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「北浜唯」
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「北浜唯」
7月3日水曜日午後12時半、ニコニコ商店街の中にある「お好み焼きがんちゃん」で2人の門真工科高校の制服を着た女子高生がお好み焼きを頬張りながらおしゃべりにいそしんでいる。一人はショートカットでもう一人は長髪をポニーテールにまとめている。名札のバッジの色から2年生とわかる。
「陽菜ちゃん、今日の期末テストはどうやった?私は「ヤマかけ」はオール空振りやったし…。数学は補習確実やわ。あー、来週の試験休みにみんなとのプールは厳しいかもしれへんわ…。くすん。」
「えー、なっちゃん土日に数学は集中的にきちんと試験勉強するって言うてたやん?どうせまた「美男子育成ゲーム」にはまってたんやろ!」
「いや、ゲームは「封印」しててんけど、「ユーチューブ」にはまっててん。最初は「集中力を高めるα波再生」っていうチャンネルをかけて、試験勉強に集中するつもりやったんやで…。」
「「やで」ってなによ?どうせ「エンドレスねこ動画」かなんかにはまってたんやろ?」
と「なっちゃん」と呼ばれている「坂川夏子が「陽菜ちゃん」と呼ばれる「仲田陽菜《なかた・ひな》に突っ込まれまくっている。
夏子は「集中力を高めるα波再生」の番組の後、自動再生される「脳波作用系」動画リストにあった「催眠系」番組にはまったとのことだった。以前、「オカルト系」チャンネルで「前世」にはまった夏子は、「α波」番組の次に再生された「Θ波」による催眠番組に心を引かれたという。
「α波」で精神を安定させたところに「Θ波」を重ねることで、人は容易く「催眠状態」に陥る。催眠状態で記憶を遡る「退行催眠」という手法を使えば、「幼児期」や母親の「胎内」記憶どころか前世の記憶をも取り出すことができるというオカルト系人気ユーチューバーの番組だったとどや顔で説明した。
「きっと私の前世はどこかの貴族のお姫様で多くの「3高」イケメンから求愛を受けて幸せな一生を過ごしてると思うねん。」
と「豚玉モダン焼き」を食べながらうっとりとしている。
向かいの席で呆れた顔の陽菜が「はいはい、「現実逃避」せんと明日の「専門科目」の「コンピュータ理論」について意識を戻さんと「補習」で「夏休み終わってしまうで!ケラケラケラ。」と「イカ玉紫蘇チーズ焼き」を口に運び夏子を諫める。
そんな今どきの女子高生の会話に微笑みながらカウンター席で、「ニコニコ商店街の女会長」で「合気道の達人」の67歳にして元気溌剌の「菅野直」がビールを片手にテレビのワイドショーに目を向けている。ナショナルリーグホームランダービーをぶっちぎりで突っ走り、「三冠王」も狙える状況のメジャーリーグMVP2回獲得の日本人スーパースター選手の今朝の試合の全打席が解説されている。
「へー、今日もホームラン打ったんか。徹三、お祝いでビールもう1本出してくれや。」
と店長に追加注文したとき、テーブル席の夏子が窓の向こうを歩いている1学年下の北浜唯を見つけた。夏子は席から入り口に駆け出し唯に声をかけた。
「唯ちゃーん!お昼食べたんか?まだやったら「お好み」奢ったるから明日の「コンピュータ理論」の出題されそうな所を教えてくれへん?唯ちゃんは1年生でもトップクラスの優等生やから、何処が出題の「ツボ」なんかわかるやろ?」
と「専門科目」で同じ授業を受けている夏子が唯に声をかけた。
「あっ、夏子先輩に陽菜先輩。お邪魔しちゃっていいんですか?」
と尋ねると
「今のままやとなっちゃん落第してしまうかもしれへんから、ちょっと教えたってくれへんかな?私も教えて欲しいところあるから、二人で唯ちゃんの分は出させてもらうし!」
