『刺青のヒーロー~元女子プロレスラー新人記者「安稀世」のスクープ日誌VOL.2』

M‐赤井翼

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「盗聴器」

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「盗聴器」

 ハッピーハウスからの電話を受け、門真市駅に向かって歩き出した稀世の背後から「プップーッ!」とクラクションが鳴った。稀世が振り向くと、三朗が手を振っていた。
「おはようございまーす!これからどこへ行かれるんですか?近くだったら送りますよ!」
 笑顔で声をかけてくれた三朗に、ハッピーハウスに行く旨を伝えると
「えー、偶然一緒ですね!今日はハッピーハウスで誕生日の子がいるんでお祝いのちらし寿司を届けに行くところだったんですよ。」
と後部座席に積んだ、風呂敷包みの寿司桶を指さした。
「じゃあ、お願いしちゃってええかな?」
 稀世も笑顔を返して、助手席に乗り込んだ。

 ハッピーハウスに着き、三朗と稀世は厨房に行き寿司桶はテーブルの上に置き、刺身や錦糸卵の具材は冷蔵庫にしまうと応接室に通された。
 女性スタッフが三朗にちらし寿司の礼を告げると、稀世に対する「本題」を切り出した。
「まずは向日葵寿司さん、いつも美味しいお寿司ありがとうございます。今日のちらし寿司もみんな喜ぶと思うわ。
そして安さん…。あのね、うちの整理が悪くて申し訳ないんだけどって先に謝っておくわね。この間来た弁護士さんから「個人情報」は過去の退園者も含めて整理しておかないと言われて亡くなった本田元所長の荷物も整理に入ったのね。そこでこれが出てきたのよ。私、コンピュータはからきしなんで安さんにお渡しした方がいいかと思ってね。」
 (あぁ、その弁護士は「偽物」だって言った方がいいのかな?それともこの場で言うことでもないか…。「敵」の正体が見えない以上、不必要な心配をかけない方がいいわな…。)稀世はひとりで判断して女性スタッフが取り出した紙封筒を受け取った。

 受け取った封筒には「2012年9月8日 北浜唯の母遺物」と書かれていた。唯の母が亡くなった翌日の日付が書かれていたことから、唯の母が病院で亡くなった後、病室から引き取ってきたものにあったものであろうことは想像できた。
封筒には厚みは無く小さな固い物が入っている感じだった。「失礼します」と封筒の中身を確認すると、中にはA4のPPC用紙2枚を三つ折りにしたものと、USBメモリーが入っているだけだった。
PPC用紙の1枚目には、「康子へ 万一、先生からの援助が止まるようなことがあれば、このUSBメモリを淀屋橋忠義氏に渡すように。真実の「献金の移動履歴」が入ってます。将司」と土居の直筆と思われる手紙が入っていた。もう一枚には、パスワードと思われるアルファベットと数字が並んでいた。稀世は一目でそのパスワードが意味するものが分かった。
決定的証拠をつかんだ確信を持ち、深くお辞儀をしようとソファーから稀世は勢いよく立ち上がった。その勢いが強すぎたのか、稀世の膝が応接テーブルにあたり、テーブルがガタンと揺れ、テーブルに置いてあった稀世のスマホが床に落ちた。

「まずは、最初にお声掛けいただきありがとうございます。きっと、唯ちゃんのお父さんの自殺に至った過去の事件の真実が入ってるんだと思います。もしかすると唯ちゃんのお父さんの汚名をはらせる物かもしれません。しかるべき調査をして、公表したいと思います。」
深々とお辞儀して礼をする稀世に代わり、床に落ちたスマホを拾った三朗が「ん、何やコレ?」と稀世のスマホと一緒に両面テープのついた短いアンテナのついたポケットサイズの「ミンティア」ほどの厚みのカードサイズ大の黒いプラスチック部品を拾い上げた。
 三朗がテーブルの下を覗き込むと、テーブルの裏面にちぎれた両面テープの糊が残っていた。まじまじと見ると
「稀世さん、これこの間テレビで見た「カード型盗聴器」に似てるんですけど?」
 稀世は三朗から受け取るとメディアクリエイトでも同じ形式のワイヤレス受信機を使っていることに気付き慌てて稀世は質問した。
「あかん、サブちゃんの言う通りや。この会話は盗聴されてる。すみません、この間の稲荷ずしパーティーの時に来ていた弁護士はこの部屋に入ってますか?」
「えぇ、安さんの座ってる席に座ってはりましたよ。資料準備するまで10分ほど待ってもらってたんやけど、盗聴器ってあの弁護士さんが仕掛けはったってこと?」

 心配そうに稀世に尋ねる女性スタッフを安心させるために、稀世は盗聴器にむかって
「おいコラ!滝井!ハッピーハウスから証拠物はメディアクリエイトの安が預かった。もうハッピーハウスには何もあれへんからな!ここに手を出すようなことがあったらしばき倒したるからな!」
と叫ぶと盗聴器を真っ二つにへし折った。
「ありがとうございました。先日からの事務所荒らしは「これ」が目的だったと思います。今、私が持っていることを宣言したんでこの先、ハッピーハウスに害が及ぶことはあれへんと思います。今日は、ここで失礼します。」
稀世は女性スタッフに再度、一礼すると三朗と一緒にハッピーハウスを出た。

 稀世は三朗の車に乗り込むと、一緒に向日葵寿司に向かう途中で自分のマンションに立ち寄り、ポストにUSBメモリ入りの封筒を放り込むと唯に電話を入れた。唯は稀世からの電話内容をメモに取り、「了解しました。稀世姉さんも気をつけて!」と電話を切った。
 稀世は三朗に「さっきの会話の中で、スタッフさんが「向日葵寿司」の名前を出してしもてるから念のため私が一緒に店まで行くわな。仮に待ち伏せでもされてたらサブちゃんはすぐに警察に連絡するんやで。」とだけ言うと、三朗は
「稀世さんの強さは十二分にわかってますが、僕も「男」です。少しは頼りにしてください。」
と精一杯の強がりを言って見せた。
 



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