18 / 30
「元プロレスラー安稀世」
しおりを挟む
「元プロレスラー安稀世」
午前10時48分、稀世がママチャリでメディアクリエイトを出たところ、太田から電話が入った。ブルートゥースのイヤホンマイクで話しながら桑才に向けて必死でペダルをこぎながら話をした。連絡がつかなかったのは、「特ダネ」を狙って孫の家に出かけた男の家を納めるカメラポジションのキープに準備がかかっていたとのことだった。稀世からのメール内容は確認しており、男性スタッフを現場に向かわせたとのことだった。
稀世は改めて太田に宇都宮が監禁された旨と、監禁場所について説明を加え、更に「今朝」からの稀世の推察も全て伝えた。
「デビルタイガー」と思われる男の口から「共立」の言葉が出たことで、その推察に稀世は確信を持っていることを伝えると、
「稀世ちゃん、わかった。それだけ状況証拠が揃ったんやから稀世ちゃんの推察でほぼあたってるんやろ。くれぐれも一人で危ないことはすんなよ。
いつでも110番かけられる状態で大翔の様子を見に行ってくれ。監禁されてることが確認出来たらすぐ110番や。くれぐれも自分で何とかしようとは思うんやないで!」
と太田にくぎを刺された。
午前11時8分。宇都宮の監禁現場に到着した。近くに宇都宮のバイクが放置されていることから、監禁現場に間違いはないと思ったが、今もこの中にいる保証はなかった。周辺から内部を探ろうとするが遮蔽物がないうえに、宇都宮が捕らえられたであろう、監視カメラが複数台建物の周辺に配置されている。
(うーん、これは直接覗くしかないよな…。とりあえず…、)宇都宮が拉致されているであろう倉庫の正面に自転車を止め、稀世は猫の写真をスマホに映し出すとインターホンを鳴らした。反応はない。2度、3度繰り返すが反応がないので、ドアを叩き大きな声を出した。
「すみませーん、うちの猫ちゃんがオタクの建屋の壁の隙間から入り込んでしもたんですけど!ちょっと、開けてもらえませんかー!」
30秒ほど、声をかけ続けるとキーチェーンのかかった状態でドアが5センチほど開き「猫なんか入ってきてへんよ!」と見るからに「ヤンキー」っぽい男がめんどくさそうに言った。スマホで猫の写真を男に突きつけ稀世は言った。
「いや、この猫ちゃんやねん。そこの壁の隙間から入ってしもてん。中に入ってへんねやったら、どこかに挟まれてるんかも知れへん。ちょっと、探させてください。私が行けばすぐに出てくるはずですから。お願いします!お願いします!」
と懇願する稀世に困った顔をしながら
「しゃあないですね。ちょっと待ってもらえますか?」と男が言った瞬間、稀世のスマホに着信が入った。運悪く、着信画面には「坂井刑事」と出ていた。(こんな時に何で!)稀世は思うよりも先に身体が動いていた。
「警察の出入りや!すぐに必要なもの持って逃げろ!」
男は叫んで稀世のスマホを右手で弾き飛ばしドアを閉めようとした。落ちたスマホはショックで電源が落ち、画面は真っ暗になった。(あかん、110番かけられへんかも!ここは実力行使で宇都宮君を助け出すしかあれへん!)ドアの隙間に差し込んだ稀世の左足に阻まれてドアが締められずにいるところを稀世は両手でドアノブを握ると背筋力220キロオーバーの渾身の力でドアを引いた。
ドアのチェーンロックははじけ飛び、男は握ったドアノブにより屋外に引っ張り出され、稀世の足元で仰向けに転倒した。開いたドアの向こうにパイプ椅子に縛られた宇都宮の姿が見えた。
稀世は、足元に仰向けに倒れた男の腹に「エルボードロップ」を落とした。男のへそにピンポイントでヒットしたエルボーにより男は反吐を吐き、もんどりうった。その頭部に、右足の「サッカーボールキック」を叩き込むと、男は2メートル吹っ飛び動かなくなった。稀世がドアから中に飛び込み「宇都宮君、大丈夫か?」と叫ぶと宇都宮は顔を上げ、目だけで笑った。
「何じゃお前!婦警一人のカチコミか?なめんなよ!」一人の男が叫びポケットからバタフライナイフを取り出すと、稀世に襲いかかってきた。
まっすぐ稀世の正面に突き出した男のナイフを左にかわすと男の手首を左足で蹴り上げるとナイフは宙を舞い、蹴り上げたその左足は180度真上を指すと、一瞬の停止時間も置かず、稀世の踵落としが男の脳天に食い込んだ。男は白目をむくと、膝から床に崩れ落ちた。一気に二人の男を瞬殺した稀世を見た残った男は、テーブルの上のノートパソコンを脇に抱えると、慌てて裏口へと駆け出した。