と唯の「一人暮らし」を知っている陽菜が気遣って誘った。
唯は学年を気にせず、「専門科目」の教室で声をかけてくれる上級生の夏子と陽菜のことが好きだった。
「冷めてる」と言われがちな今どきの高校生と違って、「やろうぜ会」と呼ばれる門真工科高校の「正義の味方」活動をしていることは「噂」として耳に入っているがその実情は入学して3ヶ月の唯にはよくわかってない。少し二人に興味を持っていたこともあり、唯は夏子と陽菜の誘いに応じた。
唯は、店に入り夏子の横の席に座ると遠慮気味に「「イカ玉」お願いします。」と注文し、「コンピュータ理論」のノートと教科書を開くと、丁寧にかつ分かりやすく夏子と陽菜に説明をした。
「うーん、やっぱり「優等生」はちゃうな…。先生の授業より唯ちゃんの説明の方がわかりやすいわ。「真面目で天才」はちゃうよな。この20分で、なんか明日は100点取れる気になってきたわ!帰ったら、ゆっくりユーチューブ見ても大丈夫そうやな。」
「せやな、私も「コンピュータ理論」は大丈夫って思うわ。それにしても唯ちゃんは、一人暮らししながら学費も自分で稼いでえらいよな。」
夏子と陽菜が口々に唯を褒めるので唯は照れて真っ赤になった。話題は試験から唯の私生活に移り、夕方のニコニコプロレスの研修生生活や夜の「BARまりあ」でのカウンターレディーの仕事に女子会トークは移り、唯が見せたスマホの「カウンターレディー」バージョンの写真を見て二人はうなった。
「ぎょへー、この写真見たら唯ちゃんのこと誰も16歳とは思わへんでなぁ!このメイクで、この色気は反則やなぁ!」
夏子、陽菜と唯の女子会トークが盛り上がる中、店内でかかっているテレビ番組は、日本人メジャーリーガーの話題から「民自党裏金疑惑事件」に切り替わった。お笑いタレントのMCが「明るい話題の次は、眉間にしわを寄せる話題に移ります。今日の国会審議で事件の状況が進展したようです。」と切り出し、画面は国会審議のシーンに代わった。
森小路副幹事長が野党議員から厳しく追及されている。
「森小路副幹事長、あなたが言う「パーティー収入の帳簿未記載」は全て、森小路事務所の「関目大介秘書」の単独判断だというのであれば、関目秘書にこの場で証言させてください。ここに出せないのは、証言させると都合の悪いことがあるからじゃないんですか?」
と烈火のごとく攻めあげる「民衆党」の大阪選出の有名女性参議院議員の質問に森小路がのらりくらりと返答を繰り返しているシーンが流されている。
「「記憶にない」とか「私は知らない」、「秘書が勝手にやったこと」っていうばっかりで、全然話が進めへんよな。野党議員の質問も「文秋」に書いてあることをそのまま聞いてるだけやん。こんなんやったら私や陽菜ちゃんでも国会で質問できるよなぁ?」
夏子が呟くと、陽菜がスマホを取り出して言葉を加えた。
「今日の午前中更新の「文秋オンライン」の最新記事やと、この森小路ってやつ12年前にも「やらかし」てるみたいやで。12年前やから私ら5歳で記憶はあれへんけど、今と同じような「裏金疑惑」事件があって、その時は森小路の秘書が10億円を「個人的に使い込み」して自殺したんやて。」
夏子は興味を持って陽菜に質問をした。
「ところでその秘書は10億円も横領して何に使ったん?」
「うーんと、「女遊び」に「博打」やて…。どうしようもあれへんな。ケラケラケラ。ん?なになに、ちょっと待ってや…。その自殺した秘書には「心臓」に重病を抱えた小さな女の子が居って、アメリカでの心臓移植手術費用にも横領した金を使ったって書いてあるわ。」
陽菜がスマホの記事を読み終わると、テレビの中の女性議員もその記事を元にした質問をし始めた。
