上 下
26 / 37

第6話「知らないものはとことん「損」をする。それは味方であるはずの…。②」

しおりを挟む
第6話「知らないものはとことん「損」をする。それは味方であるはずの…。②」

 翌日、午後10時、痛々しいギブス姿の「部辣区欣夢ぶらつく・きんむ」が原付で金城事務所を訪れた。ヘルメットの下は、まだ幼さが残るアイドル顔だったが、残念な事に「深く、濃い」クマと落ち込んだ眼が異常なまでに目立っていた。
「遅い時間にすみません。幸い、上司は飲みに行ったんで今日はもう電話がかかってくることも無いと思いますのでよろしくお願いします。これ、つまらないものですが…。」
と洋菓子屋のケーキが入った紙袋を差し出した。

 森が受け取り、奥の部屋にいる万沙に「アイスコーヒー入れたって。ケーキ持って来てくれはったから、せっかくやからいただきながら話を聞かせてもらいましょか。」と声をかけた。
 事務所内のキッチンに万沙がアイスコーヒーとケーキの配膳準備に向かうと、副島が万沙の心に語り掛けて来た。
「なかなかのイケメンやったやんか!菓子折り持ってくるところも気に入った。今日は、おいちゃんが「ばっちり」万沙ちゃんになり切って話を進めたるから、この数時間後には「音玄さん、素敵です。かっこいいです。付き合ってください!」ってなるかもな。部辣区さんが「ムー民」やったら最高やのにな!
まあ、おいちゃんが艦長、森君が戦闘班長の戦艦大和に乗ったつもりで、次の作品のネタ作りの為に聞いておくことやな。カラカラカラ。」

「おっちゃん、部辣区さんは初対面やねんから、くれぐれも失礼のないようにしてや。今日は、お酒は禁止。あと、「おいちゃんは…」とか「しばいたったらええねん!」とかいうのも無しにしてや。もちろん「昭和のオヤジギャグ」も厳禁やで。」
と不安げに万沙が呟くと「まかせてチョモランマ!」と副島はふざけて返事をした。

 応接に万沙が入ると部辣区欣夢が立ち上がり、直立不動の姿勢で
「夜分遅くにすみません。一度、舞台を見ただけの私の為にお時間を割いていただき、誠にありがとうございます。こんな若くて美人があの脚本を書いているとは想像してませんでした。」
と裏返り気味の声で一気に話すと、丁寧に135度のお辞儀をした。
「初めまして。音玄万沙と言います。まあ、脚本の殆どは、森先生と、この場にはいないですけどもう一人の「先生」にいただいた「案」ですから、私には気を遣わないでくださいね。」
 万沙は、欣夢の勢いに押されつつも、平常を装いながらアイスコーヒーとケーキを応接テーブルに並べた。

 基本的には森が話を先導し、それに欣夢が答える流れで話は進められた。聞けば聞くほど、欣夢の勤める会社のブラック度には驚かされるものがあった。
 上司は、勤務時間中は真面目にプログラミングしている若手社員の前でゴルフやキャバクラの話ばかり。夕方5時の定時が過ぎると、職場内でビールや缶チューハイを飲みながら
「はよ仕事進めろよ。お前らが終わらんと、俺らも遊びに行かれへんからなぁ。」
と言われる毎日の酷い現実が語られると万沙の胸が痛んだ。
 (パワハラ?いや、それ以前のモラルの問題やろ。けど、こんな会社相手におっちゃんと森先生はどんな手で「成敗」するっていうの?会社は「ブラック」、頼みの労災もあかんかったみたいやし…。)と不安感が沸き上がると「万沙ちゃん、ちょっとしゃべらせてもらうで。ええかな?」と副島の声が頭の奥に響いた。

 「部辣区さん、大体のところはわかりました。2点確認させておいてもらいたいねん。「会社に辞意を伝えた。」ってメールには書いてあったけど、辞める前提で会社とこじれてもええんかな?」
の副島の問いには速攻で
「はい。次の仕事に入ったら半年間逃げられなくなってしまいます。そうなったら、「過労死」するか「心を病む」かどちらかですから。「退職手続き代行会社」を使ってでもやめようと考えてたくらいです。」
思いもかけないくらい強い言葉が返ってきた。
「まあ、「退職手続き代行」も「良し」、「悪し」があるから早まらんで良かったな。下手すりゃ、こじれて離職票が出えへんかったり、賠償を求められることもあるからな。」
と言うと、副島は何やらメモを取りながら、再度、部辣区に質問をした。