「逃がすかい!」
稀世は男に向けダッシュすると、非常口のドアノブに手をかけた男の後頭部にハイアングルのドロップキックを叩き込んだ。背後から頭部を蹴られた男はドアにしこたま顔面を叩きつけられ、鼻血を吹き出した。ノートパソコンは床に落ち、男は拳をあげてふらふらと振り向こうとした瞬間、稀世は男の背後に回りこみ、瞬時に垂直落下式のバックドロップで男の両肩をコンクリートの床に叩きつけた。
突入からわずか30秒の出来事にパイプ椅子に縛られた宇都宮は5重に巻きつけられたガムテープの下で声にならない歓声を上げた。
「宇都宮君、大丈夫やった?えらい、痣できてしもてるやん。結構どつかれたんやな?」
と五重に巻かれたガムテープをほどきながら、稀世は声をかけた。顔のガムテープが取りはらわれると、
「凄い!凄いですよ!さすがは元ニコニコプロレスのスーパーディーバの安稀世選手や!まさに、完璧!スーパーパーフェクトですよ!」
と興奮が先に立ち一人騒いでいる。
後ろ手に縛られた手錠のカギはどこにあるのかわからないので、特殊警棒を鎖に差し込むとクルクルとまわし、手錠の鎖を切った。床に落ちたバタフライナイフを拾い上げると腰回りと両足首を縛ったロープを切り裂いた。
身体の自由を取り戻した宇都宮は、床に転がる二つの躯の脈を確認すると、二人を中央に引きずり寄せ、ジーンズの腰側のベルト穴にロープを通すと堅結びにして、更に両足を縛り、ポケットからスマホを取り出すと110番にダイヤルした。
「あっ、そういえば、表にも一人倒れたままでしたね。そいつも縛っておかなきゃね。」
と宇都宮が表に出ようとドアに向かったが、ドアの前で立ち止まると、後ずさりして戻ってきた。
「宇都宮君、どないしたん?」
稀世が尋ねると、いかついサングラスの男が白鞘の短刀を宇都宮に突きつけて入ってきた。
「おいおい、お前ら若い男女二人だけってか?これやから、半人前の奴には仕事は任されへんねんのう…。まあ、何処まで知ってるんかはわからんが、お前らには消えてもらうしかあれへんわな。」
と凄みを利かせる男に、宇都宮が渾身のまわし蹴りを見舞ったが、あっさりとかわされ裾払いでその場に倒された。男は、宇都宮のみぞおちに上から踵を踏み下した。空手で鍛え上げられた宇都宮の腹筋を貫いた衝撃は、「プロ」の技であることを宇都宮に認識させた。
「稀世さん、こいつはプロや。プロが凶器を持ってるんやから敵う訳あれへん。逃げてください。」
と男の足に絡みつこうとするが、瞬間的にかわされ、肩の関節に落とされた二度目の踵で、宇都宮の肩は鈍い音と共に脱臼させられた。
「がうっ!ほんまにあかん。稀世さん、お願いやから逃げてください。」
と力なく呟くのが精一杯だった宇都宮に稀世は力強く言った。
「どんな技を持っていようが挑まれたらプロレスラーは逃げたらあかんねや。それに、世界最強の凶器はそんなちゃちな刃物やあれへん!今から私が、ほんまの「最強」で「最凶」で「最恐」の「凶器」っていうのが何なんかを教えたるわ!」
すっかり現役レスラー時代戻ったアスリートの目をした稀世にむかって、男は笑った。
「ギャハハハ!おい、姉ちゃん、強がんのもええ加減にせえよ。「さいきょう」って3回も言ってるやないか!ほんまはションベンチちびりそうにビビってんねやろ!」
と凄みを利かせる男に、稀世は一歩も引くことなく言い返した。
「22(歳)の乙女に吐くセリフとちゃうな。おっちゃんが「刃物」出した以上は、こっちも「ブツ」は使わせてもらうで。それとも女相手に「ステゴロ(※素手での喧嘩の意)」もようせえへんってか?」
男は睨みつける稀世に視線を合わせ、淡々と呟いた。
「俺は、「現実派」なんや。要領よく仕事する為やったら、「卑怯」とか思えへんもんなんでな。お姉ちゃんが言う「さいきょう」に付き合ったるわ。」
と短刀を稀世に突き出した。稀世は「ふっ」と笑うと先ほどまで宇都宮が縛られていたパイプ椅子を両手でつかむとその座面を男の刃先に向け突っ込んだ。
短刀の刃先は、べニアの座板と薄いウレタンとビニールの座面を突き抜け稀世の顔10センチ前で止まった。
「どりゃあぁぁ!」
稀世はパイプ椅子を正面向きに180度回転させると、男の手は逆に捻られ、短刀が手から離れた。男があっけにとられた刹那に稀世がふり上げたパイプ椅子の脚部接地側のパイプが男の脳天を襲うが、男は左腕一本でパイプ椅子攻撃を防ぎ、右手を上着の内に入れた。男は瞬時に小型のリボルバー式の拳銃を取り出した。