「森小路副幹事長!今朝の「文秋オンライン」の記事によると、12年前の「10億円裏金事件」について、「当時の関係者が12年前の真実を語る」ってシリーズが始まるみたいやけど、あなた同じことを繰り返すんですか?記事の中で「今の時点では憶測だが事件を一秘書のスキャンダルにリードするために「ありもしない事件」をでっちあげて、「秘書を抹殺」した可能性もあるという証言を編集部では受けている。」ってありますけど、関目秘書をここに呼べないってことはもしかして12年前の事件と同じように秘書を…。」
と言いかけたところで、多くの民自党議員から「憶測でものを言うな!」、「名誉棄損だ!」、「おまえ、「文秋」から金もらって宣伝してるんじゃないのか!」と怒号のヤジが飛び、議会は大混乱し民自党の議長により中断された。
「あーあ、ええ大人が何をしょうもないケンカしてんねんな…。」
夏子が呟くと、隣の席で唯が激しく息を切らせている。胸を抑え、過呼吸状態になり苦しそうな表情を浮かべる。夏子と陽菜が「唯ちゃんどないしたん?」、「苦しいんか?」と声をかけあたふたしている。唯がテーブルの椅子から転げ落ち、床に仰向けになって倒れた。
カウンター席の直が慌てて近寄り、「あかん、この子、過呼吸や!おい、お前らこの子の口にこの紙袋掛けて抑えるんや。」と紙袋を唯の口にあて、脈を取る。夏子が紙袋を唯の口にあてがうと陽菜は「119」番にダイヤルしようとするが指が震えてうまくタップできない。
唯の過呼吸が止まり、ぴくぴくと痙攣が始まった。
「あかん、脈と呼吸が停止した。心臓マッサージと人工呼吸や!」
直は唯の上に馬乗りになると両手を組んで15秒で胸骨圧迫30回の心臓マッサージをしては2回の人工呼吸を繰り返す。そこに、店の前を通り過ぎる稀世の姿が直の目に入った。直は大声で道行く稀世にむかって叫んだ。
「稀世ちゃん!稀世ちゃん!ちょっと「AED(※自動体外式除細動器)」取ってきてんか?女の子が「呼吸無し」の「心停止」状態やねん!」
「お好み焼きがんちゃん」の店内に目を向けた稀世は瞬時に状況を悟った。
「わかった。ニコニコプロレスの練習場にAEDあるから、直さんは「人工呼吸」と「心マ」続けとってください!」
2分後、数軒先のニコニコプロレスの練習場からAEDの入ったバッグを肩にかけ稀世が飛び込んできた。
「止まってどれくらい?」
「今で3分や。急いでや!」
稀世と直は阿吽の呼吸でポジションを入れ替わり、稀世は唯の呼吸と心音を確認すると、唯のブラウスを引きちぎった。ブラジャーにワイヤーが入っていることを確認すると、背に手を回しホックを外しブラジャーを剥ぎ取った。唯の胸の中央に縦に薄い赤色の縦すじが見える。
稀世は唯の右胸上部と左わきにパッドを貼るとスイッチを入れた。AEDが心臓の状況を自動的に判断し「電気ショックが必要です」とアナウンスした。充電が始まるとオロオロと唯に「頑張れ!」、「大丈夫やで!」と手を取り声をかけ続けている夏子と陽菜に「電気流すから離れて!」と言い、「ショックボタンを押してください。」のAEDのコールに合わせてボタンを押した。
目を開けた唯が、小さな声で呟いた。「あれ、稀世姉さん…。」
5分後、稀世の夏物のジャケットを着た唯は、常温のウーロン茶を口にしていた。
「ごめんな、慌ててたからブラウスのボタン全部飛ばしてしもて…。今、お友達がブラウス買いに行ってくれてるからもう少し待っててな。
それにしても倒れてるんが「唯ちゃん」やとは気づけへんかったわ。BARまりあで会った時と違って、「すっぴん」やとやっぱり「女子高生」なんやな。ところでその胸の傷は?別に言いたくなかったらええねんけど…。」
とジャケットの合わせボタンの上の胸の傷を指して申し訳なさそうに質問する稀世とその横に付き添う直に
「この傷は…。」
と唯は12年前の話を始めた。
