上 下
34 / 37

第8話「ぼったくりする奴とぼったくられる奴。③」

しおりを挟む
第8話「ぼったくりする奴とぼったくられる奴。③」

 翌日、万沙は劇団責任者の緒狩斗好哉おかると・すきやに小型カメラやボイスレコーダーを借りると、副島と一緒に新大阪にむかった。そこで待ち合わせた、副島と同年代の初老の弁護士と個室喫茶に入ると、万沙の先輩「勃多栗依弥ぼつたくり・いや」の入居している管理会社の指定する「弁護士」に電話を入れ、状況を話した。
 面会は、東京の「管理会社」の担当弁護士の事務所で午後1時からと決まった。

 新幹線で東京まで出て、そこから地下鉄で霞が関にむかい、東京地方裁判所近くの弁護士事務所の前で、副島が万沙に言った。
「じゃあ、「女優」万沙ちゃんの出撃や。しっかり、「できる、社会派脚本家「音玄万沙ねくろ・まんさ」を演じるんやで。セリフは、頭の中でおいちゃんが「前読み」したるから頑張りや。」

 十数名の弁護士を抱える、大きな事務所の責任者である弁護士が出てきて、副島の連れて来た弁護士と握手を交わした。副島の連れて来た弁護士は相手の弁護士を「君付け」で呼び、相手の弁護士はこちらの弁護士を「先輩」と呼んでいるのを聞き、万沙は「おっちゃんは森先生に同じ出身校の弁護士を探させたんやな。」と心の中で思うと、副島が呟いた。
「せやで。幸い、おいちゃんの仲良しの弁護士に、こっちの主任弁護士の同窓の先輩が居ってよかったわ。まあ、「東大と京大」、「慶応と早稲田」、「同志社と立命」みたいに出身校だけで「敵対」してしまう事も「まま」あるんやで。弁護士を依頼するにしても「後出し」は頭を使うと有利になるんや。さて、万沙ちゃんの出番やで。」

 こちらの弁護士が、万沙の事を紹介した。依弥の大学の後輩で、懇意にしている関係であるので、仕事の都合で直接話ができない依弥に代わってきた旨と、社会派劇の脚本家をやっていることが伝えられた。
 ニコニコ劇団の名刺を渡すとカメラとボイスレコーダーを取り出し、副島が「前読み」したセリフをそのまま相手の弁護士に伝えた。
「初めまして、ニコニコ劇団の音玄万沙と言います。「劇団」と言いましても「四季」や「宝塚」なんかの大手劇団と違って、日頃はテレビ局のニュースや特番の制作外注を受けています。
 今回は、8月にSNSで話題に上がった「給湯器が壊れて、管理会社に民法611条に基づき「設備故障に伴う家賃減額」交渉と「カスタマーハラスメントのクレーム」についての全国放送予定の経済特番の制作を企画しようとしていたところ、私の先輩がそういった案件に近いものに遭ったという事で代理人のひとりとして取材させてもらうことになりました。よろしくお願いします。」

 こちらの弁護士が、「実名報道ありきの「民放局」の番組なんで「できたら」軟着陸する交渉にしたいですわな。」と後輩弁護士に先手を打った。相手の弁護士もその発言の趣旨は十分に読み取ってくれているようだった。
 続いて、万沙は副島が言うように発言を続けた。
「2020年の民法改正での621条の解釈が追記された1998年の「現状回復をめぐるトラブルとガイドライン」の「入居者側に落ち度がない部分の修復については原状回復を追う必要はない」との解釈と「設備故障に対する不対応」による契約違反で当方から「解約」でなく「契約解除」の申し立ても検討しています。
「管理会社」側の弁護士と「独立行政法人国民生活センター」の意見もお伺いしたいので、これをお読みになったうえで、先生のご意見を伺いたいと思います。」

 森が作成した、今案件の経緯書を手渡すと相手弁護士はその書類に目を通し、万沙に言った。
「ほぉ、「解約」でなく「解除」ときましたか。お若いのによく勉強されてますね。こりゃ、私も先輩も出る必要がないくらいの知識ですね。私は、「管理会社」側のレポートで、「入居者由来の設備破損」と「悪意を持っての設備代および家賃の支払い拒否」と聞いていましたので、こちらに書かれていることが事実であるとするならば、万沙さんが言われるように、エアコンの交換費用は「家主」側が持つべきものと判断します。
鉢植えを置いたことを「重過失」というのも無理がありますね。国民生活センターの「ADR(※裁判外紛争処理手続き)」でもそちらの主張が通ると思います。そもそも7年半入居されているという事であれば、家庭用エアコンの法定償却年数が6年という事であれば減価償却も進んでいますので全額請求の根拠もなくなりますしね。611条に基づきエアコン修理待機期間のホテル代も補償せざるを得ないでしょう。
まあ、私が言っちゃいけないんでしょうけど、「不動産業界」っていうのは昔ながらの「行儀の悪い家主」と契約欲しさにその「手下」に成り下がった「管理会社」が多いのも事実です。年間顧問契約してる「うち」としては「こじれ」たり、「長引く」ことは「丸損」になりますし、何と言っても「大先輩」のクライアントさんという事なので「引かせて」もらいましょう。
そのバーターとして、テレビ番組での「実名報道」および「当該事件の取材」を取り下げていただく条件でまとめたという「シナリオ」には協力してくれますね。私もクライアントに対して「立場」というものがありますので。」