稀世はその動きを見逃さず、パイプ椅子を90度横向けに回転させるとパイプ椅子脚部の側面で男の拳銃を打ち据えた。男の手首は良からぬ方向に曲がり「バンっ」と暴発した銃声が倉庫の中に響くと同時に、床のコンクリートで銃弾は弾け、コンクリートの破片が稀世の頬を掠った。
「ゴルア!女の顔に向けて銃撃ちやがって、もう許せへんぞ!」
と銃弾とコンクリートの破片を勘違いした稀世が「キレ」て、パイプ椅子が変形するほどに男に女子プロレスラートップクラスの腕力で叩き込んだ。数度の「ボキッ」、「ボグッ」っという骨折音が響き男の両腕は両肩からぶら下がるだけの物体となった。
男は捨て身の体当たりに出たが、稀世は冷静にアームホイップで男を270度横回転させ、折れた左腕を下にして堅いコンクリートの床にたたきつけた。更に、上にある右腕に「無慈悲」なギロチンドロップを落とすと男の悲鳴が倉庫にこだました。痛みに耐えきれずうつぶせの「亀」の体勢になろうとした男の背後に回り込むと、とどめの「裸締め」の一種とされる「チョーク・スリーパー・ホールド」で男の頸動脈を締めつけ10秒で男の意識を刈り取った。
「宇都宮君、今度こそほんまに大丈夫か!」
稀世が宇都宮に駆け寄り、外された肩関節を入れた瞬間、パトカーがサイレンと共に到着した。稀世は、慌てて表に残した自分のスマホを拾いに行ったが電源が入ることはなかった。最後に入ってきた男を確保し、拳銃と短刀を回収する警官と、意識を失ったままの3人の見張りに別の警察官が手錠をかけている間に、宇都宮に太田宛で「無事」を伝えてもらった後、坂井に電話させ「さっきの電話はなんやったんですか?」と尋ねた。この場での「捕り物」を知らない坂井は、
「共立組の幹部がそっちに行くかもしれないんで、警察に任せるようしてください。くれぐれも宇都宮君を安さんが助けに行くなんてことはしないでくださいね。」
という指示するつもりだったと返事をした。(あー、もう今更遅いけど…)思いながら「わかりました。」とだけ返事をした。
今日のおまけはリクエストの多かった「闘う稀世ちゃん」!
レスラー稀世ちゃん!&倉庫で戦う稀世ちゃんイメージ!
怒った顔も描いてみました(笑)。
ここからは「倉庫対決」編!
午前10時48分、稀世がママチャリでメディアクリエイトを出たところ、太田から電話が入った。ブルートゥースのイヤホンマイクで話しながら桑才に向けて必死でペダルをこぎながら話をした。連絡がつかなかったのは、「特ダネ」を狙って孫の家に出かけた男の家を納めるカメラポジションのキープに準備がかかっていたとのことだった。稀世からのメール内容は確認しており、男性スタッフを現場に向かわせたとのことだった。
稀世は改めて太田に宇都宮が監禁された旨と、監禁場所について説明を加え、更に「今朝」からの稀世の推察も全て伝えた。
「デビルタイガー」と思われる男の口から「共立」の言葉が出たことで、その推察に稀世は確信を持っていることを伝えると、
「稀世ちゃん、わかった。それだけ状況証拠が揃ったんやから稀世ちゃんの推察でほぼあたってるんやろ。くれぐれも一人で危ないことはすんなよ。
いつでも110番かけられる状態で大翔の様子を見に行ってくれ。監禁されてることが確認出来たらすぐ110番や。くれぐれも自分で何とかしようとは思うんやないで!」
と太田にくぎを刺された。
午前11時8分。宇都宮の監禁現場に到着した。近くに宇都宮のバイクが放置されていることから、監禁現場に間違いはないと思ったが、今もこの中にいる保証はなかった。周辺から内部を探ろうとするが遮蔽物がないうえに、宇都宮が捕らえられたであろう、監視カメラが複数台建物の周辺に配置されている。
(うーん、これは直接覗くしかないよな…。とりあえず…、)宇都宮が拉致されているであろう倉庫の正面に自転車を止め、稀世は猫の写真をスマホに映し出すとインターホンを鳴らした。反応はない。2度、3度繰り返すが反応がないので、ドアを叩き大きな声を出した。
「すみませーん、うちの猫ちゃんがオタクの建屋の壁の隙間から入り込んでしもたんですけど!ちょっと、開けてもらえませんかー!」
30秒ほど、声をかけ続けるとキーチェーンのかかった状態でドアが5センチほど開き「猫なんか入ってきてへんよ!」と見るからに「ヤンキー」っぽい男がめんどくさそうに言った。スマホで猫の写真を男に突きつけ稀世は言った。