 「ちなみに、部辣区さんの会社って人事部ってあるんかな?何人くらいの会社なん?同じような職種は何人おんの?「就業規則」って読んだことあんのかな?あと、労基署の担当は若かったか?それともベテランそうやった?」
 (ん、「就業規則」ってなんやったっけ?なんか聞いたことがあるような言葉やねんけど。あと、労基署の担当が「若い」とか「ベテラン」ってなんか関係あんの?私自身も調べたけど「寄り道」中の事故は「通勤災害」にならへんってネットでも書いてあったで…?)万沙が思っている間に、欣夢が万沙の中の副島に答えていた。
「人事部はあります。責任者は人事部長です。社員は全部で60名くらいです。30名ほどが僕と同じような若い「SE」です。「就業規則」は見たことは無いです。あと、「労基署」の担当は電話で話しただけなんですけど、何度も途中で保留して他の人にアドバイス求めてた感じなんで若い人だと思います。」

 応接室の時計は午前0時を示していた。
「おっしゃ、だいたい分かった。部辣区さんは、明日は「発熱・・」で会社は「休み」や。今日はもう遅いから「うち」に泊まっていき。なんやったらちょっと飲むか?まあ、高い酒は何もあれへんけどな。
おいちゃん…、いや「私」もちょっと飲みたいし、「戦の前のうたげ」ってなもんかな。ところで兄ちゃんは飲める口か?」

 突然の副島が憑依した「万沙」のオヤジ言葉での誘いに、「そんな、ご迷惑じゃないですか…?ちなみに「ここ」って音玄さんの「うち」なんですか?」と控えめに断るも、のどの渇きが限界に来ていた副島が先にカップ酒を開けていた。
「かまへん、かまへん。過労が積み重なってる中、帰り道でバイクの事故起こしたらそれこそ「労災」になれへんからな。飲むんは「ビール」か?それとも「チューハイ」か?安物の「日本酒」と「バーボン」もあるで!」



「今日のおまけ」
昨日のイラストの「欣夢くん」、予想外に受けが良かったですね(笑)。
女性読者の「嗜好」がよくわからない、「おじさん」です(笑)。

まあ、反応よかったんでイラスト追加!





こんな感じでよろしかったでしょうか?
前作の「遊穂くん」も「草食系男子」をイメージしてたんですけど、「黒髪」の「新卒社員」の方が受けが良かったようです(笑)。
「日々勉強」
ですね(笑)。


そして、万沙ちゃんは「旧ドク」の男性読者に思いっきり「忖度」します!

「海の万沙ちゃん」!





今日のところはこんな感じで!
(⋈◍>◡<◍)。✧💓
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

食事届いたけど配達員のほうを食べました

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか? そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。

孤児になると人権が剥奪され排泄の権利がなくなりおむつに排泄させられる話し

rtokpr
エッセイ・ノンフィクション
孤児になると人権が剥奪され排泄の権利がなくなりおむつに排泄させられる話し

【R18】家庭教師の生徒が年上のイケメンで困る

相楽 快
現代文学
資産家の依頼で、家庭教師をすることになった北見七海。 中学高校と女子校で、青春の全てを勉学に専念し、全く男性との接点がないまま晴れて大学生になった。勉強には自信があるし、同級生や後輩にも教えてきた。 いざ生徒と対面してびっくり。 なんと40歳のおじさん! でも、中性的で高身長なおじさんの、温かさに触れ、徐々に仲を深めていく二人の物語。

意味がわかると下ネタにしかならない話

黒猫
ホラー
意味がわかると怖い話に影響されて作成した作品意味がわかると下ネタにしかならない話(ちなみに作者ががんばって考えているの更新遅れるっす)

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

男子中学生から女子校生になった僕

大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。 普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。 強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!

処理中です...