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「スクープの裏側」

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「スクープの裏側」

 稀世たち8人は、7月22日早朝からのスクープ報道を前にして、21日の午後に関西国際空港を出てフィリピンのマニラに向かった。目的地は他にあったがあえてマニラに入って、そこからバスと現地船で人気スポットのセブを通り越して最南端のミンダナオ島のダバオに抜けた。そこで過去の取材で関係のあった現地エージェントに「おみやげ・・・・」を持たせ、その会社の名義で大型のクルーザーをレンタルした。
一級小型船舶免許を持つ淀屋橋の操縦で、外海に出てダバオから親日国でも有名なパラオを経由してミクロネシアのヤップ島沖に停泊している。

「さすがに森小路の連中もわしらがミクロネシアの洋上にいてるとは思えへんやろ。
全員のスマホはマニラのホテルに置きっぱなしやからのぉ。森小路の連中がわしらを「消そう」と走ったとしてもスマホが置いてあるだけの部屋やもんな!
さすがは森小路を脅したろうっていう大阪の総会屋の「ドン」の「淀忠よどちゅう」はんやな。唯ちゃんのお父ちゃんが、「名」を変え、「顔」を変え今もこの世に居るのがようわかるわ。さすがは「蛇の道は蛇」やのぉ!
唯ちゃんのお父ちゃんが富士の樹海で自殺したことにして今も生きてるんはそういうことなんやろ?ケラケラケラ。」
とクルーザーの中でビールを飲みながら直が淀屋橋に問いかけた。

 淀屋橋は、整形してすっかり別人になった土居と目配せしてゆっくりと12年前のことを話し出した。
 森小路から、土居の「自殺」による処分を頼まれた淀屋橋は「盗聴器」が仕掛けられているであろう森小路の公用車を使い、青木ヶ原樹海を訪れた。「逃げる方法」を考えていることを「真面目」な土居には知らせず、自殺の「未届け人」としての芝居を続けた。
 最終的に土居が病気の唯を残して死にきれないことはそれまでの40年の付き合いでよくわかっていた。土居が「娘を残して死ねない」ことを口にして逃げ出すのを待った。夕暮れの人通りのない樹海の入り口で土居が車外に逃げ出すのを待って、拳銃を発射した。驚いて立ち止まった土居に「口にチャック」の仕草をして、「声に出さず読め!俺が確実に将司ちゃんを逃がしてやる!」で始まるこれからの段取りを書いた紙を土居に読ませた。
 公用車に仕掛けられた盗聴器は、銃声と淀屋橋が手下に「土居の遺体を埋めるための道具と人員」を求める電話を確認した。

 その後、到着した淀屋橋の手下の車に、土居は乗り込むと一気に北九州まで走り、そこからあらかじめ用意していた韓国籍の漁船でプサンに渡りそのままソウルに向かうと整形クリニックで別人の顔に作り替え、全身に「親子虎」の刺青を入れた。
 約1週間がかりの整形で、真面目な元高級官僚の森小路事務所の第一秘書の「土居将司」はこの世から消滅し、新たに50歳の刺青総会屋の「野江和男」が誕生したことが語られた。

 そこから土居は、「野江和男」として「淀屋橋組」の幹部としてこれまでの人間関係と知識を活かし淀屋橋の右腕として働いた。「声」の変質は難しかったため、森小路事務所の関係者との面会は避け続けた。
 結果的に、森小路は土居との約束を反故にし、妻の康子の死後、唯への援助を打ち切った。何度も抗議した淀屋橋に嫌気を感じた森小路は検察に手を回したうえで「自傷自演」事件の罠を張り、淀屋橋を陥れた。
 商談を持ちかけられた淀屋橋が、取引先を訪れた際、自ら「短刀ドス」で腕を切りつけた多くの借金を持つ「偽演者」は、「助けてくれ!淀屋橋に切られた!」と大きな叫び声をあげた。

 やむにやまれず、その場を逃げた淀屋橋を逮捕したのは、当時、やり手刑事として名を上げ始めた坂井三郎だった。淀屋橋は必死に「えん罪」を訴え続けたが、森小路は早急に起訴するよう坂井の所属する警察署の上長に圧力をかけ、被害者の証言と状況証拠だけで起訴し、淀屋橋の身柄を検察庁に移すと架空の事件をでっちあげ「強盗殺人未遂」に罪状を切り替え、聴取内容を書き換えて「重罪」扱いとし、淀屋橋に付いた弁護士を買収し、淀屋橋の陳述を捻じ曲げ「懲役20年」の判決に至ったことが語られた。
 「忠ちゃん、真面目に勤めたら半分で出てこられるやろ。それまで俺が「淀屋橋組」は支えてる。その頃には唯が自立してるやろうから、忠ちゃんが塀の中から出てきたら2人で「森小路」に「ぎゃふん」って言わしてやろうぜ!」
の土居の言葉を心の支えに淀屋橋は判決を受けた懲役20年の最初の10年の刑期を模範囚として真面目に過ごし、最短で「仮釈放」を獲得したとのことだった。