「いや、この猫ちゃんやねん。そこの壁の隙間から入ってしもてん。中に入ってへんねやったら、どこかに挟まれてるんかも知れへん。ちょっと、探させてください。私が行けばすぐに出てくるはずですから。お願いします!お願いします!」
と懇願する稀世に困った顔をしながら
「しゃあないですね。ちょっと待ってもらえますか?」と男が言った瞬間、稀世のスマホに着信が入った。運悪く、着信画面には「坂井刑事」と出ていた。(こんな時に何で!)稀世は思うよりも先に身体が動いていた。
「警察の出入りや!すぐに必要なもの持って逃げろ!」
男は叫んで稀世のスマホを右手で弾き飛ばしドアを閉めようとした。落ちたスマホはショックで電源が落ち、画面は真っ暗になった。(あかん、110番かけられへんかも!ここは実力行使で宇都宮君を助け出すしかあれへん!)ドアの隙間に差し込んだ稀世の左足に阻まれてドアが締められずにいるところを稀世は両手でドアノブを握ると背筋力220キロオーバーの渾身の力でドアを引いた。
ドアのチェーンロックははじけ飛び、男は握ったドアノブにより屋外に引っ張り出され、稀世の足元で仰向けに転倒した。開いたドアの向こうにパイプ椅子に縛られた宇都宮の姿が見えた。
稀世は、足元に仰向けに倒れた男の腹に「エルボードロップ」を落とした。男のへそにピンポイントでヒットしたエルボーにより男は反吐を吐き、もんどりうった。その頭部に、右足の「サッカーボールキック」を叩き込むと、男は2メートル吹っ飛び動かなくなった。稀世がドアから中に飛び込み「宇都宮君、大丈夫か?」と叫ぶと宇都宮は顔を上げ、目だけで笑った。
「何じゃお前!婦警一人のカチコミか?なめんなよ!」一人の男が叫びポケットからバタフライナイフを取り出すと、稀世に襲いかかってきた。
まっすぐ稀世の正面に突き出した男のナイフを左にかわすと男の手首を左足で蹴り上げるとナイフは宙を舞い、蹴り上げたその左足は180度真上を指すと、一瞬の停止時間も置かず、稀世の踵落としが男の脳天に食い込んだ。男は白目をむくと、膝から床に崩れ落ちた。一気に二人の男を瞬殺した稀世を見た残った男は、テーブルの上のノートパソコンを脇に抱えると、慌てて裏口へと駆け出した。
「逃がすかい!」
稀世は男に向けダッシュすると、非常口のドアノブに手をかけた男の後頭部にハイアングルのドロップキックを叩き込んだ。背後から頭部を蹴られた男はドアにしこたま顔面を叩きつけられ、鼻血を吹き出した。ノートパソコンは床に落ち、男は拳をあげてふらふらと振り向こうとした瞬間、稀世は男の背後に回りこみ、瞬時に垂直落下式のバックドロップで男の両肩をコンクリートの床に叩きつけた。
突入からわずか30秒の出来事にパイプ椅子に縛られた宇都宮は5重に巻きつけられたガムテープの下で声にならない歓声を上げた。
「宇都宮君、大丈夫やった?えらい、痣できてしもてるやん。結構どつかれたんやな?」
と五重に巻かれたガムテープをほどきながら、稀世は声をかけた。顔のガムテープが取りはらわれると、
「凄い!凄いですよ!さすがは元ニコニコプロレスのスーパーディーバの安稀世選手や!まさに、完璧!スーパーパーフェクトですよ!」
と興奮が先に立ち一人騒いでいる。
後ろ手に縛られた手錠のカギはどこにあるのかわからないので、特殊警棒を鎖に差し込むとクルクルとまわし、手錠の鎖を切った。床に落ちたバタフライナイフを拾い上げると腰回りと両足首を縛ったロープを切り裂いた。
身体の自由を取り戻した宇都宮は、床に転がる二つの躯の脈を確認すると、二人を中央に引きずり寄せ、ジーンズの腰側のベルト穴にロープを通すと堅結びにして、更に両足を縛り、ポケットからスマホを取り出すと110番にダイヤルした。
「あっ、そういえば、表にも一人倒れたままでしたね。そいつも縛っておかなきゃね。」
と宇都宮が表に出ようとドアに向かったが、ドアの前で立ち止まると、後ずさりして戻ってきた。
「宇都宮君、どないしたん?」
稀世が尋ねると、いかついサングラスの男が白鞘の短刀を宇都宮に突きつけて入ってきた。
「おいおい、お前ら若い男女二人だけってか?これやから、半人前の奴には仕事は任されへんねんのう…。まあ、何処まで知ってるんかはわからんが、お前らには消えてもらうしかあれへんわな。」