交渉は、約30分で済んだ。相手の弁護士が、管理会社に電話をし、10分後には、勃多栗依弥ぼつたくり・いやへの請求は取り下げられ、ドアのロックも即時解錠することが約束された。
 10日間のホテル住まいの実費を9月分の家賃に充当し、余った金額と、昨晩から今日までのホテル代と併せて、5万円が慰謝料として払われることで、弁護士への費用と交通費が賄えることがわかり、万沙は依弥にその場で電話を入れた。依弥はその条件で了解し、和解が成立した。

「万沙、ありがとう。何から何までやってもらっちゃったお礼に、今日はとことん飲むわよ!もちろん、私の奢りやから何でも言うてや。ホストでもフレンチでもかまへんで。下手すりゃ、8万8千円支払わされたうえで「宿無し」になるところやったんやからな。」
と門真に帰ると、依弥が笑顔で出迎えてくれた。
「いやぁ、私は先生と一緒に行っただけで何もしてへんのですよ。昨日、缶チューハイもごちそうになってるんで…、」
と言いかけたところで、副島が前面に出てきて言った。
「モチのロンで飲みまっせ―!じゃあ、お言葉に甘えて「おいちゃん」お勧めの「日本酒飲み放題」のええ「安居酒屋」があるから、そこでたらふくご馳走にならせてもらっても「いいかなー!」、「いいともー!」ってひとりですんなっちゅうねん。じゃあ、「飲み放題」へマッハ2でレッツ・ラ・ゴー!カラカラカラ。」

 万沙のひとりボケツッコミと昭和オヤジの「ネタ」が理解できずに、固まる依弥に(先輩ごめんなさい。でも、こんなおっちゃんのおかげで無事に「事」は解決したんですよ。今日は、ちょっと飲ませたってくださいね。)と万沙は心の中で詫びた。



「今日のおまけ」

はい、皆さん、実質的な最終回です。
お付き合いいただきありがとうございました。
昨日、いっぱい書いてるので今日はイラスト中心で行きましょう。
まだ、あとがきのようなものも残ってるしね(笑)。

まずは、「怒ってる万沙ちゃん」から!





今のアプリは怒った顔作ってくれるんで、挿絵的には助かりましたねー!

そして、無事解決で「お疲れ「生」です!」









メイド姿はちょっとおふざけ!


そして第8話の最終話という事でチーム「みりおた」の皆さんに「行儀の悪い万沙ちゃん」です!







あー、イラスト大会してないのにこの時点でイラスト227点!
いやー、忙しくなるわけだ(笑)。

明日はお迎えで「サキュバスなっちゃん」&「ワルキューレ陽菜ちゃん」も再登場でーす!
では、また明日―!
(@^^)/~~~
しおりを挟む
感想 46

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

『偽りのチャンピオン~元女子プロレスラー新人記者「安稀世」のスクープ日誌VOL.3』

M‐赤井翼
現代文学
元女子プロレスラー新人記者「安稀世」のスクープ日誌の3作目になります。 今回のお題は「闇スポーツ賭博」! この春、メジャーリーグのスーパースターの通訳が起こした「闇スポーツ賭博」事件を覚えていますか? 日本にも海外「ブックメーカー」が多数参入してきています。 その中で「反社」や「海外マフィア」の「闇スポーツ賭博」がネットを中心にはびこっています。 今作は「闇スポーツ賭博」、「デジタルカジノ」を稀世ちゃん達が暴きます。 毎回書いていますが、基本的に「ハッピーエンド」の「明るい小説」にしようと思ってますので、安心して「ゆるーく」お読みください。 今作も、読者さんから希望が多かった、「直さん」、「なつ&陽菜コンビ」も再登場します。 もちろん主役は「稀世ちゃん」です。 このネタは3月から寝かしてきましたがアメリカでの元通訳の裁判は司法取引もあり「はっきりしない」も判決で終わりましたので、小説の中でくらいすっきりしてもらおうと思います! もちろん、話の流れ上、「稀世ちゃん」が「レスラー復帰」しリングの上で暴れます! リング外では「稀世ちゃん」たち「ニコニコ商店街メンバー」も大暴れしますよー! 皆さんからのご意見、感想のメールも募集しまーす! では、10月9日本編スタートです! よーろーひーこー! (⋈◍>◡<◍)。✧♡

処理中です...