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「天満組」

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「天満組」

 BARまりあの帰りに襲撃を受けた稀世と3人の女子高生達は、稀世のマンションに泊まることにした。タクシーの中で稀世は坂井に事の経緯を連絡して、明日の朝、門真署に出むく旨を伝えた。
短刀やナイフを持った男たちに襲撃をされたにもかかわらず、夏子と陽菜は怯えることなくケロッとしていた。
「私達がやってる「やろうぜ会」ではやくざやヤンキーとの交戦は日常茶飯事やからな!」、「今回は「スタンガン」だけで「クマ撃退スプレー」まで使われへんかったからちょっと物足りへんかったな。ケラケラケラ。」とまったく気にしていない様子だった。
興奮冷めやらぬ唯は稀世を見つめて
「稀世姉さんも凄かったですよね!いかつい多数の男相手に「ダブルラリアット」で2人瞬殺して、逃げる男に「ドロップキック」アンド「ヘッドバット」!きゃー、もう素敵―!
逃げながらだったんでよく見れなかったんですけど、後の3人への「フライングクロスチョップ」、「ローリングソバット」そしてラストの「踵落とし」の流れるような連続技も可憐でしたよー!
そして猛突進してくる大型ワゴン車には20リットルの生ビールの樽を投げつけて撃退ですもんねー!さすが私の憧れの「キャンディー稀世」ですねー!リングの外でも「最強の女神」ですねー!もう素敵すぎて困っちゃいます!「憧れ」の域を越えて「神」ですよねー!」
とうっとりしている。

 稀世は3人に夜食のパスタを作って皆に出すと、
「私は、明日は朝一番で門真署に行って、そのまま仕事に行くから先に寝させてもらうわな。布団は出しておくからみんなも適当に寝るんやで。」
と言うと先に床についた。
頭の中で、「インチキ弁護士の滝井」、「淀屋橋組」の龍の刺青の「淀屋橋忠義」、虎の刺青の「野江和男」、そして今日、夏子と陽菜が見たという、学校の周りで見張っていた「謎の男達」、そしていきなり刃物を出して襲撃してきた「男達」と殺す気で突っ込んできた「ワゴン車」と唯を取り巻く「謎の敵」を結び付けようとしたが、まとまること無く眠りに落ちて行った。
 そんな稀世を無視して、3人の女子高生のガールズトークは夜明けまで止まることはなかった。

襲撃事件の翌日の7月11日は期末試験明けの休校という事もあり、唯と夏子、陽菜は身の安全を考慮して稀世のマンションに残すことにした。
「冷蔵庫の中のもんは好きに使ってくれたらええよ。買い物は、万一に備えてなっちゃんと陽菜ちゃんに任せるわな。唯ちゃんは誰がどこで見てるかもわからへんから絶対に外で「顔出し」しないようにしときや。」
と言い残し、午前8時に稀世はマンションを出た。

 門真署に着くと坂井と載田は既に刑事課で待っていてくれた。昨晩の事件現場でワゴン車は確保できたものの、運転者を含む最低9人はいたはずの「暴漢」の姿はなかったとのことだった。ワゴン車は盗難車でナンバーもまた別の車の盗難品で襲撃者に繋がるものは無かったとのことだった。
 ふと稀世はポケットの中の異物に意識が向いた。(そういえば、昨晩、頭突きをくれたった奴の襟についてたなんかをポケットに入れたような…。)とポケットを探ると破れたジャケットの襟にバッジがついていた。
 坂井に襟ごと、手渡した。
「これ、昨晩、襲ってきた男のジャケットの襟についてたものなんですけど、このバッジって「淀屋橋組」のものですか?」

 坂井はバッジをまじまじと見て「これは、「淀屋橋組」のバッジとは違いますねぇ…。載田、このバッジの「照会」してきてくれ。」と横で調書を取っていた載田に手渡した。
 10分後、戻ってきた載田が「これは「天満組」のもののようです。」とA4のバッジデザインが印刷された書類と併せて文字情報が入ったカラー印刷された書面を坂井に手渡した。その書類の中にあった「天満企業情報センター」の文字が稀世の目に入った瞬間、稀世の脳裏にホワイトボードの画像が浮かんだ。

 稀世はスマホを取り出すと、写真ホルダーを過去に遡ってチェックしていった。写真が並ぶ日付ごとのデータをスクロールさせた指が止まった。7月4日の写真ホルダーは、7月1日に京橋駅で稀世が自殺を阻止した民自党副幹事長「森小路雄太」の第一秘書の「関目大介」の事で坂井たちがメディアプロダクツを訪れ、関目の名刺入れや持っていた手帳等から拾い出した情報を元に坂井がホワイトボードに書いた相関図に書き込まれていた「会社名」の一つだった。

 「坂井さん、その書類って私にも見せてもらえるものですか?今、一瞬、「天満企業情報センター」って文字が見えたんですけど、それってこの会社のことじゃないんですか?」
と稀世は自分のスマホのホワイトボードの写真をテーブルの上に置いて、坂井に見せた。坂井は書類を稀世に見せることなく、稀世のスマホの画像を見ながら自分の手帳のページを繰ると、稀世に説明した。
 「天満組」も「淀屋橋組」と同じく、「暴力団」ではなくいわゆる「総会屋」等の「会社ゴロ」のグループであり、「天満企業情報センター」はその舎弟企業の一つで、同じバッジの紋章を使っているという事だと説明がなされたが、その坂井の言葉は稀世にはどうも歯切れが悪く思えた。
 坂井の中で何かが繋がったようで、載田に何やら耳打ちすると載田は部屋を出ていった。

 「安さん、今日の夜は時間はありますか?太田の退院も決まったようなので一度お打ち合わせさせてもらいたいんですけど。「天満組」が関わっているとなると、少々ややこしくなります。
「天満組」は「淀屋橋組」と違って、武闘派の「反社」との繋がりもありますので今しばらく取材は自粛してもらって、様子を見た方が良いかもしれません。夜までに私の方でも資料をまとめておきますので、また連絡させてください。太田の方には私から連絡入れておきますんで…。」
 稀世は黙って頷くと、坂井はそれ以上は何も言わずに部屋を出ていった。

 稀世は、門真署を出ると太田に電話を入れた。一昨日の夜に侵入者によりスマホを盗まれていた太田は「クローンスマホ」を作っていたため、今まで通り連絡を取ることができると判断したからだった。
「もしもし太田さん、安です。報告遅れましたが、今、門真署です。坂井さんと載田さんと会ってました。
昨晩、唯ちゃん達と一緒に何者かわからない暴漢に襲われたんですよ。まあ、誰もケガは無いんですけどね。そこは安心して下さい。
で、坂井さんに調べてもらったら、その犯人が「天満組」ってやつらしいんです。そこで…。」
と稀世が言いかかったところで
「あかん、それ以上しゃべったらあかん!ラインも送ってきたらあかんで。とりあえずコンタクト禁止や!じゃあ切るで!」

 慌てた太田の声を残し、電話は切られた。(えっ、今の太田デスクの慌てっぷりって何?そんなにやばいの?電話もラインもあかんってどういうこと?さっきの坂井さんといい、「天満組」にどんな秘密があるっていうの…。)稀世は、事態が理解できずに立ち尽くした。

 すると稀世のスマホが鳴った。(太田デスクからかな?)と着信画面を見ると「ハッピーハウス」と表示されていた。電話に出ると、いつもの女性スタッフからの電話だった。
「朝早くにごめんなさい。今日、亡くなった本田所長の残した書類袋の中から出てきたものがあって安さんに渡したいものがあるんだけど、うちに寄ってくれる時間はある?」








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