と凄みを利かせる男に、宇都宮が渾身のまわし蹴りを見舞ったが、あっさりとかわされ裾払いでその場に倒された。男は、宇都宮のみぞおちに上から踵を踏み下した。空手で鍛え上げられた宇都宮の腹筋を貫いた衝撃は、「プロ」の技であることを宇都宮に認識させた。
「稀世さん、こいつはプロや。プロが凶器を持ってるんやから敵う訳あれへん。逃げてください。」
と男の足に絡みつこうとするが、瞬間的にかわされ、肩の関節に落とされた二度目の踵で、宇都宮の肩は鈍い音と共に脱臼させられた。
「がうっ!ほんまにあかん。稀世さん、お願いやから逃げてください。」
と力なく呟くのが精一杯だった宇都宮に稀世は力強く言った。
「どんな技を持っていようが挑まれたらプロレスラーは逃げたらあかんねや。それに、世界最強の凶器はそんなちゃちな刃物やあれへん!今から私が、ほんまの「最強」で「最凶」で「最恐」の「凶器」っていうのが何なんかを教えたるわ!」
すっかり現役レスラー時代戻ったアスリートの目をした稀世にむかって、男は笑った。
「ギャハハハ!おい、姉ちゃん、強がんのもええ加減にせえよ。「さいきょう」って3回も言ってるやないか!ほんまはションベンチちびりそうにビビってんねやろ!」
と凄みを利かせる男に、稀世は一歩も引くことなく言い返した。
「22(歳)の乙女に吐くセリフとちゃうな。おっちゃんが「刃物」出した以上は、こっちも「ブツ」は使わせてもらうで。それとも女相手に「ステゴロ(※素手での喧嘩の意)」もようせえへんってか?」
男は睨みつける稀世に視線を合わせ、淡々と呟いた。
「俺は、「現実派」なんや。要領よく仕事する為やったら、「卑怯」とか思えへんもんなんでな。お姉ちゃんが言う「さいきょう」に付き合ったるわ。」
と短刀を稀世に突き出した。稀世は「ふっ」と笑うと先ほどまで宇都宮が縛られていたパイプ椅子を両手でつかむとその座面を男の刃先に向け突っ込んだ。
短刀の刃先は、べニアの座板と薄いウレタンとビニールの座面を突き抜け稀世の顔10センチ前で止まった。
「どりゃあぁぁ!」
稀世はパイプ椅子を正面向きに180度回転させると、男の手は逆に捻られ、短刀が手から離れた。男があっけにとられた刹那に稀世がふり上げたパイプ椅子の脚部接地側のパイプが男の脳天を襲うが、男は左腕一本でパイプ椅子攻撃を防ぎ、右手を上着の内に入れた。男は瞬時に小型のリボルバー式の拳銃を取り出した。
稀世はその動きを見逃さず、パイプ椅子を90度横向けに回転させるとパイプ椅子脚部の側面で男の拳銃を打ち据えた。男の手首は良からぬ方向に曲がり「バンっ」と暴発した銃声が倉庫の中に響くと同時に、床のコンクリートで銃弾は弾け、コンクリートの破片が稀世の頬を掠った。
「ゴルア!女の顔に向けて銃撃ちやがって、もう許せへんぞ!」
と銃弾とコンクリートの破片を勘違いした稀世が「キレ」て、パイプ椅子が変形するほどに男に女子プロレスラートップクラスの腕力で叩き込んだ。数度の「ボキッ」、「ボグッ」っという骨折音が響き男の両腕は両肩からぶら下がるだけの物体となった。
男は捨て身の体当たりに出たが、稀世は冷静にアームホイップで男を270度横回転させ、折れた左腕を下にして堅いコンクリートの床にたたきつけた。更に、上にある右腕に「無慈悲」なギロチンドロップを落とすと男の悲鳴が倉庫にこだました。痛みに耐えきれずうつぶせの「亀」の体勢になろうとした男の背後に回り込むと、とどめの「裸締め」の一種とされる「チョーク・スリーパー・ホールド」で男の頸動脈を締めつけ10秒で男の意識を刈り取った。
「宇都宮君、今度こそほんまに大丈夫か!」
稀世が宇都宮に駆け寄り、外された肩関節を入れた瞬間、パトカーがサイレンと共に到着した。稀世は、慌てて表に残した自分のスマホを拾いに行ったが電源が入ることはなかった。最後に入ってきた男を確保し、拳銃と短刀を回収する警官と、意識を失ったままの3人の見張りに別の警察官が手錠をかけている間に、宇都宮に太田宛で「無事」を伝えてもらった後、坂井に電話させ「さっきの電話はなんやったんですか?」と尋ねた。この場での「捕り物」を知らない坂井は、
「共立組の幹部がそっちに行くかもしれないんで、警察に任せるようしてください。くれぐれも宇都宮君を安さんが助けに行くなんてことはしないでくださいね。」
という指示するつもりだったと返事をした。(あー、もう今更遅いけど…)思いながら「わかりました。」とだけ返事をした。
今日のおまけはリクエストの多かった「闘う稀世ちゃん」!
