはあんな冷たいけど幼児さんには優しいし悩殺スマイルしてるじゃん。ありゃファン増えるわな。」
「悩殺スマイル?」
「水津先生が幼児さんに接する時の笑顔のことだよ。絶対二重人格だよなあ。」
悩殺スマイル?何を言っているんだ。あんな絶対零度のどこを切り取ったらそうなるんだ。
第一、絶対零度は幼等部ファーストすぎるんだよ。そもそも中等部にいる生徒だって元は幼等部の生徒だったんだぞ。お前も面倒見ろよ!
「絶対零度め。俺より2年先に入ったからって自分が偉いと思ってんじゃねえよ‥‥!」
「木元、隠れファンが多いことを妬むなよ。ねえ、教頭先生?」
「妬んでねえ!俺は絶対零度なんかより優しくて!なんでもして!最高の教師なんだ!」
「じゃあその優しくて最高の教師の木元先生。明日から登校時の裏道の見張りよろしくね。」
「ああやってや‥‥え?」
いきなり聞こえた月島じゃない声に固まる。目の前にいる月島は半分笑いを堪えていて、ゆっくりと振り返るとそこには教頭先生が笑顔で立っていた。
「あの‥‥えっと?はい?なんか言いましたか教頭先生?」
「え?優しくて最高の木元先生が中等部の生徒がよく近道で使う幼等部の裏道の見張り役をやってくれる話だよね?」
「ぶっ‥‥!あはははっ!木元、ファーイト!」
ありえない。今日の占いは最下位だったか?俺、なんかした!?
そんな心の叫びは目の前の教頭先生の笑顔に吸い込まれていった。
「公式だ~」とか「こういうものだ~」とか言われても全然理解できないし、でもそれって数学だけだと思ってたんだよね。
「‥‥あの、俺日本語わからなくなったかもしれません。『うん、いいよ』って英語だと『Yes』で韓国語だと『응』で中国語だと『好的』で、」
「フランス語だと『Oui.』でスペイン語だと『Vale』だけど?他なんか聞きたい言語あんのか。」
「いや、ないです。ないんですけど信じられなくて‥‥。」
今まで告白されてきた人生だから、罰ゲームの人生初告白が男でも成功しちゃった感じ?ビギナーズラックってやつ?
「なんでそんな驚いてるんだ?お前から告白してきたんだろ。」
「本当に俺と付き合うつもりですか?」
「お前、俺と付き合いたいから告白してきたんじゃないの?」
いや、ビギナーズラックなんて簡単な言葉じゃこれは解決できないな。さて、どうしようか。
もしかして今日の占いは恋愛運最強で罰ゲームだとしても、悪名高い先生に告白しても成功してしまうとか?
頼むよ、お天気お姉さん。それもちゃんと放送してくれよ。
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人生の中で「お前の血は何色だ?!」と聞きたくなった相手はいますか?少なくとも俺には1人いる。
「以上の理由から中等部の生徒指導並びに、改めて幼等部と中等部の抜け道に人員配置を求めます。」
それがこの人、水津先生だ。幼等部から高等部までの100名近い教員が集まって会議する場で、思わず小さく舌打ちをしそうになった。
「うげー、また幼等部の水津先生ダルいこと言い始めたよ。」
「どうせまた、中等部の俺たちに『抜け道警備お願いします』とか言ってくるパターンだな。」
「さすが陰で絶対零度と呼ばれるだけあるわな。」
「シーッ。聞こえる。」
俺は隣に座っている同期の月島を注意しつつも小さく溜息をつく。大声で悪口を言いたくなる気持ちもわかるし無理はないだろう。
ゆっくり手を挙げると、前からマイクが回ってくる。受け取って席を立つと、壇上に座っている水津先生と目があった。
「中等部の木元です。まず始めに、中等部の生徒が近道をする為に幼等部との裏道を自転車で走り危ない思いをさせてしまっていることお詫び申し上げます。
しかしながら、中等部の方も人員が富んでいるわけではないので幼等部の方からも抜け道の人員配置の方協力願えないでしょうか?」
俺の言葉に月島が小さく拍手してくるから、机の下で思いっきり足を踏んでやる。馬鹿野郎、空気を読め。
壇上の水津先生は手元のマイクを取ると氷のような視線で俺だけでなく中等部の教員全員を見てくる。思わずその視線に姿勢を直したのは俺だけではなく月島も一緒だった。
「幼等部の水津です。お言葉ですが、そもそも裏道は幼等部の敷地で幼等部の子どもが遊びで使う物です。正しい使い方をしているこちらがわざわざ人員を割く必要性がわかりません。以上です。」
しん、と空気が凍ったのがわかる。なにこれ、静止画?もしかして時間止まっちゃった感じ?