※今作でレギュラー復活の「なっちゃん」、「陽菜ちゃん」、(「「67歳」設定に若返った)「直さん」。
7月3日水曜日午後12時半、ニコニコ商店街の中にある「お好み焼きがんちゃん」で2人の門真工科高校の制服を着た女子高生がお好み焼きを頬張りながらおしゃべりにいそしんでいる。一人はショートカットでもう一人は長髪をポニーテールにまとめている。名札のバッジの色から2年生とわかる。
「陽菜ちゃん、今日の期末テストはどうやった?私は「ヤマかけ」はオール空振りやったし…。数学は補習確実やわ。あー、来週の試験休みにみんなとのプールは厳しいかもしれへんわ…。くすん。」
「えー、なっちゃん土日に数学は集中的にきちんと試験勉強するって言うてたやん?どうせまた「美男子育成ゲーム」にはまってたんやろ!」
「いや、ゲームは「封印」しててんけど、「ユーチューブ」にはまっててん。最初は「集中力を高めるα波再生」っていうチャンネルをかけて、試験勉強に集中するつもりやったんやで…。」
「「やで」ってなによ?どうせ「エンドレスねこ動画」かなんかにはまってたんやろ?」
と「なっちゃん」と呼ばれている「坂川夏子が「陽菜ちゃん」と呼ばれる「仲田陽菜《なかた・ひな》に突っ込まれまくっている。
夏子は「集中力を高めるα波再生」の番組の後、自動再生される「脳波作用系」動画リストにあった「催眠系」番組にはまったとのことだった。以前、「オカルト系」チャンネルで「前世」にはまった夏子は、「α波」番組の次に再生された「Θ波」による催眠番組に心を引かれたという。
「α波」で精神を安定させたところに「Θ波」を重ねることで、人は容易く「催眠状態」に陥る。催眠状態で記憶を遡る「退行催眠」という手法を使えば、「幼児期」や母親の「胎内」記憶どころか前世の記憶をも取り出すことができるというオカルト系人気ユーチューバーの番組だったとどや顔で説明した。
「きっと私の前世はどこかの貴族のお姫様で多くの「3高」イケメンから求愛を受けて幸せな一生を過ごしてると思うねん。」
と「豚玉モダン焼き」を食べながらうっとりとしている。
向かいの席で呆れた顔の陽菜が「はいはい、「現実逃避」せんと明日の「専門科目」の「コンピュータ理論」について意識を戻さんと「補習」で「夏休み終わってしまうで!ケラケラケラ。」と「イカ玉紫蘇チーズ焼き」を口に運び夏子を諫める。
そんな今どきの女子高生の会話に微笑みながらカウンター席で、「ニコニコ商店街の女会長」で「合気道の達人」の67歳にして元気溌剌の「菅野直」がビールを片手にテレビのワイドショーに目を向けている。ナショナルリーグホームランダービーをぶっちぎりで突っ走り、「三冠王」も狙える状況のメジャーリーグMVP2回獲得の日本人スーパースター選手の今朝の試合の全打席が解説されている。
「へー、今日もホームラン打ったんか。徹三、お祝いでビールもう1本出してくれや。」
と店長に追加注文したとき、テーブル席の夏子が窓の向こうを歩いている1学年下の北浜唯を見つけた。夏子は席から入り口に駆け出し唯に声をかけた。
「唯ちゃーん!お昼食べたんか?まだやったら「お好み」奢ったるから明日の「コンピュータ理論」の出題されそうな所を教えてくれへん?唯ちゃんは1年生でもトップクラスの優等生やから、何処が出題の「ツボ」なんかわかるやろ?」
と「専門科目」で同じ授業を受けている夏子が唯に声をかけた。
「あっ、夏子先輩に陽菜先輩。お邪魔しちゃっていいんですか?」
と尋ねると
「今のままやとなっちゃん落第してしまうかもしれへんから、ちょっと教えたってくれへんかな?私も教えて欲しいところあるから、二人で唯ちゃんの分は出させてもらうし!」
と唯の「一人暮らし」を知っている陽菜が気遣って誘った。
唯は学年を気にせず、「専門科目」の教室で声をかけてくれる上級生の夏子と陽菜のことが好きだった。