 出所した淀屋橋は身を隠し、オンラインで土居と連絡を取り合いながら「文秋砲」と呼ばれるスクープを連続している週刊誌に森小路の12年前の「悪行」を晒し、政治生命を終わらせることを計画した。
 初回の文秋スクープ記事の公開の後、将司が「唯」の現状を知りえたと同時に、森小路側は「唯」が森小路を脅しているのではないかと考え、天満組の「滝井成利」を使い「唯」の調査に入ったことを知った。淀屋橋は「面」が割れているため将司が「野江和男」として「滝井」の動きを探り始めた。
 BARまりあで「滝井」が唯にコンタクトを取り、児童グループホームのハッピーハウス出身であることを知り、ハッピーハウスに忍び込み資料を探ったが決定的な「モノ」は掴めず、プレゼントと称して渡したGPS入りのマスコットでシェアハウスの場所を割り出し、空き巣に入った。
 初回の空き巣だけでは調べきれなかった為、再度、空き巣に向かった時にピッキング中の「滝井」に「野江和男」としての将司が気づき、取っ組み合いになったという事実が将司から語られた。
 その場に唯が戻ってきたため、やむを得ず唯の自転車を奪ってその場を離れたものの、「自転車がないと唯が困るだろう。」との思いから、危険を承知で自転車を返しに戻ったことが分かった。
「へー、唯ちゃんのお父さん、いかつい見た目やけど「やさしいお父さん」なんや。」
と稀世は感心した。

 その後も、唯の動きに目を光らせる方法の一つとして将司も滝井をマークしており、滝井の車にGPSを仕込んでいたので、唯の拉致場所にたどり着いたとのことだった。
 現場で唯のピンチに思わず飛び出し、滝井の拳銃の的になったことに何の戸惑いも無かったことが語られると唯は記憶と残された写真と違う顔の父親の腕にしがみついて「お父さん、ありがとうね…。」と囁いた。
 クルーザーのリビングが「ほっこり」とした空気で包まれた。

 昼の船上プールで夏子と陽菜と一緒に遊び疲れた唯は先に3人で優雅な寝室のベッドで眠りについた。
 3人の女子高校生が眠ったことを確認して直が疑問を口にした。
「ところで「滝井」いう奴は森小路に消されたんか?」
「それについては、何とも言えへんな。殺された可能性もあるし、自死した可能性もある。滝井も「戸籍」が無かったってことやから、何度も自殺をしようとした「関目大介」と同様に「精神コントロール」されてたか「なにがしらの事情」のある奴やったんやろな。」
と淀屋橋が呟くと、稀世は胸が痛くなった。

「ところで「SPもどき」と「特殊部隊」はどこに消えたんや?坂井はん達も気がつけへんかったってことはあの時の護送車は府警で使ってるものやろ?いったいどこに消えてしもたんや?まあ、何かの手違いで後でもう一台の護送車が来てたけどな。」
の直を問いには、太田が答えた。
「実は、俺が現場にたどり着いた時に、特殊部隊の一人の後ろポケットに盗聴器とGPSを仕込んだったんですよ。
 盗聴器の音声はこれから公表するんやけど、あの時の護送車のバスは間違いなく本物です。ただ、当日、出動する予定でない護送車やったんですよ。」

 「ん、太田さん、それってどういうこと?私にもわかるようにやさしく説明してくださいよ。」
と稀世が言うと、太田がノートパソコンを開き説明を再開した。
 私設SPと思われるものと特殊部隊員の11人を連行した護送用バスは、当日は「運休扱い」になっていた整備中のバスだったと説明された。護送車は狭い東大阪警察署の駐車場に止められるスペースがないため、いつも近隣の整備工場が持つ駐車場に止められていたとのことだった。

 坂井たちの連絡を盗聴していたか、署内で傍受したものが何者かに運休中の護送車で「先行して11人を引き受けに行かせた。」というのが太田の推理だった。
 車内での会話は、今から行く先で11人を降ろすので着替えを済ませ一般人として分散するようにとの指示があったらしい。
 GPSの追跡で護送バスの行き先は森小路のスポンサー企業の駐車場に10分程停車し、GPS信号はしばらくの間その場にとどまっていたが、数十分後、盗聴器もGPSも信号が停止したことから、発見され破壊されたのであろうと太田は語った。
「ふーん、その履歴があるんやったら、森小路を追い詰める一つの材料にはなりそうやな。特殊部隊員に盗聴器とGPSを仕込むなんてデスクもやりますよね!さすがはスクーパーですよね!ケラケラケラ。」
 稀世が笑うと「足の骨2本の「ひび」は安くないで!カラカラカラ。」と太田も笑って返した。









ちょっと広告(笑)!
いつも校正してくれている「ぽよぽよ」さんが、木曜日からここ「現代文学」カテゴリーで

『連帯保証債務で300万円の借金を背負う羽目になった親友の為に「お馬さん」で稼ぐことを手伝った女の裏技物語。』

っていうタイトルで4日間の短期集中連載をしています。
もちろん「仕事」でです(笑)。

作中で私も出てきます(笑)。

普通の「競馬小説」とはちょっと違う「セミドキュメンタリー」なんですけど、一度、覗いてみてもらえると嬉しいです。
競馬新聞屋予想アプリに頼らない、意外な「地方競馬」の必勝法(笑)が語られています。
「競馬初心者」の「「ぽよぽよ」さんのお友達」が「1万2千円」を元手にひと月で「300万円」をゲットするまでの「セミドキュメンタリー」なんですよー。

でも、この3日間、閲覧が伸びずにいます。
面白いと思うんですけどねー!
ちなみに今日の夜の更新が第1章の最終話なので「必勝法」が明らかにされます!

本当は、第2章に入ってからの5話目以降のストーリーが面白いんですけど、このまま日曜日の19時でポイントが伸びないと打ち切りです。
(※わずか4日で結果を出せと言うのは「無理」があるんですけどねー!)

いつも、お世話になってるんで、「応援」させてもらいたいのです。
「RBFC」のみなさんもそれ以外の皆さんも、そして「博打にはまらない」前提で「稼ぎたい人」読んでみてください!
「よろしくお願いしまーーーーーす!」
(。-人-。) 

ちなみにこんな表紙です!



よろひこー!
(⋈◍>◡<◍)。✧♡
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