もはや乾いた笑いしか出てこず、半ば腰が抜けるように席に座る。
くそ‥‥くそ‥くそ、くそくそ、くそぉぉ!!!
「あの言い方はねーだろ!絶対零度!!!」
ドカッ、と職員室の椅子に腰掛けると隣で月島がケタケタ笑い始めた。
「木元、さっきまで俺に言ってたくせに、自分だって絶対零度って言ってるじゃん。」
「そりゃさあ!中等部の生徒が裏道使うのはよくないのがわかるけど、手伝ってくれるとか通るなって看板作るとかしてくれる気はないわけ!?」
「あんなに可愛いエプロン着けてるのに、大人には信じられないくらい冷酷だからなあ。」
「絶対零度の水津ぅ!お前の血は何色だ!」
近くにあった三角定規をグニグニ曲げると、月島に「まあまあ」と笑いながら取り上げられた。
ここ、耀華学園は幼等部から高等部までが同じ広大な敷地内にある有名私立校。俺は中等部で数学を教えているわけだが、とにかくここの学校はそれぞれ仲が悪い。なかでも最近は幼等部が合同会議が行われる度に要望を出しまくるせいでその仲は現在進行中で悪化中だ。
「でも水津先生さ、整った顔してるじゃん?うちの中等部の女子生徒にも隠れファン多いらしいよ。」
「あの絶対零度に!?」
「そうそう。木元みたいな王道ワンコ系イケメンも人気だけど、今の流行りは水津先生みたいな中性的なイケメンも人気なんだってさ。」
「え、でも俺の方が人気だよな!?」
「自分がイケメンっていう自覚はあるんだな。」
同期の月島は同じく中等部で社会科の教師をやっている仲間だ。さっきのように最近の会議では幼等部の絶対零度こと水津先生に言われっぱなしの状況なのである。
月島は三角定規を俺の机の上に置きながら「でもよ。」と呟いた。
「考えてみろよ、木元。水津先生黙ってればめちゃくちゃイケメンじゃない?」
「ゲ。お前そっち系走った?」
「いやいや。走ってないんだけどさ、俺らにはあんな冷たいけど幼児さんには優しいし悩殺スマイルしてるじゃん。ありゃファン増えるわな。」
「悩殺スマイル?」
「水津先生が幼児さんに接する時の笑顔のことだよ。絶対二重人格だよなあ。」
悩殺スマイル?何を言っているんだ。あんな絶対零度のどこを切り取ったらそうなるんだ。
第一、絶対零度は幼等部ファーストすぎるんだよ。そもそも中等部にいる生徒だって元は幼等部の生徒だったんだぞ。お前も面倒見ろよ!
「絶対零度め。俺より2年先に入ったからって自分が偉いと思ってんじゃねえよ‥‥!」
「木元、隠れファンが多いことを妬むなよ。ねえ、教頭先生?」
「妬んでねえ!俺は絶対零度なんかより優しくて!なんでもして!最高の教師なんだ!」
「じゃあその優しくて最高の教師の木元先生。明日から登校時の裏道の見張りよろしくね。」
「ああやってや‥‥え?」
いきなり聞こえた月島じゃない声に固まる。目の前にいる月島は半分笑いを堪えていて、ゆっくりと振り返るとそこには教頭先生が笑顔で立っていた。
「あの‥‥えっと?はい?なんか言いましたか教頭先生?」
「え?優しくて最高の木元先生が中等部の生徒がよく近道で使う幼等部の裏道の見張り役をやってくれる話だよね?」
「ぶっ‥‥!あはははっ!木元、ファーイト!」
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