「冷めてる」と言われがちな今どきの高校生と違って、「やろうぜ会」と呼ばれる門真工科高校の「正義の味方」活動をしていることは「噂」として耳に入っているがその実情は入学して3ヶ月の唯にはよくわかってない。少し二人に興味を持っていたこともあり、唯は夏子と陽菜の誘いに応じた。
唯は、店に入り夏子の横の席に座ると遠慮気味に「「イカ玉」お願いします。」と注文し、「コンピュータ理論」のノートと教科書を開くと、丁寧にかつ分かりやすく夏子と陽菜に説明をした。
「うーん、やっぱり「優等生」はちゃうな…。先生の授業より唯ちゃんの説明の方がわかりやすいわ。「真面目で天才」はちゃうよな。この20分で、なんか明日は100点取れる気になってきたわ!帰ったら、ゆっくりユーチューブ見ても大丈夫そうやな。」
「せやな、私も「コンピュータ理論」は大丈夫って思うわ。それにしても唯ちゃんは、一人暮らししながら学費も自分で稼いでえらいよな。」
夏子と陽菜が口々に唯を褒めるので唯は照れて真っ赤になった。話題は試験から唯の私生活に移り、夕方のニコニコプロレスの研修生生活や夜の「BARまりあ」でのカウンターレディーの仕事に女子会トークは移り、唯が見せたスマホの「カウンターレディー」バージョンの写真を見て二人はうなった。
「ぎょへー、この写真見たら唯ちゃんのこと誰も16歳とは思わへんでなぁ!このメイクで、この色気は反則やなぁ!」
夏子、陽菜と唯の女子会トークが盛り上がる中、店内でかかっているテレビ番組は、日本人メジャーリーガーの話題から「民自党裏金疑惑事件」に切り替わった。お笑いタレントのMCが「明るい話題の次は、眉間にしわを寄せる話題に移ります。今日の国会審議で事件の状況が進展したようです。」と切り出し、画面は国会審議のシーンに代わった。
森小路副幹事長が野党議員から厳しく追及されている。
「森小路副幹事長、あなたが言う「パーティー収入の帳簿未記載」は全て、森小路事務所の「関目大介秘書」の単独判断だというのであれば、関目秘書にこの場で証言させてください。ここに出せないのは、証言させると都合の悪いことがあるからじゃないんですか?」
と烈火のごとく攻めあげる「民衆党」の大阪選出の有名女性参議院議員の質問に森小路がのらりくらりと返答を繰り返しているシーンが流されている。
「「記憶にない」とか「私は知らない」、「秘書が勝手にやったこと」っていうばっかりで、全然話が進めへんよな。野党議員の質問も「文秋」に書いてあることをそのまま聞いてるだけやん。こんなんやったら私や陽菜ちゃんでも国会で質問できるよなぁ?」
夏子が呟くと、陽菜がスマホを取り出して言葉を加えた。
「今日の午前中更新の「文秋オンライン」の最新記事やと、この森小路ってやつ12年前にも「やらかし」てるみたいやで。12年前やから私ら5歳で記憶はあれへんけど、今と同じような「裏金疑惑」事件があって、その時は森小路の秘書が10億円を「個人的に使い込み」して自殺したんやて。」
夏子は興味を持って陽菜に質問をした。
「ところでその秘書は10億円も横領して何に使ったん?」
「うーんと、「女遊び」に「博打」やて…。どうしようもあれへんな。ケラケラケラ。ん?なになに、ちょっと待ってや…。その自殺した秘書には「心臓」に重病を抱えた小さな女の子が居って、アメリカでの心臓移植手術費用にも横領した金を使ったって書いてあるわ。」
陽菜がスマホの記事を読み終わると、テレビの中の女性議員もその記事を元にした質問をし始めた。
「森小路副幹事長!今朝の「文秋オンライン」の記事によると、12年前の「10億円裏金事件」について、「当時の関係者が12年前の真実を語る」ってシリーズが始まるみたいやけど、あなた同じことを繰り返すんですか?記事の中で「今の時点では憶測だが事件を一秘書のスキャンダルにリードするために「ありもしない事件」をでっちあげて、「秘書を抹殺」した可能性もあるという証言を編集部では受けている。」ってありますけど、関目秘書をここに呼べないってことはもしかして12年前の事件と同じように秘書を…。」