レスラー稀世ちゃん!&倉庫で戦う稀世ちゃんイメージ!
怒った顔も描いてみました(笑)。
ここからは「倉庫対決」編!
10
お気に入りに追加
45
あなたにおすすめの小説
【完結】『夏子と陽菜の犯科帳4 THE FINAL~カルト新興宗教「魂の解放」から洗脳娘を救い出せ!~』
M‐赤井翼
現代文学
第3話から1年開いての「なつ陽菜犯科帳」の最終話です。
過去のお約束通り、最後はなっちゃんも陽菜ちゃんの「花嫁姿」で終わります!
今度の「敵」は、門真に転居してきた「武装カルト宗教組織」です。
偶然出会った、教団に妹を奪われたイケメン日南田大樹(ひなた・ひろき)の為になっちゃん&陽菜ちゃんと「やろうぜ会」メンバーが頑張ります。
武装化された宗教団体になっちゃん、ひなちゃん、そして「やろうぜ会」がどう戦いを挑むのか!
良太郎の新作メカも出てきます!
最終回という事で、ゲストとして「余命半年~」シリーズの稀世ちゃんと直さんも緊急参戦!
もう、何でもござれの最終回!
12月29日までの短期連載です!
応援お願いしまーす!
(⋈◍>◡<◍)。✧♡
【完結】『突撃!東大阪産業大学ヒーロー部!』
M‐赤井翼
ライト文芸
今回の新作は「ヒーローもの」!
いつもの「赤井作品」なので、「非科学的」な「超能力」や「武器」を持ったヒーローは出てきません。
先に謝っておきます。
「特撮ヒーローもの」や「アメリカンヒーロー」を求められていた皆さん!
「ごめんなさい」!
「霊能力「を持たない「除霊師」に続いて、「普通の大学生」が主人公です。
でも、「心」は「ヒーロー」そのものです。
「東大阪産業大学ヒーロー部」は門真のローカルヒーローとしてトップを走る2大グループ「ニコニコ商店街の門真の女神」、「やろうぜ会」の陰に隠れた「地味地元ヒーロー」でリーダーの「赤井比呂」は
「いつか大事件を解決して「地元一番のヒーロー」になりたいと夢を持っている。
「ミニスカートでのアクションで「招き猫のブルマ」丸見えでも気にしない「デカレッド」と「白鳥雛子」に憧れる主人公「赤井比呂」」を筆頭に、女兄妹唯一の男でいやいや「タキシード仮面役」に甘んじてきた「兜光司」好きで「メカマニア」の「青田一番」、元いじめられっ子の引きこもりで「東映版スパイダーマン」が好きな「情報系」技術者の「木居呂太」、「電人ザボーガー」と「大門豊」を理想とするバイクマニアの「緑崎大樹」、科学者の父を持ち、素材加工の匠でリアル「キューティーハニー」のも「桃池美津恵」、理想のヒーローは「セーラームーン」という青田一番の妹の「青田月子」の6人が9月の海合宿で音連れた「舞鶴」の「通称 ロシア病院」を舞台に「マフィア」相手に大暴れ!
もちろん「通称 ロシア病院」舞台なんで「アレ」も登場しますよー!
ミリオタの皆さんもお楽しみに!
心は「ヒーロー」!
身体は「常人」の6人組が頑張りますので、応援してやってくださーい!
では、ゆるーく「ローカルヒーロー」の頑張りをお楽しみください!
よーろーひーこー!
