【完結】『ながらスマホで５６歳のおっさん霊を憑依させざるを得なくなった２３歳の女劇団員「音玄万沙《ねくろ・まんさ》」の物語』

第１話「ながらスマホで自転車運転をしたばっかりに…②」

第１話「ながらスマホで自転車運転をしたばっかりに…②」

　地上の「試験場入口」交差点はにわかに慌ただしく動き出した。あるものはスマホを取り出し「１１９」、「１１０」に連絡を入れている。あるものは自主的に交通整理を行い、あるものは交差点中央に倒れた万沙を路外に移動させ、交差点路肩に仰向けに寝かされた万沙の脈を取り話しかけ、あるものはトラックの下の出血した太った中年男に「大丈夫か！救急車呼んでもろてるから頑張れ！」と必死に声掛けをしている。
　中年男の横で赤ん坊を抱いた若い女性が泣きじゃくっているのが見える。
「このラッシュじゃ救急車もなかなか来られへんやろ。自転車の女の子はともかく、トラックの下のおっさんはこの出血じゃもうあかんやろな…。」
「うわぁ、えらいもん見てしもたな…。巻き添え喰ったおっちゃん、しっかり成仏してや。ここの交差点で「地縛霊」になったりせんようにしてな。南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏。」
「根本的に「ながらスマホ」でチャリンコ乗ってたこの女の子が信号無視して交差点に入ったんが事故の原因やろ。こんなになってもスマホをしっかり握りしめてるってどやねん。」
と事故現場を囲む人たちのつぶやきがクリアーに万沙の頭に響いてくる。

　宙空の万沙と「死神」を名乗る翼の生えた極小レオタードと古代ヨーロッパの軍服の二人の女の子に加えてトラックの下敷きになっている赤い作業用ブルゾンの男とそっくりの男が現れた。
「あーあ、わしはもう「あかん」な。以前の幽体離脱の時と違って、「魂の緒」が切れてしもてるもんなぁ…。あー、最後に思いっきり「熱燗」飲んでおくべきやったなぁ。「後悔先に立たず」ってやつやな。交通事故扱いやから、家族には金は残せるやろうけど「森君」がなぁ…。あの世で「金城先生」に怒られてしまうよな。どんな顔して会ったらええねやろか。」

　少ない髪の頭をかきながら太った男が現れた。男は万沙と死神の二人を見て驚くことなく言った。
「そっちの「魂の緒」が体と繋がってる女の子は安心しいや。あんたは一時的に魂が肉体から飛び出て「幽体離脱」の状態になってるだけやから、もうちょっとしたら体に戻れると思うわ。
　で、こっちのふたりの「かわいこちゃん」はわしの「お迎え」か？今日がわしの「命日」やったんか？見たところ、この世に未練を残さんように最後に「好きな夢」を見させてくれる「サキュバス」ちゃんと、「あの世」まで迷わんと行けるように導いてくれる「ワルキューレ」ちゃんやろ？
　サキュバスちゃんには、最後に思いっきり「旨いカレー」と「チキンカツ」で醸造酒「黒松」で「熱燗」飲む「夢」見させたってくれるか？そんでワルキューレちゃんには、あと４９日の間は「いろいろ」とせなあかんことあるから「地縛霊」じゃなく「浮遊霊」にして欲しいねんけど頼めるかな？」

　「私達は「新米死神」です。私は「サキュバス夏子」。で、こっちはパートナーの「ワルキューレ陽菜」ちゃんです。おっちゃんのお迎えじゃなくて、そっちの女の子の「命日」のお迎えやったんですけど…。
　台帳には、「ながらスマホの交通事故」でこの女の子が「死ぬ」予定やったんやけど、軽自動車は「対衝突防止」の自動ブレーキ装備の最新の「ええ」軽自動車ではねへんし、トラックの運ちゃんはベテランでお姉ちゃんの衝突はとっさのハンドル操作で回避してしもたんよ。まあ、その結果、青信号で横断歩道を渡ってたおっちゃんが犠牲になってしもたんやけどな。」
とサキュバス夏子が男に言った。

　「私らは「冥府」…。いわゆる「地獄」への「水先案内人パイロット」なんでおっちゃんの担当や無いんですよ。おっちゃんは、おっちゃんの「屍しかばね」の横でめちゃくちゃ泣いてる赤ちゃん抱っこした女の人を庇って、はねられて「死」んでしもたから赤ん坊と母親を救った善行２階級特進の功できっと「天国」に行くんやと思いますよ。
　まあ、名前と生年月日を教えてくれたらタブレットで「冥府こっち」行きかどうかは調べられるけど、どないします？」
　ワルキューレ陽菜が優しく男に問いかけた。

　「さよか？まあ、「天国」に行けるような「ええ奴」では無いねんけど、最後の「人助け」で「ええ人」扱いになるんやったら悪い気はせえへんな。何ちゅうても「子供は社会の宝」やからな。あの赤ちゃんとお母さんが助かったんやったら頑張った甲斐があったちゅうもんや。
　おいちゃんは「副島大そえじま・ひろし」。昭和４３年５月５日生まれの「ぴちぴち」の５６歳や。まあ、「ぴちぴち」っていうのは「３Ｌ」のＴシャツのことやけどな。カラカラカラ。日本酒好きのフリーのコンサルタントや。
　まあ、やり残した「仕事」があるから、できたら「浮遊霊」扱いでええからこの世に残してほしいねんけどな。一応、大学３年生の息子の就職も心配やし、仕事のパートナーの面倒を先代から頼まれてたからな。今しばらくは、「この世」に居りたいねんけどあかんかな？
　無茶苦茶いうて申し訳ないけど、ちなみにわし「ムー民」やし、過去に「幽体離脱」も３回経験してるからこの状況に混乱してることは無いから結構「冷静」やで。そこは安心してや。」

　副島は「カラっ」と言い切ると、ワルキューレ陽菜がタブレットを操作して言った。
「副島さんの死亡原因は、台帳によるとこちらの女の子「音玄万沙ねくろ・まんさ」さんの「ながらスマホ」による交通事故に起因するもので過失割合は音玄さんの１００％になります。
　マニュアルでは本来「死ぬ」べき人が「死」なずに、無関係の第三者を巻き込み「死亡」させた場合には、その「起因者」の肉体を一定期間を定めて使用する「権利」があると規定にはありますけど、どうしますか？」



今日のおまけ

今日も「S&V」コンビのイラストから行きましょうかねー！
その前に「「S&V」って何ですか？」って質問メールが来ていましたので説明しておきましょう！
「S」は「Succubus」、「V」は「Valkyrie」の頭文字です。
「マクロスファン」の方はドイツ語読みの「ワルキューレ」ではなく、英語読みの「バルキリー」の方がなじみがありますかねー？
「ワルキューレ夏子とワルキューレ陽菜の新米死神日誌」の「RBFC」内での略号が「S&V」というわけです。
さて、今日の「なつ＆陽菜」でーす！

陽菜ちゃんには「タブレット」を持たせてみました。

そして、今日も「ながらスマホ追放運動」として、きちんと自転車を降りてスマホを操作する「万沙さん」です！

では、明日で「ネクロマンサー万沙」誕生編はお終いですのでよーろーひーこー！
(⋈◍＞◡＜◍)。✧♡