と言いかけたところで、多くの民自党議員から「憶測でものを言うな!」、「名誉棄損だ!」、「おまえ、「文秋」から金もらって宣伝してるんじゃないのか!」と怒号のヤジが飛び、議会は大混乱し民自党の議長により中断された。
「あーあ、ええ大人が何をしょうもないケンカしてんねんな…。」
夏子が呟くと、隣の席で唯が激しく息を切らせている。胸を抑え、過呼吸状態になり苦しそうな表情を浮かべる。夏子と陽菜が「唯ちゃんどないしたん?」、「苦しいんか?」と声をかけあたふたしている。唯がテーブルの椅子から転げ落ち、床に仰向けになって倒れた。
カウンター席の直が慌てて近寄り、「あかん、この子、過呼吸や!おい、お前らこの子の口にこの紙袋掛けて抑えるんや。」と紙袋を唯の口にあて、脈を取る。夏子が紙袋を唯の口にあてがうと陽菜は「119」番にダイヤルしようとするが指が震えてうまくタップできない。
唯の過呼吸が止まり、ぴくぴくと痙攣が始まった。
「あかん、脈と呼吸が停止した。心臓マッサージと人工呼吸や!」
直は唯の上に馬乗りになると両手を組んで15秒で胸骨圧迫30回の心臓マッサージをしては2回の人工呼吸を繰り返す。そこに、店の前を通り過ぎる稀世の姿が直の目に入った。直は大声で道行く稀世にむかって叫んだ。
「稀世ちゃん!稀世ちゃん!ちょっと「AED(※自動体外式除細動器)」取ってきてんか?女の子が「呼吸無し」の「心停止」状態やねん!」
「お好み焼きがんちゃん」の店内に目を向けた稀世は瞬時に状況を悟った。
「わかった。ニコニコプロレスの練習場にAEDあるから、直さんは「人工呼吸」と「心マ」続けとってください!」
2分後、数軒先のニコニコプロレスの練習場からAEDの入ったバッグを肩にかけ稀世が飛び込んできた。
「止まってどれくらい?」
「今で3分や。急いでや!」
稀世と直は阿吽の呼吸でポジションを入れ替わり、稀世は唯の呼吸と心音を確認すると、唯のブラウスを引きちぎった。ブラジャーにワイヤーが入っていることを確認すると、背に手を回しホックを外しブラジャーを剥ぎ取った。唯の胸の中央に縦に薄い赤色の縦すじが見える。
稀世は唯の右胸上部と左わきにパッドを貼るとスイッチを入れた。AEDが心臓の状況を自動的に判断し「電気ショックが必要です」とアナウンスした。充電が始まるとオロオロと唯に「頑張れ!」、「大丈夫やで!」と手を取り声をかけ続けている夏子と陽菜に「電気流すから離れて!」と言い、「ショックボタンを押してください。」のAEDのコールに合わせてボタンを押した。
目を開けた唯が、小さな声で呟いた。「あれ、稀世姉さん…。」
5分後、稀世の夏物のジャケットを着た唯は、常温のウーロン茶を口にしていた。
「ごめんな、慌ててたからブラウスのボタン全部飛ばしてしもて…。今、お友達がブラウス買いに行ってくれてるからもう少し待っててな。
それにしても倒れてるんが「唯ちゃん」やとは気づけへんかったわ。BARまりあで会った時と違って、「すっぴん」やとやっぱり「女子高生」なんやな。ところでその胸の傷は?別に言いたくなかったらええねんけど…。」
とジャケットの合わせボタンの上の胸の傷を指して申し訳なさそうに質問する稀世とその横に付き添う直に
「この傷は…。」
と唯は12年前の話を始めた。
※今作でレギュラー復活の「なっちゃん」、「陽菜ちゃん」、(「「67歳」設定に若返った)「直さん」。
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