(⋈◍>◡<◍)。✧♡
【今日も新作の予告!】『偽りのチャンピオン~元女子プロレスラー新人記者「安稀世」のスクープ日誌VOL.3』
M‐赤井翼
現代文学
元女子プロレスラー新人記者「安稀世」のスクープ日誌の3作目になります。
今回のお題は「闇スポーツ賭博」!
この春、メジャーリーグのスーパースターの通訳が起こした「闇スポーツ賭博」事件を覚えていますか?
日本にも海外「ブックメーカー」が多数参入してきています。
その中で「反社」や「海外マフィア」の「闇スポーツ賭博」がネットを中心にはびこっています。
今作は「闇スポーツ賭博」、「デジタルカジノ」を稀世ちゃん達が暴きます。
毎回書いていますが、基本的に「ハッピーエンド」の「明るい小説」にしようと思ってますので、安心して「ゆるーく」お読みください。
今作も、読者さんから希望が多かった、「直さん」、「なつ&陽菜コンビ」も再登場します。
もちろん主役は「稀世ちゃん」です。
このネタは3月から寝かしてきましたがアメリカでの元通訳の裁判は司法取引もあり「はっきりしない」も判決で終わりましたので、小説の中でくらいすっきりしてもらおうと思います!
もちろん、話の流れ上、「稀世ちゃん」が「レスラー復帰」しリングの上で暴れます!
リング外では「稀世ちゃん」たち「ニコニコ商店街メンバー」も大暴れしますよー!
皆さんからのご意見、感想のメールも募集しまーす!
では、10月9日本編スタートです!
よーろーひーこー!
(⋈◍>◡<◍)。✧♡
突然覚醒した巫女の夏子が古代ユダヤのアーク探しに挑んだ五日間の物語~余命半年を宣告された嫁が…R《リターンズ》~
M‐赤井翼
現代文学
1年ぶりに復活の「余命半年を宣告された嫁が…」シリーズの第1弾!ニコニコ商店街・ニコニコポロレスのメンバーが再集結。稀世・三郎夫婦に3歳になったひまわりに直とまりあ。もちろん夏子&陽菜のコンビも健在。復帰第1弾の今作の主人公は「夏子」?淡路島イザナギ神社で知り合ったイケメン大使館員の「MK」も加わり10人の旅が始まる。ホテルの庭で偶然拾った二つの「古代ユダヤ支族の紋章の入った指輪」をきっかけに、古来ユダヤの巫女と化した夏子は「部屋荒らし」、「ひったくり」そして「追跡」と謎の外人に追われる!古代ユダヤの支族が日本に持ち込んだとされる「ソロモンの秘宝」と「アーク(聖櫃)」に入れられた「三種の神器」の隠し場所を夏子のお告げと客観的歴史事実を基にアークの追跡が始まる。もちろん最後は「ドンパチ」の格闘戦!7月1日までの集中連載で毎日更新の一騎掲載!アークと夏子とMKの恋の行方をお時間のある人はゆるーく一緒に見守ってあげてください!では、感想やイラストをメール募集しながら連載スタートでーす!(⋈◍>◡<◍)。✧♡
最強女戦士と化した夏子が100万ドル獲得に挑んだ二十日間の物語~余命半年を宣告された嫁が…R3《リターンズ3》
M‐赤井翼
現代文学
1年ぶりに復活の「余命半年を宣告された嫁が…」シリーズの第3弾!ニコニコ商店街・ニコニコプロレスのメンバーが再集結。稀世・三郎夫婦に3歳になったひまわりに直とまりあ。もちろん夏子&陽菜のコンビも健在。復帰第3弾の今作の主人公も「夏子」?夏子は稀世にかわって「ヒロイン」に定着できるのか?
今回の敵は「ウクライナのロシア軍」、「ソマリアの海賊」、「メキシカン・マフィア」と難敵ぞろい。アメリカの人気テレビ番組「目指せ!ミリオネラ!」にチャレンジすることになってしまった夏子と陽菜は稀世・直・舩阪・羽藤たちの協力を得て次々と「難題」にチャレンジ!
「ウクライナ」では「傭兵」としてロシア軍の情報・指令車の鹵獲に挑戦。「ソマリア」では「海賊退治」に加えて「クロマグロ」を求めてはえ縄漁へ。「メキシコ・トルカ」ではマフィア相手に誘拐された人たちの解放する「ネゴシエーター」をすることに。
もちろん最後はドンパチ!
夏子の今度の「恋」の相手は、なぜか夏子に一目ぼれしたサウジアラビア生まれのイケメンアメリカ人アシスタントディレクター!
シリーズ完結作として、「ハッピーエンド」?
皆さんからの感想やイラストをメール募集しながら連載スタートでーす!
8月28日の最終回までお付き合いいただけますと嬉しいです。
いただいた感想やイラストのメールは本編「おまけ」と「RBFC4-H(レッドバロンファンクラブ4-H)」で不定期で公開していきますよー!
ではよろしくお願いしまーす!(⋈◍>◡<◍)。✧♡
女神扱いを受ける夏子と伝説の怪異「令和のメリーさん」に挑んだ四日間の物語~余命半年を宣告された嫁が…R2《リターンズ2》
M‐赤井翼
現代文学
1年ぶりに復活の「余命半年を宣告された嫁が…」シリーズの第2弾!ニコニコ商店街・ニコニコポロレスのメンバーが再集結。稀世・三郎夫婦に3歳になったひまわりに直とまりあ。もちろん夏子&陽菜のコンビも健在。復帰第2弾の今作の主人公も「夏子」?夏子は稀世にかわって「ヒロイン」に定着できるのか?
今回の敵は」懐かしの怪異が令和の時代によみがえった「令和のメリーさん」!かつて「口裂け女」、「八尺様」と並んで「昭和の怪異トップ3」だった「メリーさん」がデジタルの時代に堂々復活!
そりゃ「貞子たん」だって「ビデオ」だったのが今じゃ「ネット」で増殖だもんね(笑)!「メリーさん」もアナログ電話からスマホにステージを変えて「呪い」をばらまきます!
女子高生の自殺者が頻発する門真の街を夏子達ニコニコ商店街のメンバーは救えるのか?7月27日までの集中連載で毎日更新の一騎掲載!「令和のメリーさん」との対決と「夏子の恋の行方」をお時間のある人はゆるーく一緒に見守ってあげてください!では、感想やイラストをメール募集しながら連載スタートでーす!
いただいた感想やイラストのメールは本編「おまけ」と「RBFC4-H(レッドバロンファンクラブ4-H)」で不定期で公開していきますよー!
ではよろしくお願いしまーす!(⋈◍>◡<◍)。✧♡
【完結】『ながらスマホで56歳のおっさん霊を憑依させざるを得なくなった23歳の女劇団員「音玄万沙《ねくろ・まんさ》」の物語』
M‐赤井翼
現代文学
赤井です。
突然ですが、いきなり書き下ろしの新連載です。
7月13日に「赤井先生、「JK心亜ちゃん」の興行が好評だったんで、既に発注してる「OL心亜ちゃん」の前にもう一本「霊もの」書いてほしいねんけど!別の脚本家の「本」がボツ喰らっちゃったみたいで監督さんから急に8月興行ネタを頼まれてしもたんよ。今回も製本配布するんで公開スタートは19日、稿了は8月9日で200ページね!連載はお盆前後で完結でよろひこー!」ってな感じで、突如、制作スタート!
毎度のことながらゴーストライターに「拒否権」はナッシング(笑)。
今作は、納品先の新エースの「OL心亜ちゃん」役の女の子に合わせての設定で23歳の新人脚本家の「音玄万沙《ねくろ・まんさ》」ちゃん!
変な名前でしょ?「ネクロマンサー」っていうのは「死者や霊をを用いた術(ネクロマンシー)を使う人」で「屍術師」なんて言われ方もしますね。
赤井の大好きな名作アニメ「ゾンビランドサガ」1stシーズンの主題歌「徒花ネクロマンシー」の「ネクロマンシー」ですね。
まあ、万沙ちゃんはゾンビを蘇らせて「佐賀を救う」わけでもないし、降霊術を使って「世直し」するようなキャラじゃない(笑)。
そんな仰々しい物じゃなく、普通の23歳の女の子です。
自らのながらスマホの自転車事故で死ぬ予定だったんだけど、ひょんなことで巻き込まれた無関係の56歳のおっちゃんが代わりに死んじゃいます。その場で万沙ちゃんは「死神」から「現世」での「懲役務」として、死んだおっちゃんと1年半の「肉体一時使用貸借契約」することになっちゃうんですねー!
元「よろずコンサルタント」の「副島大《そえじま・ひろし》」の霊を憑依させての生活が始まります。
まあ、クライアントさんの納品先が「社会派」の監督さんなんで、「ながらスマホ」、「ホストにはまる女子高生」、「ブラック企業の新卒」、「連帯保証人債務」、「賃貸住宅物件の原状回復」、「いろんな金融業者」等々、社会問題について書けるとこまで書いてみたいと思いますので「ゆるーく」お付き合いください。
今回も書き上げ前の連載になりますので「目次」無しでスタートです(笑)。
では、7月19日からよろひこー!(⋈◍>◡<◍)。✧